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本の中の少女は白の夢を見る  作者: ぶちの野良猫
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本の中には別の世界があった その3

「私、野島咲(のじまさき)って言います。名前教えてくれますか?」

そう言われ、剣持は名刺ケースを探してしまう。そっか、普段着に着替えてしまったし、それにここは違う世界。名刺ケースどころか名刺もあるわけが・・・

そう名刺の事を想像していると、手には一枚の名刺が。

「こんにちは。私、剣持歩(けんもちあゆむ)と申します」

そういって、手元に現れた自分の名刺を咲に手渡した。

名刺などもらった事がない咲は、不思議そうに名刺を受け取る。

「総合企画設備。営業。剣持歩。へー、名刺ってはじめてもらった。私ね、人と最近あまり話をしていないから話し方を忘れちゃいそうで、良かったらお茶でも飲みながらお話しませんか?」

またあのまぶしい笑顔をむけてくる。その笑顔に圧倒されうなずいてしまう。

「ありがとう。こっちね」

そう言って咲はまた走って入り口の階段を駆け上がり建物の中へ。歩も後を追って建物へと入る。

部屋の中は仕切りもなく、大きな空間に椅子2客と丸いテーブルがポツリとあるだけ。左右にある明り取りの窓からは草原の草が揺れている様子が見えた。

「椅子にどうぞ」言われるがまま歩は椅子に座る。

「お茶かな?それともお酒かな?」

「お酒は飲めないんで、お茶で」

台所もない部屋なのに、咲の持つお盆には湯気をたてる湯呑が2個。さっとテーブルの上に置かれ、咲も椅子に座った。お茶はどこから出てきたのだろうか?

「ここは私の世界だもん、想像できるものならなんでも出せるんだ」

想像で出せるって・・・出されたお茶を飲んでみる。普通にお茶の味がした。

「野島さんの世界?と言うことは、ここには野島さんしか住んでいない?」

「うん。いないよ。私だけ。8年くらい前によく遊びにきてくれた子ならいたけどね。

あとはずっと一人」

「ここ、異世界といわれる場所ですよね?」

「異世界?なにそれ」

異世界なんて聞いたことがないという感じで答えが返ってくる。

「最近、ライトノベルでそう言う作風が流行っていて、死亡フラグだったり、どこかに転送されたり、そう言う事柄に巻き込まれると、違う世界に行って主人公は無双化するという」

クスクス笑いをする咲

「おかしなのが流行っているんだね。本に閉じ込められているうちにそんなの流行ってたんだ。ここは現実世界にある本の中だよ。願いを叶える赤い本、青い本って聞いたことないかなぁ?」

願いを叶える本?何かの啓発本だろうか?本は好きだがビジネス本はどうも苦手だ、聞いたことがあるかと言われても。

「申し訳ない、聞いた事は」

「あれ?そうなんだ。私のころは携帯で検索したらいっぱい出てきたんだけどね。その本ね、願いを叶えてくれる代わりに、私は赤い本に願いを叶えてもらったからなんだけど、青い本に願いを叶えてもらった人を倒さないといけないらしいんだ」

願いを叶える代わりに、倒すとはどういうことなのだろうか?対立関係?自分以外は敵?そう思っていると先ほどまでいた部屋の中ではなく、外。それもここではない別の場所の砂利道の上。

周りには自分の背より高い植物が覆い、道以外の景色は見ることはできない。

目の前には先ほどまで会話をしていた咲の後ろ姿。

「あのう、すみません。ここはどこでしょうか?」

声をかけるが彼女は反応するそぶりを見せない。

聞こえないかと大きな声をあげて呼んでみたが、振り向くことすらない。

失礼だと思いながら彼女の目の前に立ってみたが、自分の姿は見えていないようだ。

周りをきょろきょろとしていると、咲が見ている方向から誰かがゆっくりと歩いてくる。

全身を白い服に身を包んだその人物。

遠くにいたときはわからなかったが、近づいてくるにつれその異常さに驚く。

白い服を着た人物には目も耳も、口もなかった。

その人物は咲の目の前まで来ると、手招きをし、もと来た道を引き返し歩いてゆく。

「あの、ついていけばいいんですか?本を開いたらこんな場所にいたんで・・・」

白い服の人物は、おかまいなしにどんどんと先に歩いてゆく。咲も慌ててそのあとを追う。

これはなんだろう?疑似体験?まるでVRの中にいるような。

歩は立ち止まったままいたが二人の姿はたちまち見えなくなり、あわてて走ってゆく。

なにやら話しかけている咲と白い服の人物が歩いている姿が見える。

とりあえず後ろをついて行ってみる。

5分くらい歩いただろうか?少しずつ周りの草丈が短くなり先が見えてきた。

咲がいた場所と同じく角のある空の下、丘のような場所に教会みたいな建物が見えてくる。

ここも部屋の中のような空間に作られた場所なのだろうか?それにしても野島さんがいた空間の何倍の広さの中にあるんだろか、歩いて果てまで行ったら何日もかかりそうだ。

「きれいな教会。大浦天主堂みたいだね」

言われて見ればそう見えなくもないが、なにか所々違う感じもする。

もしかしたらこれは野島さんイメージを具現化したものでは?

つづら折りになった道を上ってゆくと、目のまえに白い壁の教会が現れる。

遠くから見たときは感じなかったが、近くで見るとかなり大きな建物だ。

その教会の、向かって正面にある木で作られた3か所の扉が、一斉にこちらに向かって開かれた。

開かれた扉の中から槍のような物を持った男二人が出てくるなり、来いとばかりに手を招く。

中に入って大丈夫なのだろうか?そう思っていると、白い服の人物が微笑んで、大丈夫だよ、と言っている気がした。それを見て安心した咲は建物へ入ってゆく。

中央の通路を中心に、左右には長い椅子がいくつも列をなして置かれ、正面天井より祭壇のような場所にかけてキラキラと光るカラフルな色ガラスは、時折差し込む光で不思議な雰囲気を醸し出していた。

「ようこそ、神の本の世界へ。あなたの願い、この私が叶えてさしあげましょう」

祭壇の前に立つ人物がそう話しかけてきた。不思議な形の白い帽子に、真っ白な服に身を包み、金色のネックレスのようなものを身に着けたこの人物は、神父なのだろうか?

祭壇の前まで来た咲は、白い服の人物が立ち止まった場所で並んで立ち止まった。

「お前は何をしているんだ、用が済んだなら出ていくんだ」

神父らしき人が白い服の人物のそう言いながら指をさすと、音もたてずに来た道を戻り、建物から出て行った。なんでひどいことを、そんな表情を咲がしていると、つかさず祭壇の人物は

「こ奴は我らとの約束を破った故、罰としてここにこうしているのじゃ。同情はいらぬ」

「でも・・・」

「そう言う契約じゃからな。そう、君の願いはなんでも叶えよう、大金持ちになりたい?高い地位を得たい?1つだけだがなんでも叶えよう。ただし、こちらの願いも1つだけ聞いてもらうがね。なに、こちらの願いは簡単なこと。こちらの神殿を壊そうと企む、青い本の使役者と呼ばれる人物たちを倒して欲しい」

「え。でも私、まだ中学生だし。そんな倒すだなんて」

「心配はいらぬ。今から君に本を渡そう。その本は君の想像するどんな世界も想像できる空間じゃ。そこに読み手としてやってきた人物を取り込み、こちらも使役者となってその人物の体を使って戦うのじゃ。そうさ、武器も用意しよう。魔法という武器じゃ。火を発したり、水を発生させたり、想像できるものはなんでもできる。どうじゃすごいじゃろ。こんな簡単なことをちょっとするだけで、君の叶えたい願いはかなえられるのじゃ。ただし、使役者となっても戦わず普通に生活をしようとすれば、罰としてあのような姿になって、ここでずっと過ごしてもらうこととなるがのう、詳しい話は左の部屋にいるものに聞くといい」

そう、咲から見れば右に指を向けた。祭壇の右側、小さな扉が見える。

入り口の扉に比べたらみすぼらしく見えるその扉、そんな場所に誰がいるのだろうとそっと扉を開くと、薄暗い部屋の中、壊れかかった木製のテーブルの上には1冊の本。なぜかテーブルの周りをぐるぐると回る小さな男の子が一人。

「遅い遅い遅い遅い。何をそんなにノロノロしとる、日が暮れてしまうだろが。もう、1回しか言わないからな。ちゃんと聞けよ。この本はお前がこれから願いを叶えてもらった後に入る本だからな。入ったらまず自分の好きな景色や人を想像して、自分の世界を作る。するとそこに本を開いた人物が吸い込まれてくるから、仲良くなったら体に触れてこう言うんだ。”レクトル”これで君は入ってきた人間を操作する使役者となって、敵対する青の本の使役者を倒せばいい。そう、魔法って武器も使えるようになるからな。力なんかない人間をつかんじまっても問題はない。そう頭を使って戦えばいい。ただし、心が壊れちまってる人間を使役しようとすると、うまく適合できなくて暴走しちまうからな、少しは相手を選べよ。さあ、わかったらこの本を持って祭壇の親父に願いを叶えてもらえ」

まくしたてるように一気に言いたいことだけを話した男の子は、本を咲に投げつけると、そのまま部屋から飛び出して行った。

よくわからなかったけど、とりあえずこの本を持って祭壇に行けばいいんだよね、とひとりでうなずくと、再び祭壇にいる白い服の男の前に戻った。

「あの、これを持たされたのですが・・・」

「では本をこちらに」

白い服の男は咲から本を受け取ると本を天に向かってつきあげた。

「さあ、時間じゃ。願いを述べよ」

「私は・・・・」

そう、咲が願いを叫んだ瞬間、教会の鐘が大きな音をたて鳴りはじめた。

「願いは受理された。さあ、新しく誕生した赤の本の使役者よ行くがよい。そして青の使役者を一人でも多く倒すのじゃ」

咲の姿は一瞬にして本に吸い込まれて行った。

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