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4.ケージを買いに行って名前が決まったよ

 私は母親と猫を家に置いてからショッピングモールに向かった。そこには、ホームセンター並の大きさのペットショップがある。うちのような田舎でも困らないくらいの品物が売られている。


 今回の目的はケージだ。キャリーケースの中にずっと入れておくのは流石に可愛そう。だからと言って、家の中を自由気ままに歩かせるわけにはいかない。勿論、外で放し飼いにするには論外。逃げ出しちゃうかもしれないし、フラフラと道路に出てかれてしまうかもしれない。


 それらの妥協点がケージというわけ。車をペットショップの入り口すぐ近くに停める。平日の午前中だからお客さんは殆どいない。私は目的のケージを見つけると、ショッピングカートの上に乗せる。餌を買おうか少しだけ悩む。と言うのも、病院で数日分は消化器系に良い餌を買っていたからだ。


「今度でいいか」


 呟いてからおもちゃを見る。折角だから遊んであげたい。焼き鳥の長細いタイプのつくねとかバーアイスの形の白いふわふわしたおもちゃと、釣り竿にネズミをつけた形状のおもちゃを買う。他にも面白そうな形のおもちゃがあるが、とりあえず様子見。遊ばないようならば他のおもちゃを買うことにする。


 他になにか必要なものがないかとペットショップの中をグルグルと回っていると、トリミングコーナーがあった。概要を見てみると犬種に並んで猫もシャンプーが出来ると書いてある。


 もし、ここでシャンプーをしたならば家の中を歩かせられる。父親も反対しないだろう。そう考えてトリマーさんに声をかけようとした。が、ショーウィンドウの中にいる女性トリマーさんは目前のトイ・プードルに集中している。私に気づいているのかいないのか、一心不乱に作業をしている。


 邪魔をするわけにはいかない。そう思って移動しようとした時、少し離れた場所に猫と犬のショーウィンドウがあり、その受付があることに気づいた。話でも聞こうと近づくと受付の人が老夫婦と犬の販売に関して話をしている。


 長くなりそうだなぁ。心のなかでため息をつきながら並んでいると、背後から声をかけられた。まだ二十代っぽい若くてスラリとした女性だ。


「購入ご希望のワンちゃんか猫ちゃんがいらっしゃいますか」

「購入じゃなくて、猫のシャンプーをしたいのですが……」

「猫ちゃんですか……。猫ちゃんは難しいんですよね……。まず、予防接種が必要です。そこに書かれている予防接種をされて、動物病院の証明書を持ってきていただきます。それで、あちらのトリミング施設にてシャンプーをすることになるんですが、猫ちゃんは暴れる場合もありますので、その場合はその時点で中止になります。それで宜しければ予約することができますが、いかが致しますか?」


 私は瞬時に言われたことの全てを理解することできなかった。けれども、予防接種を受けていないことだけはわかっている。少なくとも証明書なんかないから、ここでシャンプーをすることは無理なことだけは理解できた。


「少し考えてください」


 私は営業スマイルを浮かべて断るとその場を離れる。レジに向かいながら頭の中で会話を思い出していると、ふと、一つの疑問が浮かぶ。暴れる場合は中止って、その時のお金はどうなるのだろうか。と。全額取られるならばあまりにもリスクが大きいし、無料ならば店側は手間だけ発生した無駄働きになってしまう。どっちなんだろう。疑問に感じて踵を返したくなる。しかし、予約はしないし、そもそも予防接種の証明書がない。


「帰ろ、帰ろ。シッポちゃんが待ってる」


 独り言を呟きながら気づく。シッポちゃん? それって名前? 無意識のうちに決めてしまった?


 猫は、茶色い毛に黒い縞模様の線があるキジトラ猫だ。獣医の先生の話では初老とのことだが、小柄で痩せていて子猫のように見える。そんな猫のひときわ目立つのが長いシッポだ。茶色と黒のコントラストが美しいだけではなく、スラリとして綺麗なんだ。


 私はペットショップでの買い物を終えて家に帰る。荷物を持って玄関に入り、そこに荷物をおいてから家に到着後、家族に宣言する。


「この子の名前、シッポちゃんにしたから」


 と。


 私としては、一歩も引かない。そんな意思を込めて言ったにもかかわらず、母親に「貴方の猫だから貴方が決めて問題無いからね」と軽く言われる。


 玄関入ってすぐのところにケージを置いた。中に新聞紙を敷く。このままだと流石に座り心地が悪い。古くなって捨てるのを待っていたタオルを敷き、一番奥に前の猫の時に買ったトイレを設置した。勿論、猫砂とトイレ用脱臭シートは用意済みだ。


「ちょっと狭いけどしばらく我慢してね」


 私はシッポちゃんに声をかけた。父親との約束があるから、リビングには連れていけない。それ以前にダニとかノミとかがいたら困るから、それこそ父親の言うようにシャンプーをするまでは自由に歩かせたくはない。


 ふと、猫にはどんな病気があるのかとネットとかで調べてみると、沢山の情報がヒットする。情報は必要なものとわかっていながらも、情報の海に放り込まれるとパニックになりそう。猫ひっかき病とかマダニとか、狂犬病は日本には無いと信じたい。不用意に引っかかれたり噛みつかれたりしないように注意するのは当たり前かもしれないけど……。もし、引っかかれたり噛まれたりしたら、私、死んじゃう可能性がある?


「あー、止め止め」


 私は考えるのを中止してシッポちゃんを見る。点滴をしてもらったのにぐったりとしている。昨日より元気がなさそうに見える。


「暑いのかねぇ」


 様子を見に来た母親に声をかけられる。


「人間でも暑いから暑いのかなぁ。でも、それ以前の問題のような気もする。やっぱり病気なのかな」

「拾ってこない方が良かったかもね」


 母親に言われて反論をしようとした。だが、ぐっと言葉を飲み込む。それは私も思っていたことだ。自分自身の汚い気持ちを言葉にする必要はない。


「とりあえず、頑張ってみるよ」


 呟くように言ってからシッポちゃんを見た。薄っすらと目を開けながら寝ている。見えているのかいないのか。わからない。早く元気になってね。心のなかでそう声をかける。横たわったままのシッポちゃん。これからどうなるのだろう。私は考えるのを止めれるよう努力しながらその場所を離れた。

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