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本の中の少女は白の夢を見る  作者: ぶちの野良猫
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本の中には別の世界があった その2

 出勤した会社では朝から昨日の通り魔事件の話で持ち切りだった。

画像配信サイトにはたくさんの人が画像を撮っていたらしく、朝のニュースにも繰り返し流されていた。

自分はまったく興味がないというわけではないが、そこまで見たいということもなく、すでに記憶にはあまりないという感じだった。

「剣持君。昨日の通り魔事件見たかね?怖いね、場所もここから近いし、剣持君なんて細いから、気を付けないと真っ先に狙われてしまうよな」

自分の机で昨日商談した内容をパソコンでまとめていた自分に、心配性なA部長がいきなり今朝の話題を無理やり話題にして話しかけてきた。

「背景はわかりませんが、襲った人も襲われた人も、何かしら理由があるのではないでしょうか。

それに、狙われる前に自分なら逃げますよ。勝てない相手には戦わないので」

「人権派だね。くれぐれも営業中に襲われないでくれよ、あとが大変なんでね。

あっ、あと、昨日の午後商談に行った工場、見積もりし直してくれって」

雑談より仕事の話が先だろ。

慌てて先方に電話をかけるやら、要望を聞きなおして見積もりをやり直しするやら

忙しく作業を終えると、その日の夕方には工場に書類を渡して、忙しい一日は就業となった

なぜか昨日と同じ時間に同じ場所にいる。これはまたあの本屋に行けということだろうか?

また異世界の入り口になる本があったなら、今度は行っもいいかな。そんなありえない期待を胸に

本屋へと足を進めた。

エレベータの扉が開く。相変わらず本の匂いはいい。昨日転生小説をみたフロアへと赴く

同じ本屋に2冊もそんな特殊な本はないよね。

そんな出会いは一生に一度でだろうし、ちょっと惜しいことをしてしまったかな。

昨日の場面を思い出しながら他の場所もみて歩く。

活字のフロアはやはり少なく、ほとんどがあとは漫画で占められていた。

漫画はだよな、このフロアは。もう一度活字のフロアに戻ると、いつもなら人なんていない場所に

通路を塞ぐように人が立っている。鼻息も荒く、大きな体を左右に揺らしながら男が一人。

なんでこんな場所で、こう続けて危ないように人に会うんだろう。

目を合わさないように本棚を見ると、本を探しているふりをする。

「手に持ったその本、よこせ」

またかよ、自分は本なんて持って・・・なぜか右手には一冊の本がしっかりと握られている。

いつ、手に取った?今日はまだ本にすら触れていないのに。

「手に持ったその本、よこせ」

再び大きな体の男がそういい、左手を突き出す。

何をしているんだ?そう思っていると、花火にでも火をつけたのか、丸い火の玉のようなものが飛んでくる。ピンポン玉くらいの大きさの球は、避けられないほどの速さではなかったが、失速して足元にコロコロと転がる。

燃え続ける火の玉。床が溶けて焦げ臭いにおいが漂い始める。

冗談ではない。火事を起こすつもりか!慌てて足で踏みつけ火を消すと、男が再び火の玉を発射しようとしている。昨日からこの本屋はどうなっているんだ。剣持は慌てて走り出すとエレベータを目指す。

エレベータで1階にと思ったが、男もあの大きな体で早く走ってくる。

追いつかれてはと横の階段を一気に駆け下り1階へ。

あの体格なら階段はしばらくかかるだろうと思っていると、ドンと鈍い音とともに、1階踊り場に大きなものが転がり衝突する。さっきの大きな体の男だ。何事もなかったようにむっくと起き上がる男。

おいおい、人間じゃないのかよ。外に逃げるか、下に降りるか。

迷う暇もなく迫ってくる男に、剣持は地下へと階段を駆け下りる。

地下1階はコンクリートむき出しの壁に細い通路が奥まで続き、なにやら部屋らしき扉が点在している

薄暗い通路の段ボールに置かれた荷物をかき分け、扉のたびに開いて見るが、開かない。

後ろから近づきつつある足音。一番奥のまで来てしまい、この扉が開かなければと、ノブに手をかけると、ゆっくりと開く扉、ここならとさっと物陰に身を隠し扉を閉める。

幸いにも段ボールにが山のようにあり、身をひそめるには十分すぎるくらいだ。

もう袋のねずみだと思っているのか、余裕の足取りで扉に手をかけると、部屋の中へ入っていく男。

中ほどまで進んだと思われたくらいで、ここだとばかりに扉を閉めると、しばらくは開かないように

扉の前に段ボール箱を積み上げていく。扉をガチャガチャしはじめる男。

今のうちにと剣持は地上へと逃げてゆく。

そのまま外に逃げるかと思いきや、3階の本屋へと再び戻った。

まさかまた本屋に戻っているとは思わないだろう。それに、本を持ち逃げはまずいしね。

レジにいる店員さんさんに声をかける。

「すみません。この本、通路に落ちていたんで、戻しておいてもらいたいですが」

先ほどなぜか手に持っていた本を、対応のためにレジにきた店員に手渡す。

受け取った店員はありがとうございます。と一旦受け取るが

何か違和感を覚えたのか、裏表紙を見ると、ひとりうなずく。

「お客様、すみません。これ当店の本ではないですね。当店の本ですとこちら、裏表紙に防犯タグが貼ってあるのですが貼っていないので、誰かの忘れ物だと思います。拾得物になりますので、お客様のほうから警察に届けてもらえればと思います」

本はこの店の物ではなかった。誰かに持たされたのだろうか?

警察ね。届けないといけないのはわかっているのだけど本1冊をね・・・。

店員から本を再び受け取ると、どうしたらいいのかわからない本を手に持ったまま、しばらく店内をぶらりしていたが、そろそろ疲れてきたので帰宅することにする。

先ほどの襲ってきた男の姿はなかったが、周囲を気にしながら帰宅の途についた。

                    ☆

結局、警察に本を拾ったと届けることはできず、家に持ち帰ってきてしまった。

テーブルの上には夕飯の弁当と、持ち帰って来てしまった1冊の本。

とりあえず読んでから届けようかな。夕飯の弁当の蓋を取り、本を開く。

開いたページにあった文字が渦をまいて下から上へと流れはじめだした。

そして自分もその渦に飲み込まれるようにぐるぐると回り始める。

昨日体験した異世界召喚か!またあの気持ち悪い感覚。

目を閉じ耐えているとぐるぐるまわる感覚は収まった。

ゆっくりと目を開くと、草原の丘の上のような場所に立っていた。

ペンキを塗ったように無機質な青い空に、子供がいたずら書きをしたような雲が描かれ、遠くに水平線は見えるのはだが、なぜかすみが左右にあり、大きな部屋の中にこの世界が存在している、そんな感じがした。自分が立つ場所からほど近くには、ログハウス風の小さな家が建っており、煙突から白い煙が上がっている。

かなり広い空間なのだが、見える範囲にあるのはこの家と、風もないのに揺れている、白いすすきみたいな植物だけだった。やがて、家の扉が開き女性が現れる。

見た感じは高校生くらいだろうか?肩まで伸びた黒髪、丸く大きな瞳に、こぼれおちそうなほどの笑顔を浮かべて。

直視されるとなぜか恥ずかしくなって、剣持は視線をそらした。

「こんちは。はじめまして」

女性は嬉しそうに玄関前の段差を駆け下りると、こちらに向かって走ってきた。


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