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冬の夜

作者: とがわ

 今年も、しんしんと雪が降っては積もっていく。


 赤茶色の煉瓦に囲まれた暖炉で燃える炎はまるで作り物の火のように美しくそして儚く燃え盛っていた。部屋中は暖炉の暗く絶妙な温かな明りと温度で埋め尽くされている。ふと窓に目をやると、外はいつしか音にならない吹雪になっていた。もみの木に積もっていた細かい粉雪さえも色んな方向に飛び回っている。毎年恒例の吹雪だが、一年越しだからかこの状況になんだか目が回りそうになった。吹雪が終わると、今度は雪たちが重力に従ってゆっくり落ちていった。そうして吹雪がひと段落ついた後に訪れるこの静寂さに私の心は穏やかに揺らいだ。

 二階のない小さな家に、住人は私だけであった。気づけばここに一人でいた。けれど戸外には人はたくさんいる。不満は何もない。寧ろこれくらいが幸せだと思えた。

 冬になると特に、戸外から人の話し声が聞こえた。その人たちの中に私にとっての特別な子がいる。私の直ぐ近くにいるその子は冬の時期、夜になればお話しをしてくれる。それがとっても楽しくて、だから私は冬でもちっとも寒くなんかない。その子がいるから、どんな冬でも温かいと思える。

 少女の名前はレイラといった。内気だけど、頑張り屋さんで素直な子だ。私たちは、幼馴染といえるくらいには昔からずっと一緒に生きている。


「パパ、ママ、ありがとう! 大切にするね」

 今日も楽しそうなレイラの声が聞こえる。レイラには素敵な家庭がある。どれだけ素敵なご両親かは、レイラ本人よりも知っている自信がある。そんなご両親に育てられるレイラは、とても優しい子なのだ。


 夜、レイラがご両親におやすみをした後に私たちだけの時間がやってくる。冬にはこうして毎晩、レイラは私の家のすぐ傍まで来てくれる。

「Happy Christmas.今日はパパとママがクリスマスプレゼントをくれたわ。とっても綺麗な音色を奏でるオルゴールよ。今から流すわね」

年に一度のクリスマス、どの家庭も家族で過ごす温かな日。パーティーを終えた後の静まり返った夜は、吹雪の後の静寂さによく似ている。そんな夜と音たちは融合されていく。

 自然と微笑んでしまう美しい音色だった。けれど微かな寂しさを感じる切なく儚いメロディー。こんな夜が永遠に続けばいいと思った。

 音は徐々に小さくなって、そして夜に溶けきった。オルゴールのゼンマイが回り切ったのだ。今度はレイラの小さな寝息が聞こえる。眠ってしまったようだ。レイラは本当はまだまだ小さな子供なのだと気づかされる。私はそっと玄関を開けて外に出た。

 すぅぅと剥き出し部分の肌に纏わりつく冷たい風は一瞬私の体をびくつかせた。玄関先にある小さな花壇は今晩も雪が積もり放題であった。私はいつものように息を吹きかけて雪を飛ばす。そうして現れる花たちはいつも微笑んでいる。


 レイラが眠った本当の夜、私はこうして外に出る。大きなレイラの、幸せそうな寝顔を見るといつだって心が満たされた。見れば私の口元は自然と綻ぶ。レイラは喋らない私に飽きもせず語りかけてくれる。姿だって見せたことがないのに。

「Happy Christmas, Layla」

 レイラに届いただろうか。レイラの夢の中で聞こえてくれていたらと希う。

 冬が過ぎれば、また次の冬までレイラに会えない。一生冬ならいい。けれど冬は必ず一年後には巡ってくるから愛しいと思えるのかもしれない。それならこのままでいいと思える。

 私の家の外の、果てしもなく広大な外では雪が降っていた。しんしんと穏やかに降る本物の雪は魅力的だった。レイラはこんな冬をどう思っているだろう。


 いつしか雪が降りやみ、夜明けが近づいてきた。私はまた静かに家の中に入って暖炉の側にある椅子に腰かけた。

 すると、レイラの母がやってきた。そして私の家を見下ろすなり、「またスノードームに話しかけていたのね」とそっと微笑んで言った。レイラはいい夢でも見ているのか、幸せそうに笑っていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 叙述トリック的。主観への印象が転換された瞬間に、えも言われぬ感覚もといエモさが神経を駆け巡ってゆく。 この様なほのぼのとした作品で叙述トリックが使われているところも革新的だが、叙述トリック…
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