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子守こそ最大の防御

思い付きで話を書いています。

なので設定とかがばがばです。

 そろそろママとやらが帰ってくるだろうと考え、自宅で待機することにした。

 つうか、なんで俺は律儀にシャンの子守なんかしてるんだろう。

 シャンは疲れてしまったのか、スヤスヤと穏やかな寝息をたてている。

 

 「とんずらするなら、今がチャンスだな」

 

 この子には悪いが、俺には魔王を倒して世界を平和にする使命があるのだ。こんなところで呑気に子育てパパなどやってられん。

 ママも帰ってくるようだし、一人で放置される心配もない。


 「さらばだシャン。英雄の娘になれるんだから恨むでないぞ」


 俺は意を決意し、ベッドから立ち上がるのだけれど、何かに引っ張られた。確認すると、シャンが俺の服の袖をつかんだまま寝ているのだ。


 「みゃう……」


 「……」


 おのれ、ちょこざいな。


 シャンを起こさないように指を一本、二本と慎重に開かせていく。


 「あと……一本……」


 「みゅう……」


 今度は反対の手でつかまれた。


 「…………」


 それに対応するように、俺も反対側の手を開いていく。


 「よーし、あと一本でグッバイだぜ」


 「みょう……」


 またしても反対側でつかまれた。


 「……………………」


 嗚呼! みょうってなんだよ!? 本当は起きてるんだろ? わかってて俺を弄んでいるんだ。そうに違いない。まったく、将来とんでもない悪女になるぞ、こいつは!


 しばらく俺たちは、グーとパーしかないじゃんけんを繰り返して、ようやく幼女の魔の手から逃れることに成功した。


 「今度こそバイバイだね」


 「なにがバイバイなんです?」


 突然、背後から話しかけられる。振り向くと、黒髪の綺麗な少女が立っていた。


 「お前がママか?」


 「年下に向かってママだなんて、変態さんですね」


 「違うわ!? 俺にそんな趣味はない! でも、たまに母性を求めたりもします」


 「うわあ……きもいですね。……そうです、私がママです。そして、会社から派遣された、技術部門のレインと言います。よろしくお願いしますね」


 ほわほわした声は、聴いた覚えがある。そう、ここに来る前のアナウンスの女の声に似ている。おそらく扉を間違えたのはこいつだろう。


 「やっと運営さんが来てくれたか。詫び石よこせクソ運営」


 「ちょっとしたミスで詫び石を要求しやがるだなんて。これだから民主主義は嫌なんです」


 えー、全然ちょっとじゃないと思うのですが。


 「何にせよ、はやく元通りにしてくれ。俺はこんな人生求めてない」


 「現時点では難しいですね。偽物の勇者様を見つけるのが先決です」


 「久保田さんはどこにいるんだ?」


 「残念ですが、この国にはいません。会うためには国を出る必要があります。なので、そのサポート役として私が派遣されたわけです」


 「チェンジで」


 「えー、こんな美少女と一緒に旅できるんですよー? 心が踊りませんかー?」


 気持ち悪いほどの猫なで声で煽ってくるのが癪に障ったから、脳天にチョップをかます。


 「あいた~。もう、冗談ですよお」


 「あ、ママだ! おかえいー!」


 俺達の声で起こしてしまったのか、シャンがいつのまにか起きてレインに抱きついていた。


 「ひさしぶり、シャン。パパに変なことされなかった?」


 「パパやさいくしてくれたよ!」


 「あら、良かったねえ。女の子の初体験は優しい方がいいもんね~」


 「おいこら、子供の前で下ネタはやめろ」


 「いはいれふ! 頬っぺたつねらにへくらはい!」


 ほらあ、シャンがきょとんとした顔で俺らのやり取りを見てるじゃない。

 なんにせよ、父親役を降りれる可能性があることを知り、幾ばくか安心した。俺にシャンの面倒を見れる自信が無いし、シャンにとっても良いことだとは言えない。


 「つうか、レインはシャンとどういう関係なの? 実の母親って風には見えないんだけど」


 「正真正銘、実の母親ですよ? まあ、お腹に宿して産んだわけじゃなくて、この子は所謂AIってやつなんです」


 「AI? じゃあ、シャンは人間じゃないのか」


 「うーん、人間の定義ってなんだかなあって感じですが、久保田さんの望んだ娘さんをご用意させていただきました。ちなみに、シャンの性格は私の趣味です」


 シャンは人の手で作られた存在。正直、言われなければ気付かないほど、シャンは人間らしい感情を見せてくれている。


 「さてさて、無職じゃ国を出ることも出来ないので、まずは職につく必要があります」


 「無職に人権が無いのはどの世界も一緒か」


 「仕事を引き受けることなんかも出来ませんからね。とりあえず就いて損はないです」


 「ハローワークみたいな場所でもあるの?」


 「歩きながら説明しますので、まずは神殿に向かいましょう」


 俺は了承してその場所に向かうことにした。



 さっそく職に就くため、俺達はコーリン神殿という場所に向かっていた。

 なんでも、そこで洗礼を受けることによって、適性の職に就くことが出来るようで、手書きの履歴書だとか、噓八百の面接を強いられる文化なんて存在しない。

 その道程で、俺はレインに疑問に思っていたことを聞いた。


 「あのさ、父性スキルってなに? 使い方がよくわからないんだけど」


 「さっそく発動したんですか。それも私が考えたとっておきのユニークスキルなんです。状況によっては俺TUEE出来ちゃう優れものなんですよ?」


 「へえ、確かに異世界の言葉が理解できるようになったのは便利なんだけど、どうも習得条件がわからないんだ」


 ステータスを開いて、スキル一覧に【言語教育】とやらが追加されていて、それのおかげか知らないが、俺は異世界の言語が読めるようになっていた。しかし、なぜそのスキルを習得することが出来たのかわからないままである。


 「スキルの習得条件は状況によって様々ですが、どのスキルも一貫して、シンヤ

さんの父性本能が働くことが習得の条件となります」


 「父性本能? もしかしてシャンに対して、俺がそんなものを抱いたって言うの?」


 「その通りです」


 そんなバカな。それじゃまるで、俺がシャンの父親だと主張しているみたいじゃないか。


 「口で説明するより、実践してみましょうか」


 すると、レインの表情はニヤニヤと人を小馬鹿にしたような顔で、


 「あれあれ~? シャンがいませんよ? どこ行ったのかしら?」


 棒読みでそんなことを言う。


 「はあ? さっきまでお前が手つないで見てたろ」


 「これは迷子ですねー。大変ですー。どうしましょー」


 「お前なあ……」


 絶対わざとだろ。確信犯に違いない。


 「さあ、シンヤさん。探してください」


 「ふざけんな。なんで俺が……自分で探せよ」


 「心配じゃないんですか?」


 「まさか、知ったことじゃないね」


 「ああ、いまごろ危ない人に連れ去られたり、薄汚れたおじさんに囲まれて、エロ同人みたいな展開が繰り広げられているかもしれません……」


 「…………」


【父性スキル】探索を習得しました


 「あは、やっぱり心配なんじゃないですか。もう、素直じゃないんですから」


 「うっさい、心配じゃないし。ちょっとBPO的に不味いと思っただけだし」


 喧しいレインを置いて、俺は習得した探索スキルを発動させる。スキルに反応したのか、目の前にマップの画面が表示され、町の詳細がわかるようになる。マップには、騒々しいぐらいの点が敷き詰められている。動いていることから察するに、この点は生命体を表しているのだろう。


 そして、この群れの中にひとつだけ赤い点が表示されている。


 「もしかして、この赤いのがシャンか?」


 「はい、お察しの通りです。これもシンヤさんの父性本能が働いた結果ですね」


 「別にそんなんじゃない。俺のせいで何かあったら後味が悪いだろ」


 「それを心配って言うんですよ?」


 「……さっさとお姫様を迎えに行くぞ」


 本当に何なんだ、このモヤモヤした感情は。わけがわからない。

 俺達は速足でシャンのもとへ向かった。


 目的地にたどり着くと、そこは薄暗い裏路地で、マップに表示された通りの場所にシャンがいたのだが、他にも三人の男が立っていた。


 「おいおい、嬢ちゃん。どこ見て歩いてんだ? 痛いじゃないの。おーん!?」


 「おれ達を誰だかわかっての蛮行かな? おおん!?」


 三人組の熊のような大男達がシャンを取り囲んでいた。


 「おじさんたち、だえ?」 


 「俺たちゃあ、この地域でも有名な冒険者【漆黒の黒い爪】だぜ。おおおーん?」


 何それ黒すぎだろ。内出血してそうな名前だな。


 「げいにんさん?」


 「冒険者っつてんだろ!」


 流石は異世界。ゴロツキのような男が、か弱い女の子を集団で囲むことが本当に

起こるものなのだなあ。


 「とにかく、おじさん達と一緒に来なさいな。おーん?」


 「ワシ達が良いところに連れてってあげる。おおーん?」


 「お菓子もあるぞ。おおおーん?」


 案の定、善良な人間ではなそそうで、シャンを連れ去った暁には、それはもう全

年齢では公開できないあれやそれと、酷いことをされてしまうのだろう。


 「レインは魔法を使えるんだよね?」


 「はい、使えますよ」


 「手っ取り早く、あいつら焼こうぜ。ロリコンに容赦なんか要らないから」


 「ここはカッコよく、俺が囮になるぜ! くらいのこと言えないんですか?」


 「やだよ。下手したら殺されちゃうよ」


 せっかく転生したと言うのに、こんなところで死んでは元も子もない。


 「そこで、父性スキルの出番ですよ。シャンを守る姿勢が発動のトリガーになって、とんでもスキルが発動するのです。あんなチンピラに負けることなんかあり得ません」


 「ほう……とんでもスキルとな。いいね、そういうのを待ってたんだよ」


 「さあ、シンヤさん! シャンの前に立ち、怪人種付けプレスを倒しましょう!」


 「しょうがねえな! 面倒だけどボコしてくるわ!」


 レインに乗せられた俺は、颯爽とシャンのもとへ駆けつける。


 「大丈夫か、シャン!」


 「あ、パパだ!」


 「おーん? お前がこの子の親か。そいつが俺達にぶつかってきたんだよ!」


 「おおーん? 親が責任取るんだろうなあ」


 「おおおーん? 覚悟は出来てるんだろうなあ?」


 熊さん達は、指をポキポキと鳴らしながら威圧してくる。


 「覚悟を決めるのはお前たちのほうだ。この場所にお前らの墓標を刻んでやる」


 「パパかっこいー!」


 さあ、発動しろ。俺の中に眠る真なる力よ!



【父性スキル】子守を習得しました


 きたきたきた! 新しいスキルGETだぜ。

 なるほどね。レインの言う通り、シャンに対しての行動がスキル習得の起因で、今回は守ろうとする行いが「子守」というスキルを得る条件だったわけだ。


 「覚悟はいいか……?」


 俺が熊さん達に、指を突き付けるようにして攻撃の宣言をすると、彼らも俺の異

様な自信が気にかかったのか、固唾をのんで身構える。


 「アチョー!」


 古風な掛け声と共に繰り出された俺のパンチは、まさしくデストロイ。次元が裂けてしまわないか心配になったが、やれやれ、それも面白かろう。つうか次元裂けるパンチなんて人間に当てたら、相手死んじゃわない? やれやれ、それも致し方無い。

 砲弾と化したパンチは熊さんの一人に着弾する。


 すると、


 「あれ……?」


 とくに何も起きなかった。

 おかしいな、確かにスキルは発動しているのだけれど。目の前の男はピンピンしている。

 試しにもう一度デストロイを行う。


 「アチョー!」


 しかし、ぽよんと三段腹に吸収されてしまう。


 「んんんん?」


 「終わりか? おーん?」


 わあ、絶対怒ってるよこの人。顔が真っ赤ですもん。


 「今日はこの辺で勘弁してやるので、俺達は帰りますね」


 だいたいね、暴力でなんでも解決しようだなんて、ナンセンスだと思うのです。まったく、どうして世の中の主人公たちはすぐに力でねじ伏せようとするのかしら?


 「それじゃ、さいなら」


 「まてーい」


 俺は踵を返し去ろうとするのだが、肩を掴まれ引き止められてしまった。

 振り向くと、すでに囲まれ逃げ場はない。


 「レインさん! 全然ダメなんですけど!?」


 「大丈夫ですから、安心して殴られてくださいね」


 ケロリととんでもないことを言い出す悪魔がこちらです。


 「おーん!」


 「おおーん!」


 「おおおーん!」


 ぼこすかぼこすか、周りに埃が舞うくらいの激しい暴力が俺を襲う。そこには容赦がなく、俺は亀のようにうずくまることしか出来なかった。


 「……あれ?」


 しかし、不思議なことにまったく痛くなかった。

 もしかして、これがスキルの効果なのか? スキルの発動中はダメージを受け付けない、という内容だとすれば、レインの発言にも合点がいく。

 ならば、これを利用しない手はない。


 「……もう終わりか?」


 俺はケロリとした顔で立ち上がって見せる。

 あれだけ殴られたのに、傷はひとつも付いていない。至って健康そのもので、その姿を不気味に思ったのか、男たちは顔を歪ませ俺を見据えている。


 「上等だ! ぶっ殺してやるおーん!」


 一人が懐からナイフを取り出すと、俺の懐に向かって突進してきた。

少し焦ったが、ナイフの刃はあっけなく折れてしまい杞憂に終わる。


 「ば、バケモンだ!?」


 すると、彼らはヒーヒー言いながら、しっぽを巻いて逃げて行ってしまった。


 「おー! パパかっこいー!」


 とてとてとやって来て、シャンは俺の足に抱き着いて来る。


 「こら、くっつくな」


 「あは、流石は私の作ったスキルですね」


 「お前な、どういうスキルか説明しとけよな」


 「勝手に解釈して突っ走ったのはシンヤさんですよ。私は悪くありませーん」


 いや、ここは無双するのがセオリーだろ。


 「はあ……まあ、いいや。早く行こうよ」


 馬鹿らしくなったので、僕らは早々に切り上げてコーリン神殿へと足を速めた。


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