6ゴリ スカジャンゴリラ、マンボウ農園へ降り立つ
「うー…ん。そうねぇ、ゴリラさんに合う服は…おとーさん!ゴリラサイズの服あったかしら!?」
今日はギルドの依頼を受け持った。
とは言ってもゴンとマドロミとで同伴の依頼だ。というかアイツらの手伝いみたいなもんや。
「あぁ!?そっちの棚にあっただろ!よく探してみんさい!!」
「ええ!?あら本当だわ!!」
その依頼に出かける前に、俺はゴンと一緒に服の調達に来ていた。転生したばかりとは言え、
全裸ってわけにゃいかんしな。ゴリラだとしても恥ずかしい。
「ボクが服を見立ててあげよう。」っとか得意気にゴンは鼻を鳴らしたが、「いや、ええわ。」と拒否させてもらった。
お前のセンスに任せたら、クッソダサい痛々しいファッションにされかねんからな。
そうしてやってきたんが、このサイの夫婦がやっとる服屋でございます。
「ゴリラさん!これなんか似合うんじゃない!?というかコレくらいしか合うのないんだけど!!」
サイのオバちゃん、やたら声がでかい。いや、オジちゃんの方もやけど。
「え、じゃぁコレでええわ。ありがとぉ」
オバちゃんが引っ張り出してきたスカジャンをありがたく受け取る。…凄いスカジャンだ。ここへきてハマダ―ファッション復活せぇへんかな。
分からない人は調べてね。
「あらゴリラさん。アンタ関西なの!?アタシ達昔住んでたのよ!どのへん住んでたの!!?」
「た、高槻です…。」
「ゴリラさん!高槻かい!!!私達も高槻で生まれたのよ!!夫婦揃って高槻!!お見合いで知り合ったんだけどね!!結婚して東京に引っ越してね!!
彼是二十年くらい!!?」
「三十年だよこのへちゃむくれ!!」
「誰がヘチャムクレだい!!!」
知らん間に客の前で夫婦喧嘩が勃発した。
俺とゴンは邪魔するわけにはいかんので、コソコソと退散した。
「え?止めなよ。」
「サイ二体の殴り合いなんて止められるわけないやろ!」
因みに、スカジャンはゴンが立て替えてくれた。
ついでだからいいよ。とは言うてくれたものの、俺個人としてはこれ以上コイツに借り作んのは嫌だった。
「お前は何買ったん?」
「新しいスカーフ。」
「またそのスカーフかい!」また同じダサいスカーフだった。お前は次元大介か!
「初めまして。白兎の桜庭ネネと言います。ようこそ。マンボウ農園へ。」
小鳥のさえずりを感じるような美声が俺の鼓膜を揺さぶっていきおった。
目の前には一羽の雪のように白いウサギの姿をした女性が立っていた。ウサギの姿やけど一目でわかる。この人はとても美しい人なんやと!
「貴方たちが、今日はお手伝いしてくれるのね。」
「どうも、私、オーカワと申します。地元ではプレスリーに似ているとよく言われます。」
唇を曲げて最高のスマイルを見せる。
「あら。そうなの?ゲーム機みたいな名前なのね。」
……どうやら天然な女性らしい。なんて可憐なんだ。
二人もそれぞれ短く挨拶した。
こいつ等はすでに顔見知りらしい。抜け駆けしおってからに…。
マンボウ農園は14さんのギルドからちょい離れたところにあった。
森を抜けたところに一軒、ほったて小屋というよりは倉庫もどきがあって、そっから農園の柵が伸びとった。
厳密には森の途中から、すでに農園の作物が植わっとったみたいやけど、それなりに広いらしくネネさん本人も忘れてとる事が多いんやとか。
それ、まずない?
木には色んな作物が生っとった。
桃とかリンゴとか…ん?リンゴ?
「俺が来た時、ゴブリンからもらったリンゴは?」
「あぁ、あれもネネさんの農園のものだね。確か。」
なんで俺だけ怪我をせなあかんかったんや…。
俺は身の危険を感じ、辺りを見回すが奴らの姿は見えん。どうやら今日は留守のようらしい。胸をなでおろす。
「お姉ちゃん。遅いよ。」
ネネさんに連れられて奥の畑まで歩いてくると、柵を飛び越えてまた一匹のウサギが現れた。
「コイツら誰?」
「今日手伝ってくれる人達よ。」
「なんだ、またダサいキツネとマドロミじゃん。」
ネネさんに抱き着きながら、何だか自分生意気キャラですって感じのオーラをプンプン臭わせる。
俺的にはゴンをストレートにダサいって言うとる事にざまぁみろって思っとるんやけどな。
「それで、何?うわ、ゴリラじゃん!え!?ゴリラじゃん!しかもスカジャン着てるじゃん!きつきつじゃん!だっさい!!」
俺にまで飛び火した!
「何笑ってんねん!お前ハマダ―ファッション知らへんのんか!」
知らない人は調べてね!
「しかも腕だけ太い!ポパイじゃん!お前ポパイ?ポパイなのかぁ!?ギャハハハハ!!」
「ポパイの何がいかんのや!ポパイかっこええやん!この短足齧歯類が!」
「人が気にしてるところをよくも!!おねーちゃん!あの鼻くそゴリラが虐めるよ!」
「この子は桜庭ノノ。私の妹なの。」
お姉さんタイミング可笑しない?
「じゃぁアンタは此処に植えて。ほら、キリキリ働けよクソゴリラ。」
短い指でこんもりと盛り上がった土を指す。
「へいへい。」
俺は言われるがまんまに小さい苗を畑に植えていく。
仕事やなかったら、ぜってぇこんな女の言う事なんて聞かんわ。良いか?絶対にや!!
さっきも言うたけど畑はかなり広く、せやから2チームに分かれて苗を植えていく事になった。
ゴンとマドロミは、ネネさんに連れられて隣の畑へ、
俺は、この失礼極まりない妹の方と組んで苗を植えていく。
「ギャハハハ!ゴリラなのに猫背!笑える!笑い殺される!!捩れる!」
「そのまま捩れて千切れてまえ!」
ネネさんの妹とかやなかったら、八つ裂きにしてやりたい気分やった。
苗を植えようと、畑の土をまさぐった瞬間、そいつは現れた。
ほほう…。
いくら農家の女子やとはいえ、こいつがもしもまかり間違って顔面にでも飛来してきおったら
流石に耐えられんやろう。俺かて嫌やし普通は逃げ出すやろうなぁ。
いや、流石にこれをするんは外道過ぎるかもしれんな。流石になぁ。
…が、しかし、まぁ事故やったらしゃーないと思うな。
ただの事故なら、しゃーない。しゃーない事や。
すっと立ち俺は太陽を仰ぎ見ながらこう言うた。
「いやぁ、太陽が眩しいな。」
そうして、おっと手が滑った。と言って、奴を中空へ放った。
俺が放ったミミズはウネウネ蠢きながら、そのままネネの顔面に突っ込んでいった。
「おわあああ!!!」
叫び声をあげるウサギ。
っが、その叫び声は、俺が思ったのとはちゃうもんやった。その叫びには絶望が込められとらんかった。
どっちかというと黄色い声って感じで、ネネは言うた。
「ミミズだぁ!可愛い!!」
予想を大きく外れていった歓喜の声。
「なんやねんお前!その大ファールなリアクション!」
「アンタさ、どうせ私がミミズちゃんで悲鳴でも上げると思ったんでしょ!残念でした。私ミミズ大好きだから!学校ではクラスの皆から
ミミズ系女子って言われて慕われてたんだから!」
「いや、それは慕われてたんやなくて弄られてたんやろ!」
なんやねんミミズ系女子って!
「学校行けば毎朝、下駄箱の中にミミズちゃんがいっぱい入った箱がプレゼントされてたっけ…。私モテてたから。」
「なんて陰湿な奴らなんや!」
「あ、でもあれは許せなかったな。干からびたミミズちゃんが机の上にぶちまけられてたんだ。」
「本当許せねぇな。」
そんで虐めとる方も頑張ったな。なんでミミズばっかり集めとるん。拘りすぎやろ。
しかも結果は明後日の方向やしな。
「お前…苦労したんやな。」
「え?何?キモイんだけど。凄いキモい。略してスっきも!」
「スっきも!?」
新語やな!流行るとええな!
日が落ちてきたので、ギルドに帰ってロビーで晩飯。
結局、喋っとっただけで作業は殆ど進まんかった。
そもそも一日であんなだだっ広い畑、植えきれるわけないやん!
「ゴリラさんに、腕がもっといっぱいあったらよかったのにね。」
っとネネさんは曇りなき笑顔で言うてくれた。
俺に千手観音にでもなれと!?
「あれだけ腕があれば休憩いながら作業とかもできそうで便利よね。」
「多分、そんな理由であんだけ腕が多いわけやないと思いますがお姉さん!」
「なんで腕はあんなにあるのに足は普通なのかしら?」
「お姉さん!?」
「足も千本あればサッカーとかも強そうなのにね。勿体ない。」
「怖いっすよ。そんな千手観音!!」
ちょっと想像しちゃったやないですか!
そこでマドロミが「でもかっこいい」なんて言うからネネさんの妄想はさらにアクセルを踏み込んだ。
「じいちゃん大丈夫か?」
「あぁ、…大丈夫。ありがとう。」
ミーアキャットの二人、じいちゃんと孫って感じか。がロビーに入ってくる。
じいちゃんの方は腰を曲げてヨボヨボと歩く。
よう見ると二人ともドロだらけで、そんで傷だらけ。
「最近、多いみたいね。」
「ああ、例の森の主ってやつね。」
「もう何件目になるかしら。」
「数えきれないな。」
「3件目よ。バカだね。」
「俺は体育系だからしょうがないの!」
「体育系だからって言っても3つくらい数えれるでしょうが!脳みそ筋肉!」
「筋肉はいいぞ!ありがとう!わけてやろうか!3キロメートルくらい!」
「何故距離単位!!」
っというヒソヒソ話が聞こえた。
後半はもう聞き耳を立てるまでもなく、おそらくギルド中に響き渡りそうなくらいの大音量だった。
「というかお前さっきから食べ方汚いねん!俺のスカジャンに汁飛んどるやん!」
俺はさっきからマドロミが食べ散らかすラーメン?にイライラしとった。
「そんなくらいで怒るなんてみっともないよオーカワさん。」
っとゴンは似合いもしないオムライス?を頬張りながら言う。
「お前は涎掛けがあるからええけど、この子は不器用やからしつけが必要なんだよ!」
「涎掛けじゃないし!スカーフだし!」
しかし、実際スカーフもケチャップでベタベタやった。きったな!だっさ!
「こういうスタイルなの!」
「んなわけあるかい!」
「五月蠅いなぁ。」
マドロミは怪訝そうにまたラーメン?を音を立ててすする。
「元はと言えばお前が発端やけどな!」
腹立たしいが、俺はこの穏やかな日常を一日やけど慣れ始めとった。
順応性早いやろ。
っが、次の日になって俺達は目を丸くして。金魚みたいに口をパクパクさせる羽目になった。
(マドロミは表情筋が固まっとるのかいつも通り)
マンボウ農園、先日俺達が手伝った畑は、あちこちが踏み荒らされ育ってきとった苗も倒れて悲しそうに萎びとった。
ゲームとギターをしながら、片手で書き物をしています。