あたしの親友は負けヒロイン
前作の“あたしの兄貴はTS錬金悪役令嬢”の少し後の話です。
あたしことヒロインの親友“イモーティア”と、ヒロイン“フィローイナ”の会話劇?女子会?
既婚者の余裕(に見られる)と未婚者(婚約はしてるが、爆弾持ち)の不満。
それと前作のあとがきで、ヒロインちゃんがなんで歴史書に載らなかったの?の答えが、ここに有ります。
これを恋愛と言えるかどうかは分かりませんが、恋愛に関する何かではあるし、前作も恋愛カテゴリーで投稿したし。
どうか半笑い混じりに、お暇潰しとしてお楽しみ頂ければ幸いです。
そうそう。前回も書きましたが、兄への呼称のブレはわざとで、馬鹿呼ばわりは基本照れ隠しです。
馬鹿兄貴の婚約者であった第二王子をヒロインちゃんになすりつけ、婚約者変更発表イベントも済んで、はや3年。
あたしは妻となり、馬鹿兄貴の家の所領にある屋敷へ、居を移している。
錬金薬である性転換薬。王子が(あたし達を使って)実演したりなんなりしても、発表した直後には芳しい反応は無かったが、何時の世でも珍しい物好きは現れる。
ソイツが使った直後から、効果が本物。発表の通りだったと知れ渡ってからが早かった。
スキモノどもや密かな同性愛者達は多かったらしく、そう言う人達が真剣な顔をして求めてきた。続いて遊び半分、何かの余興とか軽い気持ちで使ってみたいと、新しいオモチャを買いに来たって顔で、別の人達が求めてきた。
女しか居なかったから起きた相続問題が、これで解決したって感謝の手紙を貰ったこともある。
そして広がる口コミの輪。あれよあれよと薬が売れて行く。
そうなれば「誰が作った」「作った人間を確保しろ」「いやいや、アレは社会に混乱を起こす。早く除かねば」「除く前にレシピだけは確保しろ」等と厄介事もやってくる。
家に莫大な金をもたらした兄貴を、一時期は侯爵家次期当主にすると話が上がったものの、研究以外からっきしの馬鹿具合を主張して断り、身の安全の為に王都から所領に引っ込みましたとさ。
ちなみに薬の影響や経済力から、国になくてはならない貴族家って事で、発言力は公爵(の中でも、上の方)並。王族も無下には扱えない。やったぜ。
そして今、馬鹿は性転換薬製造に追われている現状を憂慮し、自分の(研究の)時間を確保すべく薬を生産できる後進の育成中。
あたしも少し手伝ってる。奴は研究しかできないのだ。馬鹿の言葉は噛み砕いてやらないと、誰も理解できないから。
しかし現在、あたしはひとりのお客様を接待中につき、後進は頭を抱えていることだろう。まあたまには悩め、悩んだ分だけ頭の体操になると思え。
「聴いてるの?イモーティア~」
「はいはい、聴いてるわよ。フィローイナ王太子側妃様」
「止めて!側妃と言わないで!と言うより親友なんだから、呼び捨てにしてよ!」
からかっている相手は理解できたと思う。そう、ヒロインちゃんだ。こいつが来ている為、応対、接待はあたしがやらねばならんのだ。ついでに言っておくけど、最初の用意だけ使用人さん達にやってもらって、あとはふたりきりで大丈夫と席を外させた。
「分かってるわよ。少しからかっただけじゃない」
「むーーーーっ!!」
ポカポカ可愛らしく叩いてくる。痛くない、完全にじゃれあい用の。可愛い。どう言い繕ってもこれぞヒロイン!って言う容姿とオーラを持っている、見たら思わず仲良くなりたくなってくる位可愛い。
こんな気安い関係はあたしが転生者で、ヒロインの親友だから。それと相手がヒロインだから。そんな姿は使用人達には見せられない。
あーそうそう、この子は非転生者で、普通の現地ヒロインちゃん。ヒネてなくて本当に良い子……だったんだけど、アレから少しあってちょっとヤサグレたみたい。
「アンタは良いわよね~。天才で売れっ子の錬金術士に見初められて~」
「フィローイナなんて王太子の妻じゃない」
あたしの夫は馬鹿兄貴。あの馬鹿を誉められてもなんも嬉しくはない。そんな事より、平民→子爵令嬢(庶子)→王太子の側妃の方が大出世で凄いと思う。
「私は王太子側妃なんて立場はいらないの!愛する人に、ただまっすぐに愛されたかっただけなの!」
……だそうだ。まあ、学園でのラブラブっぷりを見ていれば、さもありなんってものだけど。
「それに引き換え、アンタ達は卒業と同時に婚姻。事業(錬金薬)も大成功。そして赤ちゃんが既にお腹に居るって、どんな勝ち組よ!!」
…………前世で兄だった相手と婚姻するって勝ち組?研究以外なにもしない、使用人と言う補助付きでも、生活力皆無の馬鹿を一生世話する事が確定したのは勝ち組?え、そもそも勝ち組とは?
「いや、こっちに引っ込むまで大変だったのよ?薬が売れるようになるまで、変態錬金術士とその連れ添いとか、第二王子の婚約者を奪った女好きの変態女とか侯爵令嬢夫人とか。
まあ面白くない陰口を沢山叩かれたり、資金繰りとか厳しくて家の中での立場も無かったし。まともな生活を送れなかったからね?」
引っ込んでても、時々この家やあたしの実家の遠い親戚~とか言うのやらドロボウやら、もっと危ないのやらも時々来るけど。
「それらが解決した以上、そんなの関係ない!アンタも知ってるんでしょ、私の今の状態を!それに比べたら、愛する人とずっと居られる事と比べたら、苦労でもないでもないわよ!」
……まあね、知ってる。でもその前に少し言わせて。
「あの馬鹿の相手は疲れるのよ!?色々フォローしてやらないと、趣味ばっかり優先して苦労してるのよ!?」
あたしだって、現状でも苦労してる。そう訴えるけど――――
「幸せそうな苦労でご馳走さま!このまま一生苦労して添い遂げられそうな苦労で嫉妬するわっ!!」
――――伝わらない、この苦労。
「こっちなんてアンタの所の薬のお陰で殿下の発言力が増して、王太子に昇格。そしたら私では家格が足りないからって側妃に落ちて、婚姻は王太子正妃様が婚姻するまで無期延期!
当の王太子正妃様は王妃教育でせーだいにズッコケて、私と殿下の婚姻は夢のまた夢。最悪よぉ!」
なんか泣きそうになっている。まあ、その辺の事情はこの子が言うまでもなく、あたしも軽くは聞いてるし。ただ、王太子正妃候補の名前は王家王族揃って沈黙、秘中の秘であり箝口令。それはさておき、フィローイナはただ愚痴りたいだけなのだろう。
と言うか、実はこの辺はあたし達が原因。原作ではヒロインちゃんは側室入りしてないのだ。なぜか?それは悪役令嬢が居なかったから。
悪役令嬢の凶行、婚約者として不適格な令嬢だと知らしめた功績と凶行を受け続けたヒロインへの慰謝料等々アレコレ込めて、悪役令嬢の家への養子を経由して婚約・婚姻成立。
それをあたし達はやらなかった。円満に婚約解消しちゃったから。てへぺろ。
「良いじゃない。婚姻しないで恋人期間が続いてて、二人きりの時間をつくって、イチャイチャしてるんでしょ?あたしなんてそんなの無しで即婚約・婚姻よ?」
悪役令嬢の正体を知ったその日にトラブルが発生して、そのまま責任の話に突っ走ったから。つまりあたしは前世今世2つの人生で、クソ兄の世話をし続けて恋愛経験ゼロのまま母になる訳だ。……ははははは(乾いた笑い)
「その婚姻が羨ましくって妬ましいって言ってんの!!」
さいですか~なんて、軽く構えていたのだがとんでもない爆弾を投げられた。
「殿下に愛してもらいたくて、色々やったのよ!やった結果、立場をわきまえないアバ○レだの王家の秩序を乱す異物だの、酷いことを言われて。しかも今度何かやったら、側室の婚約すら取り消すぞって脅されてるのよ!?殿下には、君以外を愛せないって言われてるのによ!」
ああ~~。
「やり過ぎね。これはキツいわ」
これ、王妃候補は苦労するわ。側室として我慢しなきゃいけない所もまるっと無視して、ふたりでラブラブフィールド全開。王妃……正妻としてこいつの制御は大変だわ。
「でしょ?だから、アンタ達から国王陛下達に言ってあげてよ!」
……未来の王妃に同情したんだけど、勘違いされてるみたいだから、そこは黙っとこ。沈黙は金。
「それは無理。いくらウチでも、そこまでの力はないわよ」
無茶な要求には流石に応じられない。ヤバそうな流れだし、少し変えよう。
「ところで、王妃候補って誰よ?」
と、問いかけると、フィローイナがむくれる。その顔は可愛い。
「宰相の所の次男。学園に居たでしょ?殿下の腰巾着として」
…………おおぅ、特大の爆弾だよ。
「アンタの夫の薬を持ち上げたのは殿下。だったら言い出しっぺの法則で、男をメトれってなったのよ。私が殿下の愛妻になりたかったのに……」
お兄ちゃん……これからこの世界は、とっても混沌とした、愉快な方向に進みそうだよ。どうすんのコレ。
この後は混沌とした世界へ突入します。
子息、息女。兄姉弟妹。父母。
性別の壁が無くなった世界では、男女に分ける呼称など意味が無くなります。
呼び方をどうするのか、家の継承は、男女の性教育は。
色々問題が山積みになって、社会に襲いかかってくるでしょう。
まあ、それは現代の自分達にはどうでも良い話。ただの娯楽文章の向こうの話。
現実で好き勝手に、安価に性別をリスク無しに変えられる世の中がやって来るのは、どうせ遠い遠い未来の話。
笑って流せる今だからこその笑い(?)話でした。
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こそっと秘密公開。
あたしことイモーティアさん。
懐妊が発覚した瞬間、お付きの者すら見なかった事にした方が良いか悩む位まで、泣いて跳び跳ねて喜びました。
前世は兄に捧げて後悔してないって位には(家族愛だけど)愛してましたから。
それだけ尽くしていて、その愛に今世は応えて形あるモノで返してくれた訳ですから、愛してくれているとそれはもう。
でも本人の名誉の為に、封印です。愛して愛される幸せを、人前なのに我を忘れる勢いで喜んだ勇姿(苦笑)を、本人だけのものにしてあげましょう。
いいですね、しーーー、ですよ?