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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

行商エルフ(仮題)シリーズ

行商エルフ(仮題)7

作者: まい

称号さん大活躍の回。

「待ちな!!」


「その馬車に乗っているお方に、用があるんだよ!」


「フフフ……誤魔化さなくても、こっちは見当がついているんだよ!」


「野郎ども、やるぞ!」


「待て、盗賊達!」


「あぁん?」


「無法を働く事を、止めろと言ったんだ!」


「おうおう、よく分からねーが威勢の良い坊っちゃんがやって来たな?」


「はっはっはっ、オレを見てなんにも分からないなんて、可哀想な奴等め」


「??……なんでも良いや、やっちまえ!」


「「「「おうっ!!」」」」




 …………なんでしょうね。


 街道で、少し前に私を抜いて行った護衛付きの地味な箱馬車が、盗賊に襲われました。


 盗賊達は普通あぶれ者の集まりで、種族的な偏りは地域的なもの以外無いのですが、この集団は獣人……しかもアライグマ種ばかりですね。


 そして襲われたと思ったら、()()()を着た元気な青年が、蛮勇で盗賊達の前に躍り出て、謎の口上を述べて戦闘を始めようとしています。


 ……現実逃避ですね。【詳細解析】スキルで見えた情報を含めて、言い直します。


 馬車(侯爵家搭乗)盗賊(偽装兵士)に襲われたと思ったら、元気な青年(転生者の称号持ち)蛮勇(スキル無しレベル1)で戦闘を始めようとしています。


 ―――私もそうですが、転生者とはたまに会いますね。下手な人間種の10倍近い時間を生きていますし、しかも世界中を行商をしているので、そこらのヒト達より遭遇率が高いのです。


 記憶をもって赤ちゃんで産まれた者や、何かの衝撃を受けて前世を思い出す者、こうやって神様に肉体を与えられて放り出される者まで。


 ちなみに私は、赤ちゃんからの転生パターンです。



 話を戻しますが、言うまでもなく無謀です。(かな)わない相手に、あまり手をだすものではありません。


 あの青年はこの地方の言葉を使っていましたので、この辺の言葉だけを脳にインストールされて、最低限の装備(剣とわずかなお金)で放り出されたと推測されます。


【欲を出し過ぎた者】とか言う称号もありますので、転生時に神様から怒られたのでしょうね。


 アレはハードモード転生とは気付かずに、チート転生だと勘違いした類いと思われます。



 ほら負けた。転生初日のテンプレだって、過信すればそうなります。

 全身ズタボロで既に虫の息だなんて、可哀想に。




「ハン、変にでしゃばるからこうなるんだよ……待たせたな!」


「護衛の数より3倍も多い人数の俺達を、なんとか出来るとか思うなよ?」


「オラ、囲め囲めっ!!逃がすんじゃねぇぞ!」


「馬車の中の貴人もろとも、命を貰うぜェ!!」


「あ゛ぁ゛っ!?また余計な奴が現れやがった!!」


「もういい、構うこたァねえ!まとめてやっちまうぞ!!」




 命を保証して(さら)うのなら見逃したのですが、移動中を狙った謀殺や暗殺ならば、助けないと後味がわる過ぎます。


 なのでこうやって飛び出して、馬車を中心に特殊な結界の魔法をポン。

 これで勝ちは確定です。


 飛びかかってきた盗賊(偽装兵士)さんが、結界に弾かれます。


 それに驚く皆さん。「結界か!?壊しちまえ!!」なんて盗賊のリーダーさんから号令が轟き、半数が手に持った剣で結界を殴り付けます。


 しかし私の結界は壊れません。でも殴り付けた盗賊さんは皆一様に倒れ伏しました。


「ならば遠距離だ!」と再びどなるリーダーさん。リーダーさんを含めて残りの全員が、短剣やら剣やら矢やらを投げ、飛ばしてきます。


 が、それでも結界は壊れず、皆さんは強制ダウン。古代(エンシェント)エルフの魔力を舐めるなって奴ですね。


 ……私が何をしたのか?簡単ですよ。物理攻撃は精神に、精神(魔法)は物理へ跳ね返す、反射結界を張っただけです。この結界は魔力をかなり使いますので、個人で使えるヒトはまず居ません。


 昏倒した盗賊(刺客)さん達は箱馬車とその護衛さん方(こちらもアライグマ種)に引き渡して、この場からさっさと退()いてもらいます。


 …………退いてもらう途中でチラッと見えましたね。


 馬車の装飾に紛れるように埋め込まれた、高性能な魔物避けの魔道具。小さい屋敷を1軒買えるくらいには高額。流石は上級貴族様。


 それと、馬車に乗っていた侯爵様の指輪。

 アレは手業(てわざ)の指輪じゃないですか。手の動きをなめらかに、思い通りに動かせるようになる効果の。


 普通なら罠解除や鍵解錠の補助に、訳アリな方向けの商品だったのですが、夜に愛用される方も沢山いるんですよ。




 侯爵様方を見送り、いなくなったのをスキルで確認してから、ズタボロの青年を回復魔法で治療。

 あの兵士さん達はなかなか良い腕ですね。傷が打撲ばかりですよ。


 ……行商人なのだから、道具を使ってやれ?そんなの勿体ないですよ。回収の見込みもなさそうな相手に、商品なんて使ってやる義理はないです。




「知らない天井……じゃない、空だ」


「ここは?」


「……そうか、俺は負けたのか」


「キミはいったい……?」


「助けるはずの商人に、逆に助けられた……だと…………!?」


「いや、すまない。助けてくれた事には、礼を言う」




 少し上から目線なのが気になりますね。しかもチラチラと私の胸に視線を送るエ○ガキですよ。

 私、このタイプは好きではありません。


 ですがここで助けてしまったのが不運と諦めて、私が向かっていた今日中に辿り着ける予定の街へ、責任を持って連れていく事にしました。



 道中お約束の世界設定に、お金の種類、向かう街の概略の解説。


 それから学ランを珍しい物~みたいな反応を見せて買い取って、いかにも駆け出し冒険者風の服や、当座の資金と食料を供給。


 ……この世界はぽつぽつですが転生者や転移者が来ていますし、私も地球産技術や料理の技法を時々伝えているので、前世の知識チートの出番はあまり有りません。下着を含めた衣類も、かなり進んでます。


 現在は科学の知識もゆっくり小出しにして、魔法と科学の融合を目指して暗躍中ですよ。……ふふふ。


 知識チートは無理と聞いた新人転生者さんが、とてもガッカリして「大金稼いでハーレムの夢が……」なんて言っていました。


 …………内緒ですが、学ランはありふれた衣装で、買取価格は二束三文にしかなりません。

 (先輩転生者)からの施し(義務)のつもりです。



 でも……ちょっとアレですね。

 こいつ駄目っぷりを隠しませんね。


 こちらを向けば色目を使い、

 口を開けば、歯が浮くような言葉を並べて、ナンパしてくる。


 隙あらば腰へと手を伸ばし、

 私が青年の意に添わない事をすれば、悪意込みで見下してくる。


 既婚者だとはっきり拒絶すれば、

「NTRヒロイン!?最高じゃん!!」と吼える。


 道中で最低なクズだと露見して、見捨ててやろうと何度思ったことか。


 と言うかですよ。他の転生者によって大体やる事(知識チート)は終わっていると、お前は物語の主人公じゃないぞと何度遠回しに言っても、聞いちゃいねー。


 魔族は(ひいては魔王様も)友好種族だと警告しているのに「俺の強さを証明する為、打倒魔王っ!!」とかほざくし。


 ステータスを確認させても「不遇スタート?上等だ!待ってろ俺のハーレム要員達!!」と叫んで余計な気合を入れ、改めてナンパしてくる。……イラッ。



 ……あ、今こいつに称号が2つ増えましたね。


【女の敵】

 ……治安組織のヒトがこの称号持ちを見ると、強い警戒感を。女性が見ると、更に嫌悪感も抱かせる称号。もちろん私もこいつ大嫌いです。


【行商神の敵】

 ………………ん?は、え?ちょっと待って?

 私の二つ名がコレ(行商神)ですけど、そんな称号をもらっちゃいましたけど、そんな他人へ影響を与える称号なの?行商神って。

 あ。称号効果は、商業ギルドと総合生産ギルド及びその関係者から信頼が得られない。……ヤバい称号だけど、私ってそんな凄いナニカなの?



 アナウンスでこの称号を知ったのでしょう。青年が「はぁっ!?」と嫌悪混じりの驚き声を上げました。


 そしてステータスの称号の情報を確認して、こちらを(にら)んできます。……こいつ嫌い、こっち見んな。




「ざっけんな!俺は主人公だぞ!」


「この世界は俺の遊び場だ!俺へのボーナスステージだ!」


「俺が良い目を見るべきなんだよ!!」


「俺が楽しめない要素なんていらないんだよ!」


「おいコラ神テメェ!」


「…………またマイナス称号をつけやがったなオラァ!!!」




 悪意ばかりを周囲に撒き散らしています。本気で救いようのないクズでしたね、完全に放置案件です。いくら転生仲間だろうと、ここまで酷いのはダメです。

 是非、野垂れ死んで下さいね~。ばいばーい。


 ……去り際に【詳細解析】で確認したら、本当に称号が増えてました。


【俺は主人公(笑)】

 主人公(笑)らしく、過酷な運命を背負う。

 称号で運命を操作されるって……。あ、いや。よく見たら運の数値が大幅マイナス効果だけですね、コレ。


【世界の中心で自己中に叫ぶ】

 声の大きさが増す効果。……微妙。


【神に見捨てられた者】

 うわ……神様が実在する、この世界の全てから嫌われる。って、これはもはや死の宣告じゃないですか、やだ~。



 こんな称号の乱打なぞ、滅多に有るもんじゃないです。


 予想できるのは、転生時で相当に神様を怒らせた。

 それか、魂を酷く(にご)らせているか。

 酷く濁らせると神様がはやくコロコロしたいのか、強いマイナス効果を持つ称号を付けてくる記録が有るのですよ。


 ……多分両方ですね。


 (恐らく)転生初日に、人生の赤信号が点灯しました。

 もはや打てる処置無し。解散!


 クズから逃げられた、こんなに嬉しい事はない!

 神様から見捨てられたから、私が責任を持ってあげる理由もなにも、完全になくなりました!

 私は自由だー!歩くセクハラ野郎なんざ相手したくねーの!

※今回の後書き小劇場?はございません。会話させても胸糞っぽい連中しかいないっぽいので。

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