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旧国の過去

しばらくじっとしていたが、ジルから少しだけ身を放して口を開いた。


「私を追ってきたって言ってたけど、どうやって来たの?それに…なんで獣の姿に変身できるの?」


ジルはきょとんとしながら首を傾げた。


「リアは出来ない?」

「出来るわけないでしょ!」


彼と話しているといつもこのマイペースな会話になるので、アレリアは突っ込み役だ。


「そうか、じゃあ俺の家門だけなのか」


ジルバーは三大貴族ヘルシェベルクの直系の次男だ。そして紋章は豹を模している。

家門の象徴となる動物になるのは、それがヘルシェベルクであるが所以の能力だとも言える。

しかし三大貴族は互恵関係にあるとしても全てを明らかにしているわけではない。その家門にしかない特殊な能力を持っていてもきっと皆、秘匿しているだろう。


私の家門も魔力に特化してるから、特殊な魔法とかあったかもしれないけど…私は才能なかったからなあ


「ハルに聞いてみないとわからないけど、彼はどこにいるの?」


何よりなぜハルジオンがいるのか。アレリアの逃亡を手助けしてくれた彼が、ジルと同じく追ってきたというのも変な話だ。


「さあ…?俺は国境を越えられなくて、でもどうしてもリアに会いたいと思ったら変身してたから。豹になると記憶が曖昧になるんだ、動物の本能が勝るというか」

「えっそんな適当に変身するの!?」

「うん。けどめったにならない。戦場でなったことはない」


そりゃなってたらもっと騒がれているだろうね


「ええっと、じゃあハルとはどうやって連絡取ってたの?」

「鳥が」

「鳥?…あ」


そういえば、ずっとアレリアの周りを色んな鳥が飛びまわっていた気がする。なぜか急に鳥に好かれたと思っていたが、もしかしてあれはハルが自分の動向を監視していたのだろうか。


そしてアレリアはふと今の状況が気になった。

ラエル達からしたら、自分は獣に攫われて行方不明状態な事に気付いたからだ。


「あ…!早くラエル達に合流しなきゃ」


ぱっと顔を上げて来た道の確認をしようとすると、唐突に手を掴まれた。


「ジル?」

「行ったらダメ。俺と一緒に帰ろう」


親を失った子のように、頼りなくこちらを見てくるジルに絆されそうになる。いつも自分に付いてきていた一番年下の幼馴染は、下のいないアレリアにとって弟みたいなものだ。けれど…


「ううん。私はもう戻らない」

「どうして!?」

「リアの選んだ生き場所は帝国じゃないからさ」


唐突に聞こえた声に、二人は勢いよく振り返った。

そこにはもうひとり、見知った顔が立っていた。


「久しぶりだね、リア」

「ハル…」


こちらも騎士のマントはなく、お忍びと言うような恰好だった。


「ハルも私を連れ戻しに来たの?」

「うーん…正確に言えば違うかな。僕は別の目的でここにいる」


けれど帝国の要の騎士が二人も東に来るなんて、ジルはともかく余程の事があったのだろうか?


「君を探しに東の大陸まで暴走してくるのはジルだけじゃないって事だよ。ねえジル」

「……」

「ちょっと、リアとは先ほどまで話してたのに何で僕には黙るのさ。僕だって君の幼馴染だよね?」


ハルの問いかけに、まるで何も聞こえないかのように黙るジルを見て、アレリアは苦笑した。元々能弁ではないジルだが、アレリア以外には極端に口数が少ない。


「ハル、それで目的って?」

「ああ、ミアも来てる」

「えっ!?」


驚きの声をあげたのはアレリアだったが、ジルも同じくらい驚いている。


「彼女は帝国トップの魔法使いだからね、独自の転送魔法かなんかでこちらに来たみたいなんだ。それで慌てて追いかけて来たってわけ」


見てない?と言われて、思い切り首を振る。


「そうだね、リアは会わない方がいいかもしれない。僕は今の所、君を連れ帰る気はないしね。命令も受けてないから」

「はっ!?」


これにはジルが反応した。


「リアの人生はリアのものだよ。そんなに不満なら相手に妥協させるのではなく、君がリアに合わせればいいじゃないか」


それを聞いてジルがぴたりと黙った。なんだか嫌な予感がする。


「わかった。じゃあ俺がリアと一緒に行く」

「はっ!?何言ってるの!」

「じゃあこっちはこれは話がついたね」


いや、ついてないから!ジルを連れて帰って!


和やかに話を締めようとするハルに文句を言おうと対峙すると、こちらが口を開くより先にハルが話し出した。


「ああそうだ、リアはあの旧国の遺児達とは一緒に居ない方がいいんじゃない?」

「え…?旧…国?」

「アセノー王国、今は共和国だっけ。帝国人に恨みつらみを持った者達だから」


そういえばずっと気になっていた。自分の知識には共和国と帝国の歴史が交わった記憶はない。けれどきっとハルは知っているのだと思った。


「教えて、二つの国に何があったのか。未だに遺恨を残しているのはなぜ?戦争があった記録もないし…」

「この歴史が帝国側に残っていないのは、それがこちらには取るに足りない出来事だったからだよ。まあ、アセノーの内乱と言うか」


けれど内乱じゃ帝国が恨まれる理由になっていない。何かしら関与していたからこその今じゃないだろうか。


「僕もまだ出兵もしていない、先代の女王の時代の話だよ」


十数年前、アセノーと帝国はそれなりに良好な関係を築いていた。

その頃のアセノーは穏やかで一度も戦争を起こしたこともない、悪く言えば臆病な王が統治していた。

特出した改革も大きな損害もなく、前時代の利益と負債をそのまま次に繋げるような政治をしていた。


けれど事件が起こった。

帝国の祝賀会で女王の命を狙った者がアセノーの王に命令されたと言って死んだ。

そしてもちろんアセノーはこれを否定した。


「その頃のアセノーは帝国の庇護下の元、貿易も栄えて豊かな国だった。妬んだ隣国もいただろう、それに頼りない王に辟易した過激派の民など、結局特定する事が出来なかった」


女王は一度はこれまでの関係もあり、アセノー側の主張を受け入れた。

けれど二度目の襲撃で、皇子が負傷した。

これには大国しての威厳もあり、看過することが出来なかった。アセノーに恨みある者の犯行だとしても、それを制御できない国に問題ありとした。


「それで…どうしたの?」

「宣戦布告をした。あの頃からアセノーの立地は帝国にとって価値のある場所だったからね。領地戦にいい口実でもあった…けれど戦争は起こらなかったんだ」


帝国と戦争すれば勝てるような国は西にはないだろう。けれど宣戦布告までしておいて、帝国がそれを撤回するとは思えない。なぜ戦争を回避できたのか気になった。

アレリアが続きを促す様に見ると、ハルは何の感情もない様な声で言った。


「アセノーの王族とそれに連なる主要人物が全て処刑されたんだ」

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