25.密輸船? 仕留めてみたら 出迎えが
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ワレンティアでの船旅の途中、私は警備隊の船に追われるジーベックを目撃、空中から魔導砲を放つことで足止めしようとしていた。
「魔導砲、てぇっ!」
私が光球を支えていた"誘導環"を解放した次の瞬間、光球が自己崩壊を起こし、一気に小さく縮んでいく。
一瞬の静寂の後、リンゴほどの大きさにまで爆縮した光球から、青白く輝くエネルギーの奔流が吹き出していった。吹き出した際に一旦広がった奔流は、進むに従って螺旋状に旋回を始めて集束し、光量も勢いも増して突き進んでいく。
光の奔流はジーベックをかすめて右前方の海面に浅い角度で着弾し、船体を遙かに超える大きさの水柱が百数十メートルに渡ってカーテンのように巻き上がった。同時に発生した巨大な波に翻弄されながら、ジーベックは水柱に包まれていく。
水柱が消えると、ジーベックは再び姿を現した。しかしその姿はとても無事とは言えず、一枚の帆は破れて垂れ下がり、船体すべてと船員達はずぶ濡れになってしまっていた。
船の行き足も止まってしまっているから、再加速には時間がかかりそうだ。そもそも破れた帆では推進力も落ちてしまうから、警備隊の船を置き去りにする事はできないだろう。
結構これ、加減が難しいのよね。至近弾でも船を真っ二つに引き裂いちゃった事もあったり、逆に止められずに揺らしただけで終わったり。まあ、後者はもう一発行くよ?ってハッタリかませて降参させたけど。
ともあれ、今回は程よく止める事ができたみたい。
「さて、戻るとしますかね」
そこまで見取った私は、貨客船に戻る事にした。鞄にしまってあった杖を取りだし、再び跨がる。念のためジーベックの上空を経由して、船上の様子をうかがってみる事にした。
意外にも船員達はショック状態から抜けており、なにやら活発に作業を始めていた。大部分が船内に入っていったので、船の回復、と言うよりも、拿捕対策かも知れない。私がこれ以上攻撃する素振りを見せていないからか、彼らの殆どは私を気にする様子を見せず、自分たちの仕事に没頭しているようだった。
と、そこで新たに二人の人影が甲板から私を見上げているのに気がついた。一人は上品そうな服を着た8歳程度の少年、そしてもう一人は20歳前くらいのメイド服を着た女性だった。少年の方は歳に見合わない鋭い視線で私をみつめており、女性の方は、悲壮感を交えながら恨めしげな表情を示していた。
「密輸船か……あの二人が誘拐でもされてたのかな?」
仮にそうだったとしても、流石に私だけでジーベックの上に降りて、船員達と大立ち回りするつもりはない。あとは警備隊の連中に任せることにしよう。ただ、誘拐されていたのだとすると、もう少し嬉しそうな表情になりそうなものなんだけど……私、恨まれてる?
僅かに首を捻りながら、私は貨客船に戻っていったのだった。
ちなみに、魔導砲を初めて見たであろう貨客船の人達には、ちょっぴりビビられてしまったよ。まあ、仕方ないけど、ちょっと寂しいかな。
微妙に浮かぬ顔をしていたら、「初見ならしゃあない。見慣れるまで毎日一発ぶっ放したらええやん」とか「未知の物に恐怖を抱くのは人の性だよ」とか「正義とは時に孤独なものです!」とか、クリス達はフォローを入れてくれたんだけどね。
◇ ◇ ◇
そんな騒ぎを余所に、貨客船はそのままワレンティアの港に入港していった。ちなみに市街地は、港から1kmほど離れた内陸部の川沿いにある。港から街の方に行くには川を船で遡るか、川に沿って作られた街道を進むしかない。
もちろん私たちは歩いて向かうつもりだったんだけど、船が接岸した時には、ワレンティアの紋章を掲げた5~6人ほどの騎士達が待ち受けていたのだった。
「フライブルクの魔女様でいらっしゃいますか!」
私を先頭に渡り板から地上に降りたところで、一人の騎士が私に向かって敬礼してきた。敬礼、か。少なくとも逮捕拘禁という事じゃなさそうだ。
「まあ、そう呼ばれているわね」
「領主代行であらせられるフロレンティナ・デ・ワレンティア伯爵夫人から、城にご招待するように仰せつかりました。小官にご同行いただけないでしょうか?」
肩をすくめながら答える私に、彼は直ぐそばに停めてある馬車を指し示しながら、礼儀正しく提案してきた。
正直、面倒なだけで行きたくはない。でもまぁ、ぶっ放した後始末はしておいた方が良さそうだ。私は、パーティメンバーの3人の方を振り向くと、考えている事は同じなのか、肩をすくめたり、微笑んだり、板金鎧をガチャつかせながら大きく肯いたりと、少なくとも否定的ではない反応を示していた。
「分かりました。伺いましょう」
と、私たちはその騎士に案内されて馬車に乗り込んだ。
私たち全員が同じ馬車に乗り込んだ所で、最初に声を掛けてきた騎士が外から丁寧に扉を閉めた。そして騎士達は騎乗すると、私たちが乗った馬車を囲む形で移動を開始したのだった。
◇ ◇ ◇
カッポカッポと、二頭立て四輪の馬車は程よい速さで街道を進んでいた。騎士団が先導しているからか、街道を行く徒歩や荷馬車も私たちを避けてくれている。石畳の上ではあるが、高級馬車にしかついていないサスペンションが利いていて、実に快適な道のりだった。
丁度この時間を利用して、私たちはワレンティアについて情報を確認することにした。――と、言っても、このような世事に一番詳しいのはクリスであるため、彼女の説明を聞くだけなんだけど。
なんでもワレンティア領主であるイシドールス・デ・ワレンティア伯爵は半年ほど前に亡くなっていて、その忘れ形見である、デアンデルという6歳の少年が領主となっているそうだ。勿論、年少に過ぎるから、伯爵の夫人が領主代行を務めているんだとか。
「まあ、しっかりした後見人をつける話もあるらしいんやけど、まだ本決まりにはなってないみたいやなぁ――って、なんやいな、そのやる気の無い顔は?」
「お世継ぎ問題なんかに興味、ないからねぇ」
「ほな聞くなやっ!」
あからさまな顔で話を聞く私に、口を尖らせながらツッコんでくるクリス。
「これから、その伯爵夫人と面会するんだろうから、知っておく事に越したことはないさ」
「ま、ね」
シャイラさんの言うことはもっともなので、私も肯くしか無い。知らずにうっかり少年領主の前で、領主はどこ?みたいな事を言っちゃったら悪いし。
そんな話をしているうちに、私たちが乗った馬車はワレンティアの城壁で囲まれた都市部に入り、中の城館に到着したのだった。
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