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父性覚醒

 Eランクに上がれば、ようやく町の外に出られるようになって、モンスターの討伐だったり、町の中にはない素材の採取だったりと挑戦することが出来る。


 だから、俺達はまずEランクを目指すことが目標なのである。

昇格戦に参加できるくらいのポイントが溜まった頃、ララファがこんな提案をしてきた。


 「今日から昇格戦に向けての特訓だ。採取のクエストをしてレベルを上げるよりも、実戦をして経験を身につけたほうがいいだろう」


 町の中には修練場などもあり、普通のFランク冒険者はそこでレベル上げをするのだけれど、なんといってもララファの家は設備が整っているため、レベルを上げるならここが最適解なのだ。


 「なんだかズルしているみたいで気が引けるな」


 「戦いにズルもクソもあるか。とにかく、今日は私の相手をしてもらう。10分以内に一撃でも当てたらクリアだ」


 堂々としたたたずまいだが、見た目は明らかに子供であるララファ。正直な話気が引けてしまう。


 するとレインが耳打ちをしてきた。


 「シンヤさん。彼女が女の子だからって甘く見ないほうが良いですよ。」


 「いやでもなあ」


 「ララファさんはああ見えて元勇者パーティの一員なんです」


 「え、そうなの? ちなみにランクはいくつなの?」


 「Aです」


 なにそれムリゲーじゃん。


 「安心しろ。死なない程度に手加減してやる」


 そう言ってララファは微笑する。


 「ええい、とにかくやるしかないか。シャンはなるべく前に出ないように」


 「はーい!」

 

 スキル「子守」を発動。

 

 とりあえずこれである程度の攻撃は防げるだろう。


 「レインは魔法で後衛よろしく」


 「わかりました」


 それにしても、ララファはやる気がないのか大きなあくびをしながら俺達の攻撃がくるのを待っている。ずいぶん舐められたものだなあ。


 「ああ、そうだ。お前はこれを使え」


 ララファはそう言って。俺に向かって何かを投げてくる。


 受け取るとそれは西洋風の剣だった。


 鞘から引き抜くと、刀身の綺麗な銀色で輝いている。


 「これ本物?」


 「そうだ。やる気があるなら殺す気でこい」


 「そんな無茶苦茶だ」


 「ならこっちから行こうか」


 瞬間、ララファの姿が消える。


 気付いたころには俺は吹っ飛ばされ、壁に激突していた。


 「いってええええええええ! 何すんだよ!」


 「ほう、痛いで済むのか。体だけは頑丈のようだな。気絶させる自信はあったんだが」


 ああ、これは覚悟を決めるしかないようだ。


 俺は立ち上がり態勢を立て直す。


 「次は私が魔法で援護します。シンヤさんは彼女の隙をついてください」


 「わかった」


 すると、レインは魔方陣を指で書き始める。


 「ファイヤボール!」


 魔方陣を描き終え彼女が叫ぶ。


 すると、手のひらサイズの火球がララファに向かって飛んでいく。


 「おお、術式タイプとは珍しいな。しかも正確で速い……だが」


 ララファは難なくそれをよける。


 「くふふ、それで殺す気でいるなら赤点だな」


 「冗談」


 追撃するようにレインは両手で魔方陣を描く。しかも今度は一瞬のうちに5つ、別々の魔法が描かれる。


 「おいおい、五属性全部扱えるのか! 楽しいなあ!」


 「シンヤさん! 私の魔法と同時に攻撃を!」


 「お、おう!」


 「五色(エレメンタル)奔流(ソーサラー)――――!」


 「うおおおおおおおおおおお!」


 俺は魔法と共にそのままララファに突進し剣を振るいおとすのだが、


 「大地の精霊よ、契約のもと我に大いなる加護を宿せ――――!」


 ララファが詠唱すると、目の前に魔方陣が描き映し出される。


 そして、見えない壁によって俺達の攻撃が弾かれてしまう。


 剣が弾かれ、隙の出来た俺を見逃すことなく、ララファの掌底が飛んできた。


 「ぐああっ!」


 またしても吹っ飛び転げ落ちる。


 「パパがたいへん!」


 「あらあら、大丈夫ですか?」


 「死にそう……」


 「大丈夫そうですね」


 どこをどう見たら大丈夫なのか。神経を疑ってしまう。


 「まだまだいくぞ!」


 知らぬ間に目の前にいたララファが拳を振り上げていた。


 すかさずレインがカバーに入り恐ろしい速さで魔方陣を書きこむ。すると、ララファの拳が見えない壁に弾かれ、彼女は吹っ飛んでしまう。


 「あれ? 今の魔法って、ララファの使った」


 「はい。守護魔法です」


 サラッととんでもないことを言うレイン。


 それを見てララファが言う。


 「ははは、そうか。なるほどなわかったぞ。お前のユニークスキル。複写魔法だな」


 「複写魔法?」


 「ええ、相手の魔法を瞬時に理解してコピーする技です」


 「しかも、お前は術式を素早く正確に書き込むから、詠唱するよりも先に発動することができる特性がある。Fランクの冒険者とは思えない技だ」


 めずらしくララファがレインを称賛する。


 「お前そんなすごいスキル持ってたのかよ」


 「一応これでも記憶力はいいので。見たらすぐに書き込めますよ」


 つまるところ、相手が詠唱している間にコピーをして素早く書き込むことで、先手が取れると言う訳か。なんだか俺の周りはチートばかりである。


 「問題は俺か」


 小学生の頃に剣道を習っていたが、すぐに飽きてやめてしまったのが悔やまれる。だいたい剣なんて日常で使う場面なんてないし、どんな優れた剣を手にしたところでどうしようもないだろう。


 「ママすごーい! シャンもやる!」


 そう言うと、シャンはレインと同じように五色の魔方陣を描き始める。


 「「……は?」」


 その場にいた全員が絶句する。


 「いっちゃえー!」


 気軽な挨拶でもするかのように魔法が放たれる。


 放心していたララファに魔法が直撃すると、耳をつんざく轟音と共に爆風が巻き上がり砂埃は竜巻のように舞い上がった。


 「うっひゃあ……」


 「あはは……私の立場がないですね」


 流石のレインもドン引きしているが、


 「いやあ、今のは危なかった」


 ララファはケロリとした顔で砂埃の中から現れる。


 「おい! 今の当たっただろ!」


 「残念! バリア張ったもーん」


 彼女は、まるで小学生のばい菌予防みたいな言い訳をして否定する。


 「お前ら、個々のスペックは高いが連携がうんこだな」


 さらに追加で小学生レベルの評価を頂いた。


 しかし、レインもシャンも駄目となると残りは俺となるが、俺に何が出来る?


 「さあ、どうする? 新しい技とかないのか? そろそろ時間もないぞ?」


 ララファが言う。


 「時間……そうか、時間がない! 時間がないんだ! ははははファック!」


 見つけたぜ光明! 時間がないなんて社会では当たり前じゃないか。無いなら作ればいいんだ! 時間を!


 現状のスキルが通じないならば、新しいスキルを生み出すしかない。そして、俺にはその新しいチート、いやクソスキルを生み出す根性があるはずだ。



 思い出せ、現代社会人の怨念を!


 思い出せ、社畜がなせる技を!


 気合いと根性だけで生き抜いて死んだ、俺のイノベーションを見せてやる!



 「シャン、ちょっと手伝ってもらっていいかな? いい作戦があるんだ」


 「うん。なにすればいいの?」


 「そうね……「いってらっしゃい」って言ってくれればやる気出るかも」


 「わかった! いってらっしゃいパパ!」


 シャンは何の疑問も持たずに俺の願いをかなえてくれる。きっと、この応援が俺をエネルギッシュにしてくれるはずだ。


 さあ、来やがれ。新たな父性スキル。


 「何する気ですか?」


 「まあ、見てろって。ああ、レインにも言って欲しいかも」


 レインは逡巡するも、


 「えー、しょうがないですね。……いってらっしゃい」


 恥ずかし気に言ってくれた。


 最後の「いってらっしゃい」が聞き取りづらかったが良しとしよう。


 これならいけるかもしれない。だって、生きていた頃には聞けなかった言葉だもの。実現しえなかった楽園なんだ。


 世の中のごく一部でしかない日常を、俺は脳裏の裏で夢想していたのかもしれない。


 俺はレインとシャンの前に出て剣を構える。


 「残り2分だが……それが良い作戦か? さっきと何も変わらんが」


 「いいや全然違うよ。二人の言葉があるとないとじゃ、全然違う」


 そうさ、俺はもう一人じゃない。


 家族がいる。


 目的がある。


 守りたいものがある。


 「なあ、ララファ。今日が何曜日か知ってるか?」


 「日曜日だな」


 「そうさ、日曜日だ。そして俺の会社は休みのはずなんだ! 完全週休二日制なんだ! でも、納期が間に合わない……なら休みに働くしかねえじゃねえか! 会社のために! 家族のためにさ!」



 父性スキル「休日出勤(クロノスの声)」を習得しました。



 クソ忌々しいスキルが発動すると、不思議と力が湧いてくる。現実世界では怒りだったものが、やりがいに変換されたかのように、体中が熱く滾る。


名前:シンヤ

筋力:A 体力:A

防御:A 魔力:A

敏捷:A 運命:E

ユニークスキル:S


 運命Eのままかよ!


 「ええい! 見せてやる。社畜の力をな!」


 俺は足に力をこめて、大地が割れんばかりの勢いでララファに突進する。


 「なに!? 大地の精霊よ、契約のもと我に大いなる加護を宿せ――――!」


 「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 渾身の一振りをララファのバリアに振り下ろす。


 今度は吹っ飛ばされず、金属の鈍い音が耳朶に触れる。


 「くそが、なんだこの力は!?」


 「まだまだ!!!」


 俺は剣をど素人のごとく力だけで滅茶苦茶に振り回す。


 何度も、


 何度も、


 何度も、


 仕事が終わるまで何度でも振り下ろす。


 「待て! もう時間が過ぎた! タイムアップだ」


 「うるせえ! 定時退社なんかある訳ねえだろ!」



 父性スキル「残業(終焉の宣告)」を習得しました。



名前:シンヤ

筋力:S 体力:S

防御:S 魔力:S

敏捷:S 運命:F

ユニークスキル:S



 時間が過ぎれば過ぎるほど力が湧いてくる。


 「運命下がったじゃねえか! くそったれえええええええええええ!!!」


 次の瞬間、何かが割れる音がした。


 「きゃっ!」


 ララファは斬撃の衝撃で後方に吹っ飛ぶ。


 「はあ、はあ、くそ! 納期に間に合わなかった……」


 「大丈夫ですか……?」


 「少し、働きすぎたかも……」


 視界がぐにゃぐにゃと眩暈がする。


 こんなところで倒れてらんないのに……まだ仕事が残ってるのに……


 目の前が真っ白になり、ぷつりと俺の意識は闇に落ちていった。


 つうか代休よこせ……


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