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16.鋼鉄の 戦乙女は 熊殺し

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 明日以降、投稿時間を昼に戻すかも知れません。

 マリアによる、ブラウンベア(ヒグマ)に遭遇した話は続いている。


「ブラウンベアだって!? モンスターレートはまあ、それほど高くないが、それでも出会い頭に一対一じゃ厳しいだろう」


 目を丸くするルディさんに、マリアはにこやかな表情を保ったままだった。


「しかもわたし、大壺抱えちゃってましたから、斧を抜けなかったんですよね!」


 マリアの巨大な両刃斧は、普段は背中のフックに掛けている。当然、咄嗟(とっさ)には抜けないんだけど、腰じゃ地面を擦っちゃうし、他に場所がないのよね。


「おいおい、しかも素手でか。それで一体、どうしたんだ?」

「そのままだと、大壺割れちゃいますから、まずは背中を向けて、大壺を置きました。その間に、爪と噛み付き、都合三回くらい喰らっちゃいましたけど。まあ、背中の斧のおかげで、全然大丈夫でした!」


 ちなみに、マリアのその理屈は、どう考えてもおかしい。背中から首筋までしっかり覆っているプレートメイルと、背中に背負った両刃斧のお陰で、確かに爪や牙が貫通する事はないんだろうけど、打撃力はそのまま受けるんだから。普通は骨がバキバキにされてて当たり前、のはず。


「そのまま、背中にむしゃぶりつかれちゃいましたから、こう、くまさんの右手を掴んでから、体をぐっと下げて、くまさんの足を浮かせて、投げ飛ばしちゃいました」

「投げ飛ばし……ブラウンベアを!? 小熊じゃ無かったんだよな!?」


 目を丸くするルディさんに対して、沈痛な顔で頷く私。


「――立派な、成獣でした」


 後で測ったところ、体長は3mほど、体重は300kgくらいあった。マリアの身振りから推測すると、それを背負い投げで投げ飛ばした、と言う事らしい。


「そ、その後、どうなったんだ?」

「んで組み付いたんですけど、やっぱりくまさん、暴れまくっちゃったんですよ。このままだと大壺を割っちゃいそうでしたから、不本意ではありますが、こう、首をごきっとやって、神様の御許にお送りしちゃいました!」


 両手でゴキっとやる不穏なジェスチャーを見せるマリアに、一旦、何か言いたげに口が半分開いたものの、苦笑しながら無言で二、三回首を振るばかりのルディさんだった。

 繰り返すのもなんだけど、普通、熊って首回りの筋肉が異常に発達している。人間の首ですら、普通は素手で折るなんて事はできないのに、マリアは熊相手でそれをやってのけた、と言うわけなのよね。



              ◇   ◇   ◇



 そこに、私たちの後ろの方から、大きな声でツッコミが入ってきた。


「いやいやいやいやいや! おかしいだろ!?」


 頭を回してそちらを見ると、こちらに背中を向けてテーブル席に座っていた一人の戦士の男の子が、勢いよく立ち上がっていた。


「聞くともなしに聞いていたらデタラメばっかり。女の子がブラウンベアを投げ飛ばして、しかも素手で倒しただって!? そんな嘘っぱち――」


 ただ、こちらを振り向いた瞬間、彼はびしっと固まり、絶句してしまう。彼の視線の先は、スツールに座っているマリアの姿があった。


 マリアの声は少し高めで可愛らしく、その声と、赤毛のショートボブに幼さを感じる小さな顔つき、そして未だ発展途上の小柄な体型を見ると、とてもじゃないけど、そんな怪力の持ち主とは思えないんだよね。

 でも今は、冒険から帰って来たところで、装備一式を身につけたままだった。兜と小手こそ外しているけど、それ以外は足の先までしっかりと板金で覆われた、一式で30kgはありそうなプレートメイル、そして背中には巨大な両刃斧が下げられてる。まあ、どっちも、生半可な膂力(りょりょく)じゃ、まともに扱えない代物(しろもの)かな。


「わたし、至高神の神官ですから、嘘はつきませんよ?」


 振り向いて、可愛らしく小首を傾げる(がしょんと言う重厚な効果音つきだけど)マリアに、彼はしばし絶句していた。


「ぐっ……あ、あんたらだったのか」


 彼の顔に見覚えのあった私は、ぽつりと呟く。


「あ、ツッコミくんだ」


 そう、前回の私の冒険譚にツッコミを入れていた、若手の戦士の男の子だった。


「誰がツッコミくんだっ! オレにはエリックと言う立派な名前があるっ!」


 そしてそのエリックは、照れ隠しか、大きく身振りを入れながら私たちに向かって口を開いたのだった。


「あー、ごほん。冒険談だけどな……証拠がない時は、真偽の程はともかくとして、控えめにしておく癖をつけておいた方がいいぜ? ほら吹きと言う噂が立ってしまうと、損をするのは自分たちなんだからな」


 彼の指摘に、私たちは顔を見合わせるばかり。確かに、逃がした魚は大きい、倒したモンスターは話の中で成長するって言うくらいに、証拠がない冒険談ほど盛りやすい物はないからね。


 ただ――


「証拠、ありますよ?」

「――へ?」


 私の返答に、不審そうな顔をするエリック。私は彼を尻目にカウンターの中のニーナさんに同意を求めた。


「ねえ、ニーナさん?」

「ええ、このカウンターでいきなり巨体を広げられたから驚きましたが……確かに、600ポンド以上の大物でした」


 ニーナさんはそう言うと、ごそごそとテーブルの下から小さな革袋を取り出して、私の前にがしゃりと置く。


「そうそう、これが仲介を頼まれた肉屋ギルドと皮革ギルドからの代金です。毛皮に傷一つ無かったし、食肉としても絞め立てのように状態が良かったので、かなり色がついているそうです」

「ありがとう、ニーナさん」


 革袋を受け取りながら、エリックの方を振り向く私。まあ、善意からのツッコミのようだし、こちらが非常識な事をやっちゃっただけなんだから、一応フォローは入れておく事にしよう。


「でも、エリックさんの言っている事は分かりますよ。高名な冒険者ならともかく、駆け出しの発言に信頼性がないのは当然です。ランク上げ、頑張るしかないですね」

「ふ、ふん。まあ、せいぜい名を上げていくんだな!」


 エリックはそう言うと、再び自身が座っていた席についたのだった。ただ、テーブルを私たちの方を向いて、あからさまに冒険談を聴く体勢にはなっているんだけど、ね。無料(タダ)聴きじゃなくて、チップくらい強請(ゆす)ってやろうかしら?

 それにしても、次からの冒険談でも、幾つか非常識なことをやらかしちゃってるから、またツッコミ入るんだろうなぁ……


 そう思いながら、私はエールのジョッキを傾けるのであった。

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