後日談 初詣
リクエストにより、2人の初詣です。
「円~、ダンナが迎えに来たよ~」
「だから、ダンナじゃないって言ってんじゃん!」
ここんとこ、放課後になると毎日ヒロが迎えに来てくれる。
別に、なにかするわけじゃない。一緒に帰るだけ。
今は、毎朝ヒロと一緒に学校来てるし、帰りはこうやってヒロが迎えに来てくれるから、友達はヒロのことを「ダンナ」って呼んでる。
そりゃ、男っ気なかったあたしが急にヒロと一緒に歩くようになったから、驚くのも仕方ないけど、まだそういう間柄じゃない。
幼なじみだよって言うと、「ふ~ん」ってニヤニヤしてる。
嘘なんか、言ってないのに。
おっと、ヒロがひきつった顔で待ってるね。
「ヒロ、帰るよ」
あんまり教室にいると冷やかされるからね、さっさと帰るに限るよ。
左手にカバンを持って、右手でヒロの手を掴んでずんずん進む。
ほら、ヒロ、さっさと歩きなよ。
そんなこんなしてるうちに12月になって2学期も終わった。
最近は、学校を出てしばらく歩いたところで、手を放して腕を組むようになった。その方がヒロの匂いを感じられるから♪
ヒロの肩に頬ずりするみたいにくっついて歩く。幸せ。
「なあ、まどか、クリスマスなんだけど…」
そうだった、言わなきゃ!
「お母さんがね、鳥の丸焼き作ってくれるって!
ヒロもおいでって、お母さんが」
ちっちゃい頃は、うちのクリスマスパーティーにヒロも来てた。今年は、久しぶりにヒロを呼ぶつもり。…なんだけど、ヒロ、残念そう。鳥の丸焼きだよ、鳥の丸焼き! きっとすっごくおいしいよ!
「あたしと一緒にクリスマス…嫌なの?」
言ったら、ヒロはぶんぶんと首を振って、
「嫌なわけない! けど、2人きりがよかったなって」
なんだ、そんなこと。
「パーティー終わったら、あたしの部屋においでよ。そしたら2人きりだよ」
12月の満月は23日。だから、パーティーも23日。
パーティーの後、ヒロに耳と尻尾を見せて、なでてもらうんだ♪
ヒロが帰った後でハッとした。しまった! かぷってしてない!
パーティーの後で、ヒロに耳と尻尾なでてもらって、とってもうれしかったけど、うっとりしすぎてかぷってしなかった!
どうしよう。そうだ、ヒロと初詣に行こう! その後でもう一度うちに呼ぼう。
初詣には、この前買ってもらったコートを着ていった。あたしの尻尾をイメージしたふわふわの飾りリボンがついてるやつ。
今日は尻尾出てこないから、尻尾のイメージのリボン。
ヒロ、この前尻尾見せた時、喜んでいっぱいなでてくれたから、このリボンも喜んでくれるよね。
「あけましておめでとー♪」
「おめでとう。今年もよろしくな」
「うん♪ これからもずっとよろしくね。
ほら、このリボン、尻尾みたいでしょ。触ってもいいよ♪」
「え? 触るって?」
きょとんとしたヒロに、ちっちゃな声で
「あたしの尻尾の代わり。今日は尻尾出ないから」
って言ったら、
「いや、それ触ってもなあ…」
とかビミョーな顔をした。そっか、あたしの尻尾がいいんだ。うん、なんか嬉しい。
2人で腕を組んで、神社に向かって歩く。ヒロの匂いと温もりが気持ちいい。
「あ~っ、円! あけおめー」
途中、友達に会って
「腕なんか組んで歩いて、やっぱダンナじゃん」
って言われたから、
「クリスマスからねー」
って言ってバイバイした。ヒロとの時間を邪魔されたくないし。
「今の、同じクラスの子だろ? よかったのか? 噂になるの、嫌なんじゃなかった?」
ってヒロが心配してたから、
「ヒロは、もうあたしの“つがい”だからねー。ダンナで間違いないよ。噂になった方が、変な虫つかなくていいし」
って言っといた。
ヒロはちんぷんかんぷんな顔で
「つがい?」
とか首をひねってた。
「ね、何お願いした?」
「まどかと同じ高校行けますようにって」
「あー、おんなじ! 高校も一緒に行こうね」
「そうだな」
お参りして、おみくじ買って、帰る。おみくじは、ヒロが大吉、あたしが末吉だった。ヒロ、大吉だから、きっと高校も一緒に行けるね。
あたしんちに着いて、ヒロがお母さんにあいさつして。
2人であたしの部屋に入った。
「ふふ、ヒロったら、あけまひておめでとうございますとか噛んでんだもん」
「しかたねーだろ。付き合い始めてから初めてきたんだぞ。しかも、なんか、おばさん、まどかをよろしくねとか言ってっし」
「そりゃ、あたしの“つがい”だからね」
「あ、それ! さっきも言ってたな。
つがいってなんだ?」
「ん~、詳しい意味はわかんないけど、要するに結婚する相手のことだよ」
「結婚!?」
あれ? 驚いてる。なんで?
「しないの、結婚? するよね?」
「そ、そりゃ、するっていうか、したいけど、俺達まだ中学生だぞ」
なんだ、そんなことか。
「別に、今すぐじゃなくていいよ。でも、もう、あたし、尻尾触らせちゃったもん」
ヒロ以外には、絶対触らせないんだから。
「お、おう。いつか、か」
「そのうち、だよ」
ヒロにベッドに座ってもらって、あたしも隣に座る。ぴたっとくっついて。
「あのね、ヒロにしたかったことがあるの」
「したかったことって?」
ヒロのほっぺにすりすりする。この前はし損ねちゃったからね。今日こそ。
「ヒロのほっぺ、あたし以外に触らせちゃやだよ」
かぷって。かぷってした。ついに、かぷって。嬉しい。
ヒロのほっぺ。あたしの、ヒロ。大好き。
それなのに。
「お、おい、俺は食べ物じゃないぞ! 食べるな!」
ヒロは驚いて騒いでる。やだなあ、食べるわけないじゃない。
「好き♪」
かぷっ、ぺろって甘がみしたりなめたりしてたら、ヒロがぎゅって抱きついてきた。
そのままベッドの上に、2人して転がる。ヒロの匂いがいっぱい。すごい幸せ。
あんまり嬉しくて、ヒロの口の中までなめたら、ヒロもなめ返してくれた。嬉しい、うれしい。
いっぱいなめあって、すっごく幸せな気分で、初詣は終わった。
翌日、ヒロから電話があった。
「あのさ、昨日のこと、おばさんとおじさん、なんか言ってたか?」
「うん、また来てねって」
「それだけか?」
「それだけって?」
「いや、その…俺達、部屋で、その…」
「“つがい”なんだからへーきだよ。お母さん、ヒロとなら、なにしても怒んないから」
「何してもって、お前…」
「あ、あたし以外の女の子と腕組んで歩いたら、怒るかも」
「う、浮気なんてしないって!」
「ヒロ、また昨日みたいにしようね♪」
ず~っと一緒。満月になったら、また尻尾なでてもらおうっと。
明日は、ヒロ視点でクリスマスです。
え? 順番が違う?