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10.お忍びの 陛下はどうも 常連か

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 依頼報告を終えた私たちは、カウンターからテーブル席に移って夕食を食べ始めていた。

 そして食べ始めて間もない頃、私たちの目の前に一人の男性がやってきた。50代くらいだろうか。平服を着て剣を腰から下げた、白髪交じりの戦士さんだ。


 あれ、でも、どこかで見たような……


「よう、初めての冒険、お疲れさん」

「へ、へいっ!(もぎゅ)」


 私は、「陛下」と叫びかけた口を慌てて手で押さえる。そう、私たちの目の前に立っていたのは、この国を治めるロドリック王その人だった。私たちは、数日前に王城の謁見の間で顔を会わせて以来かな。もちろん、謁見の間で豪奢な服を着ていたのと異なり、今はどう見ても冒険者と言った風情の服装をしているんだけど。

 もちろんシャイラさん達も、目を丸くして王様を見詰めている。


「座っていいかな?」

「ど、どうぞ」


 私は慌てて、空いている席を指して座って貰う。とりあえず、周りの席に聞こえないような小さな声で聞いてみた。


(陛下、なんでこんなところにいらっしゃるんですか!?)

(なに、山が吹っ飛んだ報告が入ってきたからな、今日くらいに帰ってくるだろうと思って張っていたんだ。それにしても、いきなり不死の王(アンデッドロード)とは、なかなかのトラブルメーカーだな)


 そして王様は、普通の声に戻って言葉を続けた。


「なに、隠居した冒険者として、若手の冒険談を聞くのが趣味でね。オレの事は、ルディと呼んでくれ」


 本名がロドリック陛下だから、まあ、分かりやすい偽名かなあ。


「はあ、初めまして。その()()()さんは、ここにはよくいらっしゃるんですか?」

「まあ、昔なじみだから、(たま)に、な」


 王宮じゃ味わえない、冒険者の酒場の雰囲気を味わいに来ているのかな。

 と、私は、せっかく貴族とかに詳しそうな王様が来てくれたんだから、聞きたい事がある事を思い出した。いきなり無礼討ちになんてならない事を祈りつつ、図々しく聞いてみる。


「そうだ、その不死の王(アンデッドロード)なんですけど、ヴィルヘルム・フォン・ホーエンハイムと貴族らしい名前を名乗ったんですが、ルディさんはこの名前について、何かご存じありません?」


 私の質問に、王様は少しの間考え込んだ。でも、割とあっさりと肩をすくめる。


「ふむ……いや、知らんな。だがその名前は、確かに貴族のようだ。で、あれば、紋章院なら分かるだろう。調べさせるか?」


 紋章院というのは、お貴族様がそれぞれ持っている紋章を管理する国の機関。家系図を管理しているようなものだから、貴族でさえあれば、名前や領地などを追う事は確かにできると思う。


「お願いできるんですか?」

「そいつは有力な魔法を開発していたんだろ? で、あれば、他に領地などがあれば、そこに何か有益な情報が眠っているかも知れん。その代わり、面白い情報があれば、オレにも教えろよ? それが取引の条件だ」


 ふむ、まあ、妥当な条件かなぁ。仮にも自分が住んでる国だから、情報を渡しても問題無いだろう。まあ、あんまし世界の戦力バランスを崩しそうな魔法だったら、自主規制するかも知れないけど。

 そう思った私は、二つ返事で承諾する。


「ええ、もちろん。お願いします」

「わかった。何かわかったら、ここに言付けることにしよう」

「ありがとうございます」


 と言いつつ、更に図々しいことをお願いする。


「そうだ、魔術師ギルドへの紹介状っていただけます? 魔法の研究者だっただけに、何か記録が残っているかも知れません」

「ふむ、そうだな。よし、カウンターで便箋と封筒、封蝋を買ってきてくれるか」


 と、銀貨一枚を渡してくれた。私がカウンターで言われた物を買ってきて王様に渡すと、王様はさらさらと便箋に何やらしたためてくれた。そして、その便箋を封筒に納めると、落とした封蝋に指輪を押し当てて封印する。


「これでいいか?」

「あ、はい。ありがとうございます。助かります」


 紹介状を受け取った私が大事そうに鞄にしまい込むと、王様は最後に残っていたエールを飲み干し、ジョッキをテーブルに置いて立ち上がった。


「それじゃあな。いい加減戻らないといかん」


 と、去りかけたところで、立ち止まって振り向いた。


「そうだ、一つ忘れていた」

「なんです?」


 首を傾げる私に、腰に()いた剣を軽く叩く王様。


「お前さん達、せっかく用意した"銅の剣"、忘れていっただろう」


 王城で謁見を受けた時、褒美として金貨50枚と銅の剣を用意してくれていた。ただ、金貨50枚は冒険者学校の授業料の借金で相殺されて、私たちの手には入らず、銅の剣は正直言って、ただのなまくらに過ぎなかったため、私たちは控え室に()()()退出していた。


「要りませんよ、そんななまくら」

「勇者を探索(クエスト)に送り出すには、金貨50枚(50ゴールド)銅の剣(どうのつるぎ)が不可欠だって聞いたから、わざわざ作らせたんだがなぁ」

「そんなのは、檜の棒とかしか持ってない勇者様にでもあげてください。と言うか、わたし達は単なる冒険者であって、勇者じゃありませんよ?」


 そういえば、金貨50枚と銅の剣を貰って竜探索の旅に出る勇者の話、領主館の図書室で読んだ事があったなぁ。私はそんな事を思い出しながら王様に返事する。


「まあ、今はな。ともあれ、オレはお前達全員に期待している。まずは名を上げて、そんじょ其処(そこ)らの冒険者との格の違いを見せつけて欲しい」

「ご期待に添えるかどうかは、分かりませんが、やれるだけの事はやってみますよ」

「うむ。ではまた、いずれ。新しい冒険談を楽しみに待っているぞ」


 と、王様は片手を上げて挨拶しながら酒場から去って行った。


 王様が扉の外に消えていくまで、何となくその背中を見送っていた私たちは、互いの顔を見合わせる。


「なんだか、えらく期待されているみたい?」

現在(国王)の立場はともかくとして、かつては英雄とまで呼ばれた冒険者だからね。その視点から見て期待されているのであれば、喜ばしい事ではないかな」

「一応、全員、とは言うてたしねぇ」

「まだ駆け出しですからね! 一つ一つ片付けて行くしかないでしょう!」


 ともあれ私たちは、夕食の続きを再開したのであった。

 ご覧頂きありがとうございます。

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