27.尾行には 事情聴取 しないとね
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城館に招かれた私たちだったが、退出して宿屋を探しに移動中、クリスが私たちだけに聞こえるような声でぽそりと呟いた。
「うちら、尾けられてるわ」
勿論、それにあからさまに反応するほど初心じゃない。表情を変えないようにクリスに確認する。
「何人?」
「二人、やな。割と手練れやで。でも教科書通りやから、やりようは有るわな」
「じゃ、ちょいとそこを曲がって、事情聴取?」
「せやな」
尾行のセオリーはクリスから聞いた事がある。
例えば二人組の時、尾行対象者が路地のような所に入った場合は、一人は別の道を急いで進んで回り込み、もう一人はそのまま尾行を続ける。
ただここで、対象が路地に入って直ぐの所で待ち構えてしまっていた場合、尾行している事がバレてしまうから、尾行者は路地には入らないのがセオリーだ。
私たちはひょいと路地に入って行った。少しだけ入ったところで散開し、壁際に張り付いていく。
もちろんそのままだと、路地を覗かれるとバレバレ。尾行者は気取られないように路地には入らず、そのまま通り過ぎてしまうだろう。
だから、意表を突かなきゃならない。
「"マナよ、総ての光を歪曲し、いかなる者から不可視とせん"――不可視」
私は対象を不可視化する魔法を唱え、私を含めた全員を隠していった。
全員透明になった所で私も壁際に待機し、尾行者がやってくるのを待つ。
ものの一分も経たないうちに、路地を横目に通り過ぎる人影があった。20代ほどの普通の服を着た若者だ。
セオリー通りに路地に入らずに通り過ぎたものの、私たちの姿が見えないことから、慌てて戻って路地に入ってきた。
うん、尾行者で間違いないね。
彼が私たちの前を通り過ぎたところで、私はパシッと指を鳴らした。それを合図に、全員の不可視を解除する。
「なッ!?」
「こんにちは、お兄さん?」
愕然とするお兄さんに対し、満面の笑みを浮かべて声を掛ける私。他の面々は逃亡を阻止するように周囲を囲む。絵面はまるでカツアゲだけど、年若い女の子集団が年上の男性を囲んでいるんだから、セーフだよね?
尾けていたの、分かっているよ?と言った風情で見つめていると、お兄さんは諦めたかのようにがっくりと肩を落とした。うん、素直で結構。
「分かりました。自分は城の者で――」
お兄さん曰く、自分はワレンティア城に属した武官であり、その任務は"フライブルクの魔女"が街を出るまで陰ながら護衛し、街の者とトラブルが発生しそうになった時は未然に阻止する事、なんだそうだ。
「護衛を申し出たり、騎士団で明示的に護衛したのでは、拒否される可能性が高いため、失礼ながら勝手に護衛させていただいておりました」
確かに筋は通っている。護衛させてくださいと言われても、紐付きは鬱陶しいから拒否しただろう。特に騎士なんて目立つのを引き連れては、ね。
私は少し考えた後、護衛を了承する事にした。
「分かりました。護衛は許可します」
「ありがとうございます!」
「ただし、尾行のレベルを落として、私たちには分かるけど、周囲の人にバレない程度にしてください」
見え隠れしていると気になるからね。別口で尾行されてたら分からなくなるし。見える範囲に居てくれた方が安心だ。
お兄さんは躊躇していたが、最終的にその条件で同意してくれたのだった。
お兄さんを路地に残し、私たちは再び大通りに出ようとした。しかし、ふと立ち止まった私は、お兄さんの方を振り向く。
「あ、そうだ」
怪訝そうな顔をするお兄さんに、私は笑みを浮かべて質問したのだった。
「ついでに、いい宿屋あったら、教えてくれません?」
◇ ◇ ◇
「やれやれ、やっと落ち着けた! 揺れないベッド、サイコー!」
教えて貰った宿屋――そこそこ安く、でも安全は確保されている冒険者向けの宿――に入った私は、ベッドの上に飛び乗った。四つのシングルベッドと、鍵が掛かる衣装箱が設置された、冒険者パーティ向けの部屋だ。
なお、四階建ての一番上、天窓がある屋根裏部屋にして貰った。天井が低いからやや狭苦しい。でも、後々の事を考えて、わざわざこの部屋を選んだわけだ。
普段から平服同然の私と、ソフトレザーを着ているクリスはベッドに飛び乗る事ができるんだけど、堅いハードレザーのシャイラさんとフルプレートのマリアは勿論これができない。とりあえず、鎧を外して平服に着替え始めている。
そして、着替え終わった後も姿勢良く椅子に座っているシャイラさんを除き、私たちは行儀悪くベッドに寝転んだ状態で、状況の整理を始めたのだった。
「さて、あの伯爵夫人、どう思う?」
私のお題に最初に答えたのはシャイラさん。地元ではわりといいとこのお嬢様だったからか、お貴族様の無責任な行動に対しては非常に手厳しい。
「全く駄目だね。代行とはいえ、一つの領地を治める責任感が完全に欠けている」
「まあ、見るからに傀儡っぽいわな。黒幕は執事かいなぁ?」
「でも、邪悪な気配は感じませんでした!」
まあ、見るからにそんな感じだったよね。そりゃまあ、前領主が亡くなったのが半年前とかで、突然代行の地位に就かざるを得なかったと言うのは、同情の余地があるけどさ。
「ま、これ以上ちょっかい掛けて来ないんだったら、どうでもいいんだけどさ」
「確かに、その通りだね」
私の言葉に、苦笑して肩をすくめるシャイラさん。私たちは正義の使徒って訳じゃないし、この街の人々に責任がある訳じゃないからね。
「あと、ちょっと気になるのがさ――」
次いで私は、密輸船で目撃した、領主とメイドらしき姿について説明した。
もし、メイドが領主を誘拐していたのだとすると、領主を盾に自分の身を護ろうとするだろう。しかし逆に領主を護るようしていたし、領主自身も、助かったと言う安堵の表情ではなく、私に対して怒りを覚えているような目で見ていたんだよね。
「確かに、それは妙だね」
シャイラさんは呟き、手を顎の下に当てて考え込む仕草を取った。美人だけに実に絵になる仕草……なんて、考えている場合じゃないんだけど。
「不安定な領主代行、専横に振る舞う佞臣、そして、力の無い年若な領主。お家騒動としてはよくあるパターンだね」
へえ、紅茶の国の話なんだろうけど、こっちでも結構通ずる所があるみたい。
え、でもちょっと待って。そんな時に、領地外にメイドと共に領主がいた。もし、これが、誘拐されたんじゃなくて、自ら脱出しようとしていたんだったら?
私は、変な方向に行き始めた自らの考えに、胃の辺りがきゅっとなるのを感じたのだった。
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