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26.伯爵夫人 根掘り葉掘りと 聞いてきた

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 密輸船とおぼしきジーベックを足留めした私は、伯爵夫人の招待を受けて新市街の城館に案内されていた。


 50代とおぼしき、白髪交じりで長身細身ナイスミドルの執事さんに案内されてダイニングルームに入り、長いテーブルの上座に近い場所に案内される。そして、その上座には、既に一人の女性が席に着いていた。


「わたくしの招待に応じて頂きありがとうございました。どうぞ、お掛け下さい」


 その女性の言葉に応じて席に着く私たち。見たところ、二十代後半……三十歳は行ってないかな? 少し癖のある柔らかい金色のロングヘアをなびかせ、黒の喪服を身に纏っていた。

 スレンダーで非常に美人さんではあるんだけど、線が細そうな感じに見える。


 この人が伯爵夫人なのかな?


「申し遅れました。わたくしがワレンティア領主代行を勤めているフロレンティナと申します」


 私たちを案内してきた執事さんは夫人の脇に進み、腰を屈めてなにやら耳打ちし始めた。視線の動きを見ると、私たちの紹介をしているようだ。


「"フライブルクの魔女"様」

「はい?」


 名前を呼ばれて小首を傾げる私に対して、夫人は深々と頭を下げた。


「わたくしの息子、ワレンティア領主レアンデルを助けていただき、ありがとうございました。深く御礼申し上げます」

「い、いえいえいえ! 私は気に障った船を殴っただけで、大した事は……」


 一応、魔女()は、この国では世俗の権威に従う事は無い、という定義になっているので、相手が伯爵だろうが侯爵だろうが、欠礼を咎められることは無い、らしい。

 とはいえ私は根が庶民だし、そうは言われてもやっぱり落ち着かない。

 慌てて腰を浮かしつつも、夫人が告げた言葉を理解した私は、失礼にも大声を上げてしまったのだった。


「え、あの船には領主が乗っていたんですかぁ!?」

「は、はい」


 急な大声に驚いたのか、夫人はなぜかそこで固まってしまった。一応、私の無礼はスルーしてくれているものの、しばしの躊躇の末、助けを求めるように執事さんの方へ振り向く。


「奥様に代わって説明させていただきます。実は――」


 執事さんの説明によると、夫人の息子である8歳の現領主は、お付きのメイドに誘拐され、あの船で逃亡しようとしていたんだそうだ。発覚が遅れ、警備隊が船で追いかけようとしたものの、このままでは逃げ切られてしまう……と言った所で、丁度私がやってきて足止めしていった、と言うことらしい。

 そしてその説明中、ぼーっと曖昧な笑みを浮かべていた夫人。説明を終えた執事に耳打ちされると、改めて優しげな笑みを浮かべて口を開いたのだった。


「つきましては、些少ですがこちらをお納め下さい」


 その声に応じて、執事さんはどこからか取り出した小さな革袋を私の目の前の机にそっと置いた。かしゃんと言う金属質の音を聞いた私は、苦笑する。


「お金の為にやった訳じゃないんですけどね……」

「も、申し訳――」


 なぜか謝り始めようとしていた夫人に被せるように、執事さんが落ち着いた声でフォローを入れてきた。


「現金というのも不躾ではございますが、旅の途中という事でございましたら、嵩張らなくてよろしいかと思いまして。――ともあれ、奥様からの謝意の印をお受け取りいただけないでしょうか」


 まあ、折角の厚意はおとなしく受け取っておいた方が角が立たないだろう。


「ええ、まあ、そういう事でしたら、有り難くいただくことにします」


 と、私は革袋を取り上げ、クリスにそっと渡した。

 ちなみに私たちのパーティの金庫番はクリスがやっている。盗賊ギルドのお嬢だっただけに、防犯意識はパーティ随一だからだ。私やシャイラさんも、それなりに見破れるけど、クリスのスリ看破率は完璧に近い。


 クリスは革袋の底を片手で一瞬まさぐった後、そのまま懐に入れる。私を見る目が少し笑みを浮かべていたのは、結構入っていたからだろうか。


「…………」


 そして、また少し、不自然な沈黙が訪れた。夫人は、不安げに視線を左右にふらつかせた後、自らの組んだ手の内側にちらりと視線を走らせた。


「こ、今回はどのような御用で本領にお立ち寄りに?」


 唐突な質問だけど、まあ、隠す必要もない。私は正直に応えることにした。


「迷宮都市クエンカに向かおうと思いまして」

「ワレンティアには何日くらい滞在されるのでしょう?」

「明日の朝には出立したいと思います」


 なんだか、入国時の検問で事情聴取される気分になってきたな。これでご禁制の品物持ち込みはないですか?が来れば完璧だ。


「そうですか、ありがとうございます」


 そしてまた沈黙が訪れる。夫人がまた挙動不審にそわそわし始めた所で、業を煮やした私はこちらから退出を提案してみることにした。


「あの、宿を探さなくてはならないので、そろそろお(いとま)してもよろしいでしょうか?」

「は、はい! お時間いただき、ありがとうございました」


 伯爵夫人の顔を見ると、それはほっとした表情を浮かべていたのだった。



              ◇   ◇   ◇



 城館を出た私たちは、宿屋がありそうな界隈に向けて歩き始めていた。ちなみに、城館がある新市街は言わば高級住宅街であり、リーズナブルな値段の、冒険者向けの宿に泊まろうとしたら旧市街に向かうしか無い。

 先程の伯爵夫人の不自然な対応について話し合いたいとは思ったけど、流石に路上で領主代行の噂話をする訳にもいかない。というわけで、私たちはとりとめの無い話をしながら歩みを進めていた。


 そして新市街から大門を通って旧市街に抜け、繁華街に入ろうとしていた頃、クリスが私たちだけに聞こえるような低い声でぽそりと呟いたのだった。


「うちら、()けられてるわ」

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