7-偉大なる婚約者と聖女候補と俺
第三王子が色々と考えています。よろしくお願いいたします。
やっちまった……本当にやらかした。
建国の三英雄のお一人、生ける伝説の学院長先生から二度も竜の咆哮をくらった王立学院生は俺くらいのものだろう。
誰も知りたくもないだろうが俺の名前はニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ。コヨミ王国の第三王子。王太子ではない。ちなみに王位継承順位は最下位(無いと言ってもいい)で、姉が一人、兄が二人いる。
一度目の咆哮は去年の王立学院高等部入学式の日。頼まれてもいないのに新入生の代表挨拶を普通クラスの分際でさも当然の様に行おうとして
「このたわけ王子が!」と一撃を喰らった。
そして、来賓席の一番上にいらした王配殿下と王太女殿下に思い切り恥をかかせたのだ。
ちなみに咆哮の衝撃で気絶して、目が覚めたら自室にいた。その後三週間、王宮謹慎処分。笑えない。
ある意味戒めとして見せられた映像水晶に映る首席入学者にして一応俺の婚約者、ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢の挨拶は見事だった。どよめく新入生と来賓を落ち着かせたのはナーハルテの親友で、俺の親友の婚約者でもあるライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢だ。こちらも堂々とした佇まい。二人共、実に凛としていた。
白金の髪と瞳。そう、彼女はとても美しい。外見なら俺も悪くはない筈だが、そうではない。精神が美しいのだと、俺にも分かる美しさだ。
ちなみに俺は白金色の髪と瞳の王子様だ。(笑)
召喚大会から二週間が過ぎ、彼女の意識は未だに戻らないものの、極度の魔力消費による要安静の状態からは回復しつつある為、もう間もなく全快に向かうだろうと医療大臣(こちらの令嬢も選抜クラスに在籍する優秀な学院生にしてナーハルテの親しい友だ。そして俺の友人、同クラスの医療副大臣令息の婚約者。)から伝令鳥をもらった。
俺は伝令鳥を行使できないのでカードを伝令鳥に持たせる。医療大臣が許可を出せば、ナーハルテに渡してもらえるだろう。
俺は彼女が学院に復帰したら、学院に戻る事ができるらしい。今は一応、彼女も俺も召喚疲れの為の休養という事になっている。
そう、二度目はつい先日。学院の恒例行事、精霊獣召喚大会でやらかした。
聖女候補に、
「あたしは会場外の救護テントにいないといけないんです。これも良い経験だから頑張りますね!直接応援できない代わりに支援魔法、掛けまくります!王子様、すごい召喚して下さいね!映像水晶見るのが楽しみです!」
そう励まされ、聖魔法を掛けてもらい、セレン(聖女候補の名前だ)が期待してくれている!
と有頂天になり、調子に乗って予定より遥かに高位の精霊獣を召喚しようとして、見事に失敗。
今度の咆哮では学院長先生にあいつを調子に乗せたのは誰だと言われたが、その通りだ。正に、調子に乗った。
案の定、事故召喚になり、婚約者に助けられた。
これが、新聞記事や諜報の伝令鳥から伝えられた他国の情報なら俺でも
「こいつは馬鹿だな。」と言うだろう。そして鼻で笑う。
たわけやまぬけで済んでいるのは、平和な我が国だからだ。後継者争いでギスギスしている様な国なら、俺みたいな奴は始末されるか利用されるかだろう。
さすがにやらかしが過ぎて、俺を理由とした婚約破棄だけで許されるのだろうかと色々想像していたら、侍従長から伝えられたのは魔石への魔力供給の奉仕活動のみ。婚約も継続だと言う。なんてこった。魔力が極端に少ない俺に魔力供給の奉仕活動をせよというのが何とも言えないが、文句を言える筈もない。
侍従長の話によると、俺が呼んでしまった鬼属性の高位精霊獣殿が許して下さった事、観客がいなかった事(大会の出場者にはナーハルテの召喚獣が術を掛けてくれたらしい。皆、事故召喚未遂に安堵している様だ。)、ナーハルテが自らの魔力枯渇も顧みず召喚してくれた鳥属の高位精霊獣殿が映像水晶の映像を書き換えて下さった事。有り得ない事が揃いまくり、その結果、俺は罪を犯していない事になってしまった。
要するに、ここまで愚かな行いをしたにも関わらず、俺は罪を償えないのだ。
ただ、ほっとした面もある。俺に支援魔法を掛けてくれた女生徒、聖女候補であるセレン-コバルトに罪科が及ぶ事がないからだ。
只でさえ彼女は婚約者がいる高位貴族令息と親しくし過ぎている(しかも、その内の一人は王子殿下だ!)のに、第三王子と結託して(断じてそんな事はないのだが!)王立学院の召喚大会に損害を与えた等という事になれば、平民である彼女にどんな罰が与えられるのか、さすがの俺も気が気ではなかった。
正直、俺達の関係はおかしいと思う。然しながら、揃いも揃って出来過ぎの婚約者がいる家柄と容姿が良いだけのぼんくら共(問題発言だが独り言だから構うまい)に平民の聖女候補。
邪な関係だと勘ぐられても仕方がない。だが、意外だろうがそうではない。ただ俺達が彼女に優しくしたいだけだ。笑顔。純粋な好意。お礼の言葉。応援したいと願ってくれるその気持ち。彼女は俺達にそれらをくれたから。これが全てだ。
視察に赴くと、王太子殿下ではないのか、王太女殿下はご一緒ではないのか。
そんな、落胆した空気が流れる中、
ーーナーハルテ筆頭公爵令嬢様がおられるぞ!
市井の民が歓声を上げる。
分かっている。いくら我が国でも、民の声をできるだけ多く聞こうとしたり、子供の汗や涎をしぜんに拭いてやり、病人の看護を自ら進んで手伝う、そんな行いを事もなげにできる高位貴族なんてそういるものではない。
聖女候補にうつつを抜かし、願い出て婚約者になってもらった不相応の相手をないがしろにするまぬけ共。
周囲の評価は分かっている。分かっていても、俺達の周りの連中は分かっていない。俺達は皆、各々の婚約者の事が好きなのだ。決して嫌ってなどいない。あくまでも恋愛感情ではなく、尊意だが。
ただ、それ故に、理想の姿と現実の自分の乖離に虚しさを覚えずにはいられない。だから離れたくて仕方ない。そんな存在。
矛盾しているだろう。馬鹿に付ける薬とやらがあるのならばもらいたいものだ。
そうそう、再来月は剣術大会だ。昨年度準々決勝で婚約者にボコボコにされ、冷徹筋肉と負け惜しみを言い、言い過ぎたかと内省していたら
「ありがたい。いい渾名だ。」
と、逆に感謝されていた俺の親友でもある騎士団副団長の息子、コッパー侯爵令息は、今年はセレンに応援してもらえるのだろうか。
もしそうなら、人のことは言えない(全くもってその通り)が、調子に乗るなよと忠告してやる事にしよう。
読了ありがとうございます。ブクマも頂いております。ありがとうございます。次話もなるべく日数を空けずに投稿できればと思います。