1ゴリ 水に映ったゴリラ。
遠くで何か力の抜けるような、鳥のさえずりや川のせせらぎが小気味よう聴こえて来る。
木造の家々が建ち並び、田んぼや畑もあって、それは古い田舎を思わせる人里やった。
俺が自分の身に起きてしもうた事に気ぃついたんは追っ手を振り切り一旦落ち着くために、川で顔を洗おう思うた時のことやった。
俺は出勤前に洗面所でいっつもしとるように水でバシャバシャ勢いよう顔面を洗う。
冷たい川の水で精神も脳もクールダウンしてスッキリした。
ほんで俺はいつものイケてる自分に戻った。・・・はずやった。
「ゴリラやないかぁい!!」
川に映った真っ黒い姿に俺は仰け反った。
ゴリラである。
霊長目ヒト科ゴリラ属のゴリラである。
雄なら体長約170センチから180センチにもなる。
主に植物とか果物とか、あと昆虫などを食べる雑食の動物である。
そのゴリラが、俺の顔を洗った川に映っとった。
「いやいやいやさっきは俺以外誰もおらんかったはずやん!?」
掘っ立て小屋とか倉庫とかはあったけど人っ子ひとりおらんかったはず!
ましてや、ゴリラみたいなでっかい生命体がおったらいっくらなんでも気ぃ付くはずやし!!
そんで、今も周りには俺しかおらへん。
「だいたい、こんな見るからにド田舎にいきなり、立派なゴリラなんか出てくるわけあれへんし!
つまり、さっきのはあれやな・・・仕事の疲れから来とるんやろ!ほんま、休暇とるためにここんとこ忙しかったしなぁ。これで大丈夫。もう落ち着いたわ。」
落ち着きを取り戻した俺はもう一度、川を覗き込む。
ゴリラだった。
「だから、なんでや!!」
本来、川に映るはずの俺のスマートでカッコいい顔は映らんと、
代わりにでっかく真っ黒なゴリラの顔が驚いた顔で覗き返しとる。
「驚ろきたいんはこっちやわ!」
ツッコミを入れた、ゴリラは俺と同し動作をする。
川に向かって身振り手振りをしたり、パラパラを踊ったり、マッスルポーズをしてみたりを繰り返すが、ゴリラは俊敏な俺の動きについてくる。
ミスタービー○とか森本○オとか池野○だかとか海原○るかかなたのモノマネもしてみた。が多分あんまり意味はない。
「・・・・・・まぁ、今のでわかったことやけど、しかし受け入れたくないことって人としてあるやんなぁ。」
『人』として。
どうか気でも狂ったかとか思わんといて欲しい。
「俺・・・ゴリラやん。」
ゴリラだった。
徹頭徹尾、爪先から頭の天辺までゴリラになっとった。
落胆し、地べたに座り込んだら川に映ったゴリラも同しように座り込んでた。
どうやら俺は気がついたらゴリラの姿になっとったらしい。
我ながらアホな話やと思った。
「いったいなんでこんな事になったんや・・・。」
俺は絶望しながら、目を閉じて記憶を振り返る。
こんばんわ。
今回は肩の力を抜いて、異世界物が書きたいと思ってはじめました。