35年ローンで購入したのに!
「おい、そろそろ交替の時間だ」
「そうか、助かるよ。帰ってご飯にしないとな」
「向こうからは何かあったか」
「特に今日は何もなかった。先日のマンション側からの攻撃でだいぶ懲りてるんじゃないかな」
「了解。ゆっくり休んでくれ」
101号室の佐々さんに見張りを交替してもらって、古宮は自分の部屋に戻ることにした。
35年ローンで購入した4LDK、部屋が広めなので気に入っている。
そんな我が家がこんなことになろうとは。。。
西暦2050年。
日本国。
日本はまだかろうじてある。
神奈川県。
都道府県についてはもはや有名無実化していると言っていい。
周知の事実だが、日本の人口は激減。
超高齢化、超少子化の社会となり、あらゆる問題が噴出。
問題に対処するため、順次今までには有り得ないような法律が作られていく。
東京集中法。
首都圏優先法。
コンパクトシティ法。
県庁所在地集中法。
等々。
そして、マンション集住法。
良いのか悪いのかももはや分からない中で、必要に迫られて作られる法律により、人々は強制的な移住を繰り返していた。
政府や地方自治体は、限られた予算とインフラ等を懸念し、居住場所をマンションに限定。
マンションに住んでいたおれはまだ良かったものを、一戸建てに住んでいる人々からは強烈な反対が噴出し、そして、始まってしまった。
戦争である。
「ただいま」
古宮は、二カ所のオートロックを通り、自宅の玄関へと戻ってきた。
昔はオートロックが多いのも面倒くさいと思っていたが、今となっては非常に助かっている。
万が一、一戸建て側のスパイが入ってきたら大変だ。
ドアの鍵2つも自分で開錠して帰ってきた。
常に用心はしている。
室内では、妻の愛梨と娘の桜が夕食の支度をしていた。
「ただいま」
もう一度言うと、二人ともはっきり気付いたようで、
「おかえり」
と言った。
「パパ、今日のご飯は僕も作ったんだよ」
「すごいね。今シャワーだけ浴びてくるよ」
「あなた、お湯の量に気をつけて。また水道が止まると大変だから」
「わかってる」
「ふう」
一体どうなってしまうんだろうか。
まだ家族や隣人も無事だからいいが、これから戦闘が激化することもあれば、今のまま暮らすことも難しいかもしれない。
(まだローンもたくさん残っているのに。。。)
悩みが尽きないマンション理事長の古宮だった。。。