表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/36

12.おっさんよ この紹介状が 目に入らぬか

 新刊3本同時投稿中です。下部にバナーを貼ってありますのでぜひご覧下さい。

 不死の王(アンデッドロード)、ヴィルヘルム・フォン・ホーエンハイムの情報を探るべく、魔術師ギルドを訪れた私。事務室のイヤミなおっさんに対して、こんな事もあろうかと用意していた紹介状を、カウンターの上にびしりと置いたのだった。


紹介状(こんなもの)を用意してきました」


 再び私の方に視線を上げたおっさんは、カウンターの上の紹介状をつまみ、つまらなさそうに眺めながらぷらぷらと差し上げる。


「紹介状? ここは国家機密級の魔法を扱う最先端研究施設なんだがね」


 うん、まあ、そうだろうね。だからこそ私は()()()にお願いしたわけで。


「その辺の貴族や商人どもの紹介状なんぞ通用――」


 おっさんは何気ない様子で裏面の署名者を確認し、そこでぴしりと固まった。


「な、こ、これは……」


 ようやくこちらのターンが回ってきたようだ。私は挑発的に腕を組んで下目遣いにおっさんを見下ろした。


「これなら不足はありませんね?」


 おっさんはバネ仕掛けの人形のように立ち上がり、直立不動の姿勢を取る。


「は、そ、それはもう! 大変失礼いたしました!」


 そして、突然の大声に驚いている事務の女の子に鋭い声で指示を出した。


「きみ、学長室にこれを! 紹介状を携えたお嬢様がお見えになられたとお伝えするように。大至急だぞ!」

「は、はい!」


 女の子はおっさんから紹介状を受け取ると、裏口を抜けて駆けだしていった。



              ◇   ◇   ◇



「ただいま学長に連絡を取っております。こちらでお待ちになりますか?」


 突然、丁寧な言動になったおっさんは、事務室の中の応接用ソファーを指して私に声を掛けてきた。


「いえ、結構。こちらで待たせて貰います」


 私はおっさんには構わず、売店の方に歩を進めていった。まあ、こんな感じで手の平をくるっくる回すような人は、故郷のフライブルクにも結構いたしね。そんなのに目くじら立てても仕方ないし、わざわざ告げ口して恨みを買ってもしょうもない。


「い、いらっしゃいませ」


 売店には、平服を着た二十歳前くらいの女の子が立っていた。もしかしたら、ギルドの学生のバイトなのかも? 私とおっさんのやりとりを見ていたようで、かなり固い表情で出迎えてきた。まあ、どこのお偉いさんの関係者だか分かんないようなお客さんが来たら、扱いづらいだろうなぁ。


「時間つぶしの冷やかしだけだから、気にしないでねー」

「は、はぁ」


 笑みを浮かべながら店員さんに向けて軽く手を振ってから、私は売られているものを眺め始めた。


「ふう~ん、なあるほど……」


 店内で売られている品物は、大きく分けて三種類に別れているようだった。

 一つはギルドで学んだり研究している学生や講師、研究者用の、筆記用具に実験材料の類。もう一つは観光客用と思われる、ちょっとした小物などの記念品。「王都魔術師ギルド」と彫られた木製のペン立てとかも置かれている。

 そして最後は、冒険者用の魔法の道具類だ。魔法のスクロールに水薬(ポーション)に始まり、果ては魔法が付与された武具なども置いてあるようだ。もっとも、武具類は値段もかなり張るものばかりだから、店頭にはお品書きしか見せていないようだけどね。


「お待たせしました!」


 おっと、学長室に向かっていた女の子が、息せき切って帰って来たようだ。私は売店での時間つぶしを中止して、再び受付の方に戻っていく。


「お嬢様、学長がお会いになるそうです。すぐにご案内致します」


 揉み手をしそうな勢いでおっさんが出てきたが、私はぴしゃりと()ねつける。


「いえ結構。あなたには受付の仕事があるでしょう? そちらの(かた)で結構ですよ」

「は……はい。それでは、(きみ)。お嬢様を学長室に案内したまえ。くれぐれも失礼の無いように」

「そ、それでは、こちらへどうぞ」


 私は事務室の女の子に先導されて、ゲートを抜けて外に出て行ったのだった。



              ◇   ◇   ◇



 建物の外に出ると、そこは中庭のようになっていた。中心部にある大きめの建物、それがギルドの本体なんだろう。そちらに向かって真っ直ぐに舗装された道が延びている。

 ちなみにそこに至る道筋には、寮らしき建物も見えていた。確か全寮制だもんね。セキュリティ上も、人の出入りは少ない方が安全だろうし。

 外にすぐ出たところで、事務所の女の子は、私になにやら差し出してきた。


「お嬢様、申し訳ありませんが、こちらを身につけていただけるでしょうか?」


 首からさげられる程度の長さの細い紐がつけられた、手の平の半分くらいの大きさの金属製のプレートだ。見ると魔晶石と共に魔法陣が刻み込まれていて、なにやら魔導具のように見える。


「これは?」

「ゲストカードです。事務室に戻ってこられるまでは、外さないようにお願いいたします。警備装置(トラップ)が作動してしまいますので」


 まあ、大事な物がてんこ盛りだろうから、当然の措置かな。領主館(いえ)でも似たような設備は有ったかなぁ。もっともウチの場合は、カードの有無ではなくて、家族か、そうでないかで識別していたけど。


「ありがとう。あ、それから……」


 受け取ったカードを首から()げると、私は事務所の女の子に顔を向けた。


「一つだけ。紹介状はまあ、本物なんだけど、私自身は単なる冒険者に過ぎないから、そんなに緊張する必要はないですよ?」


 そして、肩をすくめながら言葉を続ける。


「少なくとも、お嬢様じゃないから、それだけは勘弁してね。――そうね、アニーでいいよ」


 不躾(ぶしつけ)なおっさんにカチンと来たから紹介状を叩きつけただけで、普通のお姉さんから丁重な扱いを受けてしまうと、居心地が悪くて仕方ないからね。誤解は解いておこう。


「あ、はい、承知しました。アニー様、それではこちらですので」


 少し堅さが抜けた女の子の後をついて、私はギルドの建物に向かっていったのだった。

 ご覧頂きありがとうございます。

 ブックマーク、評価、いいね、コメント等なんでもいただければ、非常に励みになりますので、ご検討いただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2022年11月現在、新刊3本同時進行キャンペーン実施中です。
本作と以下2本を第30話頃まで同時進行で掲載しています。そしてその後、最も推されている小説を重点的に継続し、イラストの掲載も進める予定です。
他の小説もぜひご覧下さい!

banner_novel2.jpg
banner_novel3.jpg

以下は既刊の小説です
banner_novel1.jpg
script?guid=on

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ