24.不審船 なにはともあれ 吹っ飛ばす
新章開始です。
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私たち一行は、迷宮都市クエンカに向かうため、王様からせしめたチケットを使ってワレンティアに向かう定期便に乗船していた。
徒歩なら2週間ほどの、それも、油断したら盗賊やらモンスターに襲われてしまう旅が、寝てるだけで着いてしまう2日間で済むんだから、帆船様々としか言いようがない。
ともあれ船旅は順調に進み、ワレンティアが見える所までたどり着いていた。
「ん? なんだろ?」
見晴らしの良い船首楼に上がり、次第に近づいてくる街の城壁を眺めていた私は、こちらの方角にやってくる一隻の船に気がついた。
船そのものは怪しいところは無い、ジーベックと呼ばれる3本マストの高速船だ。しかしその後ろからは、数隻の小型船が追いかけているように見えた。
「紋章からすると、追いかけてるのはワレンティアの警備隊? でもこりゃ、追いつきそうにないかな」
追いかけている船は、小回りは利くんだろうけどトップスピードに難があるように見えた。つまり、快速自慢のジーベックには追いつけない、と言うことだ。
私はフライブルクでは警備隊に所属していたから、密輸船とかがああやって逃げているのはよく目撃してた。そんな時は、私が空から攻撃して足止めするように呼び出されてたんだけどね。阻止率が知れ渡ってチャレンジしようなんて連中が出なくなるまでは、非番中でも割とお構いなしだったなぁ……
あ、当時を思い出したら腹が立ってきたぞ。ついでに、私の目の前で逃げおおせそうになっているジーベックを見ていると、教育してやりたくなってきた。
「私の前からは、何人たりとも逃げおおせないわよぉ?」
私はおもむろに鞄から杖を取りだし、またがった。そして「浮遊」と「重力子」を唱え、飛行を開始する。
いきなり飛び立った私ではあるが、この航海中でも、やれイルカが併走してるとか、やれ鯨が潮を吹いてるとかで何回も飛び回っていたため、入港準備中で忙しそうに働く船員さん達は、驚きもしなかったようだ。
◇ ◇ ◇
ひらりと飛び立った私は、私たちの貨客船とすれ違ったジーベックの斜め後ろ上空に到着し、滞空しながら様子を伺う。
船上には多数の船員達が忙しそうに走り回っていた。船尾楼の舵輪の辺りには、私の方を見上げている、船長らしきガタイの良い中年男の姿が見える。
「さて、どうしようかな? 一応、呼びかける事にしようかな」
警備隊の頃は、まずは停船指示を出して、従わなかったときに威嚇射撃を行うルールになっていた。今はフリーだから、それに従う必要は無いんだけど、間違ってたらマズイからね。一応、停船勧告してみよう。
「出ておいで、シルフィーさん」
私の呼びかけに応じ、すぐ側に碧がかった半透明の女の子、風の精霊シルフィが現れる。
「あいつと私の音を繋いでくれる?」
私は眼下の船長を指さしながらシルフィに命じると、彼女は微笑みながら小さく肯いた。そしてその瞬間、私の耳元で船長の大声が聞こえてきた。思わず顔をしかめるが、船長は勿論、それに構わず叫び続けている。
「なんだアレは? いいから撃ち墜とせ! 弓出せ、弓!」
「あらあら、いきなり射かけようとは、随分なご挨拶ね?」
私はニヤリと笑うと、船長に声を掛けた。いきなり耳元で聞こえた声に、船長は驚いて周囲を見回している。
「な、なんだ!? どこから聞こえてきた?」
「目の前の"かわいい"女の子だよ?」
私は船長に向かって手を振ってから、よそ行きの声で語りかけた。
「事情は知らないんだけどさ、どう見ても警備隊から逃げてるあんた達を見逃す訳にはいかないのよね。とりあえず、停まってくれないかな?」
「なんだとぉ!? ガキが、大人の仕事の邪魔するんじゃねぇ! 構わん、撃て!」
船長の指示に応じた何人かの船員が、私に向かって矢を射かけて来始めた。もっとも、十分な高度を保っているから、ここまで届く矢は無さそうだけど…… ともあれ、これで遠慮無くこちらもぶっ放せるって事で!
「ほうほう、そう来ますか。じゃ、反撃、行くからね」
まずは威嚇射撃を行う事を決めた私は、それまで乗っていた杖から降りて空中で仁王立ちの姿勢になった。使うのは私の最大最強、そして最も長射程の魔法だ。
沈めるのなら他の魔法でもいいんだけど、相手の弓矢を気にしなくても良いほどの射程で、至近弾でも威嚇になるほど派手なのはこれくらいなのよね。まあ、密輸船を追いかける度にぶっ放していたおかげで、"杖に乗りて宙を舞い、光を放ちて山をも砕く"なんて言われるようになったんだけどさ。
おっと、目の前の相手に集中集中、と。私は余計な考えを頭から追い払って集中すると、一つ目の魔法の詠唱を開始した。
「"ここに在りしマナの力よ、その力、呼び出しに応じ、我が眼前にその姿を現せ"――魔力励起環」
私の目の前に、身長ほどの大きさの魔法陣が形成される。そして、蛍火のような光の瞬きがわき起こり、魔法陣の前に形成された薬室に向かい、次第に集まって来る。
次いで私は、二段階目の魔法の詠唱を開始した。
「"ここに集いしマナの力よ、その力、共に響き、共に奏で、その鎖に連なる理の力を高めよ"――魔力共鳴環」
最初のものと同規模の魔法陣が、魔力が集中しつつある薬室を挟み込むように形成される。"共鳴環"の効果により、薬室に蓄積された魔力とその輝度が相乗的に増幅し始める。
「薬室内圧力上昇。エネルギー充填70%、80%、90%……」
眼前の薬室が目も眩むような強烈な光を放ち、充分なエネルギーが充填された事を確認した私は、最後の魔法の詠唱を開始する。
「"ここに高まりしマナの力よ、その力、在るべき場所に留め、在るべき場所に流れ、在るべき場所に放たん"――魔力誘導環」
今度は二つの魔法陣の間、手前側の"励起環"寄りに、三つ目の魔法陣が出現した。これは、過剰に充填されたエネルギーを安定させ、過早爆発を防ぐための魔法陣だ。私は目標をジーベック右斜め前方に定め、カウントダウンを開始した。
「エネルギー充填120%、狙点固定! ――発射10秒前。9、8……3、2、1。魔導砲、てぇっ!」
そして私は、光球を支えていた"誘導環"を解放したのだった。
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