第十章終-いつかの君と俺だった僕~かつての空白を知り、今へと。決意を固める所存~
見るべきものは、すべて見せてもらえたと思う。
このあとは、聖女から命を受けた紙たちが各地に飛び、銀波は聖女を助けてこの国に聖魔力を与え、聖女は聖魔力の回復に努めることになるのだろう。
あの森では、鉄輪たちが精霊や聖霊たちを献身的に受け入れているはずだ。
もしかしたら、あのうろから各地に転移をし、この国の膿の残滓を叩いているのだろうか。
俺は……このときの俺は何も知らず、ただ安らかに眠っていた。
そして、愚かなことに、このあと、眠らされていて、なにもかもが終わったあとに目覚め、疲弊した聖女と再会し、そして……別れることになるのだ。
そうだ、このあとは。
銀波の記憶を辿るのではなく、己の記憶を見ることになるのか、なってしまうのか……?
あのとき、俺は。
自分が動けなかったことに苛つき、哀しみ、そして、悲しみ。
……知ろうと、しなかった。
いまは、ちがう。
だが、だからこそ。いまの俺が。あのときの俺をいま一度見て、観たところで。どうなるのだろうか。
『そのことに気付いたことが、コハくん、君の成長だよ。だから、このあとは、きみの記憶ではなくて、聖女ちゃんが、聖女ちゃんだけが見た、幻獣王様の直参幻獣殿、龍様と、この、界の守護者との馴れ初めをみせてあげるね!』
『あなた様は……』
口調は、くだけていらした。
だが、その全身から顕れる清浄な気配。数千、もしたしたら万に近い時をすごしたのであろうかというものであった。
そして、そのおそばには。
『幻獣王様の直参様……!』
俺は、即座に礼をした。深く、深く。
訊かずとも、分かる。分からされる。
ある次元においては至高の方、俺がかつて親しんだ友、飛竜やトマリコンに飛んだ若き飛竜とはまたちがう存在、龍の御方だ。
竜は地上でも生きる存在。そして、龍は幻獣王様のもと、幻獣界におわすかたたち。
だが、この二種族はまれにではあるが親しい間柄になることもあり、幻獣王様への思いが篤い大国トマリコンが竜族を尊ぶのもそれが由来なのである。
『其方はよく、この直参と妻のことを識った。ゆえに、かつて、この世界、この地に聖女として顕現したもののみが知る、この直参と、妻との馴れ初めを、其方にも伝えようぞ。これは、他言無用なり』
『ま、まことにございますか。然しながら、自分はいま、聖女の傍におりました蛇の記憶を読んでおりまする。そしてそれは、自分がこの世界に連れ申したものの末裔にも伝わっておりますゆえに』
そう、幻獣王様の直参殿に対して失礼千万ではあるが、銀波と、そして、コヨミさんの遠い孫に迷惑はかけられない。
もちろん、もしも、直参殿がお怒りになられるならば、俺がすべて、そのお怒りを受け止める覚悟はある。
『だいじょうぶ、そこは聖女ちゃんと縁がある紙さんたちがうまくしてくれてるから! あとね、第三王子ちゃんの中身ちゃんには、あたしたちもあっちでお話したことあるから、だいじょうぶ!あと、旦那様、龍様が語られるお話には、コハくんが使った異世界からの道も出てくるからびっくりしすぎないでね!』
『おい、さすがに多少は界の影響者様らしくしようとなさい。見なさい、初代聖女候補殿が困惑しておるぞ。初代聖女候補殿、妻がいきなりすまなかったが、このように念話で君と話す機会はそうはないので、すぐに過去の話を君の中に届けてもよいだろうか。語りのように伝えるので、聞いたあとに問いをくれたまえ。答えられることには、答えよう』
『直参殿、そして界の影響者殿、まことにありがとうございます。すぐにお願いいたします』
『え、いいの?』
『はい』
『素晴らしき即断。では、始めようぞ』
そうだ。あのとき。俺だった頃の、かつての俺は。
鉄輪の、飛竜の、銀波の。
話を、聞かなかった。聞こうと、しなかった。
聖女を、あの子を喪った、失ったと感じた自分の思いだけを、先にして。
あのとき。
かれらの話を、聞いていたら。聞こうとしたら。こんなに長く、あの子を待たせることはなかったのだろうか。
それでも、いまの俺は。
幻獣王様の直参殿と、その奥方、界の影響者殿の過去をうかがう機会を頂戴したのだ。
これはかつて、あの子も聞いたお話。
それならば、俺も。
この行いは、きっと。
新たな俺へとつながる道となるのだ。
俺だった頃の、僕に。さらなる、新たな道筋を。
そう、聖女聖女へと踏み出す、改めて、の。新たなる、道筋なのだから。
これはまた、必然なのだろうか。
精霊王様の直参がコヨミさんの末裔のあの子を呼ぶよすがになった、俺の親友鉄輪が開発したゲームがたしか、『キミミチ』。キミと歩む道筋だったか。
ならば、俺は。君と……あの子とまた歩むために。道筋を、作らせてもらうのだな。
第十章〈終了〉
第十章、終了いたしました。
第十一章は幻獣王様直参龍様と界の守護者様の異世界での邂逅から開始する予定です。
こちらの第十一章初めにつきましては、カクヨム様先行投稿の短編作品を修正いたしましたものとなりますことをあらかじめご案内いたします。
本作、そして第十章をお読みくださいました皆様に厚く御礼を申し上げます。
もしも可能でございましたら、ブクマ、いいね、ご評価などもお待ちしております。




