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本の中の少女は白の夢を見る  作者: ぶちの野良猫
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取り調べ室にて

 目の前には向かい合わせに座った私服の警官が、机に置かれた紙にボールペンでずっと文字を書いている。調書というのを書いているらしい。

私服警官の後ろには鍵がしっかりとかけられた厚い扉、右には窓があるが鉄格子がしっかりとはめ込まれている。

<思ったより取調室って小さいんだね、テレビドラマとか見てるともうちょっと大きな部屋で、外から見られるようなマジックミラーの窓があったりするのに、この部屋は外窓と扉しかないんだね>

当たり前のように頭の中に聞こえてくる声。声の主は野島咲と名乗ったその人。

なぜこうなったのか。自分を使役しようとしたが失敗して、意識だけがどうやら入り込んでしまった。

そんな感じみたいだ。襲ってきた男は何者なのだろうか?扉を素手で引きちぎる怪力、本人は強化魔法とか話していた。本に願いをかなえてもらえば、知らない人の体を乗っ取り使役し、魔法とやらを使ってなぜか倒さないといけない相手の色の本の使役者。野島さんは赤い本に願いを頼んだため、倒すのは青い本の使役者。体格のいい男が青い本の使役者で、執拗に狙ってきた理由が赤の本の使役者である野島さんを倒そうとしていたなら、野島さんの入っていた本を持っていた自分を襲った理由もうなずける。あとはなぜ居場所が分かったのか。

<そんなの簡単よ。使役者が閉じ込められている本や使役者になった人は、炎が燃えているようにゆらゆら色が見えるの。さっきの男の人は青い炎>

もしかしたら、考えている事はみなわかってしまうとか?

<うん。そうみたい。ぜーんわかっちゃうみたい>

なるべくなら遠慮してもらえたらありがたいのですが。

<敬語やめてよ。もう友達以上なんだから。私の事は咲っって呼んでいいから>

誤解を生む発言はちょっと。それにまだ自分は野島さんの事は知りませんし。

<冷たいなぁ。もう一心同体なんだしね>

早く出て行ってもらう方法を考えないと。また襲われたら体が保ちそうにないし。

<しばらくはいますから。って言うか出ていける方法あるのかな?>

「・・・それで、襲われたから首を絞めて殺そうとしたと」

倒した男と自分の身に起こった事を、話した内容を分かりやすくまとめた文章を、紙に書き起こした供述書。それを読み間違っていないか確認する作業をしていたのだが、首を絞めて殺そうとは思ってとは言っていないが、そう書かれてしまったようだ。

「最後の殺そうとしたは間違っています。気を失わせて動きを止めただけですから」

調書を取っていた警官が持っていたペンを机に乱暴に置く。

「君ね、格闘家でもないのになぜそんな気を失わせるなんてできるんだね?それとも君は格闘家で、確実に気を失わせることができるって確証でもあるってことなのかい?」

「はい。一応父から護身術として習いましたから。あのう、普通はできないものなんですか?」

「普通の家庭ではそんな教育はしないから。まったく、どこまでがうそなんだか事実なんだか、いま古本屋の件も調べてるから、すぐに本当だかわかるからな」

腕を組み、歩を睨みつけてくる私服警官。

<なんて失礼な、歩が嘘をついているみたいな言い方して、歩は嘘なんてついてませんよ、だ>

そんな嘘をついているとかまでわっかてしまうのか?

<わかるよ。思い浮かべた事が見えるからね。ただ、こんなエピソードがあったとかはね、たくさんある記憶の引き出しから探して見ないとだから、すぐにはわからないけどね>

そうか、父はこんな人でしたよ。

父の事を思い出してみる。母と一緒に縁側に座り、二人で笑っていた姿を。

<え?あっ。これがお父さんなんだ。隣にいるのがお母さん?>

そう。小学生くらいの時の記憶かな。

<そうなんだ>

気になる事があるのか、声のテンションがいきなり下がった感じがした。

何か気になることでも?

<うん。歩のお父さん、どこかで見た記憶があるんだよね。たぶん私がずっと小さい頃に>

何をしているかわからない父だったからね。1か月くらい家に帰って来ないような事なんてよくあったし、もしかしたどこかでフラフラしている所を見たのかもしれないです。

<そうかなぁ?>

なんとも納得がいかないそんな感じの返事だった。

私服警官と二人だけの空間に思い時が流れていく。そんな沈黙の時を割くようにノックをする音がして、別の警察官らしき人が入ってくるなり、目の前に座っている私服警官に何か耳打ちをして、部屋を出ていく。

「今、君が絞めた男の意識が戻ったと。殺人者にならなくて良かったな。ただ、供述も取れて、相手は君の部屋に行った事は記憶にないそうだ。殺そうと思って通路に歩いていた被害者を薬か何かで意識を失わせて、部屋に連れ込んで暴行に及んだんじゃないのかね?今なら暴行罪ですむんだ、話して楽になったらどうなんだ?」

「すみません。言っている意味がわからないのですが?どうやって部屋に連れ込んだと。あの体格の良い方を連れ込むのは無理だと思うのですが」

「協力者がいるんだろ?隠していてもわかるんだからな。日本の警察をなめるんじゃないぞ」

今の時代に自白を強要するなんて事があることに驚いてしまった。

強要なんてわかったら後が大変だと思うんだが。

睨む私服警官。再びノックする音が鳴り、入ってきた警官が何かを耳打ちする。

「なにぃ!すぐ釈放しろだ、おいおい冗談じゃない。こいつが何かしたのは明白だって言うのに、みすみす見逃せと?誰だ圧力をかけてきたやつは、部長か?所長か?」

「・・・」「警視庁だと・・・本当かよ。こいつの身内にはそんなお偉いさんが・・・。おい。聞いてだろ。釈放だ。親父にでも感謝するんだな」

誰が一体圧力などかけてきたのだろう?時間はかかるかもだが、悪いことは何もしてないから釈放なんてされるのに。

睨む視線を横目に部屋を後にする。圧力をかけた関係者でも迎えに来ているのかととも思ったが、誰もいる様子はなかった。

<歩のお父さんってそんなに凄い人だったんだ。圧力をかけちゃうなんて>

うーん。確かに凄い人かもはしれないかな。自分で紐だって言ってましたしね。母親もお父さんはそこにただ居てくれたらいいのよって言ってましたし。

<???紐ってあの女性に養ってもらって生きてる人?>

ええ。なにも仕事をせず家に居るときはパンツ一枚で歩き回り、暇があれば格闘技のテレビをみる。

覚えた技を試したくて、道場破りをすればケガをして帰ってくる。そんな力はとてもとても。

<わかった!そんな頼りなさそうにしているけど、実は政府の諜報部員だったとか、もしくは政府の殺し屋だったりして>

おもしろいね。それならまだ救われたかもしれない。急にいなくなってそれっきり、帰って来なくなって5年かな。人に言えない仕事で帰れない状況ならいいんですが、他人に迷惑をけているんじゃないかと思うと・・・それのほうが心配で。

まあ、そういう事なので圧力をかけてくれるわけはないいんですよ。

ズボンのポケットからスマホを取り出し時間を見る。9時43分。出勤の時間は過ぎてる上に鬼のような着信履歴。確認してみるとそのすべては部長から。心配性なA部長だからな、きっと出勤しない事を不審に思って電話してきたんだろうな。すぐに折り返し電話をかけなおす。

「おはようございます。剣持です。ご迷惑をおかけしております。連絡が遅れてすみません」

「おお、剣持か!お前大丈夫か?会長から聞いたぞ。お前、暴漢に襲われたんだってな。なんでもその件で事情聴取を受けているから出社は困難だろうって。もういいのか?」

ずいぶんと情報が早いな。警察でも会社の話はしてないはずなんだが。そこまで調べて会社に連絡した?でも会長にまでは話はいかないよな。

「はい。さきほどもう帰っていいと言われまして、これから出社しますのでお願いします」

「おお、そのことなんだが、会長から直々に少し休みを取らしてやってくれと。おい、勘違いするなよ。謹慎処分じゃないからな、有給休暇だからな。来週からは出社してもらわないと会社が困るからな。今週だけだぞ。しかしお前が会長の知り合いだったとはな、いい部長だと伝えておいてくれよ。じゃ良い休日を」

言いたいことだけを言うと、電話は切れた。会長なんて入社式で1回みただけなんだが。

<会長にも圧力かけたの?>

そうみたいですね。いったい誰なのだろうか?警察のトップレベルに圧力を要請し、会長には話を通してうまくまとめる。しかし自分を庇う意味がわからない。

歩はスマホをポケットにしまうと。歩きはじめる。

<どこに行くの?アパートに帰るの?>

どうしましょう?帰っても扉が戻っているはずもないですけど、共用部だから大家に連絡しなきゃかと。トラブル起こしたなどと聞けば退去を求められるかもですし、とりあえず状況を見に戻ります。

所轄の警察署に連れていかれたとは言え、アパートに歩いて帰れる距離ではなく、電車に乗って帰ることにする。座席に座ると、休んでは言いと言われたものの今頃、みな仕事をしているんだろうなと思うと、ずる休みをしているような罪悪感に襲われる。

<ねえねえ歩、さっき電話していた長方形の手帳みたいなのってなに?>

えっと、これのことでしょうか?

そうスマホをポケットから取り出すと、画面を表示して見せる。10時3分と時間が。

ロック画面を解除すると、たくさんのアイコンが表示された。

スマートフォンって言う携帯電話で、折り畳みの携帯電話より多くの事ができるようになった端末。小さなパソコンって感じでしょうか。

<これって携帯電話なんだ。ずいぶんと進化してるんだね、私が中学生の頃は押すボタンがあって、みんな折りたたんで持ち歩いていたよ!>

ガラケーと呼ばれる携帯のことだろうか?そんな時代から野島さんは本の中に。本の中はどんな感じだったのだろうか?

<本の中?うーん。寝ても寝ても明けない夜って感じかな。景色は自分で変えようと思わないと変わらないし、だれか話相手になってくれる人がいるわけでもないし。そんな世界だからいつ寝ていつ起きたかすら忘れちゃった。女の子が遊びに来てくれてた時は少しだけ時間の感覚はあったんだけどね、小さな女の子を使役できないよね、って思っていたら遊びにすら来てくれなくなって、このまま死ぬのかなって。そんな時に歩が現れたから。最後のチャンスだって使役したんだけどね、なんか失敗しちゃった。でも今はそれでよかったって思っているよ。だって歩の記憶、めちゃめちゃおもしろいもん。>

勘弁してください。記憶の中には知られたくない黒歴史だってあるので。

<たとえば、竹刀振り回して、神だって切って見せるとか。この手には神が宿りすべての混沌を生み出すとか、まだ言おうか?>

それだけは勘弁を。

<じゃあ、敬語をやめてくれたら、勘弁してあげる。なんか聞いていて気持ち悪いから>

なんか違う気がするけど。わかった。

 最寄りの駅から歩くこと15分。歩が住むアパートにたどり着く。いつものようにエレベータで3階に上がると通路に警官がいるとか変わった様子はみられない。いつものように部屋の前に行くと、扉はしっかりと閉まっていた。あれ?ここ自分の住む場所じゃなかったかな?間違えたかな。部屋番号は確かに自分の住む所に間違いはなかった。

<あれ?扉ってあの男の人が引きちぎったよね?部屋間違えてない?>

間違えてないと思う。

恐る恐るカギを鍵穴にに挿し込むと、鍵をまわす。ガチャリと音をたて鍵は回り、ロックは解除された。

やっぱり自分の部屋で間違いないよな。

いつも動きの悪かった扉が今日はなぜかスムーズに開く。部屋の中に入った瞬間、あちらこちらに本や壊れた家具が散乱した悲惨な状況が目に飛び込んできた。

ずいぶんと手配が早いなぁ、もう扉を直してくれたのか。とりあえず扉だけ直っていれば住めるし、部屋の中のかたずけは日数かければなんとかなるし。

散乱した本をとりあえず拾い集める。

<歩。そこに見える本、なんか青く光っているけど、気のせいかな?>

言われた本を手にっとてみる。それは見たことのない文庫本だった。

自分には青くなんて光って見えないが。

文庫本にはタイトルはなく、どんな本であるか内容を確認しようとページを開いた瞬間、空間が歪みだす。

やばい。これは咲が閉じ込められていた本と同じ種類の本だ。

歩は慌てて本を閉じると。本を壁に投げつけた。

<びっくりした。歩、今のはなに?>

本の世界に移動しようとする時に起きる現象だと思う。この後文字が自分の周りをぐるぐると回り出し、自分もぐるぐると渦の中に回りながら吸い込まれて行く。咲に会った時も、その前に異世界みたいな場所に行った時もそうだったから間違いない。

<じゃあ、あの青く光っている本もしかして>

たぶん、想像が間違っていなかったら、さっき襲ってきた男の本なんじゃないかなと。

本を開いてその世界に入り込んだら、あの男に使役されてた人物によって、また自分みたいな被害者がうまれてしまうかも。

<どうする?いっそのこと燃やすゴミに出しちゃう?>

うーん。それも悪くはないと思うけど、一応どんな形であれ本の中で生きているわけだしね。燃やしてしまったら死んだのと同じになっちゃうし。いくら凶悪な奴でもね。とりあえず見られないように保管するしかないかな。

足元に落ちていた昨日の弁当を買った時のレジ袋を拾い上げ、それに壁に投げつけた本を入れると、しっかりと口を閉じ、ベッドの横に置かれたリュックサックに放り込んだ。

<こんなに部屋は整理整頓してあるからすごく几帳面かと思ったら、大胆なのね>

元々は大雑把な性格だよ。ただきちんとしていないと父親にいつもきちんとしろって言われたから、きれいにしているのは癖かな。

急に疲労感に襲われ、ベッドに腰かけた。考えてみたら徹夜状態に近いくらい寝てなかった。

現実とも夢ともわからない世界が目の前に広がると、夢の中へと落ちていった。

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