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本の中の少女は白の夢を見る  作者: ぶちの野良猫
15/25

何もない1日

 目が覚めると部屋には朝日が差し込んでいる。夢と現実がごちゃごちゃになっており、夢の方が本当は現実?今この時間こそ夢なのか、などと現実と夢の区別がつかなくなりそうな感じになっていた。

携帯の画面を見ると時間は6時15分。仕事の時に起きないといけない時間にまた目が覚めてしまう。仕事の時はなかなか目が覚めないのに、休みの日に限ってばっちり目が覚めて寝れなくなってしまうのはなぜだろう。

夢見の悪い流れを断ち切るようにシャワーを浴びると、コーヒーを片手にテーブルに座り休日の楽しみとばかりに本を読み始める。

<おはよう。また本を読んでいたんだ。こんな天気の良い日に、どこかに出かければいいのに>

咲が目を覚ましたようで、寝ぼけたような声で話しかけてくる。

一人で出掛けてもね、それになんかおかしな夢を見てそんな気分にならなくてね。

<どんな夢?私はね歩のお父さんんと真剣で勝負して、負けちゃった。だってね切っても切っても霧みたいに消えちゃって、そのうちにやられてた。歩のお父さんって忍者みたいだよね>

あれはと歩は言いかけて口をつぐんだ。そんな時にスマホに通知音が。きっと彼女からだね、という咲に違うからと答えながらスマホを見ると、それは実からの連絡だった。昨日のフィギュア件だけど、今日の9時から開始だから。下のアドレスから抽選頼むよと。ご丁寧に予約開始の10分前に連絡して来なくてもいいのにと思いつつ、9時になったのを確認してアドレスにアクセスしてみる。画像が出てきたフィギュアがどんな作品のキャラクターかわからなかったが、仕様説明、販売に当たっての注意事項などの文書をスクロールし、抽選をするというボタンを押すと、いきなり支払いの選択という画面に飛ばされる。詐欺サイトかと思ってみるが、アドレスは公式だし鍵マークもある。しかたがないと、クレジット決済を選択して支払いを完了させると、お客様番号が表示された画面を写し実に送る。1分ま待たずして電話が鳴った。

「お前やっぱ天才的運の持ち主だわ。こ*********だ」

何やら理解できない言葉で歓喜を叫ぶ実。良くわからなかったが、自分は同時に9の端末からアクセスしたが繋がらないし、繋がっても決済画面にならないし。そのうち売り切れになっていたみたいな事を言っていた。お金を払うから夕方来て欲しいと、ついでにあの本の作者に会える方法もできたからと。なぜに夕方とは思ったが、行くと伝え電話を切った。

<歩。夕方まで時間あるなら、私行って見たい所あるんだけど、連れて行ってもらえないかな?>

予定があるわけでもないし、かまわないと伝えると、東京タワーに行って見たいと言う。スカイツリーじゃなくて?と聞くと。

<そう言えば、開業するって言っていたよね、じゃあ、そっちも>

完全にやぶ蛇である。

 決まればグズグズしていられないと、すぐに着替えをすませると、部屋を出る。朝食は、スープを食べさせてくれる店なら良いかと聞くと、それなら良いと言うので、ミネストローネとご飯を注文して食べる。地下鉄に乗り神谷町で降りると看板に従って左手に進む。看板はあるのに東京タワー見えないのね。これからさ。どんどん真っ直ぐ歩いて行くと目の前には東京タワーが。うわー、と咲が声を上げる。それに合わせるように歩も空を見上げると、赤いタワーが目に飛び込んで来る。レンガづくりの坂道を登って行くとチケットカウンターが見えてきた。チケットを購入し、エレベーターでメインデッキに。エレベーターを降りると目の前には、六本木ヒルズや東京ミッドタウンなどのビル群が目に飛び込んできた。

<やっぱり東京ってすごいよね、霞んで見えるのは新宿かなぁ?>

あれは新宿の高層ビル群だね。そう言えば咲は東京タワーに登るのは

<2度目だよ。初めて登ったのは小学校の修学旅行の時。国会議事堂を見て、ここにきて、それから東京ドームに行った>

咲はどこの生まれでどんな所で育ったのだろうか?そう言えばまだ聞いた事がなかった。

<わたし?わたしは長野県の南の生まれだよ。見渡す限り木しかない超田舎育ち。歩はずっと東京?>

自分は神奈川の海の近く。高校を卒業して、大学から東京に来たから、東京は8年くらいかな

 展望スペースをぐるりと一周し景色を楽しむと、再びエレベーターで地上に降りる。先ほど来た道とは反対方向に向かってお寺の横を抜けて行く。しばらく道なりに歩いていると飲食店らしき場所に行列が少しできている。気になって見ていると、ここでお昼を食べてもいいよと咲が言う。パスタ屋さんみたいだけどと言ったが答えは変わらなかった。10人も入ればいっぱいになってしまうほど、小さな店で出しているメニューはカルボナーラだけだったが、他は作らないとこだわっているだけあって、並ぶ価値はある美味しさだった。

 大門駅から地下鉄に乗る事20分、押上駅をおりれば目の前にはスカイツリーの巨大な基礎柱が。エスカレーター上へ上へと向かい4階チケットカウンターでセット券を購入する。そこからエレベーターに乗って一気に350mの展望デッキへ。扉が開いた途端、目の前には東京タワーからの景色とはまた違った光景が目の前に広がっていた。

<ビルがあんなに小さく見える>

東京タワーで同じような景色をみたばかりだと言うのに、めちゃくちゃはしゃぐ咲。だって景色が全く違うじゃん。だそうで、あっちだこっちだと振り回され、展望回廊では建物から迫り出すように作られた通路を、地上が見えるから怖いと大騒ぎになっていた。1時間半ほど展望台を見た後、ソラマチ商店街なるものを見て歩く。食品、雑貨、カフェ等、平日にも関わらずたくさんのの人でごったがえしていた。人の波に揉まれて歩いているうちになぜか行きたい駅を過ぎてしまい、外に出てしまっていた。

 <こんなところに川があるんだ!ここを下流に行くとどこに行くの?>

隅田川に出ると思ったが、そこを渡れば確か浅草かな。浅草まで歩く!と咲は簡単に言うが、歩くのは自分だぞ、そう思いながら川沿いの遊歩道を歩いて行く。5分くらい歩いたあたりに何やら人だかりができている。何かと思って野次馬をかき分け覗いてみると、筋肉質の大きな男が、高そうな背広を着たサラリーマン風の男性を土下座させ、何か怒鳴っている。その大男の傍らには、胸を強調したような服を着たその女性が、その太い腕にしがみつくようにして土下座している男を見ている。

<歩、あの女の人、ハルカだよね。歩に馴れ馴れしく電話してきた>

あの女性は何をしているんだろう?サラリーマンに絡まれたから、大きな男に助けを求めたたってことなのだろうか。しかし大きな男の怒号を聞いているとそうではないらしい。俺の彼女に手を出しておいてとか、どうしてくれるんだとか。次第に話がずれていっているのか、そのつもりだったのか、お金を払えとか言い出している。これはまさかの美人局か?

<つつもたせ、何それ?>

男女が共謀して女が第三者の男性と性的関係を持ち、その後に男が現れて自分の妻と関係を持ったなどと因縁をつけて慰謝料などの名目で金品を要求するゆすりの手口です。

<スマホで調べた画面、そのまま読まないでよ。なんとなくわかったけど、そうだとしたら歩にやたら馴れ馴れしくしていた女性の目的って、もしかして>

さあ、どうだろうね。憶測だけで判断するのはいけないとは思うけどね。関わりを持たない方がいい相手ではありそうだね。野次馬の中から抜け出すと、浅草方面に向かって歩き出す。

<歩、あのサラリーマン、助けてあげないの?私も手伝うから助けてあげようよ>

どう見ても格闘技をやっているだろう男とやり合って勝てるはずはない。普通なら無視しているところだが、咲に良いところを見せたかったのかもしれない。なぜかサラリーマンと大男の間に割って入っていた。

「あなたのやっている事はゆすりです。今すぐこの人を解放してここを去りなさい。今なら通報されても未遂で済むはずですから」

「お前は誰だ?この男の知り合いか?何だったらお前が金を出してくれるのか?」

「そちらの女性とは面識がありますが、こちらサラリーマンの方とは初対面です」

そう言われた女性は歩から視線を外し、わざと横を向いている。

「ははぁん」

大男はニヤリと笑うと、いきなり歩の腹部を殴りつけてきた。いきなりの事に避ける事ができず、もろにパンチを腹部に受けてしまう。しまった、そう思ったがとくに痛みはない。???何が起きたんだと目の前を見ると、殴ったはずの大男がうずくまり右手を押さえている。その右手は、肘の部分から白い骨が飛び出していた。横にいたハルカと名乗った女性は悲鳴をあげて逃げて行く。おい、と呼び止めようとするが、すごいスピードで走り去って行く。気がつくと、土下座していたサラリーマン風の男の姿が見えない。これはいよいよやばいことになったと思っていると、大男がいきなり立ち上がる。やるつもりか。そう歩が次の攻撃に備えて構えると、男はいきなり声を出して笑い出す。痛みで気がふれてしまったのか、笑いながらそのままフラフラと野次馬の中に消えていってしまう。殴り合いでも起きれば良かったのに、つまらね〜の。そんな声が聞こえて来る。その前に警察に通報や救急車でも呼んでくれたらいいのに、何でスマホに撮る事しか考えてないのだろうか。野次馬はいつのまにか消え、一人取り残された歩。

<行こうか歩>

そうだね、行こうか。そう言えばさっきはありがとう。咲が何かしてくれたんだろ?じゃなかったら殴られてただじゃすまなかっただろうし。代わりに相手がとんでもない事にはなってたけどね。

<あれくらいどうって事ないよ、歩がピンチになったら助けるからね>

その時は頼むよ。

 隅田川を渡ったすぐにある浅草駅から浅草橋駅で乗り換えし秋葉原駅へ、電気街を抜け、細い路地の中程にある実の店が入るビルに着くと、外国の女性が3人ほど入り口付近に立っている。何だろうと思いながら横を通ろうとすると、不意に腕を掴まれる。

「こんにちは、お兄さん遊んでいきましょうよ。お店すぐそこだし、いっぱいサービスするから」

そう言って腕を胸に押し付ける。ちょっと歩から離れなさいよ。咲が叫ぶ。

「私もサービスしちゃうわよ」

他の女性も近寄ってくるなり、空いている手を胸に引き寄せ、いきなり触らせた。

「自分、他の店に用事があって、離してもらえませんか」

困惑してオロオロする歩に3人目の女性が立ちはだかり、卑猥な言葉えお投げかけてくる。

<聞こえないの!歩から離れなさい>

「ねえ、お店で楽しみましょうよ」

「お兄さんかっこいいから、安く飲ませてあげるわよ」

「大丈夫だから、お姉さんたちに任せていいのよ」

<だから離れなさいって!>

皆が皆、勝手に喋るは手を引くは、体を寄せて来るは、混乱の様相に見舞われた歩は、相手が女性が故に、手を解き払うことも振り切る事もできず、うろたえるばかり。業を煮やした咲が頭の中で叫んだ途端、あれほどベタベタと張り付いていた女性たちがいきなり離れた。今しかないとばかりその場から走り去ると、階段を使って実の店へと逃げ込んだ。

 <もう、しっかりしてよ、女性に囲まれたくらいでうろたえて>

申し訳ない。また咲に助けられてしまったみたいだね。私がいなかったら、今頃大変な事になっていたんだからね。と咲はすっかりおかんむりである。こうトラブルが続くと、この後も何かあるんじゃないかと心配になって来る。

 レジに行くと、珍しくレジカウンター内に実が座って仕事をしている。珍しいじゃないかと声をかけると、なんかいつもいないみたいに言うのやめてくれよと。何でも用事があって出掛けていて、今店を開けたばかりとか。今は開店の準備をしているんだと。お店に入る時におかしな女性に絡まれた話をすると、最近このビルにできたパブらしいのだが、たびたび入り口で客引きをし迷惑をしているらしい。ここに来る客は大人しい人が多く、連れ込まれたひとは数知れず。客足が減って苦情を何度も入れているようだ。

「そんなわけで客もいないし、中、行こうか。お茶は出ないけどね」

<お茶ぁ?あんな汚ない場所でお茶なんて飲んだら、病気になっちゃう>

思わずふきだしてしまいそうになるのを我慢して、実について行き倉庫部屋の奥へ。椅子の上の荷物をどかしてもらい、とりあえず座る。朝、注文が確定したフィギュアの決済画面を実に見せると、実は歓喜の舞を踊り出した。

気持ち悪い。そうつぶやいた咲の視線が見えるはずもないのに、痛いほど感じられた。歩はただ苦笑いをするしかなかった。

「悪い悪い。つい喜びすぎっちゃって。とりあえずお金な。それとこいつも」

机に無造作に置かれていたお金と、一枚の紙を手渡してくれる。その紙には、

[野島咲先生サイン会参加チケット。このチケット一枚につき一名様に限りサイン会に参加いただけます。店舗内で野島咲先生の本を購入し、ご参加ください。対象店舗、本の森やさん横浜店。日時は明日午後3時より]

そう書かれている。

「これは?」

「それな、サイン会のチケット。お前、異世界の道しるべを書いた作者に会いたいって言っていただろ、だからちゃんと見つけてきたんだぜ会える方法を。ちなみにそのチケット、なかなか手に入れられないんだから感謝しろよ」

一対一で会える方法じゃないんだ。そう言うと実はここまでお膳立てしたんだからあとは自分で何とかしろよ。と返されてしまった。本当はなぜこの作者名にしたのか、なぜ、ヒロインキャラがこちらの咲に似ているのか、咲をここから出す手掛かりの一部でもつかめればと思ったが、一対一で話せる方法を考えないといけないようだ。

実にお礼を言うと、店を後にする。ビルの入り口にいた女性たちはもうおらず、ほっとしながら駅に向かって歩き出した。

<私と同じ名前にしている作者ってどんなひとだろうね、男性かな?女性かなぁ?>

ネットで検索したら謎の作者らしいからね、どっちとも言えるかな。作者の想像を二人で膨らませながら、アパートの駅まで来ると、近くのスーパーでキャベツ、玉ねぎ、ジャガイモ、にんじん、ソーセージにスープの素を買う。朝のスープに対抗してポトフを作るんだと。

 アパートに帰り、切った野菜とソーセージをスープの素でコトコト煮ている間に、推理小説を読む。咲と犯人やトリックについて考察しあっているうちに、いい感じに煮えてきたた。今日の夕飯はポトフとご飯、昨日食べきれなかった

肉じゃが。食べ終わり片付けを終えると、午後9時くらいだったが、昨日遅くまで本を読んんでいたせいなのか、お腹がいっぱいになったせいからなのか、眠くなってきてしまい、ベットに横になるとすぐに睡魔が襲って来る。

また夢を見るのだろうか?思う間もなく眠りについた。

 

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