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本の中の少女は白の夢を見る  作者: ぶちの野良猫
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エピローグ

 「咲、もう起きないと遅刻するわよ」

寝ていた私は慌ててスマホの画面に手を伸ばし、画面を表示させる。午前6時45分。急いで支度をすれば遅刻にはならないが、それでも余裕はない。布団を蹴飛ばし起き上がると寝巻きを脱ぎ散らかす。こんなも母に見られたら怒られちゃうな。ハンガーにかけてあった制服に着替え、ボサボサ頭のまま階段を駆け下り1階へ。階段をおりた先の玄関ではこれから出勤しようと靴を履いているお父さんとそれを見送りに来ているお母さんの姿。

「おはよう。気をつけて行くんだぞ」

「おはよう。お父さんもね」

簡単な挨拶を父と交わし、洗面所に飛び込む。寝癖が直らない〜。櫛で無理やりとかし、多少の寝癖は誰も見ないよね。食卓に座るとご飯とお味噌汁を母が運んで来てくれる。目の前には目玉焼きとハムを一緒に焼いたおかずが置いてある。ご飯とお味噌汁を慌てて食べていると、あなたそんなんじゃお嫁には行けないよ。とお母さんがお茶を持って来てくれた。余分なお世話です。と舌を出しつつ相変わらず忙しく朝食を食べる。目の前ではお父さんが消し忘れていったテレビが、芸能情報を伝えている。

 「お父さんたら、テレビ消し忘れているし」

お母さんはテレビを消そうとリモコンを手にするが、見入ってしまっているようで、そのままの姿勢でテレビを凝視している。芸能ニュースが終わると、東京に今度オープンするというお店の特集が始まる。東京のお店の特集されてもね、ここからじゃ遠くていけないや。食べ終わった食器を台所に運び、再び食卓に戻るとお母さんはまだテレビに釘付けになっている。

「横浜に本屋さんができるんだって」

テレビを見ていたお母さんが珍しいねという感じに話しかけてくる。都会なんだから本屋くらいできるでしょ、需要がないような田舎じゃないんだし。テレビをチラ見すると、全面ガラス張りのおしゃれな建物の前から、アナウンサーがリポートしている。あれ?これ。お母さんの隣に立つとテレビ画面を食い入るように見つめる。一階には売っている本を持ち込んで読む事ができる喫茶店と、文房具売り場がありましてと、アナウンサーが店の中を紹介して歩いている。確か、2階には本の販売スペース、3階はイベントスペースがあるはず。

“2階に行きますと地域最大級、1万冊のに及ぶ本の販売スペースになります。3階のイベントスペースでは、カルチャースクールやサイン会、コンサートも開催出来る施設にになっており、幅広い客層を呼び込む事により、本に触れる機会が増えてもらえばと期待されております。そんな横浜店は今週末オープンです。時刻は7時30分。次は天気予報。杉本さん“

「やばい、もうこんな時間。遅刻しちゃう。お母さん、いって来るね」

「気をつけて行くのよ」

台所に置いてあるお弁当を仕事用のバックに詰め込むと、お母さんに声をかけ玄関横に停めてあった車に乗り込み会社へと急ぐ。

 私の名前は野島咲。短大を卒業後、地元の建設会社の事務員として働き出してから、今年で2年目の夏。大変な事もあるけど、毎日が充実している。ちょっといやらしい事ばかり言ってるおじさんや、やたらと声をかけてくる社員さんはいるけれどね。

 会社には案の定遅刻してしまい、朝礼中に小さくなって入って行く。遅刻を注意される事もなく、今日も朝から書類の整理やら、仕事に追われ追われしているうちにお昼になってしまった。

やっと一息つける、お弁当とスマホを何気なく取り出すと、朝の本屋の事が気になって調べてみる。ウェブサイトに出ていた外観、1階の様子、2階の風景、そして3階のイベントスペースの写真。このホールで作家さんにサインを書いてもらった、よね?。そっか、えっと野島咲だったかな?検索をしてみるが作家でそんな名前はない。だよね。ふと頭に浮かんだ名前を入れてみる。えっと、白井さくらだったかな?検索結果にライトノベルの作家として本人の写真が出て来る。20歳の女性で、夢に出てきた記憶を元に書いた作品が人気だと書かれている。この女性、何だろうこの既視感。友達?スッキリしない気持ちのまま、午後の仕事を終え家に帰る。

 夜、テーブルの上には肉じゃがとトマトのサラダ、ほうれん草と卵の炒め物が並ぶ。咲もご飯を並べたりお茶を入れたりと手伝いをし、家族3人で席に座るとご飯を食べ始める。お父さんが仕事での出来事を話をしたり、お母さんがテレビでみた話をしたりと、いつもと変わらぬ食卓の風景。私は二人の会話には入らず、横浜にできる本屋の事を考えていた。そんな様子を見て何を勘違いしたのかお父さんがおかしな心配をしてくる。

「どうした、なんか元気がないが、仕事で失敗か?それとも彼氏に冷たくされたとか?」

「彼氏はいません!仕事の失敗でもないから。なんか、思い出せそうで思い出せない事があって、気になって仕方がないの」

「それならお父さんにもあるぞ、慌てて資料室に行ったら何をしようとしたか忘れてしまって、何だったのか全然思い出せないって事」

「あなた、たぶん咲の言っているのは違うことで、お父さんのはただの物忘れ」

「違うのか?」「ええ」

笑い合う二人。相変わらずだよねこの二人は。

 夕食の片付けを済ませ、居間でテレビを見ている両親。私は自分の部屋に戻ると、読みかけの本を開くが全く頭に入って来ない。気になる。気になり出すと疑問が解決するまで追いかけてしまう性格を恨みたくなりそうだ。何も手につかず、ベッドの横になる。天井を見つめているうちに眠なり、いつしか眠ってしまっていた。

 その夜、おかしな夢を見た。空へ向かって引き上げられそうになっている私の手を、ガッチリと掴む男の人。その男の人が何かを叫んでいる。

“ また会えたら、横浜のコーヒーショップのフラッペ、一緒に食べよう“

捕んでいた手は離され、私はぐんぐんと空を登って行き、男の人はたちまち見えなくなる。

どこかへ飛んで行ってしまう人の手を離すなんてなんて失礼な男なんだか、それに別れの言葉が食べ物って、どれだけ飢えてると思われているんだか。これだから歩は女の子にモテない・・・

 目が覚めた私はゆっくりと体を起こす。だから歩は・・・なぜか涙が溢れ出て来る。あれは夢なんだよね、ねえ、誰か答えて。私って私なんだよね。違う誰かとかじゃないよね。気になり出したら答えが出るまで追い詰めてしまう性格の自分が恨めしい。そのまま一睡ももできないまま朝を迎えた。

 ボサボサの髪の毛のまま、いつもよりも随分と早い時間に1階に降りてゆく。食卓ではお父さんとお母さんが朝食を食べている。

「おはよう、今日は随分と早いわね、今ご飯用意するね」

お母さんは席を立ち、私の朝食を用意しに台所に向かう。私はいつもの場所に座ると大きなあくびをし、テレビをぼんやり見つめた。相変わらず朝から芸能ネタ満載で話が進んでいる。私の目の前にご飯と味噌汁、そしてハムと目玉焼きが並べられる。

 やっぱり確認しに行こう。

「私、週末の休みに東京に行ってきたい」

いきなりの言葉に、一瞬戸惑って両親だったが、いいよと返事は返ってきた。

「もう社会人なんだしね、そんなのは、出かけるよって報告だけで十分だからね」

「お土産、カステラをお願いね」

やっぱり。とりあえず食べ物になるよね。私、しっかりお母さんの子供だよ。

 私は早速高速バスを予約すると、週末の休みを利用して東京へ向かう。新宿バスタに到着したのは10時過ぎ。とりあえずどうしようか。歩が住んでいた町に行ってうろうろしていたら会えるかもっと思ったけど、それはあまりにも確率が低い気がするし、あと知っているのはおじさんの店か、友人の店か。友人の店はまだ開いていないだろうから、先におじさんの店だよね。

 新宿バスタから新宿駅、南改札口を入り中央線で神田駅へ。神田駅で銀座線に乗り換えて浅草駅に着く。後は記憶を頼りに、北に向かって国際通りを進み、2本めの道を西に向かい真っ直ぐに進む。調理道具などを扱う問屋街の通りを突き抜け、まだ真っ直ぐに進むと細い路地へ。路地を少し進んだところに・・・あれ?ここで間違ってないよね。記憶と同じ建物はある。入り口のガラス戸もそのまま、だけれどもカーテンが入り口のガラス戸にかかっていて、営業をしている様子はない。今日は休みなのかな?とカーテンの中を覗いたりしていると、通りかかった女性が声をかけてきてくれた。

「そこの本屋さんね、先月閉店しっちゃたわよ」

「そ、そうなんですか?本屋離れで倒産しっちゃったんですか?」

「違うのよ、それが何でも息子さんが横浜で本屋を開くからって、ここの本みんな持っていっちゃたの。ここ珍しい本、扱っていたでしょ。だから品揃えに欲しいって。おじいさんがひとりで頑張っていたのにね、かわいそうに。私たちも本屋さんなくなっちゃってこんなに困ると思わなかったわ。あ、ごめんなさいね。忙しいのに年寄りの話に突き合わせちゃって」

「いえ、教えていただき、ありがとうございました」

去っていく女性にお礼をし、私もその場を離れ駅へ向かう。あとは友人のお店だけ。もしお店がなかったら、お土産を買って帰ろう。あれは夢だったんだって諦めて。

 浅草駅から地下鉄銀座線で上野まで行くと、そこから地下鉄日比谷線で秋葉原へ。少し迷子になりながら、何とかアニメ街を抜けると、大通りを突き抜け細い路地を進んで。

あった、今度はちゃんとお店があったよ。アニメのキャラクターがかかれた看板、ちゃんとフイギュアショップと書かれている。私は緊張した面持ちで2階へと続く階段を登ると、軽く深呼吸をし気持ちを落ち着かせると、お店の扉を開いた。


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