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湖の待ち人

獣はアレリアの首根っこを咥えたまま、夕暮れの街中を疾走した。そして近くにある森の中に入って行った。


なんで!?


何の生物かわからないが、この大きさはどう考えても肉食獣の大型クラスだ。それが今、アレリアを捕食しようとしている。街中にこんな肉食獣がいるのも意味がわからないが、わざわざ宿から自分を攫う意味もわからない。


そして森に入ってしばらくすると、獣はそのまま獲物を放した為、アレリアはべちょっと投げ出された。


「いたた…ひっ」


目の前に獣がいる。よく見ると全身真っ黒で目が金色に光っていた。これは…


「豹…?」


すらっとしているが、かなり大きい。何だかグルルと唸っている声まで聞こえて、アレリアは青ざめて後ずさった。こちらが怯えたのがわかったのか、獣がじりっと近づいてくる。


そういえば、獣って格下だとわかれば襲いかかってくるんだっけ…食われる?


走って逃げても絶対敵わないので、目だけは閉じずに豹の行動を凝視した。すると獣はこれ以上近寄っては来ず、アレリアの周りをうろうろしてその場におすわりした。


「え?」


しばらくじっと見つめ合ったままでいると、獣がぴくりと動いてある方向に向かって唸った。

アレリアも耳を澄ますと、遠くで聞き覚えのある声が聞こえた。


「おー…げえ!」


ラエルの叫びと共に獣がそのままラエルに突進していった。


「うわああ、ラエル避けて!」


そのまま何とか一度は避けたが、追撃は防げなかった。ラエルは対面から覆いかぶさられてそのまま倒れた。こちらも近くに駆け寄ったが、武器になるものは何も持っていない。


どうしよう…


アレリアは注意を引くためにそこら辺の石を数個拾って投げたが、獣は難なく石を避けて飛びのいた。そして投げた石はラエルの当たり、ぐあっとうめき声が聞こえた。


「貴方に当てたくないの、お願い帰って」


獣に叫び、石を投げる動作をするアレリアを見た後に、ラエルを見て、もう一度アレリアを見た後に獣はそのまま森の中に走って行った。まるでこちらが言った事を理解したように。


しばらく森の方を見た後に、深いため息を吐いてラエルに向き直った。


「ラエル、大丈夫?怪我してない?」

「ああ、お前が投げた石以外にはな」


ごめんて


「でもよくこの場所がわかったね」

「こんな街中を獣が疾走してたら目撃情報には困らんわ、このタコ」


とうとう魚からタコになった


アレリアは獣との関連性を聞かれたが、わからないとしか言えなかった。けれど何となく、帝国人の自分が帝国の象徴とも言える黒豹に遭遇したのは偶然なのだろうかと不思議に思った。


宿に戻ってからもジーク達に無事の確認と同じ質問をされたが、やはりわからないとしか言えなかった。




それから数日、出立の日に検問で王女と子供達、そしてあのミエルと言う下級役人が見送りに来てくれた。


「本当に面倒事に巻き込んでしまって申し訳ございませんでした」

「いえ、私はほぼ捕まってただけだし…」


なんとかしたのはジークである。


「頂いた不正契約書だけではまだ宰相を失脚させるのは不十分でしたが、減税だけは父上、いえミエル達に協力してもらって必ず成し遂げます。そして今度お会いする時には王女として、もっと胸を張れる豊かな国をお見せしたいです」


ジークはあの不正の証拠を王室に提供したらしい。


あれ、少し気にかかっていることがあったんだよね


いくら対等の取引だろうと、補佐官が初対面の旅人やら商人を信じるだろうか?もしかしてジークは信じるに足りうる何か切り札を持っていたのかもしれない。教えてはくれないだろうから、聞かないけどね。


無難に礼儀に則って挨拶をして、応援も一緒に送ると幼い笑顔で手を振ってくれた。


きっとあの子は大丈夫、私とは違うのだから


アレリアはどこかあの少女に自分を重ねていたのかもしれない。後戻りできない間違いを犯す前に、引き留めてあげたかった。そんな自己満足に苦笑した。




しばらく馬車を進むと、一斉に乗っていた者達が降り始めた。


「なんで降りるの?」

「ここからは船を使うんです」

「えっ!?ここって内陸部だよね?」


ルイが地図を広げて指で示すと、そこには大きな湖があった。


「あまりに大きいので、迂回するより船で通行した方が早いんです」


それなりに乗客もいる列に並ぶと、湖も船も初めてだったアレリアは目を輝かせた。

足取り軽やかに船に乗り込むと、皆は寒いからと船内に入って行ったが、アレリアは物珍しさから外の景色を楽しんでいた。


「うわーもう岸があんなに遠い!うわー」


おのぼりさんになっていると、周りにいた乗客たちから笑われた。やや恥ずかしくなり人気の少ない場所にいくと、フードを被った旅人らしき人が一人で船首近くに立っていた。


あまりにじっと見ていたためか、足元不注意でそのまま木の出っ張りに躓いて勢いよく転んだ。


「ぎゃうっ~たぁ…」


膝に擦り傷を作って立ち上がると、目の前にいた旅人がこちらを見ていた。流石に気まずくて目を逸らすと、何故か旅人がこちらに近づいてくる。


「え?」


ふっと見上げると至近距離にその旅人がいた。

薄い白金に青い目が覗く少年が、こちらを見下ろしている。


「お前、何でこんな所にいる?」

「!?」


こちらは見知った顔ではないが、何故かあちらの反応がおかしい。

もしかして帝国人だろうか?


帝国ではアレリアは頻繁に表に出るわけではないが、祭典や式典には女王の側にいつも侍っていた。

だからこちらは知らないが、あちらは知っているいう者がいてもおかしくはない。


しかもジークいわくあの髪色と目の色はどう見ても平民ではない。


あわわわ、確かに東に来たからって帝国人に会わない保証はなかったよね


しかもアレリアはお尋ね者である。気が抜けて観光を目いっぱい楽しんでいたわが身を恨んだ。


「おい」

「ごめんなさい!見逃して」


船の中では逃げ場もないので、とりあえず一心不乱に頼み込もう作戦に出た。


「はあ?見逃せるわけないだろう」


ですよねー


しかし、がくりと項垂れたアレリアが続いて聞いた言葉は予想外のものだった。


「シーラディーバの女が外に出るなど聞いていないが?」

「シ…え?」


何のこと?と言うように首を傾げると怪訝な顔をされた。


「…なんか変だな」


じっと覗かれるのに耐えかねて顔を背けると、ふと、その単語を最近どこかで聞いた覚えがあるような気がした。

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