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トワイライト  作者: 小町翔平
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第七章   早川 孝雄

今回の主役は、おじいちゃん、早川孝雄さんです。

これを読まれてつまらないと言われたら、私はショックではげてしまいます(笑)

私の小説を全否定されたようなものですから。

でも、読んでくださった方の心に、温かい、優しい思いが沸き上がったなら、

それはとてもうれしいです。うれしすぎてはげてしまいます(笑)

では、どうぞ。

           第七章   早川 孝雄




 風に吹かれて波を打った田んぼ一面の稲穂を見て、ああ、今は七月か八月だ、とおら思ったんだ。


「孝雄君」

 

 振り向くと、小百合ちゃんがいたんだ。

 その声で笑顔で、おらの胸は高鳴るんだ。

 おらは十五歳で、小百合ちゃんも十五歳で、他に誰もいない。

 

 太陽の日差しと、空の青と、白く光る雲とが、小百合ちゃんを際立たせていた。

 歩きながら、話しながら、おらたった一言が言えないまま、時間が過ぎていったんだ。

 おら自分に言ったよ。

 男だろって、他のやつに取られてもいいのかって。

 いいや、よくない。


「どうしたの、孝雄君。ちょっと変よ。顔も赤いわ。夏風邪?」

「小百合ちゃん」勇気を振り絞って、おら、怒鳴るみたいに言ったんだ。「今度の夏祭り、おらと一緒に行かないか?」

「夏祭りなら、みんなで毎年一緒に行ってるじゃない」

「違う。そうじゃなくて、おらと二人っきりで、行ってくれないか?」

 

 おらの言わんとしていることを理解した小百合ちゃんは、真っ赤になって俯いたんだ。

 また風が吹いた。


 あんまり長い沈黙だったから、もしくはあんまり長い沈黙に感じられる心持ちだったから、おら弱気になって、ああ、駄目か、と思ってしまったから、小百合ちゃんの次の言葉が耳に届くまで、しばらくの時間がかかったんだ。


「いいよ」

「……そう。……え、いいの」

「うん」

 

 小百合ちゃんは頬を赤くして、目を潤ませていて、可愛かった。

 おらだって負けず劣らず赤い顔をしていただろうけど。




 暮れ始めた夏の夕方を、夏祭りが行われる神社まで、おらと小百合ちゃんは歩いた。

 村一番の催しごとだから、近隣の町村からも人が集まって、出店が並ぶあたりになると人で混雑していて、おらはいやらしい気持ちからではなく、小百合ちゃんの手を握った。

 握ってから、あ、と思ったんだけど、おらそのまま握り続けたんだ。 

 小百合ちゃんの手は柔らかくて温かった。

 おらの手はどうだったんだろう? 汗ばんで、不快な手じゃなかったらよかったんだけど。

 村一番の催しごとだから、当然、学校の連中もいる。

 おらと小百合ちゃんが手をつないでいるのを見てここぞとばかりに、


「タカちゃんとサユッペがデートしてる」

「見て見て。早川君と小百合ちゃん、手、つないでる」

「見せつけてくれるじゃないか、お二人さん。アツアツだねえ」


 なんて囃し立ててきた。

 やんややんやの大騒ぎだ。

 おら、言ってやったんだ。


「羨ましいだろ、小百合ちゃんと手をつなげて。君たちも早く手をつないで歩ける恋人が見つかるといいな」

 

 面食らった学校の連中にワッハッハと笑ってみせて、小百合ちゃんの手を引いて祭りの中に潜っていった。

 一瞥したらさらに顔を赤くした小百合ちゃんと目が合って、おらは、


「おらに恋人って言われて嫌だった?」

 

 と訊いた。

 小百合ちゃんは手を強く握って、二度、三度と首を横に振った。

 おらだって真っ赤な顔をしてたはずだ。

 自然と笑みがこぼれたおらを見て小百合ちゃんも笑った。

 人混みに押された小百合ちゃんがおらにもたれかかる形になって、はっとして支えると、これまでにないほどに顔が近づいて、悪くもないのに、ごめん、なんて言いあったんだ。

 しっかりと茹であがったタコみたいな顔をしてね。

 

 気がつくと、とっぷりと日が暮れていた。

 星もお月様もよく見えて、さあ、祭りはこれからだ。

 いっぱい歩いていっぱい笑って懐中時計を見て、おらたちは苺味のかき氷を買って花火の場所を確保したんだ。

 おらたちの存在に気づかずに祭りを楽しんでいるたくさんの顔を見ながら、おらはニコニコ笑ってた。

 でも小百合ちゃんは、懐かしむような顔をしていたんだ。


「どうしたの?」

「中学、楽しかったね。ねえ、孝雄君。高校は、どうするの?」

「おらは父ちゃんの仕事の後を継ぐつもりだから、高校行って勉強する必要はないんじゃないかって思ったりもしたんだけど、これからの世の中、勉強も必要だって、大学とまでは言わないけれど、高校くらいは出ておけって父ちゃんが。母ちゃんも。確かにそうだよね。これからの農家は頭も使って仕事しないと、時代がそうなってきてる気もするし、今は行こうと思ってる、久澄高校」

「よかった。高校でもまた同じクラスになれるといいね」

「おらと?」

 

 小百合ちゃんはこくっと頷いたんだ。

 顔を赤くして。

 うれしくて恥ずかしくて、でも言わなくちゃと、今、ちゃんと言わなくちゃと、思ったんだ。


「小百合ちゃん、おら小百合ちゃんのことが……、好きだ」

 

 花火が揚がって、祭りからため息と歓声が漏れて、おらは小百合ちゃんの手を握った。

 小百合ちゃんは、何も言わないで握り返してくれたんだ。




 町で、映画館の前で、小百合ちゃんが大人びていて、なんだか小腹が空いていて、そうだ、おらはこの後プロポーズをしようと鼻息を荒くしていたのに肩透かしを食らったんだった。


「面白かった。誘ってくれてありがとう。孝雄君は退屈しなかった?」

「しない、しない。おらは小百合ちゃんと一緒なら、どんな映画だって退屈なんてしないよ」

「……孝雄君、今、お腹なった?」

「え、う、うん」

「喫茶店にでも、行こうか」

 

 なんだか格好がつかなかったけど、すたすた歩く小百合ちゃんの隣に走って、表情を窺って、フフフと笑う小百合ちゃんを見て、おら頭を掻いたんだ。

 プロポーズしようという緊張感が、いつもより多くカロリーを消費させたせいだ、と思いたい。

 

 ともかく、そうして入った喫茶店で、おらはサンドイッチを、小百合ちゃんは何かを注文した。

 店内は家族連れや同世代の男女や仕事の話でもしているのか、背広姿の二人組なんかがいて、活気があった。

 サンドイッチが運ばれてくるまでの間に、おらは小百合ちゃんになにを話したんだろう? 

 サンドイッチが運ばれてきて、頬張りながら、おらは晩ご飯の話をしたんだ。


「でも、サンドイッチを食べ過ぎて、今度は晩ご飯が入らなくなるなんてなったら、笑えないね」

「それなんだけど、孝雄君。ごめんね」

 

 小百合ちゃんの家は門限が六時なのだけど、友達と晩ご飯を食べるためだとか、何かしらの理由があるときは七時までになるので、この日はおらとのデートだってことで七時になるはずなのに、小百合ちゃんは六時になる前に帰ると言い出したんだ。


「え、何で? おらとご飯食べるって、言い忘れちゃったの?」

「ううん、言ったの。そしたらお父さんが、怖い顔して、駄目って」

 

 そうなんだ、としか言いようがなかったんだ。

 だって小百合ちゃんにお父さんに歯向かわせるわけになんていかないし、おらが食って掛かるのもこの先を考えるとするわけにいかないし。

 それよりもなによりもおらはプロポーズするつもりだったんだ。

 レストランで晩ご飯を食べてから帰りの車の中でする計画が頓挫したなら、次の手を考えなくてはならない。

 

 じゃあ、今?

 

 おらは一気に緊張したのだけど、小百合ちゃんがそんな事情を知るはずもなく、申し訳なさそうに、ごめんねと繰り返した。

 いいよいいよ、大丈夫、それなら仕方がないよ、と返事しながら、何で今日に限って駄目なんだろうって、おら考えたんだ、答えは出なかったんだけど。

 

 レストランでの晩ご飯が駄目になるということは、五時半辺りには町から帰るということで、つまり小百合ちゃんのお父さんは小百合ちゃんに、今日の晩ご飯は家で食べなさいと言っている意味なのだ。

 おらにも小百合ちゃんにも、親に逆らうという選択肢はなかったので、門限の前に着くようにおらは車を走らせたんだ。

 

 小百合ちゃんの家に着くと、玄関に灯りがともっていて、人影が見えた。

 まさかまさかの小百合ちゃんのお父さんの登場だった。

 ゆっくりと近づいてくる小百合ちゃんのお父さんと、車を降りて待つおら、と小百合ちゃん。

 近づくにつれて見えてきた顔には、眉間にしわが見える。

 怒られるようなことなんてしてはいないのに、生唾を飲んだんだ。


「孝雄君」

「はい」

「すまなかった」

「はい……え」

 

 謝られるなんてまったく考えになくて、ましてや頭を下げられるなんて、重箱の隅を楊枝でほじくっても出てくるわけがなくて、おら大慌てしたんだ。

 とっさにお義父さん、やめてください、なんて言ったんだけど、それが礼儀正しいのかどうか分からなくて、あやふやにだけど真面目な顔をしたんだ。

 おらは取り繕えたのか疑問だった。


 頑固者が多かったあの頃の父親たちの中にあって、戦争も経験した人だけど、小百合ちゃんのお父さんは小百合ちゃんの父親だけあって温和な人で、村の子どもの間では自分の父親と比較して羨ましがられるような大人だった。

 子どもの頃はよくキャラメルなんてもらったりしたんだ。

 そんな村の優しい大人の代表みたいな小百合ちゃんのお父さんは、顔をあげると、


「孝雄君、晩ご飯、まだだろ。粗末な飯だけど、うちで食べていかないかい?」

 

 と誘ってきた。

 おらはもちろん二つ返事だ。

 断る理由なんて、なにもない。

 茶の間に通されると、台所から小百合ちゃんのお母さんが出てきて、お待たせしてごめんなさいね、もう少しでできますから、足、崩してくださいね、と微笑んだ。

 いつでも品の良さを感じさせる女性だった。

 

 小百合ちゃんのお父さんは、晩ご飯が用意されるまでの間、訥々と語った。

 子どもだと思っていた小百合ちゃんがあっという間に大人の仲間入りして、感慨深いこと、悪い虫がつかないかと心配していること、初任給でプレゼントされたネクタイを、特別な日に締めて出社していること。

 

 ああ、愛しているんだな、おら思ったんだ。

 そこでいったん区切って、最近、小百合ちゃんがよくおらと外食するようになって寂しくなったと言ったんだ。

 これが言いたかったんだろうって、おら察したよ。

 でも黙ってた。

 大切な一人娘を手放す父親の心に、初めて触れた瞬間だった。

 これは遺伝なのだろうか? 

 おらもひとりっ子、小百合ちゃんもひとりっ子、そしておらと小百合ちゃんの子どももひとりっ子なんだ。

 

 おらは肩透かしを食らったプロポーズを、ここでしようかと、ここですべきなんじゃないかと思って、意を決したんだ。


「お義父さん、僕は小百合さんを、必ず幸せにします。娘さんを、僕にください」

 

 正座して、姿勢を正して、それから畳に額をくっつけて、お願いしたんだ。

 晩ご飯を食べながら、ああ、おらこの日は一生忘れないだろうなって思ったんだ。

 

 ごちそうさまでした、お邪魔しました。

 玄関まで見送りに出てきてくれた小百合ちゃんの両親に挨拶をすると、車まで送ってあげなさいとお義父さんが言って、小百合ちゃんはサンダルを履いた。

 車にはプロポーズのときに渡そうと思っていたプレゼントが置いてある。

 夜の空気を吸いこんで、おらは胸にたまっていた思いを吐き出した。


「ああ、緊張した」

「本気なの? あんなこと言ったら、もう逃げられないわよ」

「逃げなんてしないよ。おら、小百合ちゃんが好きだ。渡そうと思ってたものも、ちゃんとあるんだ」

 

 後部座席の鞄から包みを取り出して、すっと差し出したんだ。


「これ、もしおらと結婚してくれるなら、受け取ってください」

 

 小百合ちゃんが包みから小箱を取り出して、開けて、中を見て、泣きだしたから、おらは小百合ちゃんの左手の薬指に、それをそっと通したんだ。




 ヒッヒッフーだ。ヒッヒッフー。

 

 分娩室の前で、おらはもう座って立って、歩いてしゃがんだ。

 じっとしてろ、なんて言われても、じっとなんてしていられない、いられるわけもない。

 でも自分でも、自分がどんなに泡を食っても今まさに子どもを産まんとしている小百合の何の力にもならないことくらい分かっていた。

 じっとしているのがいいということも、言わずもがな、だ。

 でも、でも、分かっているからと言って実行できるわけはなく、気が急いて急いて、おらは長椅子に座っても腰を落ち着けることなんてできなかったんだ。

 

 八ヶ月ばかり前。

 できたみたい。

 君にそう言われても、おらはなんのことか分からなかったんだ。

 恥ずかしそうにお腹に手をあてて笑われてやっと、鈍いおらでもピンときた。

 飛び上がったんだ。

 大げさじゃなくて、本当に。

 人間は驚くと飛び上がると知った瞬間だ。

 それは結婚から九年が経って、三十路が見えてきた四月の午後だった。

 

 今がどうかは知らないが、あの頃の世の中では、結婚して九年が過ぎても子どもができないということは、噂話が何よりの好物なやつらにとっては格好のネタであって、小百合はそんなやつらに後ろ指を指されながら過ごしていたんだ。

 口にこそしなかったけど、もう小百合がそんな思いをしなくてもいいんだというのもおらの心を明るくさせた。

 小百合にではなくおらのほうに問題があったのかもしれないし、子どもができなくて一番傷ついているのは小百合なのに、世間に、いや、一部の心のない人間にさらに塩を塗られて、そんなむごい話があるか。

 よかったな、そう言うと、うん、そう涙目で答えるから、おらもらい泣きしたんだ。

 

 母ちゃんとお義母さんが、それこそ箸より重い物なんて持たせるかという具合に小百合の面倒を見てくれて、父ちゃんとお義父さんが、よくやったな、初孫をありがとう、とおらの背中を叩いたんだ。

 そう言われておらは父ちゃんが祖父ちゃんになるという事実に気がついて、なんだか不思議な気持ちになった。

 子どもができたら、おらが父ちゃんを祖父ちゃんと呼べるのかはひっかかったけど、今度酒でも飲みながら冗談めかして訊いてみようと、先延ばしにしたんだ。

 

 お腹がだんだんと大きくなってきて、小百合が赤ちゃん用の靴下とかを編み出して、子どもの名前も今のうちから考えておいたほうがいいと教えられ、二人でああだこうだと意見を出しあった。

 とても幸せだった。

 

 そう、とても幸せだった。

 かなり幸せだった。

 非常に幸せだった。

 この上ないくらい幸せだった。

 とてつもなく幸せだった。

 三国一の幸せ者に、おらはなったんだ。

 



 え? ああ、本屋か。

 でもなんでおらは本屋にいるんだ? 

 そうか、姓名判断の本を買いに来たのか。

 一口に姓名判断の本と言ってもこんな村の小さな本屋でも何冊かあって、内容も値段も厚さも微妙に違っていて、こんなときは大は小を兼ねるだと、おらは一番分厚い本を選んだんだ。

 レジに持っていくと、店のおじさんに笑われた。

 この本、孝雄君のお父さんも買っていったんだよ、小百合ちゃんのお父さんはあっちの本、と。

 父ちゃんとお義父さんとおらが選び直して買った本と、三冊の姓名判断の本を並べて、男衆の考えることなんて似たり寄ったりだと、おらと小百合は笑ったんだ。

 同時に、お腹の子はこんなにも思われて生まれてくるんだと、うれしくなった。

 

 あの頃は今と違って、生まれてくるまで男の子か女の子かは分からなかったから、男の子だった場合と女の子だった場合の両方に備えて、二通りの名前を考えておく必要があった。

 生まれてから考える人たちもいるにはいたのだが。

 

 この子、お腹、蹴ったのよ、とうれしそうな小百合。

 季節は夏を越えて秋になって、冬の到来も間近になっていたんだ。

 お腹に手を当てたときのぬくもり。

 おらは自分がもうすぐ『父親』になるんだと、実感した。

 

 出産予定日の一ヵ月前になって、小百合は入院した。

 町の病院にだ。

 おらは仕事を終わらせると、飯と風呂をすませてから病室に飛んで行った。

 晩ご飯を食べていかないと小百合が心配するからで、旦那が泥まみれの汗まみれじゃ小百合が恥ずかしい思いをするだろうと思ったからだ。

 面会が許されるのは九時までなので、それまでおらは小百合と話をした。

 ベッドに腰掛けた小百合の隣に座って、何も言わずにただ手をつないでいたこともある。

 同室の妊婦さんたちがそれを見てどう思ったかは知らないが、人の目よりも小百合のほうが、小百合と生まれてくる子どものほうが、おらは大切だった。

 だからそうした。

 

 早川さん、と呼び止められた。

 年配のベテラン助産婦さんに、だ。

 あの頃は『助産師』ではなく『助産婦』だったんだ。

 その助産婦さんとは小百合の晩ご飯の配膳のときや帰りしななど、顔を合わせると言葉を交わしていたので、また挨拶がてら小百合の日中の様子なんかを話してくれるのかと思ったが、違った。

 声を潜めて、こう言ったんだ。

 もうそろそろ生まれるかもしれないですよ。

 

 予定日が近いことは知ってはいたし、母ちゃんからも、そろそろね、なんて言われていたから覚悟はできているつもりだったが、おらはごくんと唾をのんだ。

 

 そしておらは、ヒッヒッフーだ、ヒッヒッフー、に戻る。

 分娩室に入ったのは昼の三時を回った頃。

 病院から連絡があったと母ちゃんに知らされて、仕事そっちのけで飛んで行って、六時過ぎにはおらと小百合の両親も駆けつけてきて、五人で悶えること九時間。

 いや、悶えていたのはおらだけだったかもしれないけど。

 

 初産は十時間以上はたっぷりかかるとかの助産婦さんから聞かされていたので覚悟はしていたつもりだが、足りていなかったようだった。

 出産のショックで死ぬ人もいる、なんてことが頭をよぎったりもした。


 人間には第六感というものがある。

 窮地、とは言わないのかもしれないが、妻の出産という一大イベントに立ち会っておらの心配や集中は極限を向かえた。

 

 おらは窓を見た。

 窓を見て、息をのんだ。

 雪が深々と降っていた。

 きれいだった。

 あるいは神様があつらえてくださったワンシーンなのかもしれない、と後になって思ったものだ。


 おらは数秒の間、降りしきる雪に心を奪われていた。

 おらと小百合が話しあってあがった子どもの名前の候補に、今、おらが見惚れている景色にぴったりのものがあったんだ。

 雪と幸をかけて、男の子なら幸雄。女の子なら幸子。

 

 分娩室のドアを見た。

 あの中で小百合は今、子どもを産もうとしているのだ。

 長椅子に腰掛けて、妻と子の無事を祈った。

 そして、廊下にまで声が響いたんだ。


「おぎゃあ、おぎゃあ」




 二千六百八十グラムで生まれた我が家待望の赤ん坊は、男の子だった。

 妻が退院するので病院まで迎えに行って、久しぶりの我が家にはおらと小百合の両親が待っていて、順番に孫を抱いた。

 当たり前なのだが四人とも赤ん坊を抱き慣れていて、おらと小百合は育児本を買わなくても生きたお手本から育児のコツを教われたんだ。

 とは言いながら、姓名判断本の二の舞にならないように、おらたち男衆は育児本を買うかどうかの決を採り、一冊くらいはあってもいいだろうと、結局、買ったのは買ったのだけども。

 

 でもその本は買って正解だったということになった。

 小百合は寝ている子どもの横で、その本を読んで知識を吸収して、不慣れなおらに本で手にした知識を教えてくれた。

 そのときは妻の顔から母親の顔になったんだ。

 おらは父親の顔になっているだろうか? と思ったりもしたものだ。

 

 日に日に大きくなっていく赤ん坊を抱いたり、話しかけたり、おむつを交換したり、妻と眺められて、おらは幸せだった。

 小百合も産後に体調を崩したりはせずにいられて、仕事も順調で、こんな日々がずっと続けばいいって、おら思ったんだ。


「見て、孝雄さん」

「なんだい?」

 おらはきょとんとした。

「いっちに、いっちに」

 

 小百合がそう言うと、赤ん坊がハイハイを始めたのだ。


「おお」


 おら、声にならない声をあげたんだ。

 胡坐をかいているおらへと、小さな体を一生懸命に動かしてくる我が子を、おらは抱き上げた。

 ついこないだ生まれたと思っていた赤ん坊が、もうハイハイをしている。

 この子は生きているんだ。

 

 喃語だった言葉がだんだんと意味のある言葉に変わっていって、初めて、おおしゃん、と言ったのをお父さんと言ったんだ、いや、お母さんて言ったのよ、なんて笑ったりもした。

 うちの子は歩くのより話すほうが早かったんだ。

 

 つかまり立ちから歩くようになったのは、それから少し後だった。

 たぶんおらと同世代の家庭なら、手拍子なんかしながら、みんなこう言ったはずだ。


「あんよは上手、あんよは上手」

 

 話す言葉数が増えて、パタパタと危なっかしく走るようになって、ボール遊びを気に入って、村の公園に連れて行くとブランコや滑り台で遊ぶのが毎日の楽しみになった。

 公園は村にひとつなので、当然、子どもとその親が集まってくる。

 そこで輪ができて、母親は母親同士、子どもは子ども同士でコミュニケーションをとった。

 世界が広がって、初めての友達ができて(もちろん当人に『友達』なんて概念はまだないだろうけど)、にっこりと笑って、我が家にあふれる笑顔と笑い声が、ますます増えていった。

 

 三十八度を超える高熱を出して寝込んだのは、赤ん坊ではなくなって幼児と呼ばれるその半ばの頃だ。

 仕事を終えたおらが様子を見に行くと、歌を歌ってとリクエストされたんだ。

 そのときに何を歌ったんだかは覚えていないが、おらは最初に思いついた童謡を歌った。

 これ歌ったんだっけなあ、なんて思いながら。

 熱に苦しみながら、笑ったんだ。


「もうちょっと左。いや、逆、逆。そう、そっち。笑って。撮るよ。はい、チーズ」

 

 幼稚園の入園式の記念写真だ。


「もうちょっと左。いや、逆、逆。そう、そっち。笑って。撮るよ。はい、チーズ」

 

 小学校の入学式の記念写真だ。

 カメラマンはいずれもおらの父ちゃんだ。

 すくすくと成長する我が子が、おらの、おらたちの宝物だった。




「どうして割ったんだ」


 おら怒ってるな、なんでだ?


「友達と、遊んでて。チャンバラごっこして、遊んでて」


 ああ、思い出した。


「家の中ではチャンバラごっこも、野球も、したら駄目だって、外でやりなさいって、お父さんが言ったことを、忘れたわけじゃないだろう?」

「はい。でも僕が割ったんじゃないよ。友達が振り回したバットが手から滑って、飛んでって、それで割れちゃったんだよ」

「誰が割ったかは問題じゃない。駄目って言われたことをしたことが問題なんだ。お父さんの言いつけを守って外でチャンバラごっこしようって言っていれば、こんなことにはならなかっただろう。違うか?」

「違わないです」


 青い顔をして、涙目で、俯いて、十分に反省しているのが分かった。

 そもそもこの子は悪事を働いて嗤っていられるような性根の腐った子どもじゃない。

 それでも。


「わざとでなくてもあっても、悪いことは悪いことだ。悪いことをした人は罰を受けるんだ」

 

 おらは立ち上がり、キッと睨みつけた。

 ごめんなさい、と震える子に近づいた。

 妻は、お父さん、と止めた。

 思った通り、おらがビンタのひとつもするんだと思ったんだろう。

 おらは、こっちを見なさい、と言った。

 子どもも妻もおらを見た。

 おらは、


「ぷううう」

 

 と屁をこいた。

 おらが笑うと子どもも笑って、妻も笑って、それでお説教は終わりだ。


「宿題は終わったか?」

「うん」

「じゃあ、晩ご飯ができるまで、外でキャッチボールでもしようか」

「うん」




 空の青。

 山の緑。

 太陽のじりじり。

 稲穂は揺れる。

 夏だ。

 

 ずいぶんと大きくなったな。

 うちの子は妻に似て勉強ができて、東京の大学に合格し上京したんだ。

 これは三年目のときだ。

 なぜ分かるのかは分からないが、分かるものは分かる。

 そう、そうだ、もう二十歳になったんだって一升瓶なんて買ってきて、五人で酒を飲んだのも、このお盆のときだ。

 せっかく帰ってきたんだから、村の祭りは友達と行ってきなさい、なんて送り出して、二人っきりになった妻に言ったんだ。


「浴衣、着ていこうな。小百合」

 

 村恒例の夏祭りはその年も盛況で、人でごった返していたんだ。

 老若男女、笑顔だ。

 齢五十を迎えて参加する夏祭りは、楽しみ方がちょっと違う。

 子どもの頃はまだ暗くなる前から走っていって、あれもこれもと食べまくって、射的だ輪投げだと遊び倒して、クライマックスに花火を堪能したものだが、悲しいかな、そんな元気はいつの間にか失せてしまっているのだ。

 が、年相応の楽しみ方というものが、ある。

 

 夕食はいつもより早い五時半くらい。

 軽くするように気を付ける。

 その後片付けはどんなに遅くても六時三十五分には終わらせる。

 五十分から六十分で浴衣に着替える。

 祭りが行われる神社まで、歩くこと二十と五分、程度。

 つまりは八時頃に到着する計算だ。

 出店を見て回りながら缶ビールとつまみになるものを二、三買う。

 

 小百合は昔から金魚すくいの名人で、ニコニコと可愛らしい顔で、お椀いっぱいになってもまだ手を止めない。

 子どもは目を輝かせ、大人も、ほう、と感嘆する。

 百を超えたあたりでポイが破れると、拍手が起こる。

 いつの間にか人だかりができているのだ。腕はまだ落ちてはいなかった。

 金魚を返して、花火の場所取りをする。

 子どもらは木に登ったりしている。

 ひとりが登ると二人、三人と登り始める。

 

 花火が始まる。

 いくつになっても、その美しさに見惚れてしまうんだ。

 花火を見る。

 妻を見る。

 ビールを飲んでつまみにちょいと手を伸ばす。

 缶ビールに触れて濡れた手を拭いて、小百合の手を握る。

 一瞬だけ驚いてから微笑みを返す妻は、握り返してくる。

 八時半に始まる花火は、九時になったら終わってしまう。

 余韻の醒めぬ中、みんな帰っていく。その中におらたちもいる。

 十分くらい歩いてからだろうか、小百合が言った。


「ねえ、ちょっと休まない」

「ああ、うん。休もう」

 

 人の家の石垣に腰掛けて、なんだか小百合は楽しそうだった。


「花火、今年もきれいだったわね」

「うん。小百合の浴衣姿を見られるのも、夏祭りならではだしね」

「馬鹿。ねえ、孝雄さん。あの子もいつの間にか二十歳になってたのね」

「自分から酒なんて買ってくるから強いのかと思ったら、弱い、弱い」

「私たちもその分、歳を取ったのね」

「そうだね。子どもの頃なんかは走っていられた距離で、休憩を入れないといけないような歳に、なってしまった」

「いつかは花火も見られなくなってしまうのかしら」

「寂しいこと言うなよ。もし小百合が歩けなくなったら、おらがどこまででもおぶって見に行くさ」

「本当に?」

「本当だとも」

 

 小学五年生くらいの子どもが三人、笑いながら走って行って、行きましょうか、と小百合が立ち上がった。

 見上げると満天の星が見えた。

 うん、と返事をして、小百合から伸ばしてきた手を、そっと握った。




 そわそわしている小百合に、もっとそわそわしているおらが言ったんだった。


「落ち着いて」

 

 何の説得力もないとは、このことだ。

 初孫だ。

 息子が初孫を連れて帰ってくるのだ。

 そりゃあそわそわもするだろう。

 

 なんの偶然か、孫も息子と同じ十二月に生まれた。

 と言っても、雪は降らなかったと聞いた。

 東京では雪の時期ではないのだ。

 夜に産気づいて朝に生まれたそうだ。


 息子のお嫁さんは神奈川出身だったので、出産前後の家のことや、赤ん坊の世話の手助けは向こうの親御さんに任せっきりになってしまって申し訳なかった。

 そう電話で告げると、要約すると気にしないでくださいという返事がきた。

 明るいというのか、豪放磊落というのか、どっしり構えた母親と、その母親がいるからそう見えるのか、少しおとなしめで堅い感じの父親、という印象だった。

 聞いたら向こうも初孫だということで、少しの親近感も湧いたのだ。

 福島自慢の桃を贈ったらお礼の電話が来て、美味しかったというのでこちらとしてもうれしく、以来毎年贈るようにしている。

 

 向こうの親御さんはもう慣れたものだろうが、写真でしか見たことのない初孫が、可愛い可愛い初孫が、新幹線とバスを乗り継いで、やってくるのだ、初孫が。

 息子とそのお嫁さんが連れてくるのだが。

 湯飲みを口に運んで、空か、とおらはつぶやいた。


「孝雄さん、お互い落ち着きましょう。お茶、淹れますね」

「うん、頼む。……女の子か。おらが抱っこして泣き出したらどうしようか」

「大丈夫よ。マルコさんの子どもも泣かなかったでしょ。腕は衰えてはいないわよ」

「そうか、そうだな。おら、この歳になってこんなにドキドキすることがあるとは、思ってなかったよ」

「私も。ねえ、見て。お茶を注ぐ手が震えてるの」

「もう来てもいい頃なんだけどな」時計を見て、おらは言った。

「そうね」妻もつられて時計を見て、ふうと一息はいた。

 

 待ち人が来るまで、実際は何もしていなかったように記憶しているが、小百合がテレビをつけて、二人で見るでもなく見た。

 玄関のほうで人の気配がして慌てて行くと、戸の前でベビーカーから赤ん坊を抱きあげているシルエットが見えた。

 顔を見合わせたよ。

 笑っていたんだ。


「ただいま」

「お帰り」

「お義父さん、お義母さん、ご無沙汰してます」

「いい、いい。気にしないで。長旅で疲れたでしょう。さあ、上がって、休んで」

 

 おらが言って、それじゃあと息子夫婦が靴を脱いでいるとき、孫と目が合った。

 この人たちは誰だろう、と言う目でおらと小百合を交互に見た。

 その可愛いことと言ったら。

 もしもおらが北島大三郎だったら『お祭り』でも歌っただろうけど、パクリじゃ芸がないので、心の中でこの歌を歌った。

 

 フェースティバル、フェスティバル、フェスティバル、初孫フェスティバルー。

 

 『お祭り』のメロディーにのせて、だ。


「お父さん、お母さん、抱っこしてみる?」

 

 仏壇にお線香をあげた後で、茶の間で、飲み物を出したり手土産のお菓子をもらって、悪いわね、気を遣わせちゃって、なんてやり取りをしてから、息子が言った。

 待ってましただったのだが、やっぱり少し怖かった。

 おらが躊躇していたら、小百合がすっと手を伸ばして、先に抱っこした。


「かりんちゃん、おばあちゃんですよ」

 

 初めて孫を抱く小百合。

 孫は覚えようとしているのか、まじまじと小百合の顔を見ていた。

 なかなか離そうとはしなかったのだけど、次はおらの番だ。


「泣かないでね、泣かないでね。おお、よしよし」

 

 小さくて柔らかくて温かい。

 赤ん坊だ。

 おらのときも、まじまじと顔を見ていた。

 気がつくと、息子がおらを見て笑っていた。


「なんだ?」

「お父さんがしまりのない顔してるから」

 

 それを合図に妻とお嫁さんも笑った。

 おらも笑った。

 初孫だ。

 可愛いんだ。

 そりゃしまりのない顔にもなるだろう。

 どんな顔になろうが、おらは孫をあやし続けた。

 

 それから転勤が決まって家族で福岡に引っ越すまで毎年夏に、福島に孫を連れて帰省してくれたんだ。

 歳を重ねるごとに成長していくかりんに会うのが、どれだけおらたちの楽しみになったことか。

 でも、転勤する前、最後の夏に、おらは身を裂かれる思いをしたんだった。




 おら、いやな予感がしたんだ。


 静まり返った朝方に、唐突に鳴った電話のベルに。

 だから受話器を上げる前に、唾を飲み込んだんだ。

 外れてくれればいいのに、こんなときに限って当たってしまう。

 すぐさまマルコさんに電話をして、田んぼに出る前のマルコさんを捕まえて、うちに来てもらって小百合の元へ車を走らせてもらった。

 マルコさんはあらかたの事情を知っているから、おらが、


「こんな朝早くにごめんね」

 と謝る前に、

「大丈夫ヨ、孝雄さん。神様、ちゃんと見てる。大丈夫」

 なんて励ましてくれたんだ。

 

 こんなときは、焦っているからか、やけに信号に捕まるような気がして、でも頭が心配でいっぱいだからか、時間の速度が速くて、いつもより早くに病院に着いた気がした。

 病院では、もう走れるほど若くはないから、早歩きで病室に向かった。

 それでも精一杯だ。

 病室に着くまでに状態の説明を受けたんだけど、聞くまでもなく、看護師さんの顔が如実に物語っていたんだ。

 そう、おらは妻の最後のときに、立ち会うことはできなかったんだ。


「小百合、ありがとう」

 

 それだけ、ただそれだけしか、言葉が出なかった。

 おらは泣かなかったのに、マルコさんが大泣きして看護師さんに病室の外に連れていかれるほど取り乱したから、おら、息をこぼすように笑ったんだ。

 そうしたら、涙が出てきた。

 老眼鏡をはずして、拭って、あらためて小百合の顔を見たら、嘘でした、冗談、私は元気よ、なんて笑ってくれそうな顔をしていたんだ。

 もちろんそんなのの大半はおらの願望だ。

 その後は、霊安室に行ってだとか、葬儀屋と葬式の話をしたりだとかを、否が応でもしなくてはならなくて、おらはぼんやりと、現実はなんて残酷なんだ、なんて思ったりもした。

 

 昼飯はマルコさんが作ってくれた。

 マリーさんや子どもたちも電話をしたらすぐに駆けつけると言ったそうなのだが、おらが電話を代わって、店のこともあるからと言って、ランチタイムが終わってからにしてもらった。

 客商売なのだから、常連さんや新規さんの足が遠のいてはいけない、と言うと渋々といった体で分かってくれたのだ。

 それでもおらとしては申し訳なく思った。

 思ったし、ありがたくも思った。

 おらに言われるまでもなく、客商売の大変さは知っているはずで、なのにおらの家の葬式に仕事を休んでまで手を貸してくれるその心遣いが、だ。

 おらひとりじゃ心許ないから、マルコさんたちにだいぶ助けられたなあ。

 

 マルコさんが皿洗いをしている間、おらはなんの理由もなく、小百合の顔を見ようと思って、見た。


「天国に行ったら、もう病気で苦しむこともないから、おらが行くまで待っててな」

 

 何も言わない。


「父ちゃんと母ちゃんには会えたか? あっちはどんなところだ?」

 

 返事はない。


「もう少しでかりんにも会えたんだけどなあ。頑張ったんだから、仕方ないな」

 

 遠くで水道と食器の音がするだけだ。


「じゃあな」

 

 いつしか立ち上がるときによっこいしょと言うのが癖になり、茶の間に戻るとティッシュで洟をかんだ。

 マルコさんは皿を洗い終えても台所から離れずにいてくれたんだ。

 



 おらは黒いネクタイを締めている。

 一年ぶりのかりんは、一年分大きくなっていた。

 ああ、そうか。

 マイクの前に立って、おらはこれから喪主の挨拶なんて柄にもないことをするんだ。


「本日は、妻、小百合のためにご足労いただきまして、ありがとうございます。最後は眠るように逝去しました。とても安らかな顔でした。こんなにも大勢に見送られて、妻もよろこんでいると思います。妻に代わって、御礼申し上げます。本日は誠にありがとうございました」

 

 声が小さくて、つっかえつっかえで、格好の悪いことと言ったら。

 でも、ひとりひとりの顔を見ながら、言ったんだ。

 それは言葉で説明できるような理解ではないだろうけど、おばあちゃんとは、小百合とは、もう会えないって、十歳なんだ、感覚的には、かりんにも分かるはずだ。

 きょとんとした顔で、ちょこんと座っているかりんは、笑っている小百合の遺影を見ていたんだ。

 

 孝雄君、そう呼ばれて、振り返った。

 さん、ではなく、君。

 あの頃の小百合がいた。

 小百合ちゃん、だ。おらもあの頃のおらだった。

 また会えた。

 また会えたんだ。


 目が覚めると、涙がこぼれた。





どうでしたか? どんな感想をお持ちになられましたか?

面白いならもちろん、つまらないでも、もっとこうしたらいいんじゃない? でも、

感想を聞かせていただけたらうれしいです。

次回で最終回です。私はこの小説でなろう投稿二作目なのですけど、

最終回は、やっぱりちょっと寂しいですね。

読んでくださった皆様の心に響くような、そんな最終回にしたいです。

では、またお会いしましょう。

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