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本の中の少女は白の夢を見る  作者: ぶちの野良猫
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夢の中 その3

 6畳ほどの空間に学習机とベッドが置かれたこの部屋には、他に置かれた物はなく殺風景な感じを受けた。その机にスタンドの明かりの下、誰かが本を読んでいる。

この後ろ姿は誰だろう?あれ?もしかして咲?

「咲、まだ起きていたのか。早く寝ないとまた朝起きれないぞ」

そう声をかけるが反応はない。

これはもしかして咲の夢の中?。眠るたびに夢の中に放り出すの止めてほしい。なんか寝た感じはしないし気分は悪いし。もしかしてこの部屋に縛られていないとしたら、勝手にどこかに移動すれば変な夢を見ないですむんではないのでは。

歩は扉を開け廊下を覗いて見る。長い廊下。2つの扉を挟んで廊下と直角に右に曲がった場所から光が漏れている。

<誰だろう。こんな時間にお風呂に入っているなんて。トイレに行きたいけどお風呂の向かいなんだよね。どうしよう>

気が付くと同じような体制で咲が扉から廊下の先を覗いていた。びっくりして廊下に出ようとするが、体はもう一歩も動かない。

どうやっても咲の行動を見ろと。いったいなんのため?

<嫌だけどさっと行ってきちゃおっと>

咲が小走りで光が漏れている向かいの部屋に入っていく。それを動けないまま見ている歩

トイレに行く光景を見ろと。まあ、ついて行けと、そうならなかっただけはよかったのかな?。

ぼんやり廊下を眺めていると、漏れている光に小さな影が映る。おや、と思っていると小さな影は裸の子供の姿となって現れ、その子供は隣の部屋へとそのまま入っていった。

この家で子供と言えば、確か日向秋人とか言う人の子供でメイって子だろうか?どこを見ても暗い様子を見ると夜も遅い時間みたいだが、こんな時間にお風呂とは。

咲がトイレから顔を出し、辺りをきょろきょろと見回したかと思うと、またトイレへと戻ってしまう。

なにをしているんだ?自分の家だから堂々と出てきたらいいのに。

すると今までついていた光がふっと消え、薄暗くて良くは見えなかったが、白いものに身を包んだ背の高い人物がメイの入った部屋へ消えて行った。

それから10分くらいたっただろうか。咲かトイレから辺りをうかがうように出てくると、耳を両手で押さえながらこちらに向かって走ってくる。

おっと。

一歩も動かなかった体が咲きが部屋に飛び込んできた反動でなのか、動けるようにはなったが、また部屋の中に閉じ込められたような状態になってしまった。

咲きは机の上のスタンドの明かりを消すと、ベッドにある布団を頭から被り丸くなってしまった。

いったい何を聞いたのだろうか?よほど聞きたくない何かを聞いたのだろう。

布団の中でずっと震え続ける咲き。この世界に干渉することが出来ない歩むは、何も出来ない事に苛立ちを覚えた。

突然、咲の部屋の扉が開く。その先には何も身につけない姿のまま立ち尽くす日向秋人のがいた。

なんだこの変態親父は。いくら自分の家とは言っても、娘が居るんだぞ。場をわきまえることは出来ないのか?

秋人は、しばらく布団に身を隠した咲を見つめていたが、再び音も無く扉を閉めると、足音も立てずにどこかに行ってしまった。

それからかなりの時間、布団に丸くなって震えていた咲だったが、眠りについた頃には外は明るくなり始めていた。

 目覚まし時計が容赦なく起きろと騒ぎ立てる。時計は朝の6時30分。ボサボサの髪の毛に、目の下には大きなクマ。寝不足で頭が回らず、身支度に思わず時間がかかってしまった咲は、慌てながら居間へ。居間にあるダイニングテーブルにはお弁当が3個並んで置かれている。

「おはよう咲。今日は遅かったのね」

「うん。遅くまで本を読んでいたら寝るのが遅くなっちゃて、朝なかなか起きられなかったんだ」

「本を読むのは悪くないけど、ほどほどにしなきゃよ。朝ごはん食べるでしょ?」

「今日は遅くなっちゃたから、いいや」

ダイニングテーブルに置かれた自分のお弁当を通学カバンに入れると、行ってきますも言わぬうちに咲は家を飛び出して行った。

 学校。ホームルームが終わった教室では、次の授業が始まる時間までとなしくしていられないのか、男子生徒は机の周りを走り回り、女子生徒はテレビの話題であちらこちらでグループを作っては盛り上がっている。

咲はと言えば、机にうつ伏せになってうとうととし始めている。

「ねえ、咲ってば。聞いてるの?」

1番に仲の良い香織が話しかけて来ている。

「ごめん。聞いてなかった」

「どうしたの?具合でも悪いの?」

「昨日ちょっと眠れなくてね、今頃になったら眠くなってきちゃった」

咲は恥ずかしそうに笑顔を香織に向けた。

「新しいお父さんの家に住み出したんだよね?やっぱり慣れないよね」

「そんな事ないよ。お父さんは優しいし、妹とも仲がいいしね」

嘘であろう。少しの時間しか見ていない自分だが、どう見ても仲が良いとは思えない。気を使って生きている。友達にまで気を使った言葉を話さなくともと思うのだが、これが咲という人なのだろう。

チャイムが鳴り皆が席に着く。1限目が始まる。眠そうにしていた咲だったが、それからは居眠りもすることもなく授業を受け、給食、お昼休みの時間を迎える。

また机にうつ伏せになる咲。そこに再び友人の香織がやってきて話しかけて来る。

「ねえ、咲って本好きだよね?」

「何?急に。本を読むのは好きだよ」

咲は机から顔を起こし目を擦る。

「知ってる?読むと願いを叶えてくれる、青い表紙をした本、赤い表紙をした本って」

「何それ?赤や青の色をしている本ならいっぱいあるけど」

「よく分からないんだけど、その本は選ばれしものだけに光を放って位置を知らせてくれるらしくて、その光が青かったり赤かったりするみたいなんだ」

「香織。それどこ情報?」

「2組の宇美ちゃん情報。学校に昔からある話で、お姉さんから聞いたらしいよ」

「学校の七不思議ね」

「そう、それだけなら咲に話さないって。その宇美ちゃんがね、見たって言うの。図書館で、赤く光った本を。本人は怖くなって逃げたらしいけど、それを聞いたお姉さんたちが探してるらしいんだ。で、咲なら見たことあるかなって」

「見たことはないけど、見つけたらどうするの?」

「もちろん、願いを叶えてもらうの。私、歌って踊れるアイドルになりたいんだ。そう言う咲は願いとかないの?」

「え。うーん。ないかもしれない」

「咲は欲がないね。見つけたら教えてね」

「うん。わかった」

午後の授業が始まるよとチャイムがなり、子供たちは慌てて自分の席へと戻って行った。

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