17.定番の 荷馬車護衛も 強敵が
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定宿である、歌う鷲獅子亭に帰って来た私たちは、この国の王様が変装した姿のルディさんに対して最近の冒険談を語っていた。
「さあって、それじゃ、次の依頼の話に行きましょっか」
さっきのツッコミ君の声で、私たちが冒険談をしているのに気付いたのか、互いに耳打ちしたかと思うとゴソゴソとジョッキと料理の皿を持って、私たちにほど近いテーブルに席を移すパーティの姿も見え始めた。
ちなみに今の時間は、そろそろ日が傾き掛けた頃合いだ。夕食を摂るには少し早い時間で、この時間に酒場にいるのは、旅から丁度帰ってきて骨休めしているパーティか、もしくは一日中ダラダラと過ごしていたパーティかのどちらかだろう。
「次の仕事は、荷馬車の商人さんの護衛だったんですよ。初めての遠出ですね」
行き先は王都から4泊5日ほどの距離にある隣の街、イレルダ。一部山道は通るものの、整備された街道を中心に移動できるため、野宿も不要で比較的安全な旅路となる筈だった。
もっとも、行きも帰りもしっかりと問題が発生したんだけど、ね。
「と言うわけで、次の語り手はシャイラさん、かな?」
「ほう。何があったのかな?」
私の誘導に、ルディさんはシャイラさんの方に顔を向けた。
「私、か?」
唐突な指名に、シャイラさんは目を丸くしている。
ちなみに、シャイラさんはバーラト出身の剣士さんだ。長身で長い黒髪に黒い瞳、小さい頭にすっと通った鼻筋。少し気がきつそうに見えるけど、本当に美人さんって感じだ。
シャイラさんの装備は腰に朱鞘の刀を佩き、煮固めた革でできたハードレザーと、右腕に紅色の鱗のアームシールドを身につけている。同じ革鎧でもソフトレザーのクリスほどではなくて、身動き重視のやや軽装備って所かな。
「私は、別に大した事はしていないかな。――途中で現れた不届き者を斬って捨てた、ただそれだけだ」
「い、いや、シャイラさん、それじゃ何が何だか分からないよ……」
余りベラベラと自慢話をするタイプじゃないからね。仕方ないから、私は彼女に代わって当時の出来事を語り始めたのだった。
◇ ◇ ◇
「なんやろか、なんか人だかりができてるで?」
目的地のイレルダまであと2日の所、依頼主の荷馬車に同行して、急斜面に拓かれた細い山道を進んでいた途中で、クリスがいち早くそれに気が付いた。少し先に渓流を渡るための橋があると言う事だったんだけど、その手前の僅かな空き地で、3~4組の旅の商人やその護衛達がたむろっていたのだ。
聞くと、その橋でトロルが陣取っていて、法外な通行料を要求しており、払うわけにも行かず、さりとて倒す事もできずで足止めを食っているとの事だった。
「いわゆるブリッジトロルと言う奴ね。討伐適正ランクはDランク上位……か」
私は足止めを食っている商人達とその護衛を見渡した。比較的安全とされる道なだけに、二十歳前くらいの若手が多く、冒険者タグを見てもEランクやFランクばかりのようだった。ま、前回の冒険で一つ上がったとは言え、現在Fランクの私たちが言うのも何だけど。
「これで4パーティ目だ。Dランク相手と言えども、全員で一斉に掛かれば行けるんじゃないか?」
一人の戦士がそんな事を言い出していたけれど、別のパーティのおっさん戦士に反対されている。
「そりゃ無理だ。何しろ狭い山道だからな。前線に立てるのはいいとこ二人だろう。それに相手が悪い。回復自慢のトロルだぞ? 一気に削り倒す攻撃力がなければどうにもならん」
「じゃ、ずっとここで足留めか!?」
「イレルダ側でも同じ状況の筈だ。知らせを受けて騎士団か冒険者による討伐隊が進発したとして……明日には到着する頃合いじゃないか」
「おいおい、うちの依頼主の荷物は生ものなんだ。これ以上遅れると使い物にならなくなってしまう」
「じゃ、お前さんたちは通行料を払って通るんだな!」
侃々諤々と話し合っている他のパーティ達を尻目に、私はシャイラさんに声を掛けた。
「さて、やっちゃう?」
「ふむ。まあ、やってみようか」
「斬ったら離れてね。すぐ灼かないと回復されるから」
「わかった」
手短に話を済ませた私とシャイラさんは、クリスとマリアに依頼人さんについていて欲しいと声を掛けてから、二人きりで山道を進み始めた。その行動に気づいた他のパーティの人たちが、慌てて後ろから声を掛けてきている。
「お、おいおい! あんたら、二人で行く気か!?」
「相手はDランクのトロルだぞ!? Fランク二人が手に負える相手じゃねえ!」
「お気遣い、感謝する」
「お構いなく!」
私たちは軽く手を振りながら言い残し、構わずに前進を続けたのだった。
◇ ◇ ◇
山道を少し進むと、右への急カーブにたどり着いた。ここを曲がりさえすれば、もう目的地の橋が目に入るとの事らしい。一度立ち止まり、慎重に覗き込もうとしたところで、後ろから低く抑えられた声が掛けられた。
「おい、嬢ちゃん達」
振り向くと、たむろっていた冒険者達の中にいた、おっさん戦士ともう一人、彼の連れらしい若い盗賊風の男が、私たちを追いかけてきていたようだった。
「勝算はありますから、放っといてくれません?」
正直、いちいち構ってられない。私は後ろ手に手の平をひらひらさせながら、無視して偵察を再開しようとした。
「ああ、もう止める事はせん。あんたらの自己判断だからな」
思ってもみなかった言葉に、私はおっさんの方に振り向く。
「だが、目の前で死なれるのも気分が悪い。――いいか、あいつは橋から大きく離れる事はないようだ。一応、あんたらが倒れたらオレ達が救助に向かうつもりだが、なるべくこちらに近い所で倒れてくれると助かる」
どうやら、無謀な挑戦をする初心者冒険者を、心配して来てくれていたようだった。しかも、失敗した場合、自分たちが危険を冒してまで救出を試みてくれるようだ。
「ありがとう。努力はしますね」
善意での提案なら、塩対応するのも気が引ける。私はとりあえず、にっこり微笑んで軽く礼を言っておく事にした。
そして角を曲がると……聞いていた通り、確かに50m程先に目的地の橋が掛かっている事に気づいた。そして、その手前に、巨大な人影が座っている事にも。
その人影は、私たちの姿を発見したのか、思いの外俊敏に立ち上がった。確か、このモンスターの標準的な身長は3m近くあったと思うが、姿勢が悪いため2m余りにしか見えない。ま、それでも十分大きいけど。
モスグリーンの肌にグレーのざんばら髪で、長い腕の先には猛獣のような鋭い爪を持つそいつは、まごうことなきトロルだった。
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