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2ゴリ 二足歩行のキツネ。




カタンカタン・・・カタンカタン・・・

電車は俺の上半身を交互に揺らしていた。


俺は大川コーサク。

自動車工場で働く平凡でピチピチの35歳。

彼女は居らへんのでガッチリ募集中。

夢は70年代の外車にボブカットの似合う可愛い年下の彼女とか隣に乗せてブラザーズ・ジョンソンとか聴きながら・・・ゲフンゲフン!!



そんな俺は電車の心地よい揺れ具合と疲れと適度な暖かさで眠っとったらしかった。

ウトウトしている間に車内の人間の雰囲気は大きく変わっとって、

大きなリュックサックを背負っとったり、キャリーケースを持っていたりしている人もおった。

その殆どが俺と同じ目的地を目指しているような気がした。



『間もなく、国際展示場前~。国際展示場前~。』

アナウンスが本日の目的地を知らせる。

車内に乗っていた人間は慌しく、互い同士を押し合いながら我先にと外へと出ようとしだす。

走らず騒がず、という注意もみんなガン無視で走って目的地を目指す。

俺はその様子をのんびりと眺めながら彼等彼女等の後を追っていく。

何事も落ち着いて、クールにいくべきだよな。

焦って生きていると事をし損じるしな。



空は雲ひとつないカラっとした青空。気温も熱すぎず寒すぎず恵まれた程よい暖かさ。

今日は夏のコミックマーケット。夏コミである。

先ほど、慌しく駆けて行った有象無象・・・とかいうと怒られそうなので人々と言っておこう。

その人達同様、本日俺はその夏コミに参加する為に大阪からはるばるやってきたわけだ。


ネットの友達に誘われて俺もはじめて参加することになったけど、

やっぱり緊張するな。

この日の為に数日、鬼のように職場の業務を片付けまくったおかげで

なんとか休暇を勝ち取れたからテンションめっちゃあがっとる。

半分は空元気なのかもしれんけどな。天気同様にな。


みんなに会えるってのもあるねんけど、もっと言うと呑みに行こうってはなしがあるのが俺のテンションをさらにあげとる。

久々の呑み会やからな。



「みんなどこにおんねやろ?そういや待ち合わせなんて何も言うてなかったな。そういうとこガバガバやなぁ。彼女とか出来たらそういうの

ちゃんと直さなあかんな。・・・そんな予定ないけどな。」

自分で言うて悲しくなった。

オッサンのガラスのハートは意外に脆いんやで。



『会場内では走らないでくださぁい!』


『暴れたり、しないでくださぁい!!』


『コスプレは登録した上で会場内の更衣室で着替えてくださぁい!!』

会場内に足を進めると、そうスタッフが注意を促していた。

他にも売り子と呼ばれる人が自分達の作った本やグッズを売る、威勢のいい掛け声や

コミカルなBGMが会場内を埋め尽くしとった。

まさにお祭りという感じやな。


「つか、みんなどこにおるん。」

俺は邪魔にならないような人通りの少ない隅っこの方へ逃げてスマホを取り出しSNSをチェックする。

『ジュース飲んで休憩してます』とのこと。

いや、そもそも折角コミケに来とるんやから買い物せぇや。

俺は、「俺もそっちいくわ」と返事を返すとスマホをポケットにしまい、その場を後にした。

流石に駆け足でいくと怒られてしまうだろうから俺は小走りで向かう。

「すみません、会場内では走らないようにお願いします。」

スタッフに見つかり、普通に怒られた。だから大人な俺はすぐに謝りスキップをした。

「すみません。会場内でのスキップはご遠慮願います。」

「あ、そうなんですか?すんません。これからは気をつけます。」

結局怒られてしまった。

適当にまた謝ると俺はエスカレーターに乗り、二階へ向かう。



「すみません。会場内のバナナでチャンバラをされる事は他の方のご迷惑となりますのでご遠慮ください。」

エスカレーターを登っているとそんなスタッフの声がした。

バナナでチャンバラってなんやねん。

どういう縛りプレイやねん。

そう心の中でツッコミを入れとると俺はエスカレーターを登りきった。


しかし・・・



それと同時だろうか、俺の顔面へ十センチメートル程の細長い物体が飛来してきよった。







まぁ、バナナやけどな。

どうやら、チャンバラをしとった二人のうちのどっちかの手からバナナがすっぽぬけて飛んできたんやろうな。

高速縦回転を繰り返したバナナは、空中で冷凍され俺の顎を直撃して砕け散った。


その衝撃で俺は脳を揺らされ身体のバランスを保てなくなり

足からガクっと崩れた。

そして、崩れて倒れこんだ俺はエスカレーターを転げ落ちた。


そして、転げ落ちきった俺の身体はバウンドし壁を突き破り、ちょうど外を走っていた車に突き飛ばされ更にスピードを上げて突き飛ばされた。

まるでピタゴラスイッチかよって思うようなコンボがつながった。

どうやらさっきの車は次元を超える実験マシーンだったらしく俺の身体は一緒に次元を超えた。

もちろん、そんな次元を超えるようなスーパーエネルギーに生身の肉体が耐えられるはずもなく俺の身体はそれはそれは見事な花火となりました。



いやはや、なんでこんな事になってしまったんやろうか?

どこから間違ってしまったんやろうか?

コミケなんかに来てしまったんが間違いやったんやろうか?

あそこでエスカレーターなんかに乗ったんが間違いやったんやろうか?

昨日の晩飯前に調子に乗って買い食いなんかしたんが間違いやったんやろうか?

鮭オニギリじゃなくて、おかかオニギリにしといたらよかったんやろうか?


「おかしいなぁ。今日のラッキーアイテムはバナナで、おとめ座は一位やったはずなのに・・・おかしいなぁ。なんでこんなことに・・・。ラッキーアイテムがバナナなんは

まぁ、ある意味あたりやったんかなぁ。こんなことならいっそゴリラにでもなりたかったわ・・・。ほんならもっと楽な人生やったんやろうなぁ」

ゴリラになれば毎日、体張って日銭を稼ぐこともないし

上司にくだらん理由で呼び出されて嫌な思いせんでええし

人目を気にして生きることもないだろうし

楽やろうなぁ。



花火となり爆発四散しながら俺は虚無の中でそんなアホなことを考えていた。

マヌケな最期を向かえて一周まわって、落ち着き払っていたのだろうな。





気がつくと俺は花壇に頭から突き刺ささっとった。

「なるほど、頭がお花畑といいたいんやな。ってやかましいわ!」

さっそくツッコミを入れる。

これは所謂俺の、ルーチンワークのようなもんやから仕方ない。仕様だ。

周りの道は舗装されとらんし、建物は木造のちっさい家が数件建っとった。

畑や田んぼがあって朽ち果てた案山子が三本くらい刺さってて遠くを見とった。

「なんや?映画村かなんかか?電柱もなんもあらへんし・・・。・・・あぁ、そっか夢か。明晰夢ってやつやな。俺、映画村なんて別に用事あらへんしな。

だいたいさっきまで東京におったしな。むしろこんなRPGとか異世界転生もののラノベの最初の村みたいなとことは正反対の場所やわ。

結論。これは夢や!!」

と、独り語りをしていると、荷車を押したお婆さんが現れた。

見た目はだからファンタジーに出てきそうな感じでエプロン姿のよく似合う腰を曲げた優しそうな老婆・・・。


「ぎぃぃやぁああああああああああああpsjkfskgssんfjf」:s!!!!!」

「うぉぉおおお!!?」

お婆さんは奇声を発しながら、いったいその痩せ細った身体のどこにそんな力があるのか知らんが、片手で自分の上半身くらいの大きさのスイカだとか

メロンだとかを俺にむけて、がむしゃらに投げまくってきおった。

「ちょッ!何!?何!!おばあちゃん危ない!!あと、メロン勿体無い!!」

言いながら俺は頭を庇いながら逃げる。

がむしゃらに果物を投擲しながら追いかける老女と同じく俺も必死で走る。


無我夢中で走っていると、線の細い少女と眼が合った。

年齢としては、中学生・・・いや、高校に入りたてで背の低いほうで、「あれ?私、そろそろ第二次成長期きてもいい頃だよね?全然大きくなんないなぁ・・・」

って困っている頃の・・・ってそんな下らないことを考えとる場合やないし!

「すんません!ちょい助けて!!」

「あああああああああああああああ」

ヘルプミーを言うが早いか遅いか、少女もまた叫び声をあげて、なんか手当たり次第に適当なものを俺にむかって投げてきた。

「なんでだぁ!!」

女の子に追いかけられるのが、こんな意味のわからんもんなんて切なすぎる。夢とは言え酷い悪夢だ!






「─・・・い。おーい!!起きてる?」

声が聞こえて俺は眼を覚ました。

なるほど、やっぱりさっきまでのことは夢やったんや。

バナナを投げ付けられて、エスカレーターから転げ落ちて、車にはねられて、次元を超えて、老婆や女の子に殺されそうになったとかいうアレはやっぱり

ただの悪い夢に過ぎなかったんや!


やっぱりなぁ。眼が覚めたら突然ゴリラになんてなってるわけあらへんわなぁ。

「ねぇ、そこのゴリラさん。起きてる?大丈夫?」

「誰がゴリラやねん!!」

「うわ。」

飛び起きて俺は声の主に怒鳴りつける。

「急に大きな声出さないでよ。まったく非現実的な霊長類だなぁ。」

マナー違反だとか、野蛮だとか、目の前のキツネは散々文句を言いまくる。


ん?キツネ?

「え、キツネやん。」

「は?うん、キツネだよ。」

そう俺の目の前にはキツネが居った。二本足で立っとった。直立しとった。

身体中は薄い赤色で、目ん玉は目ん玉でリンゴみたいに真っ赤な色をしとった。

首にはなんかのオシャレのつもりなのか王冠のエンブレムが刻まれた虹色の古びた布っきれを巻きつけとった。

・・・ダッサ。

「今、ちょっと失礼なこと思わなかった?」

「気のせいやろ。」

人のセンスを悪く言うのんは褒められたことやない。人には人の価値観があり、それは尊重すべきものやと俺は思う。

だから俺はこの目の前のキツネがどんだけダサかろうが何も言わんことにした。

きっと彼にとっては、とっても素晴らしいものなんやと思う。

まぁ、ダサいけど・・・。


「現実的にそろそろ目も覚めてきた頃だろう?自己紹介といこうか。ボクの名前はゴーン・ギツネというんだ。」

「眉毛が太そうな名前やな。大丈夫か?偉い人に怒られんかその名前?」

「そういう余計な心配はしなくていい。」

眉毛を吊り上げてゴーン・ギツネはむくれた。別に可愛くはない。

というかフルネームは鬱陶しいからゴンでええか。

「俺、大川コーサク。」

「演歌歌手みたいな名前だね。」

「すまんけど俺、演歌はそんな知らんで?」

そういうとゴンはつまらなそうにした。

「ていうか、キツネの癖して演歌なんて知っとるんか?変わっとるな」

「先生が授業中に話題にあげたから知ってただけだよ。別にボクの趣味とかじゃない。」

「・・・・・・授業?キツネの師匠かなんかでもおるん?」

昔の映画や絵本かなんかみたいに変化や妖術を教える妖狐の長みたいなんがおって、学校でもやってるんやろうか?

なるほど、せやからコイツはさっきから人の言葉をはなしたり不自然に二本足で立ったりしとるんやな!

全ての点と点が繋がったわ!!

真実はいつも一つ!!


「意義あり!!」

点と点の間を引き裂きおった。

「そんなわけないでしょ。ボクもともと声優の専門学校行ってて、ただ授業中に先生が勝手に語りだしたのを覚えてただけだよ。

そんな御伽噺じゃないんだから、キツネやタヌキが変身するなんてあるわけないじゃない。まぁ信じるなとは言わないけどさ

だけど、そういう夢ばかり見てたら将来苦労することばっかりだよ。有効的に打算的に計画的に人生を歩まなくちゃ躓いちゃうよ。現実的に生きなよ。」

何故だかお説教をされとるような気分になった。

二本足で立つ変な薄赤色のキツネに人生を説かれとる。すごいシュールで意味のわからん絵面やない?

「いや、だってお前キツネやん?」




「ボクは現実的な元・人間だよ。転生してキツネになったんだ。」

そのゴンの言葉は、非現実的で矛盾だらけで実にデンジャラスな自己紹介やった。









こんばんわ。

仕事とか最低限の買い物(とか美容院)以外では滅多に外出しないのですが、

稀に遠出とかもします。

主に関西が好きです。


東京へ赴いて、品川駅から新幹線で帰ろうって時にトイレに行ってたら最終電車を逃したことがあります。

でも次の日もしっかり休日だったのでセーフでした。

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