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身代わり

翌日、アレリアはラエルと一緒に広場にやってきた。

子供達に凡その時間まで聞いていたので完璧だ。ラエルの寝起きが悪くて時間を無駄にした以外は。


あっ王女様いた


先日見たように少女の周りを多くの子供達が群がっているが、依然と違う雰囲気にラエルが気付いた。


「…囲まれているな」


茂みの方に雑に隠れている男たちに目をやり、アレリアはラエルに向き直った。


「ラエルは合図したら出来るだけ男達をひきつけて」

「は?おいっ」


ラエルの言葉を無視して急ぎ足で少女に駆け寄ると、こちらに気付いたのか笑いかけてきた。


「こんにちは、旅人さん…でしたよね」

「はい、今日は貴方に聞きたいことがありまして」


何かしらと少女が言った瞬間に、茂みから男達が顔を出し護衛が反応する。ついでにラエルも剣を抜いて臨戦態勢をとった。アレリアは少女に詰め寄って早口でまくし立てる。


「王女様、ここは危険な様なので場所を移してもよろしいですか?よろしいですよね?」

「えっええ!?」


緊急事態なので、もはや相手の返事を待っていられない。少女の手を握って今度は子供達に向き直った。


「みんなー!昨日言った事覚えてるよね!?王女様を安全に出来るだけ早く隠れ家に案内してあげよう!成功したらご褒美があるよ」


子供達は声を上げながら連絡係や案内するチームなどに分かれてすばやく動いた。こっちだよと二人が先導して後ろと横にひとりずつついた。


「けど、危ないようなら逃げてね。武器持ってる人には近寄らないように」


街の人だから子供を傷つけたりはしないだろうけど


そして最後にラエルの方に声を荒げた。


「よしっラエル行け!頑張って」

「お前ふざけんなよっ」


なんか文句言われてるが、振り返らずにアレリアは少女と路地裏に入って行った。




流石にこんな場所に逃げるとは思ってなかったのか、待ち伏せしている市民はいなかった。

暗く狭い道にゴミやら何やらが落ちているような場所を進んでいくと、小さな小屋みたいな場所に着いた。


「俺達の隠れ家のひとつだよ」


所々ボロボロだし、今は使われてないっぽいな


何が何だかわからない少女に向き直って、アレリアは口を開いた。


「あれは民衆の声です。国に対する不満が暴動に繋がり、今日王女様を誘拐するつもりだったようです。自覚はありますか?」


少女は一瞬驚いて、申し訳なさそうに顔を下げた。少なくても自覚がなければ子供に食べ物を配ったりしないだろう。手を震わせる少女に出来るだけ優しく話しかける。


「王女様は何歳になられましたか?」

「…今年十二になります」


うわ、本当に幼い


けれど十二歳なら王族としての教育はすでに始まっているだろう、なのに昼間に城下におりてきているのが不思議でならなかった。


「本当は…わかっているのです。おじい様は倒れ、私がしっかりしないといけないのに」

「え?王はご病気なのですか?そういう噂は聞かなかったけれど」

「国が混乱するからと宰相が箝口令を…」


って事は今の全権を握ってるのは宰相って事?


「けれど、私はどうしてもおじい様の意志を蔑ろに出来なくて…」

「ちょっ…!ちょっと待って、何があったのか順に説明してもらっても…?」


彼女の母親はある大国の三番目の妃として嫁入りしたが、子を産んでも王の関心は得られず忘れられ、宮に引きこもりだったそうだ。その時に癒しになっていたのが、庭園の花々だった。


「そこで会った庭師の男性と三人で話す様になり、仲良くなりました。いわゆる母とは男女の仲ではないですが、私にとっては一度も会いに来てくれない父親と違い、唯一親しくなった大人の男性だったのです。幼い私は彼が父親だと思っていました」


しかし事件が起こった。

偶然王の耳に入り、男女の仲を疑われて母親は切り殺されてしまった。

その後娘は幽閉される直前に、生き延びた庭師によってこの国に連れてこられたという。


「おじい様はとても厳格な方で、母をとても厳しく育てたそうです。立ち振る舞い、知識、どこに出しても恥じないように、そして嫁入りして自分がいなくても生きて行けるように、それこそ深い愛ゆえにでした」


しかし、聞かされたのは最愛の娘の訃報。

王は心を病み、そして孫に同じように育てる事を拒否し、真綿にくるむように王宮で育てた。


「一度は強行に教育を受けようとしたのですが、口論になりおじい様が倒れてしまって…」


親族を想うゆえの行動なのだろうが、それは間違っている。医者は患者の命を救い、兵は国を守っている、そして王は民の暮らしを支えなければいけない。そこにどんな理由があっても、命を預かる者として義務を果たさなければ、命で償わなければいけなくなる。


「…母が死んだのはわたしのせいなのです。王の前で、父…庭師の事を父と呼んでしまったのです。だから、これ以上親族であるおじい様まで…っ…なく、…たくなくて」


涙を流す、幼い少女にどういえばいいのだろう。頼れる大人がいないまま、何が正しいのかわからず、それでも必死に誰かを守ろうとはしてきた少女に。


「じゃあ今、王宮の財政を動かしているのは?」

「宰相です。教育はいつでも出来るから、おじい様の意志を尊重しろと言ってたのも…」


やっぱり怪しいな…


とりあえず聞きたい話は聞けたので、二人でラエルのいる元の場所に戻る事にした。尽力してくれた子供達に少女からもご褒美を与える約束をして。




「ラエル!」


広場に戻ると、ラエルと護衛騎士たちが市民を縛り上げていた。やはり少人数でも本職には敵わなかったらしい。騎士たちが王女の無事を確認しに駆け寄ってくる。


「お前な~」

「文句は後で!王女様の事情はわかったけど、市民の不満はやはり聞きたいと思うの。貴方達は具体的に何を要求したかったの?」

「税率の緩和だ!必ず6割なんて今年は餓死者が出てしまうんだよ!」

「…それは去年から3割まで落としたはずです」

「そんなバカな!」


なぜか市民と王女の話が食い違い、アレリアは首を傾げる。税の決定権はどこが担っているのか聞くと相応の部署があるようだが、不正を防ぐために二重確認が法で定められている。


「最終的なものは宰相が確認しているはずです」


また宰相か


宰相の名を聞いて、市民たちが怒りをあらわにする。どうやらかなり評判が悪いらしい。

そこが怪しいとしても、何かしら証拠をつかまなくてはどうしようもない。

アレリアは不正を暴いても、相手を嵌めるような事は得意分野ではなかった。元々暴いた時点でどうにか出来る権力を持っていたから必須でもなかった。


「とりあえず、騒ぎを起こした市民たちを罰します」


えっ?


「捕まえるのですか?彼らの主張は正当だと思うのですが」


王女が反論しても、法は覆せない。法を犯した以上、誰かしら罰を受けなければいけない。それを隠せば、今度は騎士達が職務怠慢で罰せられてしまう。


「首謀者は必ず連行しなきゃいけないって事ですよね。じゃあ私がなります」


アレリアが意気揚々と名乗り出ると、これには市民も少女も騎士まではぽかんと呆れた。ラエルはひとりで突っ込みに回る。


「おいチビ!寝言は寝て言えよ」

「これも考えあっての事だから。こうすればきっとジークが動く」

「は?ジークは協力しないって言ってただろ?」

「国の為にはね?でも私の為なら?」


別にジークの良心を試している言葉ではなかった。自分の人質としての価値の事だ。

ただの人質ならアレリアをこんな場所まで連れてくる必要はなかった、だから、これから行く場所に何かしら連れて行かなければいけない理由があるのではないかと思った。


「ジークの考えは知らねえけどよ…動かなかったら?」


うーんと考えた後に、ラエルにお願いというように目配せすると、引きつった笑いで返された。

それからジークの怒りの雷が落ちるのはすぐだった。

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