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List.02 -この指とまれ- 『東風庵』

 【ダイニングバー東風庵(とんぷうあん)


 都内とは言え、中心部から外れた僕らの地元で、30人も入ればイッパイになってしまうような小さな店だ。

 何より料理が旨いのが評判で、いつ行ってもガラガラというのは一度も目にした事のない、地域密接型の僕らの行きつけのお店である。

 『料理も食べられる飲み屋さん』と言うよりは、『お酒も飲める美味しい料理屋さん』と言った方がしっくりくるかもしれない。


 カランカランという音を響かせドアを開くと


「いらっしゃ――あっ、イッチーさんもう皆さん集まってますよ。奥のブースです」


 そう言ってトレー片手にニッコリと笑うのは、最近ではすっかり看板娘っぷりが板についてきたエリちゃん。


 お店を切り盛りするオーナー夫妻の娘さんで(確か今年から大学生になったはずだと思う)、看板娘の名に恥じない可愛らしさと愛嬌を兼ね備えている。

 しかし産まれた頃から知ってる身としては、親戚の娘さんみたいなものなので、女としてどうこうという風には中々見れないものである。


「おっ、イッチー来た。こっちこっち」


 店のちょっと奥まったブース席の方から、アキの声が聞こえて来る。

 声のする方に目をやると、こっちこっちと手招きするアキの姿が見えた。


「ありがとうエリちゃん。僕ビールね」

「はい、すぐにお持ちしますね。オーダー、ハイネケン一つお願いしま~す」


 勝手知ったるなんとやらで、ビールと言っただけで、エリちゃんは僕が缶のハイネケンしか飲まない事を思い出してくれたらしい。


 ブースの方へ向かう途中、カウンターに立つ奥さんの佐祐理(さゆり)さんと目が合った。

 軽く会釈すると、先ほどのエリちゃんと非常に良く似た笑顔を向けてくれる。


(うーん、さすが母娘(おやこ)……)


 変な所に関心しながら、縦に長い造りの店の奥へと向かう。

 マスターの姿が見えない所を見ると、きっと厨房の方にいるんだろう。



「よっ、イッチー久しぶり」


 焼酎のロックグラスを傾けながら、そう言って笑うのは、東郷裕之(とうごうひろゆき)【通称:ヒロ】。

 我らが愛すべきバンド『アーリーバード』の元リーダーであり、バンド一の二枚目を誇るリードギター担当である。

 今ではメンバー内でも数少ない家庭持ちで、奥さんの実家がある仙台に婿入りして向こうの家業を継ぎ、見た目に似合わず『呉服屋の若旦那』なんてポジションに収まっている。

 たまには顔を見せろ、とうるさい実家の両親に2人の娘の顔を見せるため、GWの連休を利用して戻って来たらしい。


(そう言えば世間は丁度GWか……)


 世間の一般的な時の流れとは無関係な、世捨て人の様な生活を送っている自分の荒れた生活リズムを、こういう時に痛感する。


「久しぶりヒロ。いつ戻って来たの?」

「今日の昼頃に着いたばっかだよ。カミさんと子供達は家に置いてきた。まぁ、うちの親も見たいのは俺の顔じゃなくて、孫の顔だろうからな。連れて来た時点で俺はお役御免だよ」


 そう言って肩をすくめる。


「イッチーが遅いから、もう先に始めちゃったよ」


 つくね片手にケラケラと人懐っこい笑顔を浮かべているのは、仁科彰将(にしなあきまさ)【通称:アキ】。

 誰とでもすぐに打ち解ける天才で、なぜか昔からバンド一のイケメンであるヒロよりもモテる。

 普段はお調子者を絵に書いたような奴だが、『リズム隊は縁の下の力持ち。前に出る必要はないし、絶対にソロとかもやりたくない』とそこだけは決して譲らず、ストイックなプレイを信条とするドラム担当である。

(ちなみにこのヒロとアキとは、なんと小学校から大学まで一緒だった究極の腐れ縁である)


「よく言うよ。お前、俺が着いた時点で既に始めてたじゃん」


 そう言ってアキの背中を叩く大柄な短髪は、小池俊(こいけしゅん)【通称:シュン】。

 同じリズム隊同士で気が合うのか知らないが、昔からやたらとアキとワンセットの印象が強い。

 どちらかと言えばバンドマンと言うよりは、体育会系ノリのベース担当である。

(ノリとは言っても、実際にシュンは180cmを超えるバンド一の高身長で、運動神経も良く、高校の頃はよく運動部の助っ人としても引っ張り出されていた)


「いやいやいや、俺は一応待とうかって言ったんだよ? でもほら、今回の主役はヒロみたいなもんだしさ……。ヒロが着いたら始めてもいいんじゃないかなって。なっ、マサ?」


「……言ってない」


 突然アキに話を振られても動じる事なく、コップのウーロン茶をストローで一口だけ啜ると、目線だけを上げボソッと呟く。

 表情一つ変えず、ウーロン茶片手に黙々と明太フライドポテトを口に運んでいるのは、関谷昌伸(せきやまさのぶ)【通称:マサ】。

 昔から口数が少なく、知らない人から見たら、機嫌が悪いのか人見知りなのかと勘違いされやすい。

 が、実は全くそんな事はなく、単に極度のめんどくさがりで、必要最低限の会話以外したくないだけという、コミュ障とはまた違った意味で問題のあるキーボード担当である。

(事実、曲の打ち合わせの時などは普通に会話もするし、鍵盤楽器に縁のなかった僕にピアノを教えてくれたのも、このマサだったりする)



 そしてこの4人に、ヴォーカル&アコースティックギター担当である僕、【通称:イッチー】こと市原太一を加えた5人。


 情熱の大半を注ぎ込み、かつてはいくつかのミリオンヒットと、幾度にも渡る全国ツアーまで成し遂げた、


 愛すべきロックバンド『アーリーバード』の()メンバー達である。

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[良い点] まだ途中までしか読めていませんが、独創的で、面白かったです。 [気になる点] 内容に関しては特に気になる点はありませんが、第一話で「〜した」という文章が多く、少し読み辛い気がしました。 …
[良い点] 文章も読みやすく、主人公の温かさと優しさが文章に表れていると思いました! 作者様の作品に対する熱意を感じます! 音楽と異世界の組み合わせが斬新で、こういう形態の小説もあるんだなと! 素敵な…
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