第七話
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「帰るか」
授業が終わり、もろもろの用事も終わったので今から家に帰る。
今日は各委員会会議があり、涼太もヒマもいないので一人で帰る。
まだ教室には数人の生徒がいるが彼らはまだこの場にいるらしい。
教室を出て少ししたところで声を掛けられる。
「あの、柊君」
振り返れば咲月がいた。
目線は下がっていて、緊張とかもあるのだろう。
「何、どうしたの?」
「今日放課後空いてますか」
今日は確かに用事もないので承諾することにした。
元々はアルバイトなどに精を出していたが今はそこまでお金は必要ではないので、掛け持ちもやめた。
なので、端的に言えば暇なのだ。
下駄箱まで来た当たりで要件を聞いてみる。
「今日はどうしたの?どっか行きたいとことかあるの?」
「えっと、昔もこの辺に住んでたって聞いて。
景色とか好きだって言ってたから、、その教えてほしくて」
なるほど、だいたい分かってきた。
少し前に、案外ここの辺でも見れるような景色が好きだった、的な話をしたことがあったのでそれだろう。
「分かった、じゃあ適当に回る感じでいい?」
と聞けば、お願いしますと真面目に返してきた。
…一応同学年なんだけどな。
今通っている高校は地元?というか近くにあって、小中と引っ越さなくても通える。
だからろくに引っ越していない俺も徒歩で高校に通っている。
「ここが通ってた小学校。まぁ一回は見に来てると思うけど」
「まぁ、はい。でも外からの少し見た程度で」
なんてウロウロしていると声をかけられた。
「何か御用ですか、ってもしかして」
流石に校門前でずっといると先生らに話しかけられるが。
「あれ、松田先生?」
「おぉ!やっぱり柊君と、七瀬さん、、であってるよね?」
「はい、お久しぶりです。」
困惑した様子の咲月に事情を説明する。
「この人は昔担任をしてくれてた松田先生。俺達は結構お世話になったよ」
聞くとすぐさまお辞儀をするが、やはり記憶の事があるのでなんとも接しずらそうである。
「あー、えーっと先生咲月はその…」
少し間が開いた後先生は、
「何か事情があるのでしょう?話せるなら、話してくれますか?」
とやはり優しく話をしてくれる。本当に変っていない人だった。
流石に場所がまずいと学校の中に入れてくれた。
久しぶりに入った小学校はとても小さく感じだたが、もう十年近く行っていない様な感覚がした。
空き教室を開放してくれて、いざ話をしようとすると、咲月が自分から話すといった。
そして全て話し終わると先生は複雑そうな顔をしていたが、割と直ぐに話を始めた。
普通記憶喪失なんて聞けば、中々言葉は出てこないものだからだ。
「実は、七瀬さんが引っ越した後、私は悲しかった事があります」
もちろん引っ越した事自体にも、と付けてから話を続けた。
「最初の一ヶ月近くは良かった、でも時がたつにつれ、その、、柊君の様子がね」
「段々と暗いような、虚ろなような、心ここに非ずといった感じになっていった。
それを見て、どうしようも出来ない自分が情けなくなりました。
学年を上げていくにつれ、君はとてもその年の子供がする顔ではなくなっていった。」
確かに俺は、あの頃空っぽだった。
失って暫くして、大事さを、自分の中でどこまで大きい存在だったかを知った。
「そんな君に話しかけていたのは、風間君でしたね。
どうですか?今も連絡とかは」
「同じ高校に通ってます。今日はいないだけで、いつもは一緒に帰ったりとかも」
そうだ、涼太は俺にとって大きな存在だ。
咲月がいなくなって、空になった俺を支えてくれたのはほかの誰でもない涼太だった。
先生は少しホッとしたような顔をしていた。
その後先生は咲月にも話をしていた。
咲月に、自分について知ってることを教えてほしい、と言われたからだ。
あの時はどんな風な性格で、どんなものが好きだったかとか、何かしでかした事とか。
話をしていて思ったのは先生は俺達の事を思っていたより覚えてくれていたということ。
流石にもうかなり前のことだし、学校も何度か移っている事も知っていたからだ。
今年になって戻ってきた事は知らなかったが。
「では、ありがとうございました」
「ありがとうございました、先生もお元気で」
そろそろ帰るころになり、俺達は空き教室を出ようとした。
「はい、お元気で」
別に先生はそこまで年なわけではない。
距離も近いし、いつでも会いに行ける。
けど、中々会うことはない。
だから挨拶をするのだ。
小学校を後にして時刻も夕方なので今日はもう帰ることに。
「結局行ったのは小学校くらいだったな」
「まぁ色々話を聞けましたし」
なんて話してはいるが、俺は思っていた。
このまま今日を終わりにするのか、していいのか。
別に明日にも学校はあるし、また明日会える。
でも、何か決めたかった、確定したい、確認したいことがあった。
「なぁちょっとだけ寄り道していい?」
特に用事もないので大丈夫だと言った事を確認してからとある場所に向かう。
そこまで遠くないし、ルートも大して変わらないが、行きたい場所があった。
いまいちどこに繋がってるのか分からない階段を上れば、俺の、そして、、いやそれは分からないが。
見えるのはただの空き地のような場所。
「ここ、ですか?」
「そうなんだけど、あっち」
と指をさした方向にある物は、ただの夕日。
絶景ではない、ただの、夕日。
家のベランダからでも、公園のすべり台やジャングルジム、学校の教室。
どこからでも見れるただの夕日。
ここは少し周りより見晴らしがいいだけの場所。
昔の俺達のお気に入りの場所。
一人でも何かあればここに足を運んだりもした。
「別になんでもないけどさ、ここが好きだったんだよ、昔」
咲月は夕日を見ていた。
なんでもない、絶景じゃない夕日をただ見ていた。
「あの!」
と咲月が言うので顔を見れば
「すっっっごく綺麗ですね!!」
と笑っていう君の目は昔と何も変わっていなかった。
再会してから一番の笑顔だった。
「気に入ってもらえたら何よりだよ」
分からないけど、分からなかったけど、今なら少し分かる気がする。
ずっと答えが出なかった。
だってそれは今の俺の気持ちか分からなかったから。
でも、そっか。
そうだなぁ。
好きだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!