1 ほっぺすりすり…?
秋月忍さまの「夜語り」企画参加作品です。
テーマである夜・月・幻想・氷を全部入れ込んでみました。
R15にならないギリギリのラインを攻めてます。
全5話、毎日更新です。
どうしよう。お母さんに言った方がいいのかな。なんか変な病気だったらどうしよう。
昨日から、なんか頭が重いし、お腹や腰も痛い。体がだるくて、なんだかプールの中にでもいるみたいに動きにくい。歩くのも辛いや。
変な病気で、入院とか手術とかになったらどうしよう。夏休みが終わったばっかりなのに。
クリスマスに友達とパーティーもしたいし、誰かと初詣とかも行きたいのに。全部ダメになっちゃったらどうしよう。
明日。明日になったら、よくなってるよね。うん、きっとそうだよね。
うん、わかってた。そんなわけ、ないよね。
頭はますます重くなってるし、だるさも絶好調…じゃなくて、絶不調な感じ。おまけに、手足がめちゃめちゃ痛くて、ほとんど眠れなかった。
変な病気とかだったら、どうしよう。
やっぱりお母さんに言わなきゃダメかな。
「お母さん、具合悪い…」
さすがに我慢できないくらい辛くて、お母さんに言いに行ったら、ギョッとされた。
「ちょっと円、どうしたの、その顔色!?」
「なんかね、昨日から頭重いしだるいしでさ。お医者さん行った方がいいのかな」
「なんで土曜のうちに言わないの! 日曜日は病院やってないのよ」
だって、寝たら治るかと思ったんだもん。
お母さんに怒られながら熱を計ったけど、思いっきり平熱だった。なんで? こんなに具合悪いのに。
「円、もしかして膝とか腰とか痛くない?」
体温計をしげしげと眺めてたお母さんが、そんなことを言ってきた。あれ? もしかして、お母さん、この病気に心当たりあるのかな。
「痛いけど。手とか足は、夜ベッドに入ってからだけど、腰とお腹は朝から痛かった」
「そう。よかった」
なんだか本当にホッとしたみたいにお母さんが言う。やっぱりこの痛みが何か知ってるんだ。
「お母さん、あたしの病気が何か知ってるの?」
聞いてみると、お母さんはなんでもないことみたいに答えた。
「病気じゃないの。成長痛っていって、円の体が大人になろうとしてるのよ。
よかったわ。なかなか来ないから心配してたのよ。15になる前に間に合ったわね」
「あたしが15歳になると、何かあるの?」
「何かあるっていうか、少し気を揉んでいたのよ。
円もやっと大人になるのね」
“やっと”って言葉に、少しムッとした。
中学に入って、友達の背が伸びていく中で、あたしだけちっとも伸びない。中3にもなって身長130台なのは、クラスであたしだけだ。
「なによ! あたしがいつまでも子供だって意味!?」
「ああ、違うのよ。15になっちゃうとちょっと遅すぎるから、心配してただけなの」
いつもどおりのおっとりしたお母さんの言葉が、なんだかイラッとくる。
15になったらなんだってのよ。
学校でもお子様体型ってからかわれるけど、まさかお母さんにまで言われるとは思わなかった。そりゃ、お母さんはおっぱいも大きいしスタイルもいいし、あたしも憧れてるけど。
でも、成長が遅いとかってひどすぎる。
「そんなにふくれないでちょうだい。
悪かったわ。お母さん、ただ嬉しかっただけなのよ。
お父さんの子だし、やっぱり肉食系よね。今夜はステーキかしらね」
「…何よ、ステーキって。生理来てお赤飯、ならもうやったでしょ。第一、ステーキってなによ。
あたし、お腹痛いって言ってるじゃん。どうしてステーキなのよ!?」
「そんなにイライラしないで? ああ、それで円、好きな男の子とかいたりする? 大樹君とは最近どうなの? この頃は一緒に学校行ってないみたいだけど」
「あ、あったりまえじゃない! なんでヒロなんかと一緒に学校行かなきゃなんないのよ! みんなに笑われちゃうわよ!」
ヒロ…中野大樹は、幼稚園から一緒の幼なじみだ。
家もすぐ近くだから、小さい頃は当たり前のようにいつも一緒にいた。
お互いの家にも行き来してて、お医者さんごっこも…今のなし! そんな過去はない! もう忘れた!
…とにかく、ヒロとは小学校に入ってからも4年までは同じクラスだったから、学校にも一緒に行ってた。仕方ないじゃない。だってあいつ、朝弱くて、いっつもあたしが起こしに行くまで寝てたんだから。
2人で一緒に市民プールに行ったりもした。仲のいい幼なじみ…だった。
5年になってクラスが変わって。一緒に学校に行ってることをからかわれてから、別々に行くようになって。それからは、あんまりしゃべらなくなった。
学校で見掛けると、ちょっと胸がざわざわするけど、別にヒロのことなんか好きじゃない。バレンタインにだって、チョコあげたことないし。
「なんでヒロが出てくるのよ! あたし、別にヒロのことなんかなんとも思ってないんだから!」
思わず大きな声が出ちゃったけど、お母さんは平気な顔をしてる。
「そっか、大樹君は好きじゃないか。じゃあ、ほかに誰か好きな人はいる?」
「そんなのいるわけないじゃない!なんでそんなこと聞くの!?」
「大人になるってことは、そういうことなのよ。だから、どうなのかなって思って」
「大人になると、なんで好きな人なのよ!?」
「ほっぺすりすりしたくなるような人がいたら、気を付けないとね」
「ほっぺすりすりってなによ?」
お母さんが何言ってるかわかんない。大人になって、なんでほっぺすりすりなのよ。そんなの、子供がやることじゃない。
“まどかちゃん、むにゅむにゅ~”“ヒロくんもむにゅむにゅ~”
…幼稚園の頃のこと思い出しちゃった。そうよね、子供のやることよ。中学生がやることじゃないよ。ヒロと、ほっぺすりすり…なんて…。
「あら? 円、誰か思い当たる人、いるんじゃないの? 顔、赤いわよ」
赤…、そんなはずない! 今更ヒロのことなんて、なんとも思ってないんだから! 赤いのは、恥ずかしい過去を思い出したからよ!
「いないってば! お母さんがほっぺすりすりとか、恥ずかしいこと言うからでしょ!」
なんとかお母さんはごまかしたけど、なんで大人になるのと好きな人がいるのと関係があるのか、全然わかんなかった。
そして、晩ご飯は、ほんとにステーキだった。お父さんが嬉しそうに食べてる。誰のためにステーキなんだか。あたしもおいしく食べたけど。お腹痛いのに、おいしかったけど。
肉食系ってお肉好きってこと!?
もう、意味わかんない!