21.Cランク 認定されども 罠かしら?
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※ 2022/11/21 第1話冒頭にプロローグ部分を追加しました。ぜひご覧下さい。
先の冒険から数日後。まだ骨休みにごろごろしていた私たちは、おやつでも食べようかと、冒険者の宿「歌う鷲獅子亭」の酒場に顔を出していた。
私たちの顔を見た受付嬢兼看板娘のニーナさん、手をぶんぶんと振って私たちをカウンターの方に呼び寄せたかと思うと、いきなり勢いよく私の手を両手で握りしめた。
「皆さん全員のCランク、認定されましたよ!」
突然の報告に、目を丸くする私たち。
「は、はあ、ありがとうございます。ちょっと、展開が早すぎるような気もしますけど」
「ほんと、良かったですね! やっぱり、Cランクからは随分違うんですよ。認定には他の酒場の承認も必要など、それなりに高い関門があるわけですが、それをくぐり抜けているだけに利益の方も段違いで――」
うーん、数日前まで新米パーティ扱いだったのに、Cランクと言えば中堅最高位。なんだか、あっと言う間に出世してしまった気がする。私はCランクの事について語ってくれているニーナさんを見ながら、彼女とお忍び中の王様であるルディさんとの間で、数日前に交わされた会話を思い出していた。
◇ ◇ ◇
「――なるほど、アニー君が超Sランク、マリア君はEランク、シャイラ君がDランク、クリス君が……盗賊10人なら、Dランクかな。それぞれソロでそれらの敵を倒したという事か」
「そうなんですよ、ルディさん。それで、この娘達のランク評価をどうしようか考えあぐねているんですよね」
べったりとカウンターの上に倒れ伏して、頭を抱えるニーナさん。それに対してルディさんは、しばし考えた後に肩をすくめながら回答した。
「ふむ。パーティとしての評価は、ソロの場合の1ランク上で考えるべきだが……いっそのこと、全員まとめてCランクでいいんじゃないかな?」
「え、まだ依頼を二つこなしただけの新人パーティが、いきなりCランクなんですか?」
新人パーティに対するいきなりの中堅最高位の推薦に、ニーナさんは怪訝そうな顔をしている。ちなみに、ここ王都の「冒険者の酒場」組合の認定制度の場合、冒険者にはGからSまでのランクがある。Dランクまでは、組合員である各酒場が自由に認定する事ができるんだけど、Cランク以上は、組合の定例会で承認されて初めて認定されるんだとか。だから、他の組合員を納得させられる材料が無いとダメって事なんだろうね。
「その、新人パーティという所だがな」
ルディさんは、ごほんと一つ咳払いをして、話を続けた。
「お嬢ちゃん、フライブルクの邪教騒動は知らないか?」
「去年の末から今年頭の話ですよね? 確か、邪教集団の暗躍で、フライブルクに魔族が大量出没して、魔界に沈みかけたんでしたっけ」
「あれを解決したのは、こいつらだぞ?」
「え゛?」
目を見開いて固まるニーナさん。ルディさんはそれに構わず言葉を続けている。
「大量発生した魔族どもを率先して倒しまくり、最後の最後で降臨した、六大上級魔神の一人、バフォメットすら仕留めたと聞くが」
「いやいやいやいや、ルディさん」
後ろで話を聞いていたツッコミ君が席を立とうとする前に、私がツッコミの声を上げてしまう。
「そりゃまあ、私がバフォメットに止めを刺した事は否定しませんけどね。私たちだけの力じゃ、勝てませんでしたよ」
バフォメットが憑依した先であるシャイロックさんが、"自殺"に協力してくれたから滅ぼせたけど、そうじゃなかったら、とてもじゃないけど倒せてないし。
後ろでツッコミ君が、「止めは刺してるのかよ……」とか死にそうな声で呟いているけど、ま、気にしない。
「並の奴なら、バフォメットがどんな状態であっても毛ほどもダメージを与えられんぞ? だから、まずはCランク、と言う訳だな」
「わ、分かりました。ともあれ、店長に相談してみます」
「ああ。丁度今週、定例会があるだろう。オレの推薦だと言ってくれて構わない」
とまあ、私たちは割と置いてきぼりで、ルディさんとニーナさんで話が進んでしまっていたのだった。
◇ ◇ ◇
「アニーさん、アニーさん?」
おっと、回想中に話が進んでいたようだ。ニーナさんが首を傾げながら、私の顔を覗き込んでいた。
「あ、ごめんなさい、ちょっとぼーっとしてました」
「ちょっと勢いよく喋りすぎましたね。――えっと、Cランク以上は様々な権利もあるんですが、その代わり、義務も発生しちゃうんです」
「義務、ですか?」
「ええ、王城から指名依頼が来る事があるんですよ」
ニーナさんは、少し言い淀んだが、少し肩をすくめながら言葉を続けた。
「その、実は早速、アニーさん達のパーティに、王城から指名依頼が来ちゃってまして」
王様であるルディさんがゴリ押しした結果、指名依頼が出せるようになった。――と言うことはまさかルディさん、私たちに依頼を出す事が目的だった?
「これは……ハメられたかな」
ぼそりと呟いたが、幸い、ニーナさんの耳には届かなかったようだ。
「ちなみに、これ、断ったりできるんですか?」
「んー、断れない事はないですが、理由次第では、斡旋停止や、降格等のペナルティがついちゃいますね」
苦笑しながら話すニーナさんに、私は、ですよねー、と返すしかない。
「分かりました。えーと、どこに行けばいいんですか?」
「どんな時間でも構わないので、目立たないようにアニーさん一人で王城のルーカスさんを訪ねて欲しい、内容はそこで説明する、だそうです」
ルーカスさん、確か、王様に謁見するときに、私たちの世話をしてくれた執事さん、だったかな? ともあれ、話を聞くしかなさそうだ。心を決めた私は、カウンターに座っている他の面々に顔を向けた。
「何だか分かんないけど、とりあえず行ってみるよ。わたしのせいで皆を巻き込んじゃってたら、ごめん」
「なに、お陰様で波瀾万丈の人生を送れているからね。一蓮托生だよ」
「せや。こんな面白くなりそうな話には、一枚噛ませて貰わにゃ、ね」
「正義のためなら問題なし、です!」
肯定的に受け取ってくれるのは、ホント、助かるかなぁ。
まあ、ここ数回の冒険行で、私だけじゃ無くて、他の皆も十分新米離れしている事が分かったし、これは私だけの責任じゃない、のかも知れないけど。
などと考えながら、ともあれ私は一人で王城に向かったのだった。
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