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守りたいもの

対峙しているフードの男性のやや後ろから、ラエルが剣を突き付けてきた。


「質問に答えてもらうよ、リア。僕らも国が大切だから」


その言葉は、今まさに国を捨てようとしている自分と真逆に感じた。一方は国を捨て、一方は国を守るために向かい合っている。


この人たちは何なんだろう?警備兵には見えないけど


アレリアは自分の国が大切だと言えるような生き方が少し羨ましかった。そんな風に生きたかったこともあるけれど、自分はあの国には必要ないと思っている。


「リアは帝国民、それもかなり高い地位にいる子供だよね?ただ、貴族の子供をスパイにするほど人材に困ってるとは思えないから、ちょっと疑問は残るんだけど…」


かなり確信してるような言葉に一瞬目を見開いた。まだ見知ってから数時間しか経ってない上に、ほぼ情報と言うものは話していない。


「まずね、君が怪しいと思ったのは違和感からなんだ。服装もそうだけど、旅券は完璧なのにそれ以外が杜撰すぎる。西大陸と言っても首都から田舎まで様々で、イントネーションも違う。話し方から殆ど訛りは感じないからある程度出身地は絞られる。そして髪と目…君、平民をあまり見た事ないでしょう?」


物心ついてから、城からほぼ出たことがなかったアレリアはぎくりとした。


「平民の色は、黒、茶、赤毛が一般的でね、そして目の色も同じ。貴族に近い程色素の薄い色が多いとされている、絶対ではないけど。ただ、君のような青い目はかなり珍しい。だから、偽装してまで検問を抜ける気なら普通は目立たないように隠す。君の行動は、捕まってもいいと思ってるようにしか感じなかった」


思った事もなかった事実に驚く。相談できる相手がいなかったのもあるが、ここまで穴だらけだった事を悔いた。


「後ね、君は帝国からの遠征目的を知っていた。話し合い、なんて軍の上層部しか知らない情報どこで聞いたの?平民が軍隊を見れば攻めた来たようにしか見えないでしょう」


あっ…!


「間違ってるなら反論していいよ、納得出来たら解放しよう。もしくは口を閉ざし続けても自由だよ。これから戦争しようとしている国同士、ひとり減ったところでこちらは困らないからね」


それは暗に殺すと言っている脅しにしか聞こえなかった。正直、軍関係者をこのまま何事もなく解放するとは思えない。


「名前は?」

「…アレリア・フォン・ミルゼベルク」

「え?」


こちらを驚いた顔で見た男性が数秒フリーズすると、後ろのラエルが不思議そうにのぞき込んだ。


「おい、大丈夫か」

「ああ、ごめん。思った以上に大物の名前が出てきたから。それとラエル、剣はもういいよ。どうせ斬れないんだから」


え?という顔で見返すと、男性はふふっと笑って少し空気を和らげた。


「ラエルはね、子供に酷いことは出来ないんだ。恰好だけの脅しだよ。それに身分ある貴族を勝手に殺しちゃったら相手に戦争の理由を与えてしまうだろ?そんな事しないよ?怖かった?」


あははと笑って言う目の前の男性を殴りたくなった。正直、表情じゃ嘘か真実かわからない怖さがこの人にはあると思う。


「そのフォンなんとかって何なんですか?」


扉の近くでこちらを守っていた少年が聞いてきた。


「帝国は女王と三大貴族の影響が絶大な国なんだよ。爵位もなくその三大貴族が皇族に次ぐ最上貴族として世襲制で国を動かしている。そのひとつがミルゼベルク…。ラエルも色騎士ってのは聞いた事あるでしょう?」

「ああ、その家門から世代に一人ずつ選ばれる騎士の事だろう?黒騎士は戦場の悪魔と言われている」


家門を言ったのは失態だったかなと思ったが、多分黙っててもバレてしまっただろう。それにもし家門を知っていたら殺さないだろう確信もあった。いち帝国民と三大貴族じゃ価値が違う。


「ますます不可解だな…。リアはどうしてひとりでこんな所に?」

「国を出たかったに決まってるじゃない。本当にそれだけなのに」

「…は?」


その声を発したのは目の前の男性ではなく、扉近くの少年だった。


「アンタ貴族なんだろ?何不自由なく育てられて、いらないから捨てるって?」

「ルイ、やめなさい」


静止する声をよそに、ルイと呼ばれた少年は止まらない。


「飢えたことはあるか?道端で毎日食べられるもんを探して彷徨ったり、寝床がなくて浮浪者に襲われた事は?」


ラエルが少年を羽交い絞めにして黙らせたが、ルイはずっとこちらを憎らし気な目で見ている。


「ごめんね、持ってない者からみたらそれを軽々しく捨てる者が理解出来ないんだよ。君はこれまで貴族の恩恵を享受してきて、その責任を身勝手に放棄しようとしてるようにしか見えないから」


正論を言われてぐっと顔を歪める。自分がいなくなる事で迷惑を被る人間がひとりもいないとは言えない。


「まあ、恵まれてる人間が必ずしも幸せと感じているとは思わないけどね。幸不幸はその立場になってみないとわからない」


何かを考える様にやや目を伏せた男性が一度瞬きをして、次の瞬間には先ほどまでと同じ微笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「どこの誰かはわかったけど、まだスパイ疑惑は晴れてないよ。さて、どうしようかな…」


そんな事言われても、これ以上何をすればいいのかわからない。けれどもう一度帝国に戻るのだけは回避したかった。


「そうだな…。今この国は危機に瀕している、帝国が要求を吞まなければ武力で制圧しようとしているから。君はそれを止められるかい?」

「は…?」


そんな事できるはずない、城の中でも自分の立場は制限されていた。特に戦争に赴くような事は一度もなかった。


「少なくても軍事内の情報を握れる立場にいたんだろう?」

「帝国に不利な情報を話せって事?そんな条件なら殺されても言わない。国を出ても私は帝国民だから」


なんとなくラエルの視線を感じたが、心の中で何見てんのと思うだけに留めた。


「じゃあ言い方を変えよう。この国が戦争を回避できるように協力して欲しい、もちろん帝国側に危害を加える気はない。ただ、両国が傷つかないようにして欲しいんだ。もし今回の約定が成されなくても帝国側に実害的なものはないはずだ」


回避…?


アレリアはこの交渉の内容は把握していないけれど、多分東の大陸に対する何らかの対策だろうと思っていた。この共和国は東と西を結ぶ国境の国でここを通らなければ険しい山道か海路しかない。


「君が敵ではないと証明してみせて」

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