冤罪で国外追放される様なので反撃して生き地獄に落とします
思い付きを一気に書いてみました。
恋愛要素が無いざまぁ特化です。
本日は王立学園晴れの卒業式。
その夕刻から行われる卒業パーティの場において私ことレティシアは現在、全生徒の注目を浴びていた。
全くこの場に相応しくない茶番の主役として。
私の目の前には婚約者であるオーギュスト王太子殿下とディアーヌ侯爵令嬢が居た。
その立ち位置はどう見てもカップルとしか思えない。
所詮聖魔力があるからと云って孤児が王太子妃になるなど現実では無理筋らしい。
別になりたくも無かったけど。
「という訳で、私はレティシアとの婚約を破棄してここに居るディアーヌ侯爵令嬢と新たに婚約を結ぶ!」
(長々と喋っていたけれど阿呆らしくて途中から聞いていなかったわ)
要するに私がディアーヌ侯爵令嬢に対して数々の嫌がらせをしていたらしい。
彼女の持ち物を壊したり、本を破ったり。極めつけは階段から突き落としたり。
どうやら私は殺人未遂までした様だ。
私の過去の犯罪?を証明する側近の方達も殿下の言葉に頷いて同意している。
(へぇ、そうなんですか。本人である私は全く心当たりが無いんですが)
「そして、お前は聖女と名乗り数々の予言をしてきたが全て外れている。
何処が聖女か。おまけにディアーヌ嬢に対する数々の仕打ち。
もうお前ごとき聖女を僭称する偽預言者など私の視界に入るのも不愉快だ」
(は?)
私は反射的に眉を顰めた。当たり前だ。
そもそも国が不測の事態に見舞われない様に不吉な出来事を予言して事前に備えさせているのではないか。
見事に過程と結果が逆転している。
流石に頭がまともな者達は殿下のロジックが間違っている事は分かるだろう。
しかし、内心は思っていても誰も口にはしない。
どんな馬鹿でも敬わなければならないのが王国の臣の務めである。
「お前が今まで予言した我が国にとっての不幸な事が果たして全て起こる事だったかも疑わしい。
おまけにお前は街に繰り出しては平民の男と逢瀬を重ねていたとの証言もある。
不誠実でふしだらで恥知らずな振る舞い、目に余る!」
(ふしだら? この私が?)
もしかしてジェイクを通じて孤児院へお給金を仕送りしている事を言っているのか。
私は学園に通う傍ら、街の一角でささやかに占い師として日銭を稼いでいる。
孤児院では弟の様な関係のジェイクがその日銭を定期的に受け取りに来るのだ。
予言に関しては、確かに今更ありえた過去の分岐を証明する事など不可能だ。
だが実は現実の過去は可能である。王太子の不誠実さを十分に証明する程度には。
範囲が広大で雲をつかむ様な王国の未来を予言する事に比べれば過去の現実を見る事など赤子の手をひねるが如く簡単だ。
(どちらが不誠実なのか証明出来る私にそんな事言っていいのかしら)
内心そう思ったけど彼らは知らない。私の能力の全てを。
単純に私が話していないから全てを知っているつもりになっているだけだ。
話す気も無かったしその必要も無かったからだが。
ある地方都市の片隅で評判の占い師として日銭を稼いでいた私の人生はある日突然変わった。
噂を聞きつけた王国の役人がわざわざやって来て私を聖女扱いした挙句王都の王立学園に放り込んだのだ。
そして国に極めて有用な人材という評価を賜ってしまいいつの間にか王太子の婚約者にもされてしまった。
お互いの気持ちなど完全無視で。
私という稼ぎ頭を失った孤児院は運営に苦しくなった。
そもそも国がもう少し福祉政策に本腰を入れてくれればこんな事をする必要もないのだ。
だがやんごとないお方達が下々の事情を考慮してくれる事は永久に無さそうだった。
「お前をこの国から追放する! この事は陛下も既に了承済みだ!
偽聖女め、死刑にしないだけありがたく思え!」
オーギュスト殿下はそう言って貴賓席の方を見やった。
来賓としてこの場に招かれていた国王陛下が頷く所が見える。
殿下のこの様な暴挙を許す所を見るとどうやら陛下も私の能力に疑いを持っていたのだろう。
望んで聖女とやらになった訳でもないのに随分と勝手な言い草だ。
(それにしても、子が子なら親も親ねぇ)
一人の人間を死刑だか国外追放だかにするくらいなら真偽をもう少しきちんと調べてからでもいいのではないか。
こんなに簡単に判断を下すなんて脳みそに蛆が湧いているとしか思えない。
それとも単純に元貧民と王族の命は平等ではないという訳か。
(いいでしょう。いい加減この国にも愛想が尽きたわ)
「何を黙っている! やはり真実だから答えられないのだろう!」
「……反論をして欲しいのですか?」
「は!? 出来るならやってみるがいい! 証人も証拠も揃っているのだぞ!」
そう云って殿下は勝ち誇ったような顔を私に向けた。
(どんな証拠だか。どうせ私に対する悪意ある噂話くらいでしょう?)
今まで殿下が延々と述べた事は真実でないと私は知っている。
ディアーヌ侯爵令嬢が並べた嘘八百を無条件に信じたのか、それともグルなのか。
いずれにしろ殿下の横に立つ面々もこの茶番の為に仕組まれた証人なのは間違いない。
「承りました。では反論させていただきます」
「何だと?」
私はこの会場に置いてある空間投影水晶に向かった。
占い師必須のアイテムである魔水晶に外の空間へ大きく映像を映す機能を付けた改良品だ。
自分が見ている映像を空間に浮かび上がらせる事が出来るので人が集まる広い施設には大抵設置されている。
使い方は簡単で対象物を見て手を添えて魔力を流し込むだけである。
そしてこの空間投影水晶も占い師が使えば魔水晶と同じく見た物以外のイメージを映せる。
例えば何か重要な予言が出た場合、国の重臣達にもそうやって情報共有させる訳である。
そして私の場合は他者の脳裏のイメージまでも映す事が可能だ。
この事は誰も知らないだろうけど。
「ここの空間投影水晶を使用させていただきます」
「ふん、何をするかと思えば大げさな。
お前が居なくなった後の私達の幸せな未来を見せてくれるとでもいうのか?」
「いえ、見せるのはある人物の過去の愚行です」
「は?」
「御存じの通り私は不確定ながら未来を見る事が出来ます」
「だから何だ。ここで断罪される未来でも予測していたと言いたげだな」
「そうですね。まぁ全く想像していなかった訳では無いですが……」
「ほう?」
殿下は余裕綽々だ。その表情がどう変化するか見ものだ。
私は淡々と説明を始める。
「以前、思った事があるのです。
不確定な未来が一部でも見えるなら既に確定した過去なんて簡単に見れるのではないかと。
ましてやそれがせいぜい一個人の記憶ならば。
訓練した甲斐がありました。まさかこんな事に役立つとは思いませんでしたが」
そう言って私はディアーヌ侯爵令嬢と視線を合わせて水晶に魔力を送った。
水晶は私を媒介具代わりにしてディアーヌの記憶を正確に捉えた。
そして会場の前中央上方に巨大な映像が浮かび上がる。
「……これは……」
そこに映っていたのは一人の女性だ。
いや、正確に云うとその女性自身の視点から見たある光景である。
その視点の持ち主の二本の手が教科書を破いている映像が映っていた。
取り巻きの者達も協力して持ち物を傷つけている。
次の映像は視点の持ち主が自分のペンを足で踏みつけて壊すところだ。
取り巻きはわざと壊したそのペンをハンカチにくるんで拾い上げた。
そして私が去った後でその破片をばら撒いて騒ぎ立てた。
最後に映した映像もやはり私が居た。同じく後ろ姿で近くには誰もいない。
視点の持ち主が私の後ろに忍び寄り勝手に自分から階段を落ちていく光景が映っていた。
驚いて振り向く私もだ。
なぜか現れたその人物の取り巻き達が本人を救って私に怒鳴りかける所が映っている。
因みに私は両手に荷物を抱えている状態がばっちり映っていた。
「ば、馬鹿なっ!」
「ある女性視点の過去の映像を見ていただきました」
「嘘だ! そうだ、嘘をお前は投影しているのだな!」
「ゼロから詳細にイメージを造って映すなど流石に私もそこまで器用なマネは出来ません。
ある女性の過去の記憶の一部をただ映しただけです」
驚き様を見るとどうやら王太子殿下はディアーヌの言い分を何も調べずに受け入れた様だ。
名前を言わなかったが余程の間抜けでない限り映像の人物がディアーヌの事を指しているのは明白である。
しかし、残念ながら殿下はその余程の間抜けだった様だ。
それとも分かったけど信じたくないのか。
「これが事実だと証明は出来まい!」
「確かに難しいですね」
「ほら見た事か!」
「ですが、私が特定の人物の過去の記憶を映すのが不可能でない事は証明できますよ」
「何?」
「これをご覧下さい」
私は貴賓席に座るある人物と視線を合わせて集中して投影水晶に魔力を込めた。
投影水晶はある人物の視点から見たこの会場の様子が映った。
但し、今現在のものでは無い。
ある人物の脳に無意識に焼き付いたほんの少し過去の映像だ。
その事に気が付いた周りにいる人々から声が次々と上がって来た。
「おい……」
「これって……間違いないだろ」
「凄い! 私が映っているわ」
「あ、あそこ、私も!」
「あー……これ、間違いないよ。俺この時丁度腕が痒くて掻いてたから」
「やだ! 私があくびしてる所まで!」
何も言わなくても続々と証言が集まって来た。あたりまえだ。
この会場に居る全員が映ったほんの少し前の過去の映像だからだ。
得意げに私を断罪している王太子殿下が映っている。
「ご覧の通り今の映像が本物の過去という事はここに居る方々が証明してくれます。
私が過去視を出来る事も。
この事は国王陛下もご同意いただけるかと」
「何!? ……父上が?」
話を振られた親馬鹿の国王陛下がうろたえていた。
勿論、私が覗いたのは国王陛下の過去の視点である。
最早不敬罪など知った事では無い。
国外追放が既に決定したという事は既に私はこの国の国民じゃないという事だ。
「何という事だ……これほどまでに凄い力だとは……」
「過去にあった事実を見ているだけだから大した事ではありませんわ。
不特定多数、規模もけた違いの国の未来予知に比べれば簡単な事です」
そう説明した私に対して陛下は直ぐに精神を整えたらしい。
抑揚のない言葉で私に言い放つ。
「……それで? お前は何が言いたいのだ」
「何かとは?」
「人の過去を覗く事が出来たとしてそれがどうだというのだ。
先に王太子が云った通り、お前が過去視できる事と映すイメージの捏造は別だろう」
「捏造?」
「それに勝手に余の頭の中を覗くとはな。この時点でそなたは不敬罪だな」
「……」
(自分の見た光景を映されたのにディアーヌの映像に関しては捏造とはね……)
その言い分に流石に呆れて私も一瞬言葉が出ない。
(お忘れですか? 国王陛下。私は先程国外追放を受けた人間なのですよ?
不敬罪を受けるいわれは有りません)
そうとも思ったが口には出さない。代わりに出したのは別の言葉だ。
「殿下の云われていた事の正当性が薄れたとは思いませんか?」
「私は息子を信じている」
「そうですか……」
残念だ。これでこの王室の権威は地に落ちる。
結局、私よりも自分の息子の言い分の方をより強く信じているのだ。
客観的に私の力を認めれば私が嘘を言っている訳では無いとすぐ分かるだろうに。
愚かな親の盲目の愛という奴か。
国の頂点に立つ国王だけは公人として例外であって欲しかったが。
「是非もありません。では見て頂く事にしましょう。
私と殿下のどちらが不誠実でふしだらで恥知らずなのか、客観的な事実を」
「面白い。映してみよ」
私が言った言葉に陛下は悠然と答えた。
その感情や様子に揺らぎは見えない。
虚勢か本気か知らないが流石に一国の王は違うというところか。
「……いいのですか? 本当に。後悔は無いのですね?」
「くどい。映してみよ」
((((((((((ゴクリ……))))))))))
今やこの場に居る全員が私に注目していた。
生徒だけでなくその親である高位貴族達も。
私の様な元貧民・平民以外の親は大抵この子供達の晴れの門出に同席している。
「では、ご覧下さいませ」
私はオーギュスト殿下に視線を合わせて投影水晶に魔力を込めた。
空間に映した映像の意味を理解した人々の悲鳴が会場内に響き渡った。
私が空間投影したのは要するに服を着た肌色のヒキガエルが二匹くんずほぐれつしている所だった。
王立学園内でのご乱行である。
ばれないと油断しているのかカーテンの隙間の窓の外の向こう側には学園の生徒達が見下ろされる様に映っている。校舎の時計もだ。時折生徒達のはっきりした声も聞こえて来る。
捏造と片付けるにはあまりにも情報量が多すぎる。
この場所も王立学園の学生ならばすぐにわかるだろう。
「きゃあぁあああ!」
「うおおぉおおお!」
「嘘ぉっ!」
「ここ、学園の準備室!?」
「いやぁあ!」
「こ、これはっ!」
「何て事を!」
「信じられない!」
「黒ずんでないか?」
「何て破廉恥な!」
何か変な反応もあったけど聞かなかった事にしよう。
客観的視点ではない所が惜しい。
しかし、この人物とディアーヌ侯爵令嬢が何をしているかは明白だろう。
「これはあくまで男性視点。
では、学園内でこの破廉恥行為に耽っている男性は一体誰なのか。
早速、見てみましょう。次にディアーヌ侯爵令嬢の視点からお見せ致します」
二人が致している事である以上、もう一人からの視点も必要だろう。
私は澄ました顔で陛下に提案した。
しかし、事ここに至ってようやく陛下も事の重大さを認識した様だ。
「い、いや、もういい! わかった、お前が正しい! もう結構だ、レティシア!」
まさか私がこういう場でこんな場面をぶちまけるとは思っていなかったのだろう。
大衆の面前でいわれのない罪で断罪されて国外追放を喰らったこちらも同じだ。
それほどに私の怒りは強い。
慌てた陛下にそんな事を云われたものの、最早今の私を止める事は出来ない。
「申し訳ございません、陛下。今の私は国外追放者ですから」
「?」
「命令を聞く義務はありませんわ」
そう云う事で悪しからず。すいませんね、育ちが悪いもので。
私は人として致命的なダメージを精神に負ったディアーヌに視線を向けた。
彼女は頭を両手でつかんで泣き叫び床にしゃがみ込んでいる。
一人の女性の人生があっけなく社会的に死を迎えた瞬間だった。
水晶を使って過去を読むのは視線を合わせた方が遥かに楽なのだが出来なくもない。
そして次に何が起こるのか。流石に阿呆な殿下も理解した様だ。
先程までの余裕が完璧に消え去って目の色を変えてこちらに向かって来る。
「よせぇっ! やめろおおおおぉおおっ!」
海が割れるかの如く左右に割れた人の間を殿下は向かって来た。
あまりに泡を食って足がもつれている感じだ。
私はとびかかって来る殿下を華麗なステップで躱しつつ投影水晶に魔力を送る。
殿下は躱した際に足を掛けられて無様に転んだ。
運動神経抜群の貴公子も信じられない事態に直面すると別人になる様だ。
一瞬遅れて皆様ご想像の通りの殿下の喘ぎ顔が盛大に会場に浮かび上がった。
犬同様に息を荒くしてディアーヌとの行為に励む未来の国王陛下の光景である。
「やああああっ!」
「きゃあああっ!」
「やっぱマジか!」
「うおおっ!」
「学園内でこんな事するなんて!」
「やっぱり! 不潔よおおぉおおっ!」
「意外と小さいな」
「な、何たる事だ……」
「信じられませんわ!」
「いや、ヤバ過ぎんだろ、これ!」
やはり一部変な反応があったがスルーする。
この人物とは気が合いそうだ。それはともかく言うべき事がある。
「婚約者がいる身でありながら神聖なる学び舎でこのような行為に耽る者と私と、どちらが不誠実でふしだらであるかここにいる皆々様のご判断をお聞きしたいものです」
私の言葉に会場にいる全員の目が国王陛下に注がれた。
全員の視線が自分に注がれた国王は顔を青くして口を開くものの声が出てこない。
酸素が欲しくてあえぐ金魚の様に。
そして今度は顔を赤くして声を出した。側付きの衛兵と会場警備の兵達へ。
「ええい! あの痴れ者を捕らえよ!」
どうやら自分が私を煽ったのも忘れた様だ。
国王陛下が選択したのは私を捕らえて力ずくでこの場をうやむやに片付ける事だった。
逆切れした国王陛下に命令を受けた衛兵が私の身柄を押さえようとやって来る。
すると、どうにでもなれという感じでたたずむ私の前に一人の男性が進み出た。
「止めよ! 私がこの者を保護する!」
「あなたは……!」
私の前に出てきたのはこの王国に留学していた帝国の皇太子だった。
一緒に留学に来ていた皇太子の取り巻き達も来て私の周りをガードしている。
意外な人物の横やりに衛兵達も躊躇して足を止めた。
「我が帝国は聖女レティシアを正式に保護して帝国に迎え入れる。
彼女に手を出す場合は我が国と事を構えることになるぞ!」
「皇太子殿下、彼女はこの国の民です。貴方方は関係ありますまい」
「ほう、おかしいな。先ほど私は確かに聞いたのだが。
『レティシアをこの国から追放する事は決定した。陛下には既に話を通してある』とね」
「そ、それは……」
「王族の言葉は重い。簡単に覆すことが出来るとお思いか?
まさかこれほどの証人が居る中で否定なさるつもりはないでしょうな」
「ぐっ……」
私と同年配ながら国王陛下以上の威厳を出して皇太子殿下は毅然と言い放った。
この場にいる王国の臣民達も流石にその事実は認めざるを得ないだろう。
国王陛下は結局、方針転換をした。
つい先ほど私への捕縛命令を出した事が無かったかの様に。
「レティシア、つい取り乱してしまった様だ。許して欲しい。
お前の言い分の方が正しいのだろう。オーギュストにはしかるべき処分を下す。
だからこれまで通りこの国の行く末を担ってくれぬか」
「……陛下」
「おお、何だ?」
「事ここに至って、今更お互い全てが無かった事にする事は出来ないでしょう。
そして私にも自分の意志があります」
「……」
「私の運命を決めるのは私です。
そういう訳で私は私の自由意思で帝国にお世話になる事にします」
元々明らかに仲が良くなかった王太子殿下にはいつか手酷い真似をされると思っていた。
弱みを握っておこうとあらかじめ王太子とディアーヌの醜い関係を確認しておいた事が役に立った。
この場でこういう形で披露する羽目になるとまでは思わなかったが。
オーギュストはディアーヌと仲良く破滅した。
二人共跪き項垂れて身動きをしない。誰も駆け寄らないのが二人の今の状態を示している。
同様に肩を落とす国王陛下に私は一言付け加える。
「陛下に最後、一言申し上げます」
「……?」
「ご安心下さい。私が居なくなる事でこの国に結果的に輝かしい未来が見えますから」
「輝かしい未来……?」
「そうです。私には見えるのです」
「……そうか……わかった」
結局、私は帝国の皇太子殿下とその数人の取り巻き達の手により無事会場を出た。
歩き去る私達をやはり海を割るかの如く会場の人達は両脇に散らばり見ていた。
卒業パーティがこの後、どの様に終わるのかを最早知る由もない。
私は取り巻き達の先頭に立って歩く皇太子殿下へ語り掛ける。
「皇太子殿下、一つお願いがあるのですが」
「分かっている。孤児院の事だろう?」
「……はい。知っておられたのですか?」
「全員を我が国の国民として招き入れよう。早速孤児院には我が国の手の者を向かわせる。
君の力の代価としては安価すぎておつりがくるしな」
皇太子殿下は私の云いたかった事を正確に理解してくれていた。
こういう事態になった以上私の身柄を拘束するのにあの孤児院が利用されるかもしれない。
家族の様に育ってきたあの孤児院以外、私がこの国に執着する理由はないからだ。
しかし、それはそうと何故そんな事まで知っているのか。
訝しむ私に皇太子殿下は以前から私に興味を持ち色々調べていたという事をあっさり認めた。
「ところで……」
殿下は私の複雑そうな表情を確認する様に秀麗な顔を向けて訊ねる。
どこか悪戯っ子みたいな表情だ。
「王国の輝かしい未来と言っていたが、本当はどんな未来が見えていたのだ?」
「いずれクーデターが起こり王室は追放されて民衆が支配する国になる未来です。
何年後かはわかりませんが民衆にとっては輝かしい未来です」
誰に対しての輝かしい未来かはあの場で言わなかった。
国王陛下への最後の一言は別にフォローではなく未来視で見た一つの事実である。
何事も起こらなければほぼ確定の筈だ。
もしかしたらあの私への断罪の結果が引き金になったのかもしれない。
王室への決定的な不信として。
あんな場面を見せられて王室を敬う人間はいないだろう。
国王陛下とオーギュスト殿下は選択を誤った。最早止めようもない。
私の言葉を聞いて盛大に皇太子は笑った。
「我々為政者の一族にとっては怖い話だ。
それにしても皮肉や嫌味すらもいい様に解釈するとは最後まで哀れな奴らだったな」
「全くです」
「さて、ではもうこんな政情不安になる予定の国への留学は取りやめだ。
早速父上に連絡して君の受け入れの件を話さなければな」
その殿下の言葉に私も頭を切り替えた。
この王国には最早何の未練もない。私は孤児院の皆との新天地での生活に早くも心を馳せた。
さっぱりしたら幸いです。お読みいただきありがとうございました。




