prologue
木の一本すら生えていない岩山。そこで向かい合う二つの影があった。
その影の一つは人間。もう一つは雄に15メートルは超えているであろう巨体の、それでも平均よりは小さい古龍。
古龍とは、ドラゴンが永き時を生き、経験を積んだ龍がさらに永き時を生き抜いた一握りの存在。
そのブレスは体調が完全な状態ならば大陸一つを消し去る威力を誇る。
冒険者ギルドと呼ばれる組織が定めた、魔物の強さをG~EXまでランク分けしたものに当てはめるのならば、最高位のEXランク相当の強さを誇る。
それに対する人間は、165センチ程度の身長に、中性的な顔立ちの、細身の少年だ。
傍から見れば勝率は絶望的な筈なのに、少年は、勝利を確信した、挑発的な笑みを浮かべていた。
それは、古龍がつい数分前に目覚めたことにより、体調が完全ではないこともあるのだろうが、それ以外にも何かあるように感じさせる笑みだった。
それを見た古龍は、頭に血が昇った。
熟睡していたところに、口の中にナニカを入れられ、それに気づいて起きてみれば、挑発的な笑みを浮かべた人間がいたのだから。
この時、古龍が間違えたのは、口の中に入れられたナニカを飲み込んでしまったことだろう。
もし吐き出していれば、少しは違った結果になったのかもしれないが…。
しかし、寝ぼけた頭で考えられることは、
何故、恐怖に満ちた表情を浮かべないのか、何故笑っているのか、何故平然としていられるのか、何故何故何故何故...。
といったことだった。
そのような思考をし、辿り着いた答えが、
「この矮小な人間は、自分を嘗めている」
といった、状況だけを見れば誰でも辿り着けるものだった。
それも、あながち間違いでは無いのだが…
もう少し冷静な思考をすれば、微かに普通の人間とは違うニオイに気づけただろう。
だが、もう既に遅い。
古龍が、少年の腕を喰いちぎったからだ。
古龍は嗜虐的な様子で咀嚼をし、愉悦に浸った目で少年を見ようとした。
そして、倒れる影が一つ。
少年の影...ではない。
古龍だ。
龍、それも古龍と呼ばれる魔物が、その巨体をピクリとも動かせず、地に伏した姿だった。
但し、死んだわけではない。
ただ、麻痺しただけだ。
「ハハ...。思ったよりも馬鹿だったね。もう少し匂いに気をつけとけば...いや、そもそも、僕の腕を2本も飲み込んでようやく麻痺したのは、流石は古龍ってことはあるのかな?」
まあ、と、少年は言葉を続けた。
「最初の1本を飲み込んだ時点で、遅かれ早かれこうして地面に倒れてるのは決定事項だったんだけどね。」
そこまで聞いて古龍は、麻痺していてもなんとか動かせた目で無傷の少年の姿を見て、驚愕した。
確実に自分は、この少年の腕を喰いちぎったのに、なぜ無傷なのか、と。
「なああんた、古龍って話だし、人語は理解出来てんだろ?
じゃあさ、傷を受けても再生し、しかも分裂する。この生物、なーんだ?」
そこまで聞いて古龍は、少年の正体に気づいた。
同時に、有り得ない、と、何度目かになる驚愕をした。
スライム...と。
「あ、気づいたみたいだね。そう、僕はスライム。正確に言えば、◼◼◼◼◼を持ってるスライムだね。
あと、あんたがこうして横たわってるのは、単純に僕の体を飲み込んだからだよ。」
そこまで言うと、少年は手で古龍の体に触れた。
と同時に、手がスライム状になり、瞬く間に古龍を包み込んでいく。
「ああ、痛みすら与えないから、安心して糧になってくれ。」
そう聞き、古龍はこの短時間の間にやっと動くようになってきた体を動かし、なんとか逃げ出そうとしたが、次の瞬間には意識が闇に包まれた。
古龍が最後に意識した言葉は、「頂きます。」だった。
「最後の最後で麻痺が解けかかってたか…。
流石は古龍と言うべきか…。もう少し、研究の余地がありそうだな。」
そう呟くと、少年はその場から去っていった。
その後、岩山の支配者だった古龍が居なくなったことにより、縄張り争いが起こり、それに敗れた魔物が魔物暴走を起こしたことにより一騒動が起こるのだが、それはまた別の話。
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どうも、はじめまして。作者のfrithです。
書き始めてしまいましたー。
小説は読み専だったはずなのですが、何故か書いていました。
まあ、突然更新をやめるとか、消すとかいったことのないように頑張って投稿していきます。
最初はゲリラ更新になるので、ちょくちょく確認してくれると幸いです。
言葉の意味や、文法など、至らぬところがあると感じるかもしれませんが、指摘してくれると幸いです。
感想、評価待っています。
7月26日改稿しました。