魔法すら使えない脳筋野郎なんていらないから
俺はレフ。
カメラではない。
先日闇魔導師ディアをパーティから追放した勇者ディアだ。
我ながらあの采配は失敗だったな。
まさかディアが逆怨みで俺たちに強力なデバフをかけるとは思いもしなかった。
あの後未だディアは見つかっていない。
それゆえディアのかけたデバフも解けていない。
しかし何もせず手をこまねいている俺たちではない。
俺たちは近くのダンジョンに1週間籠り、大幅なレベル上げを行ったのだ。
その結果俺たちは、レフを追放する前と同等程度の強さに戻ることができた。
そしてもう一つ、
レベル上げの最中にわかったことがある。
それは…
「ゴラドン、君はこのパーティから抜けてもらう」
「は、はあああああああああ!?」
声がうるさい。
ご近所迷惑だからやめてくれ。
「こ、この俺がクビだと??そ、そうか、これはきっとドッキリだな!そうなんだろ!」
「俺は冗談を言うような人間じゃない。とにかく貴様は追放だ。荷物はそこにまとめておいた。出ていけ」
「な、なんでだよっ!理由を言え!俺の何がまずいんだ?直せるところは直すからよお!」
「クスクス…まだわからないようね。脳味噌がプロテインに漬け込まれちゃったのかしら?」
「ゴラドンさん、あなたは私たち勇者パーティの面汚し。恥なんですよ」
様子を見ていたセイアとダイも加勢する。
こいつら結構辛辣なこと言うよな。
「てめえら…ディアを追放して、今度は俺かよ!!」
「仕方ない。なぜお前が役立たずなのか、今からはっきり説明してやろう。いいかよく聞け」
「……なんだよ」
「お前は、魔法が、使えないから、だ」
「そ、そんな理由でクビなのか?魔法なんかなくったって俺はこの斧や槍でモンスターを…!」
「攻撃してどうなる?威力は俺の聖剣より遥かに下じゃないか」
「それに武器の買い替え費用や修理代もバカになりません。国からの援助金が減った以上節約は必要です」
「だ、だが武器なんかなくったって俺はこの拳で!!」
「拳で戦う…?何を寝ぼけたことを言っている」
「雑魚モンスター相手にはそれでよくても、少し防御力の高い相手には通用しませんよ」
「それにいつも前線で戦ってるからあたしの回復魔法や回復薬の消費が激しいのよねー」
「セイアの言うとおりだ。先日のレベル上げではっきりしたが、回復魔法を最も必要としているのがゴラドン、お前だった」
「前線で戦うのはレフ!お前も同じだろうが!」
「俺は光魔法で後方からも攻撃ができるし、前線で戦っても防御力の高い『光の鎧』とスキル『自動回復』があるからセイアの手をわずらわせることも少ない」
「つまりゴラドンさんがいなくなればセイアさんも攻撃魔法や補助魔法に集中することができ、戦闘の効率が高まるのですよ」
「あとゴラドンはいつも汗をかいてるからすっごく臭いの!気持ち悪いったりゃありゃしないわ!」
「セイア、ゴラドンは先天性のワキガだからそこだけはいじらないでやってくれ」
「あっ、ごめん」
「てめえらが俺のことをそんな目で見てたなんてな…!わかったよ!こんなパーティこっちから願い下げだぜ!!」
そう言い残してゴラドンは出ていった。
ワキガイジりがこたえたらしい。
「あ〜、臭いのがいなくなって1年ぶりに深呼吸ができるわ〜!」
「しかしよろしいのですか?彼は足手まといとはいえ頭数が1人減るのは…」
「心配するな、後任は既に選んである。ザムラ!入ってきていいぞ」
そういうと天井から刀を持ち着物を着た男が部屋に入ってきた。
「レフ殿。拙者をお呼びか」
「紹介しよう。極東の国から来た忍剣士、ザムラだ」
「ええー?結局前衛を選んじゃったの??」
「この方からは魔力など感じませんが…」
「安心しろ。ザムラは忍法で風、水、砂などを呼び起こして攻撃することができるんだ」
「いかにも。拙者は他にもさまざまな忍法を会得しているが、今後の実戦でお目にかけよう」
「すっごーい。頼りになるう!」
「忍術というものは存在は知っていましたがほとんど研究されていません。私も非常に興味があります」
「うむ、拙者もお主らと共に魔族と戦うことを楽しみにしていた。これからよろしく頼む」
こうして俺たちのパーティに完璧な布陣が整った。
これから俺たちが魔王を倒す英雄譚が幕を開ける…はずだったのだが…。