9.冒険者 ランクはこれで 上がるかな?
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「はい、それじゃ、ランク確認作業を始めましょうか」
ニーナさん、私たちの台帳を取り出して更新の準備を始めていた。
「今回の最大の障害は、不死の王でしたね」
「ですね」
と、小さく肩をすくめながら返す私。
「念のための説明ですが、依頼中に強いモンスターを倒したとしても、それがその依頼に直結しないモンスターであれば、カウントはされません」
ニーナさんの説明を聞いて、私は肯いた。そりゃそうだ。でないと、依頼途中に美味しいモンスターが出たら、依頼そっちのけで倒しに行ってしまうだろう。
「ただ、今回に関しては、明らかに依頼に直結したボス的存在である事から、計上の対象となります。また、依頼書にないモンスターという事で、その正体に疑いがある場合も対象外になる可能性がありますが、今回は問題ないでしょう」
ニーナさん、後ろの棚から大きな分厚い事典を取り出し、ページを繰り始めた。
「で、不死の王のモンスターレートですが……えーと、アンデッド、アンデッド……あ、ありました」
ちなみに、モンスターレートとは、モンスターの強さを表した指標。モンスター事典を作った人が適当につけたものらしいけど。
「不死の王のモンスターレートは……21ぃ!?」
Sランクの基準であるドラゴンのモンスターレートは、種類によって異なっているけど、13から17。20台ともなると、古代竜の類が軒を連ねている。こうしてみると、不死の王ってやっぱり最強クラスだったんだなぁ。
「この酒場の依頼で倒された最強クラスですね……一応、最高記録では、今の国王陛下が冒険者時代に、モンスターレート24の古代金竜を倒しているらしいですが。初冒険で、となると、当たり前ですがぶっちぎりで新記録です」
そりゃそうだ。初冒険でそんなのとポロポロ遭遇してても困るし、あっさり倒してたらもっとおかしいよね。
と言うか、今の王様が若い頃に冒険者やっていたのは知っていたけど、この宿を使ってたんだ。確かに、王様から直々にここをお勧めされたんだけど……
「えーと、そうなると、Sランクをぶっちぎっている事になりますよね?」
私の質問に、少し困った顔をするニーナさん。
「ええ。ただ、倒し方や、誰が貢献したかも関係して来るんですよ。今回、倒すのに貢献したのはアニーさんだけで……あと、奇襲だったんですよね?」
「はい、流石に正面から正々堂々では無理ですよ。向こうが"雷撃"……いや、"爆裂弾"を撃って来てただけで、あっさり全滅ですね」
だからこそ、あの不死の王が使っていた"絶対防御"とか言うのは欲しい。絶対欲しい。彼が遺した研究ノートにヒントがあればいいんだけど。
「相手の力を発揮させずに倒した訳なので、それだとそのランクの評価はできないんですよ。あくまで、正面からぶつかって倒せるかどうか、が評価基準なので」
「ですよねー」
まあ、そうだよね。奇襲とかだまし討ちで倒しましたー、とか言ってても、いざ正面から戦ったら負けるんじゃ、対等とは言えないわけで。
私が少しがっかりしているように見えたのか、ニーナさんは少し笑みを浮かべてフォローを入れてきた。
「勿論、倒した事自体は記録しますから。それが積み重なっていけば、いずれは評価対象にはなりますよ!」
ニーナさんは、「それに……」と言葉を継いで話を続けた。
「うっかり、アニーさんだけSランクになってしまうと、個人を対象にした指名依頼が来てしまいますよ?」
「うーん、それは困るかなぁ」
私は苦笑しながら、皆の方を見渡した。
「それに、私一人だけじゃ満足に冒険はできないし。シャイラさんの剣技、クリスの斥候能力、マリアの防御力、全部揃ってないと力は発揮できないよ」
皆、私と目が合うとニコリと笑ってくれている。ニーナさんは、そんな私たちを微笑ましそうに眺めていた。
「そうですね。それでいいと思います。――で、残りの査定なんですが。ゴブリン、ではなくて、ゴブリンゾンビに関しては、ゴブリン以下ですからね。残念ながら、いくら倒してもGランクのままです」
ニーナさんは、そこまで喋るとモンスター事典をパタンと閉じた。
「と言うわけで今回は、残念ながら皆さんの昇格はナシ、です」
大物を吹っ飛ばした割には、昇格なしという残念な結果にはなってしまった。まあ、最初の冒険だし、不死の王以外は雑魚だったからね。仕方ないか。
「まあ、そうなりますよね」
「仕方ないな」
「次回に期待、やね」
「がんばります!」
「もちろん、依頼成功は記録には残りますから。ともあれ、被害なしでの初依頼の成功、おめでとうございます」
口々に前向きな言葉を述べる私たちに、ニーナさんはフォローを入れてくれたのだった。
◇ ◇ ◇
依頼報告を終えた私たちは、カウンターからテーブル席に移って夕食を食べ始めていた。
食べ始めて間もなく、私たちの目の前に一人の男性がやってきた。50代くらいだろうか。平服を着て剣を腰から下げた、白髪交じりの戦士さんだ。
あれ、でも、どこかで見たような……
「よう、初めての冒険、お疲れさん」
「へ、へいっ!(もぎゅ)」
私は、「陛下」と叫びかけた口を慌てて手で押さえる。そう、私たちの目の前に立っていたのは、この国を治めるロドリック王その人だった。
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