23.王様から 次の目標を 依頼され
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王様に聞かされた私に治外法権を与える理由、それは私が正義の魔法少女「ハニーマスタード」として活躍していた事もあったと言う事だった。そして若かりし頃の黒歴史を掘り出された私は、頭を抱えてのたうち回るしか無かったのだった。
「すまん、ちょっと話が逸れたな」
そんな私をニヤニヤ見ていた王様は、ひとつ咳払いをして真面目な表情に戻っている。
「Cランクに上げさせたのも理由はある。まず、単純にお前さん達の実力とランクとのギャップを少しでも埋めたかった事だ。延々とEランクだのFランクだのの仕事をさせるのがどうにも勿体なくてな。口を出させて貰った」
「冒険者として新米なのは間違いないんですから、もう少し下積みを重ねたかったんですけど……」
口をとがらせて控えめに抗議する私を、王様はあっさりと否定する。
「そりゃ贅沢な話だな」
「贅沢、ですか?」
「ああ。力がある人間がわざわざ新米向けの仕事をする必要は無い。本当の新米の仕事を奪うことにも繋がるからな。ま、もっとも、新米が受けたら大惨事になるような仕事ばかりだったから、結果オーライではあったんだが」
まあ確かに、本当の新米冒険者が請けたとしたら、結果として依頼人ごとまとめて全滅しかねない仕事ばっかりだったけど。
「まさか、王様が手を回したわけじゃないですよね?」
「オレが!? いやいや、神様じゃあるまいし、不死の王やトロル、盗賊団を都合良くぶつける事なぞできる訳がないだろう」
「まあ、そりゃそうですよね」
私の同意に頷きつつ、王様は二つ目の理由を口にした。
「そして二つ目の理由は、こうやって依頼を出したかったから、だ」
「指揮下にあるのはダメで、依頼なら問題無いんですか?」
「冒険者なら、依頼を断る自由があるからな。他国の依頼を請ける自由もあるぞ」
うーん、よく分からないけど、そんな物なんだろうか。
◇ ◇ ◇
沈黙している私を、納得したと受け取ったのか、王様は突然、とある街の名前を持ちだして来た。
「――所でお前さん、クエンカと言う街を知っているか?」
私は聞いた事のある名前に、少しの間考えを巡らせる。
「ええと、確か、迷宮都市、でしたっけ?」
この王都からはちょっと離れた――3週間ほどで行ける――街だ。街の近くにダンジョンがある事で有名で、ダンジョンによって経済が成り立っている。このダンジョンと言うのは、単なる地下牢という意味ではなく、無限にモンスターがわき出してくる迷宮を意味している。つまり、それを目当てにやってくる冒険者を受け入れたり、産出した物品の取引で賑わっている街だ。
「不死の王ヴィルヘルム・フォン・ホーエンハイム。クエンカは彼の縁者の旧領の一つである事が分かったのだ。そして、このダンジョンの主は、吸血鬼、それも自ら変化した真祖という話だ」
不死の王に真祖の吸血鬼、いずれも人間から変化できる高位のアンデッドだ。つまり、その吸血鬼も、不死の王の縁者である可能性がある、と言う事?
「なるほど、確かに怪しいですね。そいつの名前は分かっていないんですか?」
「残念ながら。ダンジョンとしては、中層までならそこそこ稼げるらしいのだが、最深部に向かうと急激に難度が上がる割には実入りが少ないらしくてな。わざわざ最深部まで行った冒険者は余りいないようだ」
まあ、手前でそこそこ稼げるのなら、無理する必要はないよね。高ランクなら高ランクなりにもっと実入りの良い稼ぎ場が他にあるだろうし。
「で、中層部以降に潜るには、王都の冒険者ならCランク以上に限定されている。クエンカ領主が決めた規定だからな。オレが横車を押すのはちょっと難しい。だから、Cランクに上げた方が早かった、と言う訳だ」
その街が商業として成り立っているのであれば、確かにランク制限は自然な規定ではあるだろう。無闇に突入して死なれたら、ダンジョンで稼いで街でお金を使ってくれる人が減るって事だからね。
「勿論、最深部はCランクがたどり着ける難度ではないが、お前さん達なら問題無かろう」
王様はそこまで一気に喋ると、さて、と一息ついた。
「オレからの依頼は、最深部まで踏破して、ダンジョンの主に面会する事だ」
「討伐じゃ無いんですか?」
「討伐して、もしダンジョンが機能停止してしまったら、クエンカが干上がってしまうからな。――と言うか、真祖なら、不死の王と同じくらい強いんだぞ?」
「あはは、確かに倒すのはキツいですね。なるべく穏便に進めますよ。――で、依頼の報酬はどうなるんです?」
冒険者として、依頼があれば報酬を確認するのは大事な仕事だ。私は指でお金を表す仕草を作って王様に見せた。
「報酬か……スマンが、指揮下に置けない以上、国庫からは出せんのだ。つまり、オレのポケットマネーから、と言う事になるのだが……」
一転して渋い顔になる王様に、私はしれっとした表情で追撃する。
「出元は何でも結構です。お代さえ頂ければ」
「分かった。成功報酬で金貨50枚。期限は定めない代わりに、手付け金はナシだ。この情報と、Cランク昇格の推薦が手付けだな」
「頼んでもないCランク昇格を恩着せがましく言われても困りますぅ。それにそれ、Cランクでも10日間くらいしか拘束できない額ですよね? 真祖の吸血鬼のモンスターレートは幾つでしたっけ?」
私の指摘に、王様は腕を組んでしばらくの間、唸りながら考え込んでいた。
「ぐ……む……分かった。金貨80枚に、手付けがワレンティアまでの往復乗船券だ!」
クエンカそのものは内陸にあるけど、途中のワレンティアまで船で行ったら、徒歩3週間が、船旅2日徒歩7日まで短縮できるからね。まあ、この辺が妥当な線か。
「毎度!」
もみ手をしながら笑顔で承諾する私を、王様はあきれた顔をして眺めている。
「お前さん、三件目の依頼でえらくたくましくなったな。クリス君の影響か?」
「せっかくCランクに上げて頂きましたし、私が勝手に安請け合いする訳にもいきませんからね」
お金の交渉はクリスの方が上手なんだけど、今は私一人だけだからね。頑張らないと。
「うーむ、依頼を受けて貰ってからCランクに上げるべきだったな……」
王様は、渋い顔をしながらぶつぶつ呟いている。と、そのとき、扉がノックされた音が響き渡った。
「なんだ、もう時間か? 入れ!」
王様の声に従って入ってきたのは、執事のルーカスさんだった。静かに室内に歩み寄ると、私に黙礼をした後、王様に声を掛ける。
「陛下、そろそろ次の予定が」
「えいくそ、仕方ないな」
やはり王様は多忙なようだ。王様らしからぬ汚い言葉で――逆に言えば、冒険者らしい言葉で――そう言い捨てながら立ち上がり、ルーカスさんと共に戸口に向かっていく。
「すまんな、バタバタして。そういう訳だからな、よろしく頼むぞ。手付けはルーカスから受け取ってくれ」
「はい、分かりました。準備ができたら出立しますね」
去りかけた王様だけど、扉を閉める寸前に、もう一度戻って顔を覗かせてきた。
「お前さんは自分が思うまま、自由に振る舞ってくれればそれでいい。ともあれ、冒険談を楽しみにしているぞ」
そんな訳で、私はクエンカ行きの依頼を受けたのだった。さて、宿に帰ったら皆に説明して、遠出の準備を始めなきゃ!
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