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仕事

「皆さん、お知らせがあります」


宿を出てしばらくすると、ルイが神妙な顔で言い出した。

何事かとアレリアが首を傾げると、ラエル達はもしや…みたいな顔をする。


「先ほどの人混みで掏られたようです。金額は小分けにしてたので、そこまでじゃないのですが、全く気付きませんでした。こんな田舎の街に余程の手練れがいるようですね」


アレリアはぽかんとかなり間抜けな表情で固まった。


掏られたって言ったよね?


こんな堂々とした掏られました発言をする人を初めて見た。何より悪びれた所がないので、このメンバーではこれが普通なのかとちらりとラエルを見る。


「おい、ルイ」


ラエルが冷めた表情で名前を呼ぶと、いきなりルイが膝をついた。


「申し訳ございませんでしたああ」


顔を伏せて謝るルイに、今度こそ目を見開いて驚く。


情緒不安定すぎるでしょ


ジークが立たせて、盗られた金額などの確認をすると少し考えて、アレリアとラエルの方に向き直った。


「そこまでの金額じゃないけど、まあ…どこかで稼ごうとは思ってたから先にしようか。元々の手持ちも心許なかったし」

「え?稼ぐ?」


アレリアには馴染みのない単語だった為、聞き返してしまった。貴族であり、それなりに仕事もしてたが名誉職に近いので、暮らしていくために稼ぐという感覚は薄かった。


「お前は金がどこからともなく湯水のように湧いて出るとでも?」

「なくなったら稼がないとね、人手が欲しい仕事は日払いでもあるんじゃないかな」


ルイは謝り倒して、一番いい仕事をみつけてきますとどこかに行った。それでいいのか。


仕事の案内板でも見に行こうと三人は元来た道を戻った。宿の近くに大きな看板があって、そこに人が群がっている一角があった。


「まだ朝早いから結構あるね。条件いいのは直ぐなくなるんだよね~」

「あ、俺は荷運びやるわ。力仕事は金払いいいからな、じゃな」


そう言ってラエルまでどこかに行った。もしかしてみんなそれぞれ職を選ぶものなのか。


「僕は書類仕事にしようかな。田舎は文字が読める人少ないから重宝されたりするんだよ」


そしてジークも単独行動をとろうとして、思わずアレリアは弱音を吐いてしまった。


「こういうの経験なくて…どれが何なのか」

「ああ…」


ジークは理解したと言うように、大まかに募集されている職種を説明してくれた。彼らにとっては特に珍しい事でもないようだ。


「君は無理してしなくてもいいよ。もしやるなら自分が出来そうなのを選んでね」


頑張ってというジークの後姿を見送りながら、アレリアは特別なスキルはなくても出来そうなものを探す。正直、選ぶという事がこんなに大変だとは思わなかった。


帝国にいた頃は仕事から食べるもの、それこそ生き方すら人に指示されてきた。それを当たり前として生きてきたので、いきなりの自由に躊躇しているという感覚が近いかもしれない。


私はとても楽に生きて来たのね


誰かに言われた通りに生きる事はとても楽だとは思う。何も考えなくても、たとえ失敗したとしてもそれは自分のせいではないという言い訳が出来る。けれど自分で選ぶという事はその責任は全部自分がとらなければいけないという事だ。それがとても怖い。


でもひとりで生きていくなら当然しなければいけない事だ


アレリアは給仕の仕事を選んで、指定の場所に向かった。

昼間から繁盛している飲食店で、主にお酒を飲んでる人が多い。


もたもたと注文を取ってよろよろと品を持っていく、明らかに慣れてない接客だったが、みんな酔っ払いの為かこちらを気にしている素振りもない。むしろ客の方がぶっ倒れたりしていて、なかなか酷い。

それに客たちは冒険者も多いのか、色々な話が飛び交っていて聞いていて面白かった。


「大公がまた行方不明らしいぞ」

「あの方の放浪癖はまだ治らないのか」

「今度こそ竜に食われたと聞いたが、デマなのか?」


大公って公国の君主だよね?そんな問題ある人なのだろうか…


ジークたちは帝国よりも話がわかると言っていたが、経験上、上に立つ人は変わり者が多い気がする。むしろ普通じゃないから王様なんてものが務まるのかもしれない。


今度はテーブルを拭きながら、斜め後ろの話に耳を傾ける。


「シーラ教が…勢力…」

「神官たちが…の…方に」


周りが騒がしすぎて良く聞こえないが、宗教関連の話だろうか?帝国にはあまり多くの宗教が浸透していなかった。女王を神聖視するあまり、帝国派が他の神を崇める神官たちを疎んじていたくらいだ。

アレリアもそう多くの宗教はしらないが、知っているのは大陸全土でも特定の動物を崇めてる宗教が多いという事だ。


帝国では物語のせいで、豹、鷹、狐などの動物の像が各都市に建てられたりしている。

またその動物は三大貴族の紋章にも描かれている。


料理を注文されたテーブルに届けると、また興味深い話をしていた。


「なんか西側の帝国付近が騒がしかったぞ」

「なんだ、また戦争でも始まるのか?」

「わからんが、黒の騎士団が国境付近に陣取っていた」


え!?ジル?


怒っているだろうなと思っていたが、もしかして追いかけてきているのだろうか?でも黒騎士はそんな簡単に東側には来れないはずだが…。


いや、ジルなら来るかも…?


「あの、その黒騎士団は団長らしき人はいました?他よりも背が高い…」

「嬢ちゃん帝国人か?さあ、いなかった気もするが…。けど戦争する規模じゃなかったから、何であんな所にいたのか謎なんだよな」


うーん?


快く話してくれたおじさんにお礼を言う。東の大陸の街だが、特に帝国人を毛嫌いしているような感じでもなかった。あの嫌悪されている様子はアセノー特有のものらしい。


仕事が終わると、手渡しで給与をもらった。

騎士時代に比べると、本当に雀の涙くらいだろう。けれどアレリアには特別なものだった。


「助かったよ、物を割らないでくれたらもっとよかったけどね」


アレリアは皿三枚、コップ二個を割った。



皆と合流すると、それぞれ疲れた様子で各々の戦果を語った。

一番稼いだのはラエルで次がルイだった。そしてジークがこそっと話しかけてくる。


「初仕事はどうだった?」

「えっと…」


もちろん慣れない仕事はきつかったし、失敗してしまうのは怖かった。けれどそれだけではない、喜びがあるのだと強く感じた。自分で選ぶという事はその全てが自分のものなのだ。


今度こそ次の王国へ向かう為、明日の馬車を手配する。

そういえば、仕事中聞いた公国の事をジークたちに話した方がいいかなとふと思ったが、心地よい倦怠感に逆らえず目を閉じると、そのまま忘れてしまった。

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