デート
三題噺もどき―ひゃくさんじゅうご。
お題:ソフトクリーム・水族館・シュシュ
じりじりと日差しが肌を刺す。
今年の夏は、昨年の夏よりさらに暑くなるらしい。昨年でも十分暑かったのに。
むき出しの肌がグサグサと針で刺されているようで、痛くていたくて仕方ない。
少しでも日が当たらない所へと思い、日陰にはいるが…それでも日差しと暑さは変わらないようだ。
「……」
ちらりと、腕時計に目をやる。―待ち合わせ時間五分前。
まぁ、あの人は遅刻常習犯だし。もとより私が速いのだ(早めに動かないとストレスがかかる)。だから、待つことには慣れている。
今日ばかりは、もう少し早めに来て欲しかったりするが。…暑い中、外で待つ身にもなってほしい。二人で一緒に入ることにしているのだから。
「……」
ふ―と周辺を見渡すと、入場口付近には人が並び始めている。
家族連れに、友達同士のようなグループ。あとは―私たちと同じような、カップル達。腕を組んだり、ケータイを見せ合ったり、パンフレットを見たり、各々自分たちの世界を楽しんでいる。
あの人も、もう少し早めに来てくれればと思うが。
そうすれば、あんな風に―
「おまたせ~」
少々、嫉妬じみたものが芽生え始めた矢先、狙ったようなタイミングで、聞きなれた声がかかった。
急いでいるようには思えない、どこか間延びした声。時間がギリギリということを知ってか知らずか…いつもこう。
「…今日は早かったね?」
「そ?」
そんな訳はないけれど。…ほんの少し嬉しそうな顔をするのをやめて欲しい。早くはない、全く。“いつもより”早いだけで。今日は、三分前に来ただけで、早くはない。
―いつもは、遅れてくるからなぁ。
「……」
「…?」
嬉しそうな顔が可愛くて、つい絆されそうになったのをぐっとこらえる。
それを不思議そうに、きょとんと首をかしげてくるので(しかも下からうかがうように)、危うくホントに絆されるところだった。
危ない危ない。
申し訳なさと嬉しさがないまぜになったような、あの表情を見たいがために、褒めているわけではない。―決して。
「?…いこうか?」
「……ん」
本日向かうのは、町で有名な水族館。
なんでもここでしか売っていない、限定のソフトクリームがあるのだとか。
久しぶりのデートもかねて、そのソフトクリームを食べようという事で、今日は来ている。別段、それがなくても水族館という場所は、昔から好きなので、来れるものならいつでも来たい。
「結構人いるね~」
「そうだね」
無事、入場を済ませた先には、すでに大勢の人がひしめいていた。
正直、人が多い所は苦手なのだが…せっかくのデートなのだから、無視だ無視。
「…うわ」
しかし、フードコートに並ぶ列を見て、つい声が漏れる。あそこに並ぶのか…。先に腹ごしらえを外でしてくるべきだった…。あの人の列に、並ぶの…?
「…先に中見る?」
「そうしよ」
気が滅入りつつある私に気づいてか、声を掛けてくれた。
そうだ。ここには別に、あれだけが目当てで来ているわけではない。
ここにはたくさんの癒したちがいる。優雅に、悠々と泳ぎ、私たちにつかの間の癒しをくれる。
「どこからいくー?」
「とりあえず深海魚」
「好きだねー?」
それから二人で。
らしくもなくはしゃいでしまった。
ここには珍しく(?)、深海魚のコーナーから始まり、色とりどりのウミウシたちが展示されていたり、多種多様なクラゲが浮遊しているコーナーがあったりする。もちろん、普通の展示だってある。目玉の大水槽には、大小さまざまな魚たちが、泳いでいる。エイやサメ、ジンベイザメ、大き目の回遊魚。
イワシやアジなどの小魚の群れをみて、つい
「…おいしそう」
「…いつもいうよね、それ」
という、ここではしてはいけないような会話をしたりして。
そうやって、ゆっくりと館内を満喫した。ぐるりと、一周して、フードコートに戻ってくる頃には、すっかりテンションが上がり、人ごみも苦ではなくなった。
『○○番の方―』
アナウンスで呼ばれ、商品を受け取りに向かう。
『お待たせいたしました~』
素敵な接客スマイルと共に、手渡されたそれは、水色のソフトクリーム。ソーダ味。
その上には、星型の砂糖のようなものが、丁度いい感じにまぶされている。あの人は白と水色の縞模様。あの人らしい。
「あっちでたべよ」
「そうね」
二人並び、人ごみから離れる。
ほんの少し、日が当たる場所。
日の光が、砂糖に当たり、本当に星が輝いているようだった。
「食べるのもったいない…」
「さっき魚見ておいしそーとか言ってたくせに」
一日。
十分すぎるほど、満喫した。
帰り際、専門ショップでお土産を買うことになった。
私たち二人、買うものはいつも決まっている。
「「あ、あった」」
二人同時に声を上げる。
なんだかそれがおかしくて、小さく二人で笑いあった。
手に取ったのは、水色や紫、青、といったグラデーションの入っている大きめのシュシュ。海の色を写したようなそのシュシュには、小さめのチャームがついている。
一つは、イルカ。
一つは、サメ。
「はい。」
「ありがとー」
それをお互いの髪に括り付け、流れるその髪をサラリとなでる。
「伸びたね、髪」
「あんたもね」
私たちは、他の人にどんな風に映ったのだろう。
仲のいい女友達か、姉妹か、カップルか。
「今日のデートたのしかったね」
「そうね、いつもより早く来てくれたし」
私たちは二人。
あの人と―彼女と私の二人。
手を繋いで。