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本の中の少女は白の夢を見る  作者: ぶちの野良猫
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プロローグ

 会場に始まりを告げるベルが鳴り響く。観客は先ほどまでのおしゃべりをやめると、ざわついていた会場が一気に静かになった。

 幕がゆっくりと上がって行く。物語の開幕である。


 僕は今日も派遣の仕事を終えると、作業着を背負いバックに詰め込み職場を後にする。

決して良い環境とは言えないが、他に働ける技術があるわけでもなく、新しい仕事を見つける根性もなく、今に至る。

こんな僕にも楽しみな事はある。古本屋に行って漫画を読むこと。そして彼女に会うこと。

容姿は自分で言うのもなんだが、いままで彼女なんて出来たことなかったくらいだから、あまり良くはないのだろう。

太っているし、それに人と話すのはあまり得意ではないしね。

だから時間があれば古本屋で漫画を立ち読みした。漫画の世界にいれば、寂しさも現実も忘れられるから。

僕は特に異世界物が好きだった。現実にはあり得ない設定、展開。いつも時間を忘れて読み続けてしまう。

そんな変わらない毎日を繰り返していた時、古本を読んでいた僕に話しかけてくる女性がいた。

彼女の名はえみり。本名はわからない。同僚は名前も知らないなんておかしいし、それは彼女じゃない。

そう言うけれど、僕は彼女だと思っているし、彼女も僕のことを彼氏だと言ってくれている。

彼女は大きな胸にモデルさんのように伸びた足。容姿はどんな女優さんよりもきれいで、テレビに出ていてもおかしくなさそうななほど。

きっと僕に嫉妬しているんだろ。そんな彼女のことを考えていたら、彼女からメッセージがきたと通知がスマホに表示される。

慌ててスマホのロックを解除し、メッセージを読む。

『これから会えないかな?無理ならいいんんだけど』

だいじょうぶに決まっているじゃないですか。僕は慌てて返事を返す。

≪大丈夫です。どこに行けばいいですか?≫

『ありがとう、じゃ、いつもの喫茶店で。あと申し訳ないんだけどお金を少し貸してもらえないかな?今月家賃が払えなくて。10万円ほど貸してもらえると助かるんだけど』

≪わかった≫

『ありがとう。じゃ待っているね』

お金を払っての関係じゃないのか?そう言われたら確かにそうかも知れない。だけど僕にはこうでもしないと、彼女なんて。

そう言い聞かせ、店を出てすぐ近くのコンビニでお金を出金すると、それを封筒に入れ駅へ向かう。

2駅ほど電車に乗ると新宿で下車し地下街を急ぐ。西口地下街にある小さな喫茶店。その喫茶店の一番奥の席、彼女はいつもそこに座っていた。

「やあ」僕は手をあげると彼女の元まで走って行く。

「ちょっとばたばたしないの」彼女は飲んでいたアイスコーヒーをコースターの上に置く。

「ごめん。あ、これを」そう言って僕は封筒に入ったお金を手渡した。

「ちょっとあんった、もうちょっと人に見られないように渡しなさいよ。まったく。

まあ、とりあえずありがとう」

そう言うと、彼女は封筒をたぶん高級な物であろうバッグの中へとしまい込んだ。

「さてと、行きたいんでしょ。いつものところに」

「え、そういうことではないんですが」

「はっきりしない男は嫌いだからね。さ行くよ」

彼女は僕の手を強く握ると、ぐいぐいと引っ張って行く。「ちょっとまってください」

引っ張られながらもそういいう強引な展開は案外嫌いじゃないと思った。僕はレジで彼女のコーヒーの代金を支払うと、再び手を強く握られ地下街を後に、きらきらと光るビルへと連れ込まれて行く。いつもそれが彼女とのデートでの定番っだった。

                       ☆

「あんたなんかうれしそうね」

いつも一緒に仕事をしているパートの女性からニヤニヤしているのを指摘されていまう。女性に年齢を聞くのは失礼だろし、あまり人と話すのは得意ではないので年齢はわからないが、僕より一回りくらい上40代くらいだろうか?そんな彼女にまで今日は指摘されてしまうほど、今日は笑顔がこぼれたまま仕事をしていたのかと、あわてて両頬お押さえる。

「わかりやすいんだから、あんた今日はこれからデートかい?いいねぇ若いって。私も旦那がいなきゃ、なんてそんなこと言ったらいけないよね」

気持ち悪いくらいの笑顔をこちらにむけてくる。

「ハハハハハ」とりあえあず笑ってごまかしてみる。こういうギャグなのか自虐ネタなのかわかりずらい話は、返答に困ってしまう。

いつまでも話をしていたくなっかた僕は、着替えをすると足早にその場を立ち去ることとした。

こちらからいくら声をかけても、いつもははぐらかされてばかりで、彼女の都合でしか会ってくれなかったのに。昨日、≪たまにはお会いできないでしょうか?≫とメッセージを送ったところ。

『いいよ。明日仕事終わったら連絡して』と返事が。今日は普通のデートができるぞと思ったら、顔にでていてしまったようだ。仕事が終わった僕はさっそく彼女にメッセージを送った。

≪仕事終わりました。どこに行けばいいですか?≫するとすぐに返事はきた。

『いつもの喫茶店にいる』≪わかりました。30分くらいでいきます≫こちらもすぐに返事を返すと、新宿へと急いだ。

                    ☆

電車を降りると、足早に階段を駆け上がり、改札を抜け、人通りの多くなった地下通路を目的の喫茶店へと急ぐ。途中、人に当たりそうになりバランスを崩しかけるが、そのまま喫茶店へと飛び込んだ。

「お前の言うように、マナーも知らねえような男だな」

息を切らしながら、僕が彼女が座る席を見ると、そこには彼女とその横に座る男性。今時にしては珍しいくらいに筋肉を見せつけるその男性は、立ち上がると同時に椅子を後ろに倒すと、いきなり僕の襟首をつかみあげた。

「こいつが、俺の彼女を傷つけた男ってわけだな」

「そう、何度もね」嘘だ誘って来たのは向こうじゃないか。

男は僕を他のテーブルの席の椅子まで突き飛ばした。椅子に体が当たり激痛が走る。

「痛いか!彼女はもっと痛かったてよ」今度はおなかに蹴りが入り息ができなくなる。

「どうしたらいいかわかっているよな!誠意ってのをみせてくれるんだろな?」

男がタバコ臭い息で話しかけてくる。胸が痛くて話せない僕はとりあえずうなずく事しかできなかった。とりあえず今をやり過ごせれば、何でもいいや。

男に無理やり立たせられると、そのまま駅の近くまで連れていかれる。とは言っても、つかまれて連れていかれるでもなく、誘導せれているでもなく。筋肉を見せつける男と、さっきまで彼女と疑わなかった二人が後ろを付いてくるだけ。すれ違う誰かに助けを求めても良かったのだが。その声は上げられなかった。

ATMコーナーに着くと、ついては来なかったが遠くからの視線は感じた。とりあえずおろせる限度額まで引き出すと。建物の隅にい二人の所まで行き、男性にお金を渡した。

「ちっ。これっぽっちかよ。まあいいお前みたいな男にはこれくらいが上出来だな」

そう言って殴りつけられる。背負っていたカバンからは仕事の服やらペンやノート等、入っていたものが散乱した。

「もう二度と俺の彼女に近づくんじゃねぞ」そう笑い声をあげて二人は去っていった。

僕は何事もなかったようにバックに乱暴に散乱したものを詰め込むと。すぐにその場を離れた。

とにかくここから逃げたかった。みんな見ているのに、誰一人助けてくれる人はいない。

なんか自分が情けなくなって。涙も出てこなかった。何も考えられず、街をさまよっていると古本屋があることに気が付く。知らない古本屋だったが、漫画コーナーには僕の好きな異世界転生ものが充実しており、思わず読み始めてしまう。

すると涙が次から次へとあふれてくる。なんでだろう、今頃涙がでてくるなんて。

本を棚に戻し、床にうずくまる。悲しくなんてない、悔しくなんてないなんてずっと思っていたのに、やっぱりだめみたいだ。溢れる涙を抑えながら。たまたま手に当たった本を開く。

突然、僕の周りを無数の文字が飛び始める。

文字だけではない、自分もぐるぐると渦の中にいるように回り出す。車に酔って気持ち悪くなってくるような感じに陥り、目を閉じるが一向に治まる気配がない。

ついに気持ち悪くなり、胃の中のものを吐き出してしまう。

何度も何度も吐いているうちに、回転が治まっていることに気が付く。僕はゆっくりと視線を上げるとそこには、RPGに出てくるような世界が広がっていた。

青い空の下、レンガ積みの建物の周りにはカラフルなテントが立ち並び、さながら青空市のよに色々な商品が取引されている。

大きな通りにはそれを買いに集まる人々?の姿。人間みたいな恰好をした人。爬虫類のような者が甲冑を着て歩きまわる...

レンガ積みの建物の看板の文字は読めないが、書いてある絵だけでも何屋さんか想像できそうだ。

「こんにちは」異世界に来てしまった感動で近くに人がいたなんて気が付かず、突然の女性の声にびっくりしてつい頭を手で防いでしまった。

「なにそれ?面白い人」子供の笑い声のようにいつまっでもおかしそうに笑っている。

笑い声のする方向を見ると、そこには僕と比べて、腰の上より少し背が高いかなと思われる子供だろうか?ちょこんと立ってこちらを見ているではないか。

「君はどこからきたの?」かわいい女の子だなと思ってしまった。そんな趣味はないはずなのに。

「君じゃないもん。リアだもん。それにたぶんあなたより年上だからね」

リアと名乗った女の子はつんと口を尖らせほうをふくらませてみせている。たまに揺れる長い髪の毛も僕の心つかんでしまっている。僕はやっぱりアニメ顔みたいな子のほうが、本当は好きだったんだな。

「ごめんね。僕は岡村 明(おかむら あきら)地球って場所の日本という国からやってきたんだよ」

「そうなんだ!じゃあこの町は初めてだよね。案内するから手をつなごう」

「え!でも僕、さっき気持ち悪くて吐いてしまって汚いから....」

「汚くないよ、さあ行こう」

リアと名乗る女性がこぼれるような笑顔をこちらに向け、手を差し出している。

「ありがとう」そう言ってぼくは彼女の手を掴んだ。

「まずはこっち。”レクトル”」

その瞬間、僕の記憶は消えて無くなった。




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