4.不死の王 止めを刺すは 魔導砲
私は洞窟の前で仁王立ちとなり、魔導砲の発射態勢に入っていた。"励起環"、"共鳴環"、"誘導環"の三つの魔法陣を発生させ、カウントダウンまで持っていく。
「発射10秒前。9、8、7、……」
ここで、不死の王が、ゆらりと洞窟の入り口に姿を現した。ついに、外に出てきてしまった。でも、私のカウントダウンが終わるまで後3秒。何とか間に合った!
「3、2、1……こ、れ、で、も、食らいなさい!! ――魔導砲、発射ぁっ!」
私は光球を支えていた"誘導環"を解放した。次の瞬間、私の目前で最大限に充填されていた光球が自己崩壊を起こし、一気に小さく縮んでいく。
一瞬の静寂の後、不死の王めがけて光球から青白く輝くエネルギーの奔流が吹き出していった。吹き出した際に一旦広がった奔流は、進むに従って螺旋状に旋回を始めて集束し、光量も勢いも増して突き進んでいく。
その様子を見た不死の王は、おもむろに右手を前に出して、なにやら魔法を唱えたように見えた。
『…………ッ!』
どうも先程の防御呪文を使用したらしく、"魔導砲"のエネルギー流が、球形の防御フィールドに弾かれて周囲に広く吹き散らされていく。そして、その余波によって土煙が大きく上がり、周辺を覆い隠していった。
その姿を見て、私は驚愕の念を隠すことができず、思わず叫んでしまう。
「"魔導砲"まで弾くと言うの!?」
◇ ◇ ◇
十数秒後、"魔導砲"の放射は静かに終わりを迎えていた。大きく広がった土煙はまだ収まっていないが、高熱を帯びた岩壁が冷めていく音がする他は、周りは静寂に包まれている。
「やった!?」
"浮遊"を解除し、地上に降り立った私が一言呟くと、それに応えるように土煙の中から笑い声が聞こえてきた。
「ふふふふふ……ははははは……」
最初は小さな含み笑いであったのが、次第に大きな哄笑に変わっていく。
「はーっははははは……はーっははははは!」
土煙が晴れると、そこには、まだ人影が残っているのが見えた。
「そんな……あれを……防いだ!?」
私が思わず一歩後ずさり、呆然として呟く。
しかしよく見ると、さすがに無傷とは行かなかったらしく、不死の王が着ていたローブは吹き飛び、彼の片手は失われており、全身に細かなひび割れが入っているのが見えた。
そして何より、先ほどまで不死の王を取り巻いていた禍々しいオーラが消えてしまっている。
「くっ……」
「シャイラさん、待って!」
起き上がって斬りかかろうとするシャイラさんを、私は手を横に差し出して制止する。
不死の王は私の方を見て、口を開いた。
「小娘……いや、遙か未来の魔術師よ。名は何と言う?」
「アニー。アニー・フェイよ」
「ふむ。アニーよ。今の魔法は何だ? 山ごと吹き飛ばすとは……」
不死の王は、自らが出てきた洞窟の入り口の方を振り向いた。ついさっきまでは、そこには洞窟の入り口があり、その上には小さな丘と、かつて館であった遺跡が存在していた。
しかし今は、"魔導砲"によって完全に吹き飛び、綺麗さっぱり無くなってしまっている。
「魔力共鳴増幅誘導放射術、通称魔導砲。励起環、共鳴環、誘導環の三つの魔法を同時に唱えて使う術よ」
「面白い……実に面白い。我が書斎に籠もっている間に、世の中の魔術はこうも進んでいたのか」
不死の王は一歩前に出ようとするが、足の骨が折れてがっくりと膝をついた。
「ここまでか……アニーよ。そなたに我、ヴィルヘルム・フォン・ホーエンハイムの全てを託そう。有意義に使うとよい」
不死の王の全身のひび割れが更に進行し、ポロポロと崩れ始めている。
「汝なら、我が届かなかった高みに届くかもしれぬな。――さらばだ!」
そして上半身から崩れ落ち、彼の全てが崩壊する。
もはや、骨片や布の切れ端などの小山にしか見えない、不死の王の遺留品の中に、小さい冊子が残っているのが見えた。
私は近づいてそれを取り上げ、ぱらぱらめくってみる。
「これは……」
それは、従来知られていないような魔法も含んだ、様々な魔法の研究ノートだった。私は軽く埃を払うと、大事な物を扱うように慎重に自らの鞄に収納する。
「それにしても、ゴブリン退治の筈が不死の王が出てくるとはね。ホンっと、神様も意地悪だわ」
私たち以外、動くものはなにもなくなったダンジョン前で、ぽつりと呟いた私の声は風にかき消されたのだった。
◇ ◇ ◇
「――と言う訳で、わたし達は不死の王を倒すことができたのでした。どっとはらい。――もっとも、周りの山まで吹き飛ぶ被害が出ちゃったんですけどね……あーはーはー」
と、私は明るい声で報告を締めたのだった。
ここは王都にある冒険者の宿「歌う鷲獅子亭」。私たちは新米冒険者としてこの宿を拠点に定め、依頼を果たして帰って来た所だ。
新人冒険者が無事帰還した時に、無料で振る舞われると言うエールの木製ジョッキを片手に、受付嬢、兼、看板娘のニーナさんに対して、私は報告がてらに冒険談を披露していた。
カウンターのスツールに座っている私の横には、地元であるフライブルクから一緒に出てきたパーティメンバー達……剣士のシャイラさん、斥候のクリス、そして神官戦士のマリアが、並んで同様にエールのジョッキを傾けている。
なお、初心者支援として同行してくれていた魔術師のエマさんと戦士のリアムさんは、城門まで帰って来た時に、所用があるとの事で私たちと別れていた。
「……あれ?」
一通り話し終えた私は、それまで周囲から聞こえていた雑談の声が聞こえなくなっていた事に気付き、周囲をぐるりと見渡した。
正面のニーナさんは、目を口をぽかんと開けたまま固まっていた。シャイラさんは軽く肩をすくめていて、クリスはニヤニヤ笑みを浮かべ、マリアは首を傾げている。
そして背後のテーブル席についていた幾つかのパーティの人達は、全員私の方を無言で見詰めていた。
そして唯一、カウンターにほど近いテーブルに座っていた一団の、私より三つ四つくらい年上……つまり、二十歳そこそこに見える戦士の男性だけが、絞り出すように一声だけ発した。
「……い」
「――い?」
私は、首を傾げる。その戦士は、ようやく呪縛から解き放たれたかのように、私に向かって大声を上げたのだった。
「いやいやいやいやいや! おかしいだろ!?」