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本の中の少女は白の夢を見る  作者: ぶちの野良猫
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走馬灯のように

 横たわる歩とその横に何もできずに立ち尽くす歩に、スポットライトが当たり白く浮き上がらせている。そんな歩の目の前に写真がスライドショーのように映し出される。就職した時、大学を卒業した時、父の失踪、剣道部なりすまし事件、大学入学、高校卒業・・いきなり写真が映像となって動き出す。

 自宅の庭、縁側では父と母がお茶を飲んでいる。父は何か武道の訓練でもしていたのか、上半身裸のままで汗を拭っている。そこに学校帰りの歩がたまたま通りかかる。

「お帰りなさい。学校どうだった?」

母が優しい笑顔を向けて話しかけて来る。

「変わんねーよ、いつもの学校だからな」

この頃は意味もなく反抗していたよな。

「何だ母に対してその態度は」

父は母にベタ惚れで、何をおいても母親ファーストだった。

「うるせーな。日がな一日家にいて、遊んでいるだけのお前に言われたくないわ」

「俺がいつ遊んでいた、毎日体を鍛えいじめ抜き、ほれこの筋肉をみろ」

父親がポージングをし、筋肉を歩みに見せびらかして喜ぶ。母親もその様子を見て、凄いと手を叩いて笑う。

「バカ夫婦が、かってにやってくれ」

去ろうとする歩、縁側から父が靴も履かずに慌てて飛び出してくると、歩をわざわざ静止させ、技を開発したから勝負しろと言う。嫌だという歩に、何でも食べたい物を夕飯に出すからやろうと。夕飯を作るのはおふくろだろ。母親を見るとお父さん頑張ってと手を振っている。わかったよ、何をすればいいんだよ。と言うと、竹刀を渡され、これで俺を襲って見ろと言う。親父は何も持っていない。竹刀対素手って事か?パンと言う親父の手を合わせる音を合図に、正面で構えていた竹刀を容赦なく振り下ろす。これでも小さい頃から修行と称して鍛えられた身、親父とて今は自分に勝てるかどうかだと言うのに。父親に向かって何度も振り下される竹刀、親父は避ける素振りすらしていないのに、空を切るばかりで一向に当たらない。そのうち気がつくと父親が何人もいる。その何人もの父親が声を揃えて言う。

「当たらなければ意味ないぞ」

歩はムキになって手当たり次第、何人もいる父に攻撃するが、当たるどころか後頭部に強い衝撃を受け倒れ込む。気がつくと縁側の板の上、後頭部に氷枕当てられた状態で寝かされていた。

「大丈夫?負けちゃったね」

母親が歩の顔を覗きこんでいる。後頭部を押さえて起き上がると、母の横にはニコニコ顔の父がこちらを見ている。

「どうだ、すごいだろ。この謎がわかるまでご飯抜きな」

そう言って父親は去って行く。待てよと起きあがろうとするが、ふらふらとしてうまく歩けないで縁側から落ちた。そこで映像は終わり、歩の前から消えて行き次の画像が表示された。

 あの後、本当に1週間ご飯を作ってくれなかったんだよね。あの夫婦は本当に仲が良かったなぁ。

画像は高校入学、中学卒業と続いて行く。スライドショーに映し出される写真はだんだんと年齢は下がってゆき、幼稚園入園の3歳頃まできた。この先の記憶はないけど、写真はもう終わりだよな。そう思っていると、一枚の黒い写真が目の前に現れ止まる。その黒い写真はどこかの建物の外観に切り替わると、映像となって流れ始めた。

 救急車が、玄関脇の赤色灯が光る入り口に横付けされると、後部ドアが跳ね上がり、中からストレッチャーに乗せられた子供と、付き添うように呼吸器を持った救急隊員が降りて来ると、医師と共に建物内へ入って行く。

ここは病院かぁ。その後を追うように女性が駆け込んでゆく。なんか見覚えのあるあの姿は。

画像は廊下に切り替わり、処置室と書かれた部屋の前、置かれたベンチにうなだれるように座る女性の姿が写し出される。間違いない。ずいぶんと若いから最初はわからなかったが、この女性はお袋だ。なんでこんな場所に?さっき付き添ってきた、ストレッチャーに乗った子供は誰なんだ。

ほどなくして、母親の元に男性が息を切らして走りこんでくる。その男性はどこかの武術家を真似したのかのように、黒い裾を絞ったようなズボンに、ぼろぼろの白いシャツを身につけている。この人はいったい誰だ?

「お父さん。歩が、歩が。海に落ちて、私が目を離したばっかりに」

「母さんは何も悪くない。母さんに任せたままで出かけていた俺が悪いんだから」

お袋はこの男性を親父と?そんなはずは、自分の知っている親父とこの人は似ても似つかない。お袋が再婚したなどいう話聞いたこともないし。誰なんだこいつは。処置室と書かれた部屋から白衣を着た女性が出てくる。その女性は両親に近づくと、歩ちゃんのご両親ですかと聞いてきた。二人がはいと答えると、その女性は深刻そうな顔で告げた。

 「非常に言いづらいのですが、呼吸が止まってからの時間が経ち過ぎていたために、歩くんは意識が戻らない可能性があります。今夜が峠だと思いますので合わせたい方がおられましたら、連絡してもらえればいいかと・・・」

泣き崩れる母親。白衣の女性はまた処置室へと戻って行った。父と呼ばれた男性は、母親を近くのベンチに座らせると、耳元で何かを呟く。母親を残したまま、男性はまたどこかへ走り出した。映像も男の後を追っていく。検査室やレントゲン室と書かれた部屋の前を走り抜け、ナースステーション前では、怒鳴るような注意の声にも耳を貸さず、待合室の横のピンク色の箱の前に立つ。その箱の頭に乗っていたヘッドホンのような形の物を、片方だけを耳に当てると、ポケットから無造作に掴んだ小銭をとりだし、返却口から出てきているのもお構いなしに投げ入れ、全面の数字が書かれたボタンを数字を見ているのか?と思うくらいのスピードで押す。しばらく間が空いた後、男性はヘッドホンみたいなものに話かけ始める。

「よかった、出てくれて。剣持です。緊急のお願いがあるのですが、例の本、持ってきていただけないでしょうか?。はい。はい。わかってます。どうしても何です。お願いします。場所は総合病院です。入り口にいますので、お願いします。はい。急ぎで」

話を終えると、男はヘッドホンのような物を箱に戻した。男は剣持だと名乗った。お袋も親父だと言った。この男性は本当の親父で、自分の知っている親父は、義父っことことなのだろうか?剣持と名乗った男性は、入り口から外に出ると、駐車場をうろうろと落ち着きなく歩き回り、車が来るたびに慌てて戻ってくるが、車が違うとわかると、がっかりした様子でまたうろうろし始める。30分くらい経っただろうか?今度は目的の人の車だったようで、入り口に立ち、その車を出迎えると、目の前に止まった車からビシッとした背広に身を包んだ、一見すると青年実業家かなと思われる、爽やか系の男性が降りてきた。あれ?この人どこかで見た事ある気がする。どこでだっただろう。

「静ちゃん、すまない。どうしてもあの本が必要なんだ」

「気持ちはわかるが、私でできる事なら何でも協力するから、これを使わない方法を・・・」

「息子の命が危ないんだ。頼む、どうしても助けたいんだ」

「しかし、この本に願いをすると言う事は・・・」

「わかっている。自分はどうなってもいい。息子の命だけは助けてやりたいんだ」

剣持と名乗る男性はそう言って車から降りてきた男性に詰め寄った。

「わかった。けんちゃんがそう言うなら」

背広の男性は、助手席から頑丈そうなケースを取り出すと、いきなり地面に置き、中の物を取り出そうとする。

「静ちゃん。ここはまずいよ、中で」

剣持と名乗る男性はケースをひょいと持ち上げ、背広の男性を急かし病院の中に入ると、待合室を見渡してみる。相談室と書かれたちょうどいい感じの部屋がある。二人は周りを気にしながら入ると、部屋に鍵をかけてから、持っていたケースを机に置く。ダイヤル錠を回し、鍵を差し込みロックを解除ののちケースを開けると、中からは赤く不気味に光る本、ただ1冊だけが姿を現した。

「けんちゃん、本当にいいんだね。帰って来られないかもなんだよ」

「息子の命に比べたら、安いものさ。悪いな静ちゃん。後はよろしく頼むは」

剣持と名乗った男性は、赤く光った本に手を乗せると、さあ、俺の体と引き換えに願いを叶えてくれ。そう叫んだ。本はそれに応えるかのように、より一層赤く輝き始めると、目も眩むような強い光を放ち、剣持と名乗った男性を一瞬にしてどこかへと連れ去った。残された背広の男性は慌ててケースを閉じると、厳重に鍵をかけ、あたりを見回すと部屋を出た。美穂さんになんて説明すればいいんだか。ため息混じりにそう呟いて車に戻ると、どこかに走り去って行った。

 あの背広の男性。どこかで見た事があると思ったら、親父の友達で本屋の店主。どこかで見た事があると思ったわけだ。今度会ったら色々聞いて見ないと。自分は海で溺れたってのは事実か、本当の親父は本に願いをした後、どこに行ってしまったのか。自分の知っている親父、あれは誰なのか。まあ、自分が生きていたならの話だろうけどね。

 画像は次の写真、生まれたばかりの自分の横で嬉しそうに微笑む両親。それを最後に現れなくなり、スポットライトはゆっくりと弱くなり、やがて闇が全てになった。


 

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