3ゴリ ミドリ色の災難
「ボクは君と同じで、元・人間だよ。」
ゴーン・ギツネ。
虹色のダッサい布切れを首に巻きつけた、全身薄赤色のキツネはそう言った。
ダサいキツネだ。
「ていうか、同じって・・・お前俺も元・人間ってわかるん?」
「いや、川辺でダンスしたりマッスルポーズしたりしてるゴリラを、逆に普通のゴリラだって思うわけないじゃん。」
見られてたんかい!!
男、大川コーサク。一生の不覚!!ドカーン!!
「どっから見とったん?」
「花壇に突き刺さって、村人に追い掛け回されているあたりからかな。」
「ほぼ最初やんけ!!」
ドカーン!ドカーン!
「リアクション大きいね。」
「うるっさいわ!」
これは生まれつきやからしゃーないの!
話しが進まないので割愛。
「というかね、オーカワさんと同じように元・人間の動物って結構居るんだよ。色んな理由で命を落として転生して異世界に漂流する人ね。
だから、ここではそういう人達を『転生動物』って呼んでるんだ。現実的だろ?」
「な、なるほど・・・。」
毛ほども現実的じゃない。
「呼び名はさておき、え?何?まさかとは思っとったけど、やっぱし俺って死んだん?夢とかじゃなくて?」
「まぁ、死んだんじゃない?」
他人のことだからとはいえ、ゴンは雑に言う。
「地球が丸ごと爆発したらしいし、オーカワさんだけじゃなくて人間みんな一斉に死んだんじゃないかな。」
そんで一斉に死んだ人間達は、さっき言った『転生動物』としてこの世界に流れついた。と、そういう事らしい。
「なるほどなるほど、つまり異世界ってことやな。ラノベとかにありがちな異世界転生したって事やな。」
「そうそう、つまりそういうこと!」
「そんで魔法とかで魔王とか倒せばええんやな!」
「いや、魔王なんて非現実的なもの居るわけないでしょ?ゲームや御伽噺じゃないんだから。」
アニメや小説の読みすぎでしょ?と、ゴンは呆れた口調で罵った。
さっきまでお前だって「つまりそういうこと!」とか言うとったやん!
「じゃぁ、どうしたらええの?どうしたら元の世界に帰れるん?」
「何言ってるの?死んだんだから帰れるわけないじゃん。地球だって爆発したって言ったでしょ?人の話し聞いてた?」
「じゃぁ、俺はもう二度といすゞの117クーペにも乗れんし、彼女もできへんってことかい!!」
(1967~81年までの間にジウジアーロによって作られていたカッコイイ車の事)
「車は無理かもしれないけど、彼女ならまだ可能じゃない?」
「え?マジで?」
「山とかジャングルに行けば、可愛いメスゴリラの一頭や二頭・・・」
「どつき回すぞ!!」
「まぁ、日向ぼっこでもして、のんびり生活しよう。」
「隠居生活やん!!まだ、35年しか生きとらんのに、そんな人生・・・いや、もうゴリラやからゴリ生?は嫌やぁ!!
可愛い彼女をクーペの助手席に乗っけて、キラキラサンサンと輝く海沿いをファンクを聴きながら駆け抜ける淡い夢がぁああ!!」
俺は男泣きをしながら地面をバンバン叩きながら叫ぶ。
ヒステリックに叫ぶ。
悲痛で胸の中を荒々しく削られるような気分で泣き叫んだ。嗚咽した。
「現実に戻ってきたら教えて。」
「冷た過ぎんだろ!」
今ならマジでぶん殴ってもええんちゃう!?
シリアスシーンなんてなかった。
「あんまりギャンギャンしないで。」
ゴンの後ろで声がした。
「ごめんごめん」
そうゴンは手で謝罪の合図をしとった。
その先には小さな黒い猫がおった。棒っきれに紐を括りつけた申し訳程度の釣竿で魚釣りをしとった。
猫は「魚が逃げちゃう。」と無表情で、だけど明らかに怒った口調でジーっと川の中を睨みつけていた。
「この人?この人はマドロミさん。」
「別に聞いとらんで?」
お節介にもマドロミさんと紹介された黒い猫は竿を上げ残念そうに溜息をついた。
釣り糸ならぬ釣り紐の先には餌のつもりなのか小さい木の枝が括りつけられていた。
釣れるかぃ!!
まぁ、ザリガニくらいなら捕れるかもやけどな。
「言うまでもなく、彼も『転生動物』だよ。」
「せやろな。」
いっくら利口でも川辺で魚釣りなんかしとる猫なんておってたまるかい。
SNSのいい餌やろ。
「今日はなんか釣れた?」
「タコみたいなの釣れた。」
ゴンが聞くとマドロミさんは脇に置いとったバケツから手掴みで小さいタコ?を見せびらかせた。
ブスゥ!ブスゥ!と気色悪い音がしている。
よう見たら何となくオッサンみたいな顔したタコもどきやった。
「よっしゃ今日はこのくらいにしたるわ。」
「しかも喋るんかい!!」
そんで関西弁かい!!なんか腹立つわ!!
「「異世界だから」」
二匹は口を揃えて言う。
とりあえずというかなんというか、俺は一度ゴーン・ギツネとかいうダサいキツネとマドロミさんという普通の黒猫についていくことにした。
なんでも、マドロミさんが夕飯用に魚釣りをしようと思ったらしいんやけど、魚釣りなんてしたことない上に、思ったよりも面倒くさかったとかで飽きたらしい。
「ゲームと違う。」
「まぁ、腐っても現実だしね。」
「いや、舐めすぎやろ。」
しかし、変なオッサン顔のタコは捕れてるんやけどな。
というか、ゴンもそうやけどマドロミさんも二足歩行なんやな。人間みたいな動き方やな。
「それは人の事言えないんじゃないかと。」
「・・・・・・・」
川辺でパラパラ踊るゴリラの姿がフラッシュバックしてきた。
昔はもっとうまく踊れたような気ぃすっけどな。
そうカリスマ的な物思いにふけりながら二人、・・・二匹の後ろをついて森の中へ入っていくと遠くで人影を3、4つほど見つけた。
しかし、さっきの村人とはなんか少し物腰が違った感じがしとんなぁ・・・。
身体はなんか小さくてボロボロの布きれみたいなんを着て、ハゲ頭で尖った耳に尖った鼻で、肌は肌で緑色をしとってなんかまるで・・・
「うん、ゴブリンだね。」
ゴブリン!!?
「お前さっき魔王とか非現実的だの何だの言うとったやん!!」
「言ったけど、魔物的なものが居ないなんてボク言ってないでしょ?異世界なんだもの。ゴブリンくらいいるさ。」
遠くに見えるゴブリン達は木になっている果物を千切ってモソモソと食べている。
「魔王は居ない。だけど魔物とか妖精とかは普通に居るよ。異世界だもの。」
ついでに言うと魔法もちゃっかりあるんだとか。
矛盾しとるやん。
変化とかあるわけないとか言うとったのはどこのどいつや!
「だってボク、普通に可愛いただのキツネだもの。」
妖怪とかじゃないもの。とダサいキツネは言ってのける。
「魔法って言ってもゲームみたいに派手な感じじゃない。もちろん、妖精とかはちょっと凄い魔法が使えるらしいんだけど。他は本当に申し訳程度だよ。タバコに火をつけれたり出来る
程度の魔法が使えるくらいさ。ただこの異世界では科学なんてもんはないから、その程度でも十分ありがたい。」
「魔物とか妖精以外で魔法が使える種族って、俺達も魔法が使えるん?」
「動物種で魔法が使えるのは、ボク達みたいな『転生動物』だけだけどね。」
そうしている間に、マドロミさんはそこらの木の葉を適当に集めて実演してみせていた。
「・・・・・・・みんな燃えていく・・・。」
かき集めた木の葉が、マドロミさんの手から放たれた線香花火みたいに小さい火の粉で少しずつ燃え始めていく。
実演の仕方が闇が深い!!
なんで蛍はすぐ死んでしまうん!?
「逆に、魔物が居ないと魔法が使えない。魔物種が常に身体から排出してる魔力エネルギーのお陰で、他の種族が日常生活で必要な魔法を行使することができるんだよ。
虫が植物の種を運んだりして作物を育てるのと同じ感じだよ。」
まさに、Win-Winの関係ってやつさ。とゴンは言う。
この世界では、人間種、動物種、魔物種で上手に共存して生きている。とそういう事らしい。
魔物は人間や動物が生み出す食べ物が必要。
人間は動物と共存して食べ物や生活に必要なものや、魔物がもたらす炎や水の魔法が必要。
動物は人間と共に食べ物を作らなくちゃいけない。
「なるほど、確かにWin-Winでありギブアンドテイクやな。」
そういう事。っとゴンは頷く。
「で、今回はゴブリンのとこに行って、リンゴをわけて貰おうって思うんだけど、折角だし挨拶も兼ねてオーカワさん行ってきてくれる?」
「おう、ええで。それくらいなら任せろ。」
俺はふたつ返事で脇にカゴを抱えてゴブリンさんのところへ、コミュ力の神様と言えるような爽やかスマイルを携えて駆け出した。
しかし、その数分後。
誰もが想像しえなかった悲劇が俺の身に起こったのだ。
「おい、この姿を見ろ。」
俺は全身ズタボロの体躯を二人に見せた。
「オーカワさん、細マッチョだね。」
「そうではござらぁぁん!!!」
落ち着いて今起こったことをありのまま説明しよう。
意気揚々とカゴを小脇に抱えてゴブリン達の前に現れ
「ハァーイ!今日はいい天気ですねぇ。すんません。よければリンゴをちょっとわけて貰えませんか?」
「ぎぎゃああああああ!!!」「おぎゃぁあああ!!!」「ぶんぎゃぁあああああ!!!」
「うわああああああ!!デジャヴゥ!?」
ゴブリンさん数匹によって袋叩きにあった。
「カゴがあっても、加護がなかった」
「マドロミさんうまい!」
「うまいことあらへん!」
俺は抱えたカゴを地面に叩きつけた。
「実はこの世界ってね、種族間の仲がとっても悪いんだよ。オーカワさん、転生してきた時も人間に追いかけ回されてたし、だから身をもって知った方がいいと思ってね。」
なんて高い授業料や!
そのまま死ぬかと思ったわぃ!
「いい方法がある。」
そう言うとマドロミさんはまた脇から小さいオッサンみたいなタコを引っつかみ見せびらかせてきた。
またブスゥ。ブスゥ。と変な息をしている。相変わらずきっしょいなぁ。
「いい方法ってなん?」
「任せて。」
そういうとマドロミさんは俺の身体をよじ登って、小さいオッサンの墨を俺の頭へぶっ掛けはじめた。
「ぶわ!?何をすんねん!!」
「ちょっと、マドロミさんに乱暴しちゃダメだよ。野蛮なんだからぁ」
驚いた拍子に、俺はマドロミさんを首根っこから掴み、明後日の方向へぶんなげた。
まぁ、しかし流石は猫。中空でくるりんっと回転して見事に着地した。
「いい感じ」
「あ?」
「オッサンの緑の墨で、オーカワさん緑色になった。」
自分ではよくわからないが、どうもお祭りの屋台とかにあるカラーヒヨコならぬカラーゴリラとなったらしい。
「なるほど、これならゴブリンさんに話しかけても、ちゃんと仲間だと思ってリンゴをわけてもらえるってわけか!」
マドロミさんは無言でグッジョブのポーズを取った。
「やっしゃ、なら今度こそ行ってくるわ!」
「「いってらっしゃい。」」
しかし、その数分後である。
誰もがちょっと考えればわかるような悲惨な出来事が俺の身に起こった。
「おい。マドロミこのクソ駄猫。」
「?」
「何か俺に言う事があるんやないか?」
「・・・・・・・・・・・おかえり?」
「ちっがぁぁぁあう!!謝罪を要求していマァス!!」
さてさて、今年の大流行の大人なゴブリンファッションで少し小柄な可愛いミニゴブリンちゃんのハートを突っつこうとした瞬間やった。
「オーゥ、ベイビー。ボクは今とってもお腹の中のインセクトが小気味いいワルツを踊り・・・ダンスィングしてしまっているところなんだけどベイビー。ちょっとだけ
そのキュートでミニマムなお手てに持ってるアップルをわけてくれないかベイビー♪」
「フンギャァ!!オッラァ!!ッシャァオラアアアア!!!!」
「嗚呼ァアアアアアアアアアア!!!?」
K.O.
可愛い握り拳で容赦なくタコ殴りにされ、ショウリュウケンからのタツマキセンプウキャクという信じられないコンボ攻撃を食らい殺されるところだった。
「まぁ、ゴブリンっていうかむしろトロールって感じだったしね。」
「気付いとったんなら止めろや!!」
そう怒鳴るとゴンは「面白そうだったから」とか言って明後日の方を向いて舌を出して見せた。可愛いつもりか!?
「とりあえず、調達できたんだから今日は帰ろう。」
見ると俺がゴンに対してヒステリックを起こしている一瞬の間にマドロミさんが落ちてるリンゴを拾い集めてきた。
それは俺が逃げるついでに死に物狂いで収穫して、だけど落としてきたリンゴやった。
お久しぶりでございます。
3話目となります。
最近は仕事がリアルでの仕事が忙しくてなかなか執筆が出来ない状況が続いていました。
たまの休みは起きたら空がオレンジ色ってことも多くて・・・(愚痴)
前回はダサいキツネ。今回で黒猫。
こっから更に新キャラを増やしていこうって思いますんで、よろしくです。
連休が出来たら今度こそ沢山執筆したいと思います!!
(愚痴)