33.まず最初 ねじ伏せるのは 数の暴力
新刊3本同時投稿中です。下部にバナーを貼ってありますのでぜひご覧下さい。
他2本は30話で一旦打ち止めですが、本作はあと数話続きます。
※ 連続投稿終了寸前ですが、今週は都合により投稿時間が一定しません
ついに、ドッペルゲンガー率いる魔族の集団と、私達冒険者集団との戦いが始まった。
一旦、状況を整理してみよう。
中央広場の少し奥側、メイドが収監されている檻の前に、ドッペルゲンガーが陣取っている。そして、グレーターデーモン3とレッサーデーモン10、インプ50弱くらいが、ドッペルゲンガーの周囲の上空、建物で言えば2階から4階くらいの高さの空中に分散してたゆたっている。
それに対して冒険者集団は、まず私達の一行4人がドッペルゲンガーの目の前、15m程の場所に位置している。Aランクパーティ黄銅の戦車団の5人が私たち左後方に、Bランク以下と思われる3パーティがやはり私たちのやや後方に位置取っている。
――成り行きで指揮を執っているけど、私たちはCランク上がりたてパーティだから、この中ではたぶん一番下っ端なんだけどね?
さて、ドッペルゲンガーの号令に応じて、空中の魔族共は分散して空中から包囲する形に移動し始めていた。
これは余り良くない体勢だ。私たちは隠れるところもない広場で、全方向から好き勝手撃たれてしまうと避けることが難しい。
特にインプがまずい。せいぜい弱めの"魔法の矢"しか飛んでこないとは言え、当たり所によっては一発でも致命傷になりかねないし、50匹近くいるとまさに矢衾だ。
しかも、普通の魔術師では、インプに有効な魔法はそんなにない。弱いと言っても"魔法の矢"や"火球"一発じゃ沈まないし、"爆裂弾"では弾速が遅いから当たりづらい。それ以上だとコストパフォーマンス悪いしね。
うん、とにかくまずはインプを減らす事を優先しよう。
◇ ◇ ◇
「わたしはまずインプを減らすから、その間、ドッペルゲンガーの相手をよろしく!」
まず私は自分のパーティメンバーにお願いする。
「ああ、分かった」「正義は負けません!」「へいへい」
「ほぼSランクだからね? マジで強いから気をつけて。魔法も強力だから、使う余裕を持たせないように!」
快諾するシャイラさん、マリア、クリスに念を押し、次は他のパーティ達の方を向く。
「私が一気にインプを減らします。飛び道具を持っている方は協力をお願いします。でも、本番はレッサーとグレーターデーモンなので、魔力の浪費は避けて、少しの間耐えて下さい!」
「できるのか!? すまん、頼む!」
彼らが了解してくれたのを確認し、次いで空中の魔族達を見渡した。
まず散開して包囲してきたインプ達を見ると、そろそろ魔法を出してきそうな気配に見える。幸いにも、レッサーデーモン、グレーターデーモンは鷹揚に動いていて、まだ展開中だ。彼らが攻撃位置につくまでに、なるべくインプ共を減らしておかなくっちゃ!
私は杖をとんと地面に降ろすと、魔法の詠唱を開始した。
「"マナよ、雷をまといし矢となりて我が敵を討ち倒せ"」
これは私のオリジナル魔法の一つ。攻撃力そのものは"魔法の矢"と大差ないんだけど、気絶効果がおまけでついている。
私は意識の内で五重の回路を形成、魔法を詠唱する事によって、五つの魔法陣を同時に生み出した。
「なっ……魔法陣が複数!?」
普通の魔術師ではできない芸当らしく、それを目にした他のパーティの魔術師達は私の方を二度見したりして驚きを表している。余所見して攻撃食らっても知らないよ?
「――電撃の矢!」
私は魔法を完成させ、インプ達に"電撃の矢"を撃ち出した。
自分に向かって飛んでくる"電撃の矢"を見たインプは、身を翻して避けようとするが、私の誘導に従って"電撃の矢"は軌道を変え、確実に命中していく。
そして当たった瞬間、インプはビクンと硬直し、そのまま地上に落ちていった。これこそが電撃によるスタン効果だ。
「落ちたインプは死んでません。止めを!」
「おお、分かった、魔女様!」
私の声に応じて、手持ち無沙汰だった戦士さんが近くに落ちたインプをすかさず仕留めてくれた。
あとはその繰り返しで、ものの5分のうちにインプ達は全滅していったのだった。
もっとも、言うほど楽勝ではなくって、レッサーデーモンやインプが私に向けて放った"魔法の矢"や"火球"をひらりと避けたり、グレーターデーモンがど派手な攻撃魔法を唱えようとしている所を"電撃の矢"で妨害したりと、辛うじての完封ではあったんだけどね。
他のパーティの人達も、"魔法の矢"や"火球"を受けた人はいるようだけど、軽傷止まりで戦闘不能に至っている人はいないようだった。
◇ ◇ ◇
『Իջիր գետնին!』
あっと言う間に全滅したインプを見たドッペルゲンガーは、苦虫をかみつぶしたような表情で短く命令を下した。その命令を聞いたレッサーデーモンとグレーターデーモン達は、一気に高度を下げ、冒険者達に斬りかかっていく。どうも、一方的に私から魔法攻撃を食らう事を嫌って、地面に降りるように命じたようだ。
でも、おかげで一方的に様々な方向から魔法攻撃を受ける事が避けられた。流れ弾に気をつける必要は残っているけど、リスクは激減したと言っていいだろう。これで、ドッペルゲンガーに集中する事ができる!
と、ドッペルゲンガーの方に視線を向けると、シャイラさん達はドッペルゲンガー相手にうまく立ち回って、奴の攻撃を凌いでいた。
ドッペルゲンガーの剣は人間離れした身体能力により、かなり重いようだ。その剣筋自体も、生来の物なのか、どこかの達人から吸い取った記憶なのか、かなりの鋭さを見せていた。
「お嬢さん、若いのになかなかやりますな」
「お褒めにあずかり光栄。剣術で無様な姿は見せられないので、ね」
それに対し、シャイラさんは防御重視で左腕の盾を上手に使っている。まともに受けると腕の骨を折りながら吹き飛ばされそうな打撃を、その勢いをそらしたり、身体を浮かして衝撃を逃がしたりしていなしていた。
「む、では、こちらはどうかな?」
「させませんっ!」
マリアの戦い方は、まさにその対極だ。フルプレートでかなりの重厚さを持つとはいえ、ドッペルゲンガーの攻撃は鎧で受けられるような打撃じゃない。迫り来るドッペルゲンガーの剣に対し、巨大な両手斧を振るって正反対のベクトルでぶつける事によって、見事にはじき返す事に成功していた。
「しぶといな。――『Ֆլեյմի նիզակ!』」
なかなか剣の攻撃が通らない事に業を煮やしたのか、ドッペルゲンガーは僅かに下がって左腕を挙げ、魔法を使おうとしていた。手の平の前に血の赤の紋様環が現れ、そこに輝く炎が生まれ、成長しようとしている所で……
「させへんでぇ!」
と、クリスの右手から鞭が飛び、ドッペルゲンガーの顔面を襲っていた。目の付近をしたたかに打ち据えられ、たまらず魔法は中断、紋様環も炎も四散する。
「むうっ! この小娘がッ!」
ドッペルゲンガーは怒りの表情でクリスの方へ向き直るが、その時には既に、彼女はシャイラさんとマリアの後ろに下がっていた。
あ、背後の檻の中のいる、粗末な囚人服を着せられたメイドさんは、檻の奥の方で縮こまってはいるものの、気丈にも祈りを捧げているようだった。ともかくドッペルゲンガーを倒さないと、救出しようもないから、今は堪え忍んで貰うしかないなぁ。
「お待たせ! さあ、行くよ!」
丁度そんな所に、私は合流したのだった。
◇ ◇ ◇
「マリア、ポジションチェンジ! 後衛で防御回復と、周囲の警戒に当たって! クリスは短剣で! 削るわよっ!」
「分かりました!」
「はいなぁ」
私の指示に従って、陣形を変更する。クリスは鞭を手放して腰から二本の短剣を抜いている。シャイラさんは打刀を防御重視の片手持ちから、攻撃重視の両手持ちに切り替えていた。
「"マナよ、彼の武器に宿りて敵を打ち倒す力となれ"――魔力付与」
その間にも私は、クリスの短剣に対して、武器を強化する魔法を唱えている。クリスの二本の短剣を覆うように魔法陣が現れ、それが消失した後には刃の輝きが一段と増していた。ちなみにシャイラさんの村正は、もともと強烈な魔剣のようなので、私の魔法は必要無い。
「さ、仕切り直し。これからが本番よ!」
「ふん、それはこちらの台詞だ。たかがインプ共を一掃したからと言って調子に乗るなよ?」
両手を広げて迎え撃つドッペルゲンガーを半包囲し、私達は斬りかかっていったのだった。
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