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馬車の中で

アレリアはジルを含めた男共四人に囲まれて、とても気まずい馬車に乗っていた。

ジークは何か聞きたそうに見てるし、ラエルとジルはなぜか睨み合ってるし、ルイは地図を見ながらため息を吐いている。

誰に話を振っても面倒そうだが、とりあえず今後の事を聞きたくて一番無難なルイに話を振る事にした。


「随分長く馬車に乗ってるけど、次はどこにいくの?」


質問をすると、ルイはキッとアレリアを睨みながら口を開いた。


「どこかの誰かさんが旅券も持っていなかったので、宗教国に行くしかありません。本当はその前に通過したい国があったのですが入れませんから」


そのどこかの誰かは真っ裸で何も持っていないジルなのだが、当の本人は他人事だ。ルイはお金は返してもらいますからねとぼそぼそ呟いている。真正面からジルに物申すのは怖いようだ。


「その宗教国なら旅券なしでも入れるの?」

「はい。お金を払えば」


信徒の多い国にしては俗物的すぎない?


「治安の良さも相まってという所だね。東では公国とそれに連なる王国に次いで力を持ってる国家だよ。神官の権力も大きいからね」


他の宗教と違って、神官は国が認めた聖職者だ。トップは王位継承権からほど遠い王族やそれなりの貴族が務めたりするので、どこの国の神官も偉そうにしている。


「それに宗教国エリスの大神官は第三王子だから。神官になる際に王族の身分は剥奪されるから、正確に言えば元だけれどね」

「王族が神官に?そんなことあるの?」


西の帝国、東の公国と言われるが、実際に東の大国はアンティガブル国と言って、長らく繁栄している国である。ただ十年前くらいに王子五人による王位継承権の争いで、かなり揉めたと記憶している。


「王位継承権で死人が出たんだよ、確か第五王子だったかな。苛烈を極めたその争いに終止符をつけるための措置だったはずだ。王太子のみ国に留まり、第三王子は神官としてエリスに、一番王としての適性が高いと言われた第二王子は公国譲渡を名分に追いやられ、それに第四王子もついていった」

「兄弟でそんな争うのが普通なの?」

「帝国はないの?まあ、国の形としては珍しくはないと思うよ」


帝国の三大貴族は長男が領主に、次男が色騎士になると決まっている。それ以降の兄弟は官僚になったり騎士になったり様々だが死人が出るような争いは聞かない。なぜなら三大貴族に生まれただけでそれなりに優遇される立場だからだ。


「けれどここ十数年で結局公国が一番影響力の高い国になった。初めは小さな国だったはずなのに、周辺の国を吸収してね。荒れた土地だったからもちろん領地戦もあっただろうが、自発的に吸収された国も多かったようだ。どこも安定して治めてくれる王を求めていたんだろう」


それほどの器の大公という人物はどんな人なんだろう?ん?まてよ…


俄然興味が出てきたと同時に、ある日の大公の噂を思い出す。


“大公がまた行方不明らしいぞ”

“あの方の放浪癖はまだ治らないのか”

“今度こそ竜に食われたと聞いたが、デマなのか?”


「……。ねえ、大公ってどんな人?」

「さあ、変わった方だと聞いた事はあるけど。国で指示するだけの王ではなく、実際に自ら死地に赴くような方らしい」


うーん、変な人っぽいな…


「僕はそれよりも、公国よりも情報が少ない君達の帝国に興味があるね。黒騎士なんか、まずお目にかかれないでしょう?」


ジークがここぞとばかりに、笑顔で話を切り出した。確かに黒騎士は戦場にしか現れず、出会えば確実に死ぬと言われている。


「そ、そうだよ!ジルがここにいたら騎士団はどうするの!はやく戻らなきゃいけないんじゃない?」


ジルに帰るように促すと、ゆるりと首を振って問題ないと言う。


「女王が全面的に戦争を停止したからしばらくは起こらない」

「え?どうして?」

「リアがいなくなったから」


よくわからずに首を傾げる。自分がいなくなったからと言って、なぜ戦争までも止まるのか不思議だった。元々戦争に貢献するような立場ではなかったはずだが。それをジークがじっと見て口を開いた。


「…戦争よりも重大な事が起こったんだろうね。ミルゼベルクの青騎士は、白騎士と黒騎士とは違うの?」


アレリアはびくりとして声の主であるジークを見る。


やっぱり知ってたのね


帝国の三大貴族にはそれぞれの家門から一人ずつ色騎士と呼ばれる女王直属の騎士が選ばれる。戦争に貢献し防衛の要のヘルシェベルクの黒騎士、あらゆる知識を備え政治的な権力も強いアーテルベルグの白騎士、魔力を多く持ち常に女王の側に侍る近衛騎士ミルゼベルクの青騎士。


「ああ、なんか家門に特徴あるとか言ってたな」


ラエルには自分が騎士だったとは言ってないが、それぞれの家門の特徴は教えたような気がする。ただ、そこまで重要視してなかったのか、今の今まで忘れていたようだ。


「一番気になったのはこの前言っていた血筋なんだよね。なぜ彼らは頑なに家門の掟を守り、結束できるのだろう?それは何かひとつでも違えば、国が成り立たなくなるのではないか…とか。そして例外のミルゼベルク、他にも他家と違った事があるんじゃない?」


アレリアは口を閉じた。これはどう考えても帝国の弱点を探っているとしか聞こえない。


やっぱり、ジーク達は帝国を恨んでいる…?


ハルが言った言葉を思い出してしまう。私の命を狙っているのはアセノーの者であると…。

これ以上話すのは得策ではないと思い、何も言わない事にした。


「残念。黙っちゃったか」


それほど残念と言う表情でもなくジークが笑った。そしてとんでもない事をいう。


「じゃあしばらくは退屈だし、みんなで恋バナでもしようか」

「はっ!?」


これにはラエルもルイも何言ってんだというような顔をする。それほど普段のジークからはおかしい話題だったのかもしれない。


「ルイは好きな子いるんだよね、あの城下町で果物売ってる…」

「うわああああ、vhdふぃう!!僕の人権の保護を求めます!他人の秘密を暴露するのはよくないです!!!」


呆れた様子で見ていると、今度はラエルに飛び火した。


「ラエルは、うん…あんな堅物そうな態度しといて、もう少し若い頃ははっちゃけてたからね。君も気を付けてね」

「なにが!?!?!?」


ラエルの必死の訴えを横目に、ジルがアレリアを守るように抱え込む。二人の必死さがおかしくて笑ってしまった。


「帝国人の君達も婚約者はいなかったの?上流貴族は幼い頃からいるって聞くけど」

「色騎士は婚姻免除が認められている」


ジルの言葉はそのまま相手はいないというのを物語っている。色騎士は女王のものなので、主を一番に考えるという意味で結婚は強制されていない。だから領主として家門を継がなければいけない長男ではなく、次男が騎士となる。


「まあ、結婚とか考えられる暇もなかったしね」

「でもリアは婚約者がいたじゃないか」


ぎくりとして周りを見ると、興味津々にこちらを見ている。こっちみないで!


「いや、でも殆ど話した事ない方だったし。城で会った時に挨拶するくらいで」

「城で?もしかして皇族?」


…あっ


ジルが否定しないのを肯定ととったようだ。先ほど三大貴族は家門の者と婚姻すると言ったのに、さっそく例外的な事を口走ってしまった。確かに色騎士は婚姻は強制されないが、それは白騎士と黒騎士だけだ。ミルゼベルクの青騎士は、近衛騎士として次代の女王に仕える女性騎士を産まなければいけない。それは青騎士の最重要の役目だった。


女性騎士の伴侶は皇族の男子から選ばれ、反対に女王の伴侶はミルゼベルクの男子を娶る。

これがミルゼベルクが、どの家門よりも古くから皇族と懇意にあるという特権でもあった。


女王の事まで話す気はない、けど


まんまと誘導された事に気付いてアレリアが押し黙ると、ジークは面白そうにこちらを見ていた。

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