第九話
この小説を開いてくださりありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
俺はそこまで鈍感ではない。
誰かに見られているなとか、今多分本当は別に思ってることあるんだろうなとか。
そういうのも少しは分かる。
だからこそ戸惑った事がある。
高校一年の秋。
少しずつ気温は下がっていって、なかにはブレザーを着ている奴だっている。
その時ら辺からだった。
視線を感じたのは。
俺は何か異変を感じた。
休み時間、授業中、学校にいるときだけ感じる視線。
俺は当時からクラスでは少し浮いていたし、そういう事も度々あった。
でも今回のそれは少し違う感じがした。
だからこそ気になった。
そこで誰が俺を見ているのか探すことにした。
「涼太大事な話がある」
「どうした、咲月さん関連か?」
あまり大きくとらえてないような様子だ。
「最近視線を感じる」
「へー、幽霊でもいんの?」
「いや、人間だ。それもこの学校いやクラスの奴だ」
少しは興味を持ち始めた様子の涼太が聞いてくる。
「そりゃまたどうして」
「授業中でも感じることがある。
授業中って事は同じクラスのやつだ。
それに学校以外では感じないから幽霊じゃあない」
「ほう、いつもの感じのやつでもないの?」
「あぁ今回は少し違う気がする。今までは感じたことがない」
少し厨二っぽい言い方だと後から気づいた。
「だから探そうと思う、今から」
「今から?そいつは急だな」
「だってわざわざ休み時間の教室の中で話しているんだぞ、分かりやすいように」
「なるほど、この会話で多少動揺するかも的なことか」
そういう事と言えばいつも視線を感じる方に目を向ける。
と言っても、俺の席は後ろの方なので範囲はかなり広い。
(今日のうちに見つけてやる)
なんて思っていたらチャイムが鳴り、四時間目の授業が始まることが分かる。
(しっかし理由はなんだ?)
俺は考えていた。
いつものものとは違う視線。
「あの人変だよね」とかそういう類のものじゃない。
もしかすると涼太関係かもしれない。
あいつは顔もいいし実際モテる。
俺が近くにいると株でも下がるとか思ってる連中もいるだろう。
その手のものだと実際厄介だ。
だって逆恨みもいいとこっつーかなんも俺はしてねーのに。
そこで俺も違和感に気づく。
(いつもの俺ならこんなこと気にしないはずだ)
実際咲月以外の事はどうでもいいし、今までも色々あったがすべて無視してきた。
でも今回に限ってはなぜか気になる。
気になって仕方がない。
そんな事を思っているとまた何かを感じた。
(視線!!)
今度は見逃さなかった、あの席。
明らかに俺から目をそらそうとした奴がいた。
かなり分かりやすく反応したから逆に怪しくもある。
(でもなんであいつが?)
「なー、犯人分かった?」
昼飯を食いながら涼太が俺に問いかける。
「ま、目星はついたかな」
「まじかよ」
でもいったい何故だ、あの人は確かに俺も知っている。
俺が認知している数少ない学校の人。
やっぱり涼太関係かな、なんて思いながらも涼太にとある質問をぶつけてみた。
「なぁあの人とはなんかあった?橘さんとは」
その名前を聞いてあの涼太も吹き出す。
「い、いやまだ特には」
橘向日葵、涼太が入学当初見かけ一目惚れ状態。
いつも明るくて笑顔が似合う彼女はクラスでも人気者の部類らしい。
そんな人とでも対等に釣り合うと言われる涼太も凄いと思う。
まだ一年の秋なのにもう三回は告白されたらしいしな。
目の前の男がそこまで魅力的かと言われればそうと言えるが、真に魅力的なのはその外面じゃないんだけどな...。
なーんてらしくもない事考えていると涼太が切り出す。
「なんで今橘さんの話し出した?食堂にいなかったからセーフだけどさ」
今日は犯人の特定もかねて食堂に来ていた。
彼女は普段教室で食べているので今なら口にしていいと思ったからだ。
「べっつにー、ただ気になっただけ」
そうかよと言えば一気に残りのご飯を食べ終わり教室に戻ることにした。
(さ犯人もなーんとなくわかったし、今日仕掛けてみるか)
結構は放課後にした。
その人が一人になるタイミングを見計らって声をかける。
部活動に入っている彼女は部室に向かうまでは一人だ。
「あのさちょっといいかな、橘さん」
少しビックリ後、ゆっくりとこちらを振り返った彼女は動揺しているのがすぐに分かった。
「ど、どうしたのかなー柊君、珍しいね声かけてくるの」
必死に取り繕っている様子だがバレバレである。
「あんま時間とらないからさ、ちょっと話いいかな」
一応丁寧に話しかける。
「は、はい…」
どうやら観念した様子。
「あのさ、最近俺のこと見てるの橘さんだよね」
「あの~、それはえっと~」
「別に怒ってるわけじゃないよ、ただ知りたいんだよ。
なんで最近俺のこと見てるの?」
恐らくは涼太関係だろう、何もないとは言っていたがあいつもあいつなりに頑張ってアタックしてたし、多少は気になってくれたのだと思うと悪い気はしない。
「いや違うの、えっとね、その最近さ」
明らかに動揺している、言うことが定まっていない様子だ。
「いやね、柊君ってさ、ほらその、ミステリアスな所あるじゃん?それで何考えてるのかなー?みたいな」
いや、何を、言ってるのか分からない。
確か
に失礼ながら頭が良い印象は無かったが、もしかして馬鹿なのか?
「それでほら、ちょっと気になっちゃったっていうか、友達に聞いても皆分かんないって言ってるし」
分からない、本心は何だ?それとも本心なのか?これが?
「そのえっとね、何を言ってるのか俺はよくわからないけど、別に怒ってるわけじゃないよ?」
「え、いやでもその嫌だったから言いに来たんじゃ…」
「違うよ、単純に理由を知りたかっただけ、もう慣れてるしね」
「で、でも申し訳ないです、、まさか気づかれてるとは」
割と一瞬で分かったけどね。
でも悪意のあるものじゃなくてよかった、面倒にもならなそうだし。
「ごめんね、時間取らせちゃって、それだけだから」
「あの、本当にすいませんでしたー!」
と後ろのほうで謝罪していたが振り返りはしなかった。
翌日
「なーはんにんわかった?」
「事件解決したー」
「まじかよすっげー!」
いつもと変わらない会話。
二人で授業が始まるまで続くこの空間。
二人だった空間。
「かーざーまくん!おはよ!」
「お、おはよう橘さん」
「柊君もおはよ」
「おう」
「いやー、寒くなってきたよね!もう朝布団から出るのも辛くなってきたよ!」
なーんて元気そうに話す彼女に戸惑っている様子の涼太は見ていて面白かった。
「席戻るからじゃーねー!」
と手を振りながら席に戻る橘さんを見送った後涼太に詰め寄られる。
「おい!何がどーなってんだよ!お前だろ!?」
「知らねーよ、お前のことすきになったんじゃね」
「だったらいいけどよー!ぜってー違うだろ!」
その日から二人の空間は三人の空間になった。
「ねぇ聞いてる!聞いてなかったでしょ!」
どうやら眠っていたらしい、教室にはとうとうエアコンが作動し始め快適な空間になっていた。
「ごめんごめん、何の話だったっけ」
「プールだよプール!四人で行こうって!」
「かなり熟睡っぽかったし、一から話すか?」
なんてケラケラ言ってるのは涼太で、それに元気そうに返すのがヒマ、そして。
その隣で微笑んでいるのが、、。
「ねー咲月ちゃんどう思う?」
「いいんじゃないですか、もう一度話しましょうよ」
「咲月ちゃんまでー!」
今はもう四人の空間。
そして夏休みが始まる。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!